登場ライバー
水宮枢 癒月ちょこ 雪花ラミィ 獅白ぼたん 輪堂千速 綺々羅々ヴィヴィ 虎金妃笑虎 響咲リオナ
目を覚ますと、そこは知らないようで知っている天井。学生時代になんやかんやでお世話になった天井に似ていることに気付くと、ここが病院ということに確信を持つ。俺は気絶する直前、俺は何となくで分かる未来が見えなくなる。真っ暗になるのだ。だが気絶する直前に発した言葉はどうやら無事水宮に届いたようだった。そんなことに安堵して瞬きをした次の瞬間、目を開けると水色が視界の全てを覆っていた。
「あっ、
水色の主は水宮だったらしい。ずっと起きていたのか、両目ともに半開きで明らかに眠そうである。
「……ありがとな、
「いっ、いえいえ。頼さんのお役に立てて良かったですッ!」
だとしても、かなり助かったのは事実だ。病院に行くとしても、ここでもなきゃ行き辛い。『トラックと衝突したのに無傷の人間』なんて、治療する側からしたら大問題だ。
「ところで……正爾と………それこそ先生は何処に?」
そんな質問をした時、水宮が明らかに不機嫌そうな顔に様変わりした。
「今は別にいいじゃないですか、癒月さんのことなんてー。」
「別に良くねえよ、最近顔見せてねえし見てねえし。」
その言葉を聞いた瞬間、水宮は頬を膨らませながら一気に俺に顔を寄せる。
「頼さんをここに連れてくるようお兄ちゃんにお願いしたのはすぅです!だからすぅのことを見て下さい!」
………あまりにも暴論すぎる。が、言うことを聞いたほうが吉だろう。
「……分かった。ただ、後で挨拶ぐらいはさせてくれ。」
その言葉を聞き、パッと顔が明るくなる水宮
「本当ですか!?約束ですよ!」
それから十数分が経過した。
もう既に水宮はあと1歩で完全に眠りそうである。
「ありがとな、水宮。ちょっと寝てろ。」
「……やだ………すぅは……らい………さ………に………。」
水宮の頭を軽く撫でる、水宮は完全に眠りこけた。俺はドアの方に視線を移し、2人を呼ぶ。
「良いぞ、2人とも。」
「やっぱり分かってたか。」
「もう少しそのままでも良かったと思うのだけどね。」
「いえ、すいません。ベッドまでお借りして、ご迷惑をおかけしました。」
「良いわよ。正爾君から、貴方たちの近況も聞けたし。」
「そうですか。ありがとな、運んでくれて。」
「別に良いよ、俺も癒月先生に愚痴らせてもらったし。」
「何愚痴ったんだ?」
「お前のことだよ。」
「………悪かったな、あの時はいろいろと。」
「どの時だよ。後、迷惑は現在進行形で被ってるからな。」
「………分かってるって。」
俺たちの会話を聞いて、先生は笑みを溢す。
「ふふっ、2人共変わらないわね。」
「癒月先生それどういう意味ですか⁉︎」
先生の発言に正爾は軽くツッコむ。
「別に?2人共高校生の時からほとんど変わってないって意味じゃないわよー。」
「癒月先生だって、全く変わらないじゃないですか!」
「あら?いつまでも若いままでいようとするのは、女として当然の努力よ。」
確かに、俺と正爾の関係はほとんど変わっていない。けど、この空間の空気の軽さというか、懐かしさは、先生がいるのも大きいだろう。3人だけの、あの頃の保健室のような、他愛もない会話。それが30分近く続いた。
