呪術師なんてセイロス教と相性悪そうですけど、地下の住人として案外平和的に過ごしてます。   作:こももなっつ

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英雄の遺産-紲-

「くっ……遺産に触れるな!これは奪わせんぞ!」

「ゆび、わ……置いてけ……!」

 格式高そうな服装に身を包んだ紳士に群がる盗賊が見えた。状況から察するに、その紳士がゲルズ公爵だろう。

 襲い掛かろうとする盗賊に向かい、一早く鎮圧したのはユーリス。続いて私とコンスタンツェがゲルズ公爵のもとへ到着した。

「ゲルズ公……ご無事ですか?」

「君は、コンスタンツェか!?あのヌーヴェル子爵家の……!」

「お懐かしゅうございますわ。たいそう危ない状況のようですわね」

「君に私を助ける義理はないだろうが……手を貸してもらえぬか?」

「どうぞ、ご命令なさってください。従えぬはヌーヴェル家の名折れでございます」

 ゲルズ公爵の手元には五指に連なる指輪の形をしたものが抱えられていた。おそらくそれが、今回目当ての“英雄の遺産”だろう。

「──それ、まかり間違っても使おうという発想はしないようにしてくださいね」

「は、?」

「とにかく下がっててくださいよ、公爵。ここは私たちが引き受けましょう!」

 ヴァジュラの一件があった。同じ轍を踏ませないよう、念のため警告を入れておく。

ゲルズ公爵はその意図が図れず困惑したが、ユーリスの後押しでとにかく自分の身を守ることを最優先に、私たちに守られる選択を取ってくれた。

 私たちもゲルズ公爵にこれ以上危害が加えられないよう、背で囲みつつ、盗賊たちを見据える。

 

「……なんか変だよな」

「うん。明らかに正気じゃないね」

 襲撃する盗賊たちの様子がどこかおかしい。目は虚ろで、足元は覚束ない。喋っている言葉もあやふやときた。──更に、“糸”を纏っている。

 紋章持ち以外の人間が“糸”を持たない世界で、かつどう見ても貴族の経歴がなさそうな盗賊たちが“糸”を纏っているのは、怪しいと見て間違いないだろう。──嫌な予感。

「……二時の方向。見てみろ」

 ユーリスの耳打ちに従って、その方角に目を向ける。盗賊に紛れて、明らかに盗賊の仲間とは思えない風貌の男が立っているのが見える。

「この盗賊たちは巷で騒ぎになってる奴らだが、アイツには見覚えが無い。関連性は見えないが、アイツが何か仕組んでるって考えるのは不自然かね」

「──ううん。っていうか、あの人……個人的に超気になるかも。アレ、追いかけてっていい?」

「単独は不味いだろ。騎士団連中連れてけ」

「──多分、それのほうがマズイかも」

 その男に注視し続けていれば、動きがあった。その一瞬を見逃さず、ユーリスの指示を聞き終えるよりも前に、私の足は駆けだしていた。

 

 □

 

「遺産の回収はならず、か。……まあ良い。実験の成果があれば問題なかろう」

「ちょっと待って、そこのお兄さん」

「!」男がすぐさま何かを行う動作をすぐさま止める。──渾融操術、“金縛り”。

 私の“糸”に絡められた男は身動きが取れず、表情が強張るのが見えた。──はっきりと、“驚愕”した糸の色が見える。

 そう、この男は呪力の“糸”を纏っていた。紋章持ちの人間よりも濃く、それは──久遠琉馨の世界で身近にいた存在のようだった。呪術師、もしくは呪詛師に。

「色々と聞きたいことあるんだけど~。もしかして“同業の方”?」

「──よもや獣の裔と同列に語られるとはな。非常に屈辱だ」

 獣の裔。そういえば誰かが似たような言葉を使っていたような。向けられた言葉の意味する部分は不明だが、明らかに自分は私たちと違うものであり、こちらを下等と見下しているという意図は伝わった。──そういう方面の厄介な差別主義者かな?

