登場ライバー
水宮枢
(「じゃあ、2人とも、部屋に入ったら、そこでずっと待っててくれ。必ず、必ず向かいに行く。だから、いい子にしてるんだぞ。いろは、
「……ッは。」
俺は起きると、しばしの間天井を見上げる。にしても奇妙な夢だ。『向かいに行く。』ねえ、いやまあ、確かに来たけどさあ。今は……6時か…今日…あっ、出掛けんだったか…起きよ。
起き上がると、台所に移動し、適当な味噌汁を作る。白菜、ネギ、凍り豆腐、合わせ味噌を使った簡単なものだ。その後、予約しておいた炊飯器のふたを開けると、白い湯気と共に光り輝くお米が姿を現す。茶碗に盛り付け、机に配膳する。
「いただきます。」
合掌をし、その合図で食べ始める。いつもと変わらない、“俺にとっては”平凡な一時。話し相手もいない、テレビをつけることもない。ただ黙々と食べるだけ。それは、もう何年も変わらないまま。食べる場所が違うときは何度もあった、でも、必ずそばにいてくれる人は1人。その人は、家族でも、恋人でもない。同じ穴の狢だ。
たまには麦とか、玄米とかも食べたいなあ。ずっと食べてると飽きるけど、たまに食べるとおいしいんだよなあ。
「さっ、さっさと皿洗って、準備するか。」
AM10:15
集合時刻の15分ほど前に到着すると、そこにはもう既に水宮が待っていた。
「早くないか?」
「らっ、頼さんが、『早く会いたい』と言っていたので……つい。」
「そんなことも言ってたな……」
あいつ……本当にどうしてくれようか
「まあ、こんな所で立ち話もなんだし、行くか。」
「はい!行きましょう!」
行く場所は町で一番大きいショッピングモールらしい。
「どこから行きます?」
「好きなとこに行くと良い。俺はここに何があるのか、よく分かってないからな。」
「むーッ、頼さんって、こういうところで遊ばなそうですもんねー。」
「実際、食材調達も、近くの八百屋で済ませてるからな。」
「…少しは反応してくれたっていいじゃないですか。でも、本の仕入れとかもありますよね?」
「最近はほぼ全部配送だよ。本の卸売業者なんてほとんど無いからな。」
「そうなんですね。」
「お前の方は、最近どうなんだ?」
「すぅですか?すぅはー……………」
数分後
「……ていうことがあって、ちはその時なんて言ったと思います?」
「んー、『ゴブリンのご飯って納豆に合うのかなあ』とかか?」
「えっ、何で分かったんですか!?」
何でって言われてもなあ………適当に返すか。
「まあ、なんとなくだよ。」
その返答に水宮はさっきとは一変して、顔を若干しかめる。
「いっつもそうですよね!ようやってはぐらかしてばっかり。」
……話逸らそ。
「……なあ水宮、あそこにクレープ売ってるけど、食べるか?」
「ほら!まーたはぐらかした………食べます。苺で。」
「じゃ、俺はチョコバナナにでもするかな。」
「……1口下さい。」
「はいはい。」
流れるようなやり取りをした後、俺はクレープを2つ買って水宮の元へ戻る。
「はいこれ。」
そう言って枢にクレープを手渡す。
「あっ、ありがとうございます。」
「ほら」
枢に自分のクレープを差し出す。
「えっ……何ですか?」
「ん?…1口食べるんだろ。」
その言葉を聞いた瞬間、枢の顔がどんどんと赤く染まっていく。……もしかして流れで言っただけか?
「あっ…いや、それは……その、なっ、流れで言っただけなので、その………。」
「いらないのか?」
「……はい。」
クレープを食べきると、俺たちは店内に入る。
その後、服を見たりとなんやかんやで時間を潰していった。
「そういえばお金、ありがとうございます。」
「ん?ああ、良いよ良いよ。これでも本屋やってるから……あいつの家ほど儲かってねえけど。」
「あいつって、おかゆさんですか?」
「そうそう、あそこの店人多いからな。少しは分けてほしい。」
「ふふっ、頼さんもそんなこと言うんですねえ。」
「そりゃ言うだろ、人間なんだから。」
「ふーん、そうですかあ。そういえば、おかゆさんの店に来た強盗捕まえたらしいですね!」
「よく知ってんなそれ。」
「そりゃあ、大々的な事件ですから。」
否定すんのは嫌だが、絶対そんな事はない。
「…割と起きてる気がするけど。」
「別に今まで亡くなった人とかいないでしょう?主に頼さんのおかげで。」
「…いや、被害はでかいぞ、それでも。治安が悪いっていう風評被害は来るし。」
それに、俺も妙に警戒されんだよ。止めんのが基本俺だから。
理由は分かってんのに何で俺は対策しねえんだ?
