登場ライバー
尾丸ポルカ 水宮枢 不知火フレア
本屋
AM10:30
尾丸をバイトとして雇ってから2週間が過ぎた辺りの休日。
「もう既に仕事が板につきつつあるな。」
「はい。この本屋のことはある程度は知っていましたから。……店長がちょくちょく居なくなるのはまだ慣れないですけど。」
俺が居なくなるっていうのは、近くで強盗だの窃盗だのが起きて俺が対処に掛かるって事だ。
この2週間でこの商店街に起こった事件は7件。ここまでだったらいつもよりちょっと多いってぐらいだが、7件中4件に奇妙な共通点がある。
それはおかゆたちのおにぎり屋に強盗しようとした連中と同じ金型の拳銃を所持していた事、単独犯ではなく複数犯での事件だった事、さらに複数犯にも関わらず拳銃を所持していたのは1人だけだった事。
流石にこの事態は何か裏があると思った方が良さそうなので、現在その連中がどのルートを使って何処で拳銃を入手したのかをフレアさんたちに調べて貰っている。
「まあ俺が居なくてもなんとかなるだろ?」
「確かにそうですけど………。」
尾丸がそんな含みのある発言をした直後、水宮が来店した。
「
「どうした水宮?」
「その……相談っていうか…報告なんですけど……。」
「報告?何をだ?」
「お兄ちゃんがまた部屋に籠ってて…ご飯はちゃんと食べてるんですけど、部屋の前に置いておくって形になっちゃってて……自分の食器を洗う時にお風呂とかは入ってくれてるみたいなんですけど………。」
またか…
「分かった、後で電話してみる。」
「お願いします。それはそれとして……。」
「……なんだ?」
水宮は分かりやすく『すぅは怒っています。』みたいな顔をして俺を見上げる。
「何ですぅをバイトとして雇ってくれなかったんですか⁉︎」
「………またそれか。」
「『またそれか』じゃないですよ!バイト募集中って事も聞かされてなかったし!どうして教えてくれなかったんですか!」
「悪いが、アイドルになる為に歌やらダンスやらに励んでる奴を雇う気にはなれねえよ。」
「だったら何ですか⁉︎アイドルになるっていう夢を諦めれば頼さんは雇ってくれるんですか⁉︎」
「そういう事を言ってんじゃねえ!後そんな簡単に夢を諦め……いや、何でもない。悪い、叫びすぎた。」
『夢を諦めるな』なんてこいつに言ったら、こいつの兄貴に正反対な事を言えなくなる。止めておこう。
「すぅもごめんなさい。言い過ぎちゃいました。」
「気にすんな。取り敢えず正爾に今度電話で聞いておく。」
「ありがとうございます。じゃあすぅは帰りますね。」
「おう。」
水宮が帰り俺は壁掛け時計に視線を移す。そろそろ上に上がっても良さそうだ。
「そろそろ時間だから上に行く、何かあったら呼べ。」
「あの、質問しても良いですか?」
「………何だ?」
「正爾さんが部屋に籠るってよくある事なんですか?」
「まあ時偶な、あいつ一応研究職だから。」
「研究職?何のですか?」
「知らないのか?あいつは魔法道具っていう物の研究をしてる……というか、あいつは魔法道具を近年大成させた張本人だ。」
「え?魔法道具って結構前からあるんじゃ?」
「確かにそうだ。だが今までのは魔法使いだけが使える便利アイテム程度の認識だった。理由は魔法道具に外部から魔素を補充しなければ使えないという仕様上、魔法が使えない殆どの人間や魔術師にとってはただの置き物も同然だったからな。分かりやすい例だとあれだ。」
そう言いながら俺は壁掛け時計を指差す。
「えっ、あれも魔法道具だったんですか⁉︎」
「ああ、元々は電池式だったんだが正爾の奴が改造して外部から魔素を補充する必要のある魔法道具に変えちまった。まあ俺が魔法を使えるから問題はないが。」
「へー、そうなんですか。」
「少し問題だ。人間などの種族に関係なく魔法道具が使える様になるにはどうすれば良いと思う?」
尾丸は少し悩んだ末、口を開く。
「魔素を補充できる電池みたいなものを開発する。とか?」
「それだったらただの電気式の家電製品を使えば良い。多くの魔法使いが魔法道具を使うのは身ひとつで動かせるからだ、もっと単純に考えてみろ。」
「じゃあ、単純にその魔法道具が勝手に魔素を集約して使えるようになれば良いんじゃないですか?」
「その通り。この仮説を今まで多くの魔法使い兼科学者たちは実現しようと研究を重ねたが、どれも失敗に終わり机上の空論も同然。それをたった1人で実現させちゃったのがあいつ。仕組みは俺も分からんけどな。」
「正爾さんってそんな凄い人だったんですか⁉︎」
「詳しい事知りたかったらインターネットで調べれば出てくると思うぞ。俺は上に行って準備してくる、下は任せたぞ。」
「はーい、分かりました。」
俺は2階に上がり品出しの準備をする。
「暇だなぁ。」
昼になると多くの客は2階のカフェ目的で来る客が殆どになる。そうなると1階はほぼもぬけの殻状態になってしまうのだ。
頼さんと話したいし出来ればポルカも2階に行きたいけど、ポルカは頼さんが2階で仕事をしている時に1階が手薄になってしまう事を防ぐ為に雇われている。それでは本末転倒だ……別にカップルとかでカフェに来てるのを見ると悲しくなってくるからとかでは断じて無い。