「………そろそろ帰るか。おーい、起きろ枢。」
「うーん………もうちょっと………あと5分………。」
「駄目だ、起きろ。」
正爾はそう言いながら水宮の体を大きく揺らす。よく寝るもんだ、正爾……というかエルフ族全般の睡眠時間は、平均4時間ぐらいだというのに。その後、水宮は起こされた。しかし、少しするとまた蹲る。
「うっ…………。」
「どうした枢?」
「おっ、お腹が空き過ぎて動けない……。」
「お前らもしかして、昼飯食べてないのか⁉」
……そういえばそうだった。帰り道だもんな、俺が轢かれたの。
「……おう。俺の家で食べることにしたんだけど、その帰り道で轢かれた。」
「何でショッピングモールで食べてこなかったんだよ。」
……言いずれえ、けど言うしかないよなあ。
「あの水宮が持ってるぬいぐるみあるだろ?」
俺はトリケラトプスのぬいぐるみを指さす。
「あるな。」
「あれクレーンゲームで獲ったんだけどな、それの所為で俺の所持金が底を突いた。」
「……あのなあ………………。」
正爾は勘弁してくれと言わんばかりの反応をする。そりゃそうだ、俺だってする。
「はあ、仕方ない。おい枢、ダッシュで帰って飯にするぞ。」
「分かったあ………お兄ちゃん、おんぶしてえ。」
「………はあ、分かったよ。おい頼、お前も来い。」
正爾は水宮をおんぶしながらそう言う……あっ、俺も⁉
「良いのか?」
「どうせお前も腹減ってるだろ。」
「………お言葉に甘えます。」
「お兄ちゃんはお昼ご飯食べたのお?」
水宮が寝ぼけた口調で聞く、こいつのことだから食べてないんだろう。
「食べてねえよ。ていうか、いつも朝と夜しか食べてねえだろ。」
「……ちゃんと毎日3食食べなさいよ。」
それに呆れながらも、栄養士としてしっかりと注意をする先生。
「……分かってますよ。じゃあ、そろそろ帰ります。」
正爾がそう言いだし、俺も腰かけていたベッドから立ち上がる。
「再三言いますが、ベッドを貸していただいてありがとうございました。」
「良いのよ。じゃあ、また来てね。」
「「はい。」」
その後、俺たち3人は正爾たちの家に行き、夕飯を食べた。
割と大ごとだった今日は、そんなこんなで終わりを告げた。
次の日 本屋
AM9:00
「店長さーん。」
「頼さーん、いますかあ?」
知り合いの獣人とエルフが入店してきた。
「お前ら、急にどうした?」
すると、雪花が勢い良く喋りだす。
「頼さん、ラミィと闘ってください!」
……えっ………営業もあるから普通に嫌なんだけど。昨日のこと言い訳にして断るか。
「その……悪いが、昨日少しトラブルに会って体を痛めててな、別の日にしてくれるか?」
「知ってますよ!車にぶつかられたんですよね。」
「そうなんだよ、だから別の機会に………何で知ってるんだ?」
「知ってるから来たんですよ?今なら勝てると思ったから。」
この娘に慈悲というのものは無いのか?鬼畜すぎやしないか。
「いや……そもそもどこで闘うんだ?近くの空き地か?魔法や魔術使ったら被害とんでもないことになるぞ?」
「知らないんですか?この町にある大学には闘技場っていうのがあって、そこならいくら暴れてもいいんですよー。」
マジで?そんな都合の良い施設があるの?
