呪術師なんてセイロス教と相性悪そうですけど、地下の住人として案外平和的に過ごしてます。 作:こももなっつ
この世界について驚くことは多々あるが、 “呪霊”の存在が一番の衝撃だった。──まさかこちらの世界にも存在するなんて。
呪い。人の負の感情が生み出すエネルギーの一種。それらが集まり、重なって呪霊という存在を生み出す。
日本国内での怪死者、行方不明者は年一万人を超える。その殆どが呪いの被害によるものとされている。
呪いが見える人間はごく少数とされているが、見えない人間であったとしても微弱ながら呪力を持っている。それが、久遠琉馨が生きていた世界での話であった。
この世界において呪力は極端に薄く、ほぼ無いに等しいといってもいい。殆どの人間に呪力は宿っておらず、建物にも基本的に呪力が付着していることはない。
しかし、フォドラでも呪霊は存在する。奇しくも同じように人間に奇病として、怪奇として、襲ってくる。
呪いによる被害は認知しており、白魔法……信仰を捧げて女神から加護を拝受された術を使える者、つまりアルファルドを始めとする修道士は、呪いの存在をハッキリと見ることは出来ずとも、どこか気配を感知することは可能ではある。しかし、祓うことはできないようで、呪いを受けた対象に白魔法をかけて症状を軽減させるか、土地に結界を張るか、といった対症療法を行ってきたようだ。
「……正直、驚きました。呪術師自体、本当に存在するのかという認識でしたので」
「まあ……呪いが見える人間がそもそも少ないですし、そこから術式に目覚めるってなるとだいぶ数は限られてきますからね……」
一応、フォドラでも呪術というものは存在しているらしい。だが、文献が少なく、大部分が未知なのだと、魔道に精通するコンスタンツェが言っていた。それを良いことに、久遠琉馨における呪術を正として押し通しているのは内緒だ。
そんなわけで、呪いが見える上に、祓える術を持っている私は、こうしてアルファルドの仕事をお手伝いすることとなったわけだ。
説明が長くなってしまった。
今回の目的地は西方教会からほど近い、城砦都市アリアンロッドにある廃墟となった病院。
帝国からの侵略があった際に使われたが、そういった小競り合いが終息した後は、用済みということで解体された。といっても建物自体は現存しており、悪い影響が出ないようにと、白魔法にて結界術を張っていたそうだ。
「ここが王国の防衛拠点、城砦都市アリアンロッドです」
「大き~~~~~い。きれ~~~~~~い」
白く輝く城砦に囲まれている様はまさに、堅牢堅固と評するに値するだろう。防衛拠点という割には、壁に目立った傷跡は見受けられず、清廉さも感じられる。
帝都アンヴァルの街並みと比べても、とても綺麗に感じる。道路すら塵やゴミも落ちていない。汚れが見当たらない。
「元々は帝国の防衛拠点として造られていたのですが、完成間近というところで、ここの領主であるローベ家が王国に臣従してしまいまして……。しかし、以降、ここが陥落したことはなく、白く美しい城壁と政庁に準えて、“白銀の乙女”という異名が付けられています」
「前の話聞かなければ素直にそうだろうなと思えるんだけどな、その異名」
“乙女”という部分に若干の引っ掛かりを覚えたことは、心の奥に仕舞うことにした。
「病院跡地には、前の節に新しく結界術を張り直したそうですが、ここ数日で悪しきもの……呪いが漏れ出ているかもしれないとのことです」
「病院、しかも戦いに使われていたんですよね。恰好の呪霊の溜まり場になってそうだな~……」
病院などの人が多く出入りする場所には、その分だけ様々な思い出が反芻され、その場所が受け皿となる。呪霊の格好のたまり場となるのだ。ましてそれが戦時中に使われていたとなれば、呪いの存在も大きくなるだろう。……いくら呪力と縁遠い世界といえど、そういう部分は共通するのが不思議なところだ。
早速その病院へと向かうため、アルファルドについて行く形で歩いていく。
すれ違う町の人たちの身なりは整っており、上質なものを使っているのだろうと思われる服装だ。政庁を置いているというし、官僚とかそれなりに高い地位を持っている人たちなのだろう。道行く人は多いけれど、喧しさはなく、少しの話し声と石畳を鳴らす靴の音が響くだけであった。
人の流れから段々と逸れていく。淡々と刻まれていた靴の音が離れていくのを感じた。
建物が立ち並ぶ景色から少し変わって、草花が整えられた自然豊かな場所へと移った。ところどころ慰霊碑やお墓が並んでいる様子からして霊園だろうか。
「この辺りは過去、戦争に使われた場所を慰霊区として改築されたそうですよ」
「なるほどー。広場や公園もあるんですね」
憩いの場としての役割もあるようだ。休憩している人、遊ぶ子供たちが見える。
「……おや?」と、目的地である廃病院前まで来て、アルファルドが首を傾げた。
何事かとアルファルドの隣に立ち、「ありゃ」と私も首を傾げた。──廃病院前に、子供が二人、立ち尽くしていた。
「こんにちは」とアルファルドが声をかける。すると、その言葉に弾かれるように肩を震わせて、子供たちは私たちの方へと振り返った。心なしか、その表情は硬く、どこか怯えた様子であった。
ただ事ではないだろうな、と察知。アルファルドは目線を子供たちに合わせるようしゃがみ、努めて穏やかな声色で改めて話しかけた。
「どうかしましたか?」
「……修道士さま?」
アルファルドの服装を見て聞いたのだろう。「はい」と同意すれば、安堵したのか、張り詰めた表情が少し和らぐ。
「ジョンとケリィが戻ってこないの」
「……お友達ですか?」
「うん」
「戻ってこないとは?」
問いに対して、話していなかった方の子が、廃病院に向けて指を指す。──嫌な予感がする。
「びょういんから、ふたりが、もどってこないの」
あちゃあ、と心の中で頭を抱えた。
「びょういんの中、探検しようって。でも、ここは入っちゃいけないよって、ママたちに言われてるんだけど、ふたり、いっちゃった。もどってこないの」
口にすると不安がやってきてしまったのか、子供たちはだんだんと顔が悲壮に潰れていき、このままだと泣き出しそうだった。
行ってはけない場所への好奇心に導かれてしまった。察するに、肝試しといったところだろう。
病院前には錠がかかった柵が建てられているが……経年劣化のせいで脆くなっており、一か所の角材が無くなっていた。子供くらいの背幅なら工夫すれば入れるくらいには空いてしまっている。
「わかりました。私たちで探してみますね。……ルカ」
「はーい。ちょっと下がっててね」
入り口と子供たちの間に立ち、片手で印を結ぶ。
「……闇より出でて、闇より黒く。その穢れを禊ぎ祓え」
詠唱を終えると、空中に黒く、墨のような塊が現れる。やがてそれは、病院を包むように広がり、黒いドーム状となった。──“帳”。非術師の人間に呪いの存在を視認できないようにする、初歩の目くらましの結界術。
こういった結界術は、天元様の支えあってこそ発揮できるものと教わっていたのだが……なぜかこっちでも問題なく使えた。
何が起因しているのか不明だが、そもそも呪霊が存在している仕組みすらも謎なので、使えるものは使っておこうということにしておく。
「じゃあ、私たちで探してくるから、二人はここで待っててね」
努めて明るく言えば、存外素直に子供たちは頷いてくれた。