レジでぐったりしていると、誰かが来店し急いで立って背筋を伸ばす。
「おっ、尾丸じゃーん調子どうよ?」
その正体が獅白と気付き再びレジに体重を預ける。
「何しに来たんだよ。」
「いやー、尾丸が店長の店で働き始めたって聞いてどうしてるかなーって。」
「別にどうもしてねぇよ。ただ……。」
「ただ?」
「なんか……頼さんの近くにいると自信無くなってくるわ。」
「あー、店長って女友達多いもんなー。」
「そうなんだよー。誰だよ水宮枢って……頼さんの親友の妹とか強すぎるっつーの。」
「まあまあ、あたしは目当ての本買って帰るから。」
「分かったよ。」
PM9:30
厨房を片付け店前のシャッターを閉める。尾丸も帰宅すると俺は完全に1人となった。
明るい店内にも関わらず人っ子1人いないという奇妙な光景を見ながらカウンターにある椅子に腰掛けスマホを開く。そしてとある男に電話を掛けるとそいつは4コール目に出た。
『何の様だ?』
そいつは少し気怠げな様子で俺に問う。
『水宮から最近またお前が部屋に籠り出したって聞いてな、どうしたもんかと思っただけだ。』
『…お前には関係のない事だ。』
『いーや、あるね。絶対ある。お前が俺にこの事を聞かれたくないと思っている時点で絶対ある……まだ諦めてねえのか。』
次の瞬間、明らかに怒気を孕み、なれど静かな声で正爾は答えた。
『……誰の所為だと思ってんだよ。』
2週間程前、ラミィと闘った時と一言一句違わぬ事を正爾は再び言った。たがそれは前回とは比べ物にならない程の威圧感を漂わせていた。
『そうかもな。まあ両親とか妹、心配させすぎんなよ。しゃあな。』
『おいてめえ、俺の地雷踏んどいて簡単に切ろうとすんじゃねえ。』
『……あっ、固定電話に電話来たわ、じゃあな。』
『おいちょっと待ちやが………』ツーー
バレバレな嘘を吐きながら電話を切る。まあ今時固定電話に電話する奴なんて滅多に来な『プルルル…プルルル…プルルル』……来たわ。
マジで?誰だ?様々な疑問を頭に浮かべながらも受話器を取る。
『こちら
何だ?爆破予告とかか?
『こちら白銀自警団の不知火フレアです。赫羽頼さんはいらっしゃいますでしょうか?』
フレアさん⁉︎……大体察した。
『はい、赫羽です。どうか致しましたか?』
『よく言うよ、私からの電話で大体察してる癖に。』
流石はフレアさん、よく分かってる。
『ですがまあ、一応の礼儀ですので……銃の流通元について何か分かったんですか?』
『うん、その銃を流してた連中なんだけどヘロニアって言う暴力団だった。そいつらのアジトを1つ潰した時、全く同じ金型の拳銃と金が大量に押収されたから間違いないと思う。』
ヘロニア…そんな連中が………。何を目的としてそんな事を……いや、大量の金を得る為か。
『分かりました。調べて頂き有り難うございます。』
『お礼を言いたいのは私たちだよ。君が教えてくれなかったら私たちはその存在に気付くのにも時間が掛かった。』
『いえ、お役に立てて良かったです。』
『うん。君もあまり危険な事はしない様にね。』
『分かってますよ。では、失礼します。』
そう言って受話器を固定電話に取り付ける。
これから少しややこしくなる、そんな気がする。ヘロニアっていう連中の件はまだ良い、変な動きを見せたら止めれば良いだけだ。死人は出ないだろう。だがここに正爾の件が入ってくると………あー、めんどくせえ。…………確認してくるか。
そう思った俺は立ち上がり裏口から外へ出る。
水宮家前道路
PM10:00
専ら真夏だが夜だったこともあり、さらには時折涼しい風が吹くお陰で熱帯夜というほどではなかった。ちょっとした散歩感覚で正爾たちの家に向かうと、そこには2つの影が見えた。文学作品などでよく見る暗がりにぼんやりと見える『人影』という意味ではなく、そこにいたのは黒い靄に包まれた恐らく人型であろう正に影。
「その家にはお前たちが狙っている奴以外にもそいつの家族が住んでいる。寝込みを襲うのは止めておけ。」
俺の声を聞いた瞬間、2つの影は回転する。振り返ったと見て良いだろう。
「お主…我々が視えるのか………何者だ?」
向かって右側の影が俺に問う。とは言っても口が動いているのか、そもそも在るのかさえ分からないが。
「俺が誰だろうが関係ねえだろ。さっさと帰ってくれ。」
「それは出来ぬ、我々の努めは主を守る事……邪魔をするなら……容赦はしない。」
今度は向かって左側の影が俺に言う。はあ、話し掛けずに不意打ちした方が良かったな。
「あーそうかい。じゃあ俺もやること変わんねえよ。」
俺は影に向かって走り出し2つの影の頭部でありそうな部分を掴み2体共地面に叩き付ける。あれだけ厳格な喋り方をしていても正体はもう現世にはいない主を守ろうとする愚か者たち。2体程度じゃ雑魚以下だ。
「我々に…やはり触れるか…何者……だ………。」
「んな事関係ねぇだろ。さっさと消えろ。」
「貴様は…まさか……
「知ってんなら尚更だ。さっさと帰れ。そして俺たちがあの神社に近づくまで、俺たちに関わるな。俺はお前らを殺せる。分かったか?」
「仕方あるまい……ならばこの家の奴にも伝えろ。『我が主に近づくな』と………。」
そんな捨て台詞を吐いて影は消えていった。
俺は踵を返し帰路に着いた。
面倒事が増えていく。