「だけどよ、その大学には入れんのか?」
「確かにラミィたちは部外者なので大学には入れません。ですが、その闘技場は大学に隣接している公共施設という扱いなので、予約さえすれば誰でも入れます。」
「マジかあ……でもぶっちゃけた話、本屋の営業があんだよ。だから定休日にでもしてくれ。」
「そこをなんとか!お願い!」
……最悪臨時休業にすれば何とかなるか?いやでも……1番の収入源であるカフェの時間を削るのは本当に痛い………。
「……分かった。」
「本当ですか!」
「ああ。でも、午後1時からにしよう。そこまでは普通に営業させてくれ。」
「分かりました!じゃあラミィは準備してきます!」
そう言って、雪花はぼたんを残して店を出て行った。
「……お前は帰らないのか?」
「あたしは本読みに来ただけなんで。」
「そうかい……できれば買ってってくれ。」
俺はその後正爾にも一応来るようお願いをした後、時間いっぱいまで全力で仕事をした。
PM1:20
大学
お昼休み、すぅは食堂の机に突っ伏していた。
「はあ……すぅって何なんだろ。」
「どしたのすぅちゃん?話聞こうか?」
すぅがそう呟いた時、ちはが話しかけてきた。
「それはチャラ男のやつじゃん!」
「ごめんってば、でも実際どうしたの?そんな悩んで。」
話すべきか悩んだけど、結局話した。昨日の祝日、頼さんとデートに行った事、その帰り道でトラブルに巻き込まれて頼さんが怪我を負った事(ありのままを喋ったら混乱させるから詳細は暈したけど)その後、頼さんが指定した病院に連れて行ったら物凄い美人の先生が出て来た事、その先生と頼さんたちが高校時代の先生と生徒の関係だった事。
「なるほど……それですぅちゃんは、自分が愛しの頼さんにとってどんな存在なのか分からなくなったんだー。」
「そうだけど……そうじゃない!」
ちははすぅの言葉を無視する。真剣に悩んでいるようだった。
「ていうかすぅちゃん。その先生のこと、本当に知らなかったの?」
「うん、癒月ちょこっていう人なんだけど……。」
それを聞いて、ちはは『あー』と何か納得したような反応をした。
「ちは知ってるの?」
「知ってる知ってる。確か、ちはたちが入学した1年前にその年の卒業生たちと一緒に辞めたって、クラスメートの男子たちが信じられないくらい落ち込んでたよ。」
「………そうなんだ。」
「頼さんたちって、その先生とどれぐらい仲良かったの?」
「なんか……長い付き合いって感じだった。」
「へー、先輩たちの話じゃ『ザ・高嶺の花』みたいな人だったらしいけど。」
「あっ、いたいいた。」
「おーい、すぅちゃーん、ちはやー。」
ヴィヴィたん、ニコたん、リオチが会話に入ってきた。
「ちょっと2人共、これ見て!」
そう言いながら、スマホの画面を見せるヴィヴィたん。闘技場の予約ページだった。
「それがどうしたの?」
「ここ!ここに書いてある名前!」
そう言いながら爪でとある部分を激しくタップするヴィヴィたん、そこには見覚えのある名前が載っていた。
「えっ⁉……『
間違いなく頼さんの本名、何で?どうして?
「やっぱりそうやろ!行ってみようや!」
「待って、対戦相手『雪花ラミィ』て書いてあるけど……雪花ラミィって、あの雪花ラミィでしょ⁉大丈夫?」
明らかに乗り気なヴィヴィたんの提案を、ちはが制止する。そりゃそうだ、相手は雪花家の御令嬢雪花ラミィ。数年前までこの大学に在籍していて、その才能は折り紙付き。自分たち以外のことにあまり興味の無いすぅでも知ってるぐらいには強い。
「だったらなおさらやん、すぅちゃんが好きって言っててすごい強いっていう男子の雄姿を見てみたいやん!」
「そうだけど……どうする?すぅちゃん?」
ちはがすぅに質問してくる。答えは決まってる。
「もちろん、行くに決まってるじゃん!」
はっきり言って、頼さんが負ける姿が想像つかない。理由はそれだけだ。
PM1:30
闘技場控室
「へえ、こんな感じか。」
目の前のタッチパネルに闘技場のいくつかのルールや仕組みが表示される。
