呪術師なんてセイロス教と相性悪そうですけど、地下の住人として案外平和的に過ごしてます。   作:こももなっつ

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杜撰な企み

 邪なる侵略に対するため、女神は力を創りたもうた。

 超常の武具と、そを使うための血。

 人はその力を手にし、邪と戦った。

 邪を打ち破り、北へと追いやった人々。彼らは“英雄”と呼ばれた。

 英雄らは数百年を生きたが、やがてその命も尽き、後には血と力のみが残る。

 英雄の血に宿りし力を“紋章”と呼び、英雄の振るいし力を“英雄の遺産”と呼ぶ。

 かくして、新しき時の縁は、紡がれていった。

 ──セイロスの書 第二章 創世記より抜粋。

 

 □

 

 元の世界との差異は色々とある。とはいえ、それらは劇的に違うというわけではない。少々の常識のズレはあるが根本は同じところに帰結することもある。

 ……まあ、炎やら氷やらの自然現象をほいほいと手の内から生み出せたり、女神の加護なる癒しの力が扱えたりは……呪術にも似たような力があるということで。

 劇的に違うものといえば、魔獣なる存在だろう。

 自然界に生きる鳥獣たちが何らかの突然変異を遂げてしまい、強靭で強大な肉体へと凶暴化したモノ。真相は未だ闇の中。魔獣に共通することといえば、紋章らしきものが象られた石が体内に取り込まれているそうな。

 紋章。女神から人間へ与えられた力。それが巡り巡って、人間の脅威になっている。

何が恐ろしいって、その魔獣がそこらの草原を跋扈しているのだ。元の生態に即しているのか、鳥獣たちに混ざって生活している。

 不思議なことに鳥獣は襲わず、何故か人間を目の敵にしており、魔獣による人的被害は後を絶たない。

 

 そんなわけで、時折教団の方から魔獣駆除依頼が流れてくる。

アビスには戦いの心得を持つ人間や、ユーリスのように独自の私兵団を組んでいる者がいる。そして私も小遣い稼ぎのために請け負ったりする。

 今日も今日とて、修道院近隣を徘徊する魔獣駆除のため駆り出された。

 根本は違えど、人間を積極的に襲うという点に関して言えば、呪霊と似ている。

恨み、後悔、恥辱……総称して負の感情と呼ばれるものが人間の身体から流れて、集まって、具現化し、意思を持つ異形の存在。それが呪霊。

 呪霊のターゲットも人間。あれらの行動起因に合理的な解釈など意味を持たないだろうけど、もっぱら“栄養源”だから襲っているのだろうと、私は勝手に結論付けている。

 ──―では、魔獣は何のために人間を襲うのだろうか?

 あれらにも“糸”が漂っている。呪いを帯びた“糸”。その色は決まって、怨嗟だ。

呪霊にも様々な色がある。負の感情だけではない。好奇心、野心、嘲謔の色も漂う。

だが、魔獣の“糸”の色は決まっていた。──絶対に、“怨嗟”の色を纏っていた。

とまあ魔獣に対する考察はここまでにして、仕事のほうに集中しよう。

 

 魔獣を見つけた。向こうは気付いていない。さっさと退治してしまおう。

気付かれないように、悟られないように、足音を殺して、“糸”を繋げるために術式を発動させる──……させようとした時、

「──同じことを──担ってもらおう!」

 遠くの方で人の声が響いた。それを耳聡く察知した魔獣は、一目散に声がしたであろう方向へ全速力で駆け出してしまった。

「あちゃ~」

 一応狩猟場として設営されている区域である。音量の調節は最大限に気を付けるのが常識というものだ。

 一体誰だ。音量おバカさんは。なんて思いながら、私は魔獣を追いかけるのであった。

 

 □

 

「にっ二体同時だと!?……だが、私なら!……ぐわっ!!うわぁ!!?」

「やっぱり無理だああーっ!!」何とも情けない声が森中に響き渡っていた。

 無駄に朗々と響き渡るその声にどこか聞き覚えがあるような。最近何百……は言い過ぎにしても、聞き飽きたと辟易するほどだったような気がするが、はたしてどこであったか。そんなことを頭の片隅でぼんやりと考えながら、魔獣の背を追いかければ、なんと今にも襲い掛かりそうな態勢。なんと傍にはもう一体いるではないか。

 大方それも声につられてきたのだろう。その声量はハピ並の魔獣寄せの力があるのでは?

「渾融操術、“金縛り”!」

 追いかけていた魔獣とついでにそこにいた魔獣二体を同時に結ぶ。

 私の術式が、襲い掛かる魔獣の牙よりも早く縛り上げる。寸でのところで動きを止め、距離を詰めるべく跳躍して、手斧を構える。呪力を込める。狙うは魔獣の首──寸分狂わず喉元を掻き切った。

「ありゃ」

「……」

 尽かさず二撃目をもう一体に振りかぶろうとしたところで、だがその魔獣はすでに事切れ、地面へ伏していた。どうやら人間は二人いたようだ。

 情けない声どころか一言も発さずに、その人は剣で魔獣を一撃で切り伏せてみせた。

 

 その人には見覚えがあった。というか、もう一人も見覚えがあった。──前節末に行われた学級対抗戦にて見た。

「えっと……フェルディナント・フォン・エーギルくんだ」

 華やかな容姿に負けないばかりに、その草原に名前を朗々と響かせていた人物だ。

 色んな意味で目立っていた。どうりで聞き覚えのある声だったわけだ。

 そんなフェルディナント・フォン・エーギルだが、学級対抗戦で見せた堂々たる姿はすっかり潜め、眉を八の字に下がり、尻餅をついていた。

 つい彼の名前を口にしてしまい、フェルディナント・フォン・エーギルは「何故私の名を……」と至極まっとうな疑問を浮かべた。しまった。一方的に知っているだけで、フェルディナント・フォン・エーギルは私など見たことがない。──はずだ。

 はず?

