呪術師なんてセイロス教と相性悪そうですけど、地下の住人として案外平和的に過ごしてます。 作:こももなっつ
──あの男へ贈る花冠を編む彼女の瞳は一生懸命で、爛々と輝いていた。
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節は巡って花冠の節となった。雨季へと突入したこの時期は、温暖な気温から一転、ジメジメと湿気がまとわりつき、蒸し暑さが鬱陶しくなる。
蟻の巣よろしく入り組んだ地下の街といえば、しかして存外過ごしやすいものだ。
水路が近いからか、風通しはよく地上よりも過ごしやすい。
が、水路があるということは雨が降れば氾濫へとつながる。前節の竪琴の終わりには男衆がえっさほいさと土嚢を積むのも風物詩みたいなものだった。
雨による被害は各所に現れる。最たるもので言えば道路だろう。電車どころか汽車すらないこの世界では道路がぬかれば最後、馬車での横断は不可能になる。
馬車が使えなければ行商は行えない。教団の眼を掻い潜る商売も、雨だけには逆らえないものだ。
そんなわけで花冠の節は、普段外に出ている者たちが軒並み籠る節となる。
普段慌しく過ごすユーリスもこの節ばかりは腰を落ち着かせる瞬間を目撃することが多くなるし、バルタザールに至っては外でやっていることが地下街へと流れていくので、喧騒さが倍増だ。
ハピはどんな節でものんびりゆっくり過ごしている。……コンスタンツェもまた、どんな節でもあちこちで魔道の研究に奔走していた。
さて、私はといえば……
「……器用なモンだな」
「でしょ。一時期暇つぶしに五メートルくらいのマフラーを延々と編んでたからね。ちょっとした小物くらいならおちゃのこさいさいだよ」
「寂しい特技を暴露すんなよ」
──ユーリスが可哀そうなものを見る目で私を見つめてきた。
小さい頃、というか呪術高専に入るまでまともな友人も、コミュニティを持たなかった私は、一人で完結できる遊びを極めた。おかげさまで手先は職人と張り合えるほどには器用に成長したし、歴代の征夷大将軍も空で言える。
そんな話を高専の同級生に話せば、ユーリスと同じような目をされたなと、彼の目で思い出す。──で、何をしているかといえば、魔除けのお守りを作っていた。
久遠琉馨の世界でいうところの“ドリームキャッチャー”にあたる。とはいえ形を拝借しているだけなのだが……世界が違うからパクりには入らないだろう。……オマージュだ。
私の呪力が込められたこのお守りの評判は良く、災難から魔物にいたるまで様々なものを退けてくれるそうだ。天候が崩れやすく、霧も発生しやすいこの時期には尚の事うってつけらしい。そんなわけで私の数ある収入源の一つの書き入れ時となった。
「ある人によれば木彫りの女神像よりも恩恵があるそうだよ」
「敬虔な信徒が聞いたら焚書モンじゃねえか」
「しちゃう?」
「しねえよ」
信仰は人それぞれだ。
セイロス教の敬虔な信者だと語るユーリスは、だがそれを他者には押し付けない。
一神教を祀る、この国からしてみれば稀有な人ではなかろうか……とはいえ、ここアビスは古今東西フォドラ内外の人種が集まる街である。信仰どころか神の存在を信じていない人間だってごろごろいるのだから、案外ここでは“当たり前”の常識なのかもしれない。
──え?私はどうだって?そりゃあもちろん。
そんなの一切合切“呪い”でしょう。
□
「おおい、アルファルドさんがいらっしゃったぞ~」
「おっアルファルドさんか?」
「げぇ!!アルファルドさんが!?」
どこからか、どこかの誰かがアルファルドの到来を告げてきた。
ユーリスは喜色を浮かべ、私は憂色……どころか焦燥。アルファルドが悪いわけではない。アルファルドが修道士であることと、私が作っているものがマズイのだ。
──セイロス教を否定しているわけじゃないけど、見ようによっては異端な呪い(まじない)モノなんて、セイロス教的に見ればアウトだもんねぇ!