1番懸念していた、負傷などの怪我をする危険性についてだがどうやら闘うのは自分たちの体を模したホログラム態で自分たちの意識をそこに転送するそうだ。これによりいくら負傷しても、例え致命傷になるダメージを受けても実際の体には何の影響もないらしい。
この施設は俺たちが闘う闘技場とそれをぐるりと囲む観客席から構成されていて、観客席へ攻撃を飛ばすのは当然ルール違反で失格になる。また、観客が戦場に魔法や魔術を放つ等の妨害行為も禁止されている。
「準備ができたらここをタップしてくださいか……よし、行くか!」
準備完了ボタンをタップすると俺は形容しがたい光に包まれ、戦場に転送された。
「ここが……。」
あたりを見回すと観客たちが俺たちを見下ろしていた………いや、多すぎないか?329人くらいか?割とぎゅうぎゅう詰めだぞ……あとなんか俺の知り合いが固まってんだけど。
「あっ、やっと来た。待ちくたびれましたよお。」
前方、少し離れた方にいる雪花が声を発する。20cm位の木の杖を持っていた。
「悪かったな、にしても多くないか?」
「あー。実はラミィ、ちょっとした有名人なんですよ。」
なるほど、物珍しさから見に来たのか。
「まあ、そんな事は置いといて、やりますよー。」
「やる気十分か。良いぞ、来やがれ。」
数分前
闘技場観客席
「頼さん遅いなあ。」
雪花ラミィが入場してから数分が経過したが、未だに頼さんの姿は見えない。
「闘技場のルールや仕組みに興味でも持ってんだろ。」
その声を聞き驚きながらも声のした方に振り向くと、そこにはお兄ちゃんがいた。
「あっ、お兄ちゃん。」
「よお、やっぱりお前もいたか……隣座るぞ。」
そう言ってお兄ちゃんはちはたちとは反対側に座る。ちはたちはと言うと、お兄ちゃんの方を見て目を輝かせていた。
「水宮正爾……本物だ。」
「どうも、いつも妹が世話になってんな。子供っぽいところもあるが、これからも仲良くしてやってくれ。」
お兄ちゃん?何言ってるのかなあ?
「すごい……すぅちゃんのお兄さんって聞いてたけど本当だったんだ。」
おいちは、すぅのこと信じてなかったの?
「何でここに来たん?」
傍から見たら明らかに失礼なタイプの関西弁でヴィヴィたんがお兄ちゃんに質問する。
「そんな凄い事か?後、俺は頼の奴に呼び出されたから来たんだよ。」
「へえ、仲良いんやな。」
「これでも親友っていう間柄だからな。」
「正爾先輩の親友って、頼さんはやっぱり強いんですか?」
2人の会話に割り込むようにリオチが質問する。二コたんはというと、お兄ちゃんの方を見てあんぐりと口を開けていた。
「それは、この闘いを観れば分かる。ほら、来やがったぞ。」
お兄ちゃんの視線の先には、頼さんがいつの間にか立っていた。
2人は何か喋った後、構える。
数十秒後、戦闘開始の合図が闘技場全体に轟いた。
闘技場
「【氷象魔法】グラスケスティ」
雪花が杖を俺に向けながらそう言い放つと、細長く鋭い氷柱のような物が無数に生成される。すると、それらは間髪おかずに俺目掛けて放たれた。
数は目の前の物だけでも50強、雪花が体勢を変えていないことを考えると、俺が被弾するまで半永久的に放たれ続けるだろう。避けながら後ろに回り、突っ込んだとしても攻撃を受けるが先。避けるのは悪手、なら全て叩き落とす!
真正面から氷柱を殴り潰すことも可能だが、恐ろしく鋭利。皮が薄い場所に当たれば突き刺さりぐらいはするだろう。俺は氷柱が自身に着弾する直前、氷柱同士の間に手を差し込み、1つ1つを横から叩き潰していくことにした。
その状態が1分程続いたが、遂に痺れを切らしたのか、雪花が今まで通りの氷柱を生成しながらも、かなり大きな氷柱を1つ生成する。それを、他の物と同様に放つ。今までの力加減で叩けば、破壊できず直撃するであろうそれに、俺は飛び上がり乗る。それを踏み台にして、更に大きく飛び上がり、雪花の攻撃網を抜け出す。
俺が狙うのは雪花がこの事態に気付いて動揺し、攻撃が緩むその一瞬……落下のスピードと自らが回転して得た勢いで打撃力を上げ、そのまま雪花の腹を蹴り飛ばすッ!