 何その表現。──心当たりはあったっけ?

 自慢だがこれでも記憶力は良い。“私が記憶している限りでは彼にあったことがない。”

 それが結論である。なんだか変に気が迷ってしまった。

「フッ……私はアドラステアを支える宰相、偉大なるエーギル家の嫡子。名が轟いて当然か!」

 まごまごと間誤付いていた私を余所に、フェルディナント・フォン・エーギルは一人勝手に結論ついて納得がいったようだ。気障ったらしく片手で前髪を流してキメ顔をする。

 ──尻餅ついている状態がオマケにあるので、どこか間抜けな画だったが。そんな指摘をするのは野暮だ。「うんうんそうだね」と適当に相槌を打っておくことにした。

 フェルディナント・フォン・エーギルはさておき、もう一人の人物だ。見覚え、どころか鮮烈な印象を与えられたものだ。

「灰色の悪魔……さん」

「……」

 学級対抗戦では追随を許さない実力で次々とねじ伏せていった。灰色の悪魔。

 あの時と同じように、何にも動じない鉄仮面は健在のようだ。というか、ここまで一言も喋っていない。じっと私を見つめていた。

「何か?」

「……見ない恰好ような、見覚えあるような恰好のような。士官学校生……?」

「あ」しまった。

 “アビスの住人は、その存在を黙認されている代わりに、修道院とは関わらない”という暗黙の規律があることを私の脳裏を瞬時に横切った。

 思い切り鉢合わせてしまった。──いやいや、元はと言えば、そちらが狩猟区に勝手に立ち入った上に魔獣を引き寄せたのが悪い。

「そちらこそ~。今日は士官学生は立ち入っちゃいけない日だよ~」

「そう……なのか?」

「そうだったのかっ!?教師が同伴であれば問題ないと思っていたが……!」

「違うよ~」

 ──知らないけど。

 士官学校側でどのようなルールを設けているかなんて当然知る由もない。

 適当に吐いた嘘だが、どうやら効いているらしい。両者とも士官学校に来てから日が浅いのが幸いした。このまま押し通らせてもらおう。

「内緒にしてあげるから、とっとと帰りなさいな~」

「そうか。教えてくれてありがとう。……フェルディナント、行こう」

 存外素直に言うことを聞いてくれた。灰色の悪魔はさっさと踵を返し、フェルディナントも後に続いてこの場から去っていった。

 私はその背を見ながらニコニコと笑みを絶やさず、手を振る。二人の背が完全に見えなくなったことを確認して、ようやく手を降ろす。──危なかった。

 胸をなでおろす。素性を根掘り葉掘り掘られる展開にならなくてよかった。

 しかしフェルディナントは何のために魔獣駆除をしようと考えたのか。こちらは日銭のために働いているのだ。無闇に立ち入られてしまっては私たちが困る。

 それはさておき。上手い事言いくるめられたおかげで結果は益へ転がったのだ。

 腕っぷしのいい灰色の悪魔がいたおかげで魔獣一体分の労力をかけることなく、魔獣が二体とも私の手柄に出来たことに幸運を喜ぶべきだろう。

 

 □

 

 ──静かだなぁ。

 魔獣駆除が完了したことを伝え、採集した鉱石は高く買い付けてくれる商人へと売り渡し、一仕事を終えたところで、アビスへと戻ってきたときに感じた違和感に首を傾げた。

 活気溢れる街……というわけではないが、それにしたっていつもよりも人通りが少なく、やはり静かだ。確かに今日はユーリスやコンスタンツェなど外出の用事が重なっているとは聞いてはいたが……

「ルカ?あなた、ここいる、何故?」

 そうこう思案していれば、マリナが通りがかった。

 マリナは、フォドラとは違う大陸から戦争によって流れ着いた異邦の民だ。こちらに流れ着いてからフォドラの言語を習得し始めたらしく、片言な喋り方が特徴である。

 そんなマリナは私へ引っ掛かる質問をしてきた。

「なんで、って居たらおかしなことでもあったかなぁ?」

 マリナの問いは、まるで今私がここにいることがおかしいという意味に聞こえた。質問を質問で返してみれば、「んん……」とマリナは手を顎に添えて、説明のための言語化を頭で整理したのち口を開く。

「さっき、ハピ、出荷?された。かもしれない。バルタザール、みんなに声、かけてた。大騒ぎしてたネ」

「出荷~??」

「昨日搬入した、羽毛の箱に、ハピがそのまま寝た?って言ってたネ。それが、今日出荷されたみたいネ。……話してたこと、ちょっとしか、聞いてないけど」

「そんなことある??」

 アビスは流通経路の中継として使われることも多い。地図上に存在しない街であるため、足がつきにくい。ちょっと表では売れないような商品の流通にアビスはうってつけであった。

 確かに、昨日はド高級品の羽毛が詰め込まれた箱が届いていたのは見た覚えがあった。が、

 ──いくらハピちゃんがどこでも寝るとはいえ、そんな所に立ち入るかなぁ?という疑念が一つ。

「────ハピが、何?」

 

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