「それもこの商店街の醍醐味ってことで。」
「7回に1回は必ず巻き込まれる商店街なんて御免だ。」
「えーっ、……そういえば、強盗捕まえた時もう1人金髪の女の人がいたらしいですね……。」
少しトーンの低い声で、水宮は俺に問い掛けてきた。
知ってたんだな……一先ずは適当に流す。
「ん?ああ、いろはのことか。」
「いろは?それって苗字ですか?」
「なわけあるか、風間いろはだよ。」
「……名前呼びなんですね。」
水宮はさらに声のトーンを落とす。心なしか眼の光も若干消えている。
あー、怒らせちゃったよ。取り敢えず弁明するか。
「そりゃあ、長い付き合いだからな。」
「ふーん、そうですかあ……。」
「さっきからどうし………いや、何でもない。」
俺は水宮の態度から何かを察し、会話をキャンセルする。
聞いても無駄だからだ、こういう時は。
「そうですかあ、名前ですかあ、すぅは呼ばれたことないのに……。」
明らかに不機嫌な態度をとる水宮へ俺は言葉をかけ、機嫌を直すことを試みる。
「悪かったって、何か食い物奢るから。」
「……さっきクレープ食べたからお腹空いてないですよ。」
……同じ手は通用しないか。
「ぐっ……じゃあ、何か欲しい物とかしてほしいこととかあるか?」
「………クレーンゲームで枢が欲しいの獲るまで続けて下さい。」
「クレーンゲーム?」
まさかの予想外に俺は聞き返した。
「やってくれますよね?」
「分かった、やる。……いや、てっきり名前呼びでも要求されるもんだと……。」
「それじゃあつまらないじゃないですか。」
つまらない、か。ていうか、自然すぎて気づかなかったけど、何でこいついろはのこと知ってんだ?
「………そうか。というかいろはのこと、誰に聞いたんだ?」
「おかゆさんが教えてくれました。『頼くんとすっごく仲の良さそうな女の子がいたんだよ〜〜』って。」
「そう…か……あいつか…………。」
あの野郎、マジでどうしてくれようか……。
「…まあいい。それで、何を獲って欲しいんだ?」
「それじゃあ、ひとまずゲーセンに行きましょう!」
俺たちは3階のアーケードコーナーに向かって歩き出した。
ゲームセンター
「で、どれが欲しいんだ?」
「うーん、そうですねえ…………あれが欲しいです!」
水宮は顎に手を当てながら辺りを見渡すと、1つの筐体に指を刺した。
「トリケラトプスのぬいぐるみ……何でこれを?」
「いやなんか……可愛いし、大きかったから。」
「そうか…大きかったからか………。」
そう言いながら、俺は水宮のことをまじまじと観察する。
「………なんですか?」
何でこういう時だけ勘鋭いんだよ。
「いや、所持金が底をつきそうだなと。」
「絶対に違いますよね!」
「さあ、ものは試しだ。やってみるか。」
「また話逸らした!」
「よっ、ようやく獲れた。」
約20分の格闘の末、アームがぬいぐるみをいい感じに掴み、穴に落とした。はっきり言っちゃうと、こんなにヌルッと獲れるんだったらもっと出費減らせただろ!と、思う自分もいる。
俺の所持金は無事底を突きた。
「やったー!頼さん、ありがとうございます。」
水宮はは全長が自分の3分の1くらいの大きさのぬいぐるみを抱き、満面の笑みを俺に見せてくる。
こいつは無自覚でこういう事をする。こいつの兄の苦労話を聞けば、基本こいつに惚れた男子が面倒くさいったりゃありゃしないっていうのがほとんどだ。
「んじゃ、水宮が欲しいって言ってたのも獲れたし、帰るか。」
「えーっ、もう帰るんですかあ?」
水宮はとても不満げに言葉を返す。
仕方ないだろ、所持金が底を突いたんだよ。もっと金持ってくるべきだったか。
「仕方ねえだろ、もう金持ってねえんだから。」
「じゃあ、すぅが払います。」
「それだけは駄目だ。」
俺は水宮のの提案をきっぱりと断る。
「何でですか?」
「『大人が大学生に奢ってもらった』とか嫌なんだよ。」
「だったらどうするんですか?」
俺は顎に手を当て、少しの間考える。ふと腕時計を見ると、短い方の秒針が12時を通り過ぎていた。クレープ食べたとはいえ、クレーンゲームで集中したからお腹空いたな……これ最適案じゃね?