観客席
「嘘………。」
すぅは直前まで、頼さんが押されていると思っていた。雪花ラミィがとてつもないぐらい大きな氷柱を、他の攻撃に対処して身動きが取れない頼さんに放ったときなんか、頼さんが負けるとさえも思った。けど、頼さんはいつの間にか空中にいて、またすぐいなくなった。頼さんが雪花ラミィが元居た場所に移動していると気付いたのは、爆発音が闘技場全体に響き、観客席が揺れた後だった。地震かと思った、けど違った。雪花ラミィが闘技場の壁に突っ込んだのだ。
「ごめんすうちゃん、ちはたち勘違いしてた………あれは強いわ、理不尽なくらいに。」
ちはたちは衝撃のあまり言葉を失う。お兄ちゃんはというと、目を細め、土煙が上がって見え辛くなっている、雪花ラミィがいるであろう場所を黙って凝視する。
「流石雪花家の血筋……打たれ強い事この上ない。」
お兄ちゃんがそう呟いた直後、土煙が完全に消えたのとほぼ同時に、雪花ラミィは少しよろめきながら立ち上がった。
闘技場
「あはは……強すぎんだよぉ。」
予想外…完全に予想外だった。“グラスケスティ”を放てば頼さんの動きは封じれると思った。そこに巨大化させ、威力を上げた“グラスケスティ”なら確実にダメージを与えられると思った。そこから更に追い込めば、勝てるとも思った……ラミィは完全に忘れてたんだ。頼さんと初めて会った時、目にも止まらぬ速度で不良に蹴りを入れた事を……ラミィは頼さんの身体能力を完全に見縊ってた。体感だけど、頼さんの方がラミィが吹っ飛ぶ速度よりも速かった気がする。
けど良かった…あの一撃を喰らって安心した。頼さんにとってもあの一撃はベストコンディションだっははず……ラミィも完全に動揺してまともに受けた会心の一撃……それでもこの程度。確かに割と…いやかなり痛かったけど、ラミィはまだ動ける。それにあの時頼さんは、一瞬だけどラミィに触れた……勝てる算段は十分にある。
頼さんは闘っている時視線がとても鋭くなる。その視線が自身に向けられていることに気付くと、有り得ないくらい怖くなる。逃げ出したくなる程ではない…けど何か生物としての厚みを感じる視線。
覚悟してくださいよ、頼さん。ラミィは本気ですから。
「やっぱり立つか。」
雪花は少しよろめきながら立ち上がる。目の色はついさっき俺の蹴りを喰らったとは思えない程、闘志に満ちていた。
「女の子蹴るって最低ですよ……。」
「やめてくれ、それ言われたら何も言い返せないから。」
「そうですねえ…ところで頼さあん、気付いてますかあ?」
「気付く…何にだ?」
「足元ですよ、あーしーもーと。」
「足元……なっ、」
俺は雪花に促されるまま足元を見下ろす。右足が凍り付いていた。
「……お前の魔法か。」
少し悩んだそぶりを見せた後、雪花は答える。
「魔法って言うよりぃ、ラミィの体質ですねぇ。」
「体質?」
「はい。ラミィに触れたものはほとんど凍っちゃうんですよお。」
なるほどな…嘘か誠か分からんが『接近戦はやめろ』と牽制されているようにも感じる。俺は地面に落ちていた石を1つ掴み雪花に投げる。雪花がキャッチする直前に石は氷の塊になる、それを地面に投げ捨てると氷と一緒に石もボロボロに崩れ落ちた。足についた氷を無暗に壊さない方が良さそうだ。
「それにラミィは本気で頼さんを倒しますから、覚悟してください!」
第2ラウンドって事か……俺は雪花の魔法を警戒し構える。すると雪花は突如として詠唱を始めた。
「凍てつく身体は…地は…燃え盛る心なり…脈々と生きる植物なりを…蝕み枯らす……万物の停滞…それが今この世界全てを壅蔽する……【空間魔法】フィールド」
雪花の詠唱が終わった途端、闘技場内の空気が変わる。辺り一帯に冷気が流れ込み凍結し、様々なところから氷の柱や鋭い岩が地面から出現する…って寒ッ!半袖だからか余計に寒い……氷点下切ってるだろこれ……。
すると、俺の斜め上の空中に氷柱が生成される。環境の変化に気を取られていた俺は少し動揺した。生成された氷柱は先程大量に放って来たやつよりも倍近く大きい…にも関わらず数は同等かそれ以上。だが氷柱はそこのみに生成されており、雪花と俺との間に障害物は無い…氷柱が俺に着弾するよりも早く俺が雪花を攻撃すれば倒せる!……クッソ、駄目かッ!