さしものアルファルドでも見逃すことはできないだろう。見つかればの話だが。
私はいそいそとドリームキャッチャー(紛い物)を適当な麻袋に手あたり次第突っ込んで、椅子の下に隠していく。そんな私の様子をさも滑稽だと言わんばかりに、ユーリスは、口元を歪ませてニヤニヤと伺っていたのであった。──美少年が台無しだぞ。睨み返しとく。
「──ああ、ユーリスにルカ。こんにちは」
「こんにちは、アルファルドさん」
「こんにちは~」
異端なアレを隠したところで、アルファルドが通りがかった。セーフ。いつものように朗らかな笑みを浮かべつつ、物腰柔らかに私たちに挨拶をする。私もまた、なんでもないように笑顔で迎えた。
「ルカおねえちゃん!」
「ありゃ。皆おそろいで、どうしたの?」
通りがかったのはアルファルドだけではなかったようだ。アルファルドの後ろからひょっこりと顔を出すは、アビスに住む女の子たち。彼女たちの両腕いっぱいに白い薔薇が抱えられていた。
「ルカおねえちゃん、“はなかんむり”の作り方おしえて!」
「──あ~、そっか、その季節かぁ」
節の名前にもなっている花冠。
先ほども言った通り、雨季に当たるこの時期は激しい雨が降る。雨曝しになる花たちが痛む前に予め摘んでおくのだ。いつしかそれが発展して、女の子たちが白い薔薇で花冠を編んで意中の相手だとか、親愛なひとへ贈る風習へと昇華した。
「修道院で育てている花々をいくつかお譲りいただきまして。皆さんにもと」
アルファルドの心遣いは本当に細やかだ。
「──うん、そしたらハピちゃんやコンスタンツェちゃんも呼ぼうか。お花だけじゃなく、いろんな小物も組み合わせたらいいよねぇ」
「うんっ……あっ、修道士さまとユーリスは出てってっ」
「なんだよー。俺たちは除け者か?」
「これは、女の子だけのひみつなの!」
ユーリスの背中をぐいぐいと押す彼女の頬には、ほんのり紅の色がさしていた。
──まあここまでネタがバレているから何をしようとしているのかは、余程の鈍い人間でない限り察しがついてしまうものだけど、そこはそれ、どうしても秘密にしておきたい乙女心というものだ。
確かに秘匿性を持つものは、それだけ特別感を与えるものだけれど……
「いいじゃん。ユーリスくんも手先器用だし、皆で教えあいながらやろうよ。ね?」
性差で区別するのなんてナンセンスだし。共同作業も胸が高鳴るイベントだと思う。多分。
「……あいつ、一人で面倒見るのが面倒だから巻き込もうとしてるぞ」
「あはは……まあせっかくの機会ですし、お言葉に甘えましょう」
□
かくしてユーリス、ハピ、コンスタンツェ、アルファルドを巻き込んで花冠をつくる会が結成された。
なおバルタザールも同席していたが、物の数分で「俺はちまちました作業が向いてねぇ!」と酒浴びに出ていってしまった。さもありなん。
花以外にも、各自で持ち寄ったビーズや歯切れ布などなど、果ては地下にいつの間にか自生していた蔓などを頂戴して、花冠は少しだけ豪華な仕上がりになりそうだ。
作り方を教えながら、思い思いに花冠を編んでいく。この場所にはビーズを加えてもいいかも、なんて考えていれば、不意にコンスタンツェが「ふふ」と笑みを零した。
「コンスタンツェちゃん?」
「……懐かしいですわね。昔もこうしてお姉様に花冠を編んだことがありましたっけ」
「コニーってお姉さんいたの?」
「ああ、いいえ。血のつながった姉妹というわけではなくって。かつて貴族であったヌーヴェル家と親交のあったお家に娘さんがいらっしゃって。よく遊んでもらってましたわ」
「へぇ~。そんなことが……」
「お姉様には弟君がいらっしゃったのですが、わたくしがお姉様と遊んでいると、よく嫉妬してきて……」
花冠を皮切りに、コンスタンツェの幼い頃の記憶がよみがえってきたようだ。
次々と微笑ましい話がぽつぽつと出てくる。私とハピはその話を聞きながら、コンスタンツェの可愛らしい一面を垣間見る。「ふふ」と笑顔が伝染したのであった。
「──あ、……」ふと思い出話が止まり、コンスタンツェの視線が花冠を編む手から、ふとどこか遠くを見つめた。
「お二人は、元気にしてらっしゃるかしら」
その幼馴染を想って、コンスタンツェに纏う“糸”の色が変わった。憂慮。ほの昏い色をしていた。
「……コンスタンツェちゃんが元気に生きているんだし、その二人も元気に生きているんじゃないかなぁ~」
「そう、でしょうか」
「根拠はないけど~……まあでも、考えても分からないことだし、それだったら良い方向に思ったほうがいいよねぇ」
悪い“糸”の色を纏っている人間は呪霊を惹きつけやすかったりするのは実体験だったりする。
「確かに、便りが無いのは良い便り、っていうしね」
ハピの賛意も受けて「うんうん」と頷く。
「──そうですわね。きっと、二人はどこかで健やかに生きていますわよね」