「……そうだ。もう昼飯の時間だし、1回俺の本屋に戻って飯にするのはどうだ?」
「ご飯って、頼さんが作ってくれるんですか?」
「……そりゃあな。」
その返答に水宮は目を輝かせる。そんなに食いたいか?
「早く帰ってお昼ご飯にしちゃいましょう!」
「……フッ、分かったよ。」
その溌溂っぷりに俺は微笑を漏らした。
帰り道
「頼さんのお昼ご飯………楽しみだなあ。」
「そうかい。」
いつも以上に上機嫌の水宮といつも通りの俺はそんな会話をしながら帰路を辿る。
信号が赤になり2人は足を止めた。その瞬間、妙なヴィジョンが俺の頭を通過する。
「ん?何だ今の?」
「……どうかしたんですか?」
「いやなんか…奇妙な感じが。」
信号が青に変わり、歩行者たちが再び歩を進める。
向こう側から、小学生ぐらいの男の子と青年が手を繋ぎ男の子の母親と思しき3人が歩いて来た。
「お兄ちゃんありがとう!」
「いいんだよ、泣き止んでくれて良かった。」
「本当にありがとうございます。うちの子ったら急に走り出して迷子になっちゃうもんだから。」
「だってお菓子みたいなのが動いてたんだもん!」
その光景を遠巻きに見る俺と水宮。
その3人に、軽トラックが猛スピードで突っ込む……は?嘘だろ!
「やべえ、危ない!」
俺は飛び出してその3人と軽トラックの間に割り込む、衝突の衝撃で軽トラックのフロントガラスが割れ俺の皮膚に突き刺さった。
「大丈夫か?」
その質問に青年が慌てた反応を見せる。
「きっ、君の方こそ!大丈…夫な訳が無いけど………平気か?」
「こう見えても、ゴブリンなんでな……問題無い。礼もいらん、助けたかっただけだからな。」
当然嘘。落ち着けるには種族の話が、1番納得されやすい。
「そうか……本当に大丈夫なのか?骨折とか………。」
「いいんだよ。お前も大変だな、こんな事に巻き込まれて。」
母親は状況の整理が追いついたらしく、声を掛けてきた。
「たっ、助けて頂いて、本当にありがとうございます!」
「礼はいいですって、間に合ってよか「ちょっと頼さん!」……すいません、うちの連れが。さあ、もう行って下さい。」
そんな会話に水宮が割って入る。
3人のうち2人は深々と頭を下げ、歩いて行った。こいつがボロを出す前に撤収させられて良かった。
「はあ、どうしたんだ?水宮?」
「どうしたもこうしたもないですよ!……何で嘘ついたんですか、『自分はゴブリン』なんて。」
「相手を納得させるにはこれしか無かった。」
「というか、何処のどいつですか!こんなことをしたのは!」
「いや、いい。どいつでもないさ。」
頬を膨らませながら軽トラックの運転手の顔を見ようとする水宮を、俺は静止した。
それもその筈、運転席に人はいなかった。
「どういう事ですか、これ………。」
「さあな、強いて言うなら…あの青年の特異性ってとこだ、誰も悪くない。」
そんな言葉を発した直後、俺は明らかに不自然な挙動をしただろう。だって散々ふらついた挙句、バランスを失い、水宮に抱えられる始末になったのだから。
「だっ、大丈夫ですか!」
「やっ、やばい。骨折とかはしてないけど……単純に衝撃が。」
「きゅっ、救急車ッ………。」
そうやって通報しようとする水宮に、俺は言葉をかける。それよりも、重要事項があったからだ。
「いや、それよりも……
そこで、俺の意識は途絶えた。
なんか………………時間掛かっちゃった。