俺がそう悟った次の瞬間、雪花と俺との間に巨大な壁が現れる。何発か殴れば破壊はできる…だがそんな時間は無い。その上右足が凍ってるから踏ん張りも利かない。というか急に無詠唱魔法を使ってくんな!俺は諦めて氷柱を全て叩き潰す事にした。
全て叩き潰すと言っても数や質量は前よりも圧倒的に上、さらに氷柱を飛ばす推進力だけでなく落下させている事により降ってくるスピードが速く貫通力もある。
その上氷点下を切ってるであろう気温によって体が悴み思うように動かない。それにより全力を尽くしても全体の2割は着弾し俺の体に切り傷をつける。
10秒…20秒と経つごとに捌ける数が少なくなっていく…敗けるかもな、これ。当たり前か、雪花が全力で闘うと言ったんだ。追い詰められるのも止む無し…俺が勝ちたきゃ、それ相応の全力を出せって事だ。良いだろう、やってやろうじゃねえか!そう思った直後、俺の懐に突如として雪花が現れ雪花の右掌が俺の腹に近づく。振り払おうと腕を動かそうとしても上手く動かず、距離を取ろうと足を動かそうとしても何故か膝や足首が動いてくれない。
触れられる…ヤバい!だが、腹辺りに感じたのは人の手よりもずっと冷たい何か……視線を下ろすとそれは雪花の手から生成された氷の塊だった。
「さっきのお返しです。」
そんな声が聞こえた直後、俺の腹に当てられていた氷が巨大化し俺を突き飛ばした。いつの間にか巨大な氷柱も生成されていて、俺に全て突き刺さる。その後勢いが止むことは無く、俺は闘技場の壁に激突した。
観客席
「あそこまでやるか。」
はっきり言って期待以上だった。多くの魔法使いにとって【空間魔法】は数ある魔法の中でも極意と言える。極意と言うだけあって、殆どの【空間魔法】はそれ自体が奥義として扱われてしまう。だが雪花ラミィはそれを奥義ではなく単純な地の利として火力を底上げするための下地として使い、その先を俺たちに…あいつに魅せた。
そしてあの奇妙な詠唱、雪花家相伝のものだろう。通りで強いわけだ。あの氷柱…“グラスケスティ”と言っていたか、頼の奴が気付いているかは知らんがその“グラスケスティ”にも雪花ラミィの“固有性質”である“凍結”が付与されていた。雪花ラミィの【空間魔法】と雪花家の相伝詠唱特有のものだろう。それによって頼の奴は動きを制限され、あの一連の攻撃をもろに喰らった。
だが、そこまでやって漸くあれなら雪花ラミィに勝ち目は無い。さあどうする?お前次第だぞ。
数分、頼の奴は動かなかった。それを見て横にいた枢が叫ぶ。
「頼さん!しっかりして!」
それを見た枢の友人は枢を落ち着かせる。こういう時、制御に回ってくれる友人がいることはありがたいことだ。友に恵まれたな、枢…にしてもこいつは、過保護と言うか何というか。『頼は人間で自分はエルフ』この考えに囚われ過ぎている気がする。実際は同じ存在な可能性だってある、そしてその場合自分は頼の奴よりも劣っている事に気付こうとしない。
そんな事を考えていると頼は立ち上がる。そして雪花ラミィに向かって10歩程歩く。その光景を見て、観客席では歓声が上がった。枢の友人はあまりの衝撃に言葉を失っていた。そんな歓声など聞こえていないかのように頼は視線を雪花ラミィから外し、俺を見る。やるって事か、分かったよ。俺は頼に小さく頷いて見せた。『【空間魔法】フィールド』範囲は闘技場を除いて頼を中心とした半径58m……あとは好きにしろ。