「そうそう。生きてる、生きてる~」
「軽くない?」
□
朗らかに談笑しつつ、緩やかに花冠をつくる会は終わりを迎えた。
出来上がった花冠はそれぞれ思い思いの相手へと渡っていく。好意、謝意、友情、愛情。様々だ。
私はといえば……
「……もしかして、作りすぎちゃったかもしれない?」
「もし、も、かも、なく、明らかに絶対に作りすぎただろ」
机の上に花冠の山が聳え立っていた。──こういった作業は捗ってしまうからいけない。去年も同じことをした気がする。
「ルカはとても手先が器用ですね。本当に……」
誉めるアルファルドの表情は苦笑いを浮かべていた。傍らのユーリスは呆れていた。そんな二人だが……
「言うて二人も花冠まみれなんだけどね」
「ハハッ美男子はこれだから困ってしまうよな、アルファルドさん」
「……私にユーリスほど華は無いですよ」
「こらこら、容姿に触れるのは繊細な問題だよ~。ハラスメントだよ~」
「お前が一番踏み荒らしたぞ」
容姿はさておき、人望が篤い二人だ。日頃の感謝を込める対象になりやすいものだ。
「──久しぶりに花冠を作りましたね」
アルファルドは徐に花冠を一つ手に取って懐かしむように目を細めた。──ここにも花冠に纏わる思い出を持つ者が一人。
「幼い頃は毎年のように作っていました。来節の女神再誕の儀に合わせて修道院中を飾り立てたものです」
「アルファルドさんって、小さい頃から
「ええ……孤児だったもので……」
数年前までフォドラの外にある大陸と小競り合いが続いていた世の中だ。孤児の存在も珍しくはない。ガルグ=マク修道院は積極的に身柄を引き取っているようで、まさかアルファルドもそのうちの一人であったことは、初耳だった。──教養高い人だから、ちゃんとした家柄出身なのかと勝手に勘違いしていたようだ。
その位にまで彼が努力をした証左でもある。改めてアルファルドに頭が上がらないものだと感じる。
「女の子たちは好きな人にこっそり編んでいたり……。私はそういうのとは縁遠いものでしたが……」
「またまたぁ~。今日みたいにいっぱい貰ってたんじゃないんですかぁ~?」
「いえいえ。今ほど社交的ではなかったので……あ」
不自然に途切れたアルファルドの話に、ユーリスが「どうしたんだ?」と首を傾げつつ、続きを促す。
「──花冠の編み方を教えて、と先ほどのルカのように教えを請われたことがあったな、と」
──おっと、これはつまり。私の第六感がピコーンと閃く。ユーリスもどうやら閃いたようだ。お互いに神妙な表情を浮かべあっていた。
「恋の話ですね?」
「なるほど恋の話か」
「──ご期待に沿えず申し訳ないのですが、恋の話ではないですよ」
ばっさりはっきりと異にした。「えー」と二人して口を尖らせ期待が外れてがっかりする。
「身体が弱く、あまり遊ぶことがなかった子が、珍しく花冠を編みたいと言ってきたときがあったんです。……ある人に、贈りたいと言って」
「恋の話じゃ~ん!!!」
「うるせえ!」
明らかに恋の話題である。声を大にして異に異を唱えればユーリスに叩かれた。何故。
「……そうですね。当時は師のようなその方に、感謝の想いを込めたものだと思っていましたが……今にして思えば、あれは恋の話だったかもしれませんね」
「ほほう、なるほど。で、アルファルドさんは、その子が好きだったと」
「……んん?ルカ、今とんでもなく飛躍した解釈をしませんでしたか?」
「してない、してない。先生のように慕っていた人が好きになった子が、アルファルドさんも好きだったってことですよね?」
要約して片思い。だってその子の話をしているアルファルドの“糸”は恋慕の色だ。私の眼は誤魔化せない。にも拘らず、アルファルドは「違いますよ」と否定する。
「大事な人ではありましたよ。恋ではなく、……そう、親愛です。同じ修道院で育った者同士ですから」
「ンモォ~。素直じゃないですねぇ~」
「こらこらやめとけ。それ以上は馬が出てくるぞ」
こうなったら根掘り葉掘り……といったところで、ユーリスからストップがかかってしまった。──なんだよ~。ユーリスくんだって興味津々だったのに~。内心で毒つく。
「──長居してしまいましたね。ああ、ルカ。もしよろしければこちらの花冠、頂いてしまってもよろしいでしょうか?」
「え?ああ、はい。いいですけど……何か使い道ありますか?」
「来節の女神再誕の儀に使用させていただければと。これだけ精巧ならレア様もお喜びになるでしょう」
「え、ほんとうですか?買い付けしてくれますか?」
「ルカ~」
「冗談ですぅ~」
──二割くらいは。
そんな私とユーリスのやり取りを微笑ましげに見つめつつ、アルファルドは私が量産させてしまった花冠の山を回収してくれた。正直助かった。花冠を売り物にするのは少々難があった。──いっそ、呪力を込めたものにすれば売れるかな?
呪いの花冠。さすがに縁起が悪すぎるかな。