闘技場
正爾が頷いたのを見て、俺は再び雪花を見た。はっきり言って滅茶苦茶痛い、身体の至る所から出血している上に足や腕などがなぜか凍っている。
「まだ立つんですかー?」
「お前がさっき……立ち上がったからな。」
「そうですかあ、じゃあもう1発お見舞いしてあげますよ!」
雪花はまたもや氷柱を生成する。だが今回はそうはいかない、いやいかせない。俺もそれ相応の全力を出すからな!
「【空間魔術】……レギオン」
「えっ………。」
次の瞬間、俺の【空間魔術】が雪花の【空間魔法】を塗りつぶす。それにより辺り一帯の氷が氷壊し気温もいつも通りに戻る。いつの間にか凍っていた俺の腕や足も元通りになる。ここまではさっきの異常現象を戻しただけ、俺の反撃はここからだ。
「【魔術解放】天変地異」
「なっ、なにこれ……。」
俺がそう唱えると、室内にも関わらず闘技場上空に暗雲が立ち込める。
「【ファフロツキーズ】」
すると、暗雲から何か赤いごつごつとした物体が闘技場全体に降り始める。雪花は自身の頭上に氷を生成し防ごうとするが、物体の数が氷柱の比ではない為多くが被弾する。30秒が経過したあたりで俺は魔術を解除した。
「はあ…はあ……何ですか?今の。」
疲労困憊、立ち上がるのもやっとの雪花が俺に尋ねる。
「俺の魔術だ。」
「魔術?……使えたんですか。」
「ああ。俺の魔術は様々な現象を再現する。」
「なるほど……“天変地異”………ですか。」
「…これで終わりだ。」
「……まだ………まだ終わらせない。」
「だったらやってみろ。【飆風】」
次の瞬間、爆音とともに強風と土煙が立ち上がり、それは闘技場全体に留まらず観客席にも届いた。土煙が晴れるとそこに雪花の姿は無かった。さらに何か斬撃の余波が当たったかのような傷跡が闘技場全体に数え切れない程付けられていたのである。俺と雪花の間には5mほどの溝が作られ、それぞれの領地を誇示しているかのようだった。
観客席が騒がしくなり始めた直後、俺は控室に転送される。スマホを開き正爾に『入り口で集合』とメールを送り、控室のドアを開け入り口に向かって歩き出した。
入り口付近に着くとやけに草臥れた様子の正爾以外にも雪花、水宮、ぼたん、そして水宮の友人たちが待っていた。
「よお正爾、どうした疲れて?」
「………誰の所為だと思ってんだよ。」
「悪かったって……満足したか?雪花。」
「まだです!今度こそラミィは頼さんに勝ちます!」
「諦め悪いなお前………。」
「……って言いたいけど…諦めますよ。勝てる気がしませんから。」
「……そうか。」
「後雪花じゃなくてラミィって呼んでくださいよお。」
「良いのか?会って数日だぞ。」
「良いんですよお。じゃあ頼さんまた会いましょう。」
「おお、じゃあな。」
「ふふっ、帰ろーししろーん。」
「はいはい、分かった分かった。」
上機嫌なラミィはスキップをしながら帰って行き、それに呆れているぼたんも後を付いて行く。
「にしても、お前たちも来てたんだな。」
「……そうですね。」
水宮たちへの質問に対し水宮はかなりぶっきらぼうな返答をする。
「……どうした?」
「何でもないです……。」
「あいつへの敬称が気に食わないなら、お前も変えるか?」
「……別に良いですよ。」
「あちゃー、完全に拗ねちゃったね。」
「ヴィヴィも聞きたいこと山ほどあんねんけどなあ。」
「にしてもヴィヴィ、この人ってさあ。」ごにょごにょ
「うん、ただの鈍感なんかと思ってたけど違いそうやなあ。」ごにょごにょ
小声で話している輪堂と髪色が派手な娘に俺は口を挟む。
「聞きたいことってなんだ?後名前教えてもらって良いか?それとこんな長い時間大学から出て大丈夫なのか?」
「私綺々羅々ヴィヴィって言うんよ。後ヴィヴィたちはこの後の講義取ってないから大丈夫なんよ。」
「綺々羅々…そりゃまた奇怪で………あっ、いや何でもない。で、何が聞きたいんだ?」
「頼さんって人間なんか?」
「単刀直入だな……人間だぞ。」
「えーっ、嘘やろ。雪花ラミィに正面切って倒せる人間なんておらへんわ。」
「ここにいんだよ。まあ正爾が居なかったら危うかったが……。」
「どういう意味なんそれ?」
「俺の【空間魔術】は範囲を変更することができない。さらにその効果は俺が使う魔術が強制的に全範囲技になんだよ。だから正爾に【空間魔法】を観客席や施設の外まで展開させて被害を抑えてもらったんだ。」
「えっ、そうなん?」
その会話に正爾が気だるげな様子で補足する。
「そうだよ。闘技場内に魔法は使ってないがそれでもバレたら厄介だ、バレないためだけに無詠唱で【空間魔法】使ってその上お前の【空間魔術】に塗りつぶされないように調整する羽目になったこっちの身にもなれ。」
その会話にさらに輪堂が割り込む。
「えっ⁉無詠唱で【空間魔法】発動したんですか⁉」
「おう、まあそこはまだ良いんだよそこは。お前も見ただろ?あの変な斬撃の跡。」
「ええまあ。見た感じ頼さんの攻撃だと思いましたけど……。」
「その通りだ。あいつの攻撃は自分以外の空間系の魔法や魔術も対象になる。自身の空間を拡げる為にも破壊しようとするんだ、それを耐えるのがどれだけキツイかこいつは全く分かってない。」
「ええ、なんそれ………。」
「何か…頼さんのおかしさを話してたはずが、いつの間にか正爾さんの常軌を逸してる魔法の才能の話になっちゃったね。」
「そういうもんだこいつは。」
「おい頼、てめえ誰のおかげで楽に勝てたと思ってんだ。」
「……悪かったって。」
「ほら、すぅちゃん行ってらっしゃい。」
「頑張って。」
水宮が背の高い金髪の娘と銀髪を黒色のリボンで結んでいる娘に促されながら俺の裾を掴む。
「頼さん…ごめんなさい。すぅは信じてましたよ、頼さんが勝つって。」
「そうか、ありがとな……どうする?呼び方変えるか?」
「今はまだ…いいです。」
「すぅちゃんは奥手だねえ、頑固と言うかなんというか。」ごにょごにょ
「もうこの際告白すりゃあええのに。」ごにょごにょ
「やーい、すぅちゃんのビビりー。」ごにょごにょ
「当たって砕けろだよ?すうちゃん。」ごにょごにょ
「うるさいッ!」
今日もいろいろあったが、なんやかんやで無事平和で賑やかに終わった。
長くなっちゃった………。
この作品1番エグイ事をサラッとやってるのが主人公じゃなくて親友ポジの奴なんだよな。