「お話が通じない方かな~。生殺与奪の権はどっちにあると思ってる??」

「さて、どちらだろうな」

 嫌に余裕の態度を示す男の意図するところは、すぐに理解することになった。

背後から「ウグァァオオオ」と悲痛な唸り声と獣のような咆哮が入り混じった音と共に、私へ何かが振りかぶる気配を感じ取った。

すぐさま手斧を構えて迎撃姿勢を取るべく、背後へ振り向けば……件の盗賊、であるはずの者だった。それは人間の姿から逸脱し、通常あり得ない肉体の動きによって獣に近い姿へと変貌していた。──―魔獣!?なんで!?

腕が振り下ろされるタイミングに合わせて手斧で弾く。呪力で身体機能を向上させたつもりだったが、予想以上に攻撃の威力が重く、態勢を崩してしまった。──あ、まずい!

「……邪魔が入ったが、実験の首尾は上々といったところか」

「ちょっと~!逃がさないからね!」

「お前の相手は、そこの獣どもだ」

 “金縛り”が緩まった一瞬の隙を埋めるために再度術式を発動させようとするが、それを魔獣が許さなかった。一体だけかと思いきや、どこにいたのか数を増やしてきた。

生まれた隙を取り返すことは叶わなかった。私の術式から逃れた男は、見たことのない魔法陣を展開させ、靄のように姿を消してしまった。

「ああ~~!!ルカさん一生の不覚なり!!」

 その男の呪力の痕跡を追ってみるも、すでにこの街から撤退しているようだった。私の嘆き声は空しく、目の前の魔獣にかき消されたのであった。

 

 □

 

「ああ、公爵閣下がご無事で何よりでございます。遺産も盗られませんでしたし」

「君たちのおかげだ。今日ほど肝が冷えた日は無かったよ」

「ええ、スレンの冬よりも冷えましたわ。わたくしどもには荷が重たい相手でございました」

 ゲルズ公爵を狙った盗賊たちが魔獣に変貌する超展開があったものの、なんとか公爵とそして英雄の遺産を守り切ることには成功した。

 とはいえ……

「盗賊たちは軒並み全滅、か。情報を聞き出すにも正気ですらねえしな」

「ごめん、へんな人取逃しちゃった……」

「いいえ、ルカが気に病むことはございませんわ。すべてはわたくしの責、わたくしが無能だったゆえ……」

 魔獣へと変貌した人たちに助かる道はなく、死のみを迎えることしかできない。

首魁らしき男は取逃してしまったわけで、結局襲撃の意図も、人間が魔獣化した原因も全て霧の中へと消えてしまった。……後味の悪い結末を迎えてしまったが、当初の目的自体は達成されている。──切り替えよう。

「コンスタンツェ……。過去の出来事が君をそこまで……だが、君は私を救ってくれた。その恩には必ず報いたいと思う。……いや、今日の恩だけではないな。私は君の両親にも大きな借りがある」

「両親はともかく、わたくしに恩を感じることなど無用ですわ。報いていただく必要も……」

「いや、そこは素直に報いてもらえよ。遺産が必要だろ?」

 やはり過剰な謙虚さで受け取らない今のコンスタンツェに対して、慌ててユーリスが指摘を入れた。今回派遣された肝心の理由である。ゲルズ公爵は素直に英雄の遺産を差し出したのであった。

過去ヌーヴェル家と懇意にしていたゲルズ公爵は、今の姿の彼女を見て彼なりに思うところがあった、ということだろう。

「“ドローミの鎖環”という。オーバンの紋章に対応している英雄の遺産だ。ダグザに伝わっていた宝物でね。講和の際、彼らが友好の証として差し出してきた」

 ダグザはアドラステア帝国から海を挟んで南西部に位置する大陸だ。

「ダグザ?十傑ってフォドラに伝わる英雄だよね……?」

「古の時代、聖セイロスは十傑やそれに与する氏族たちを討伐していったという。氏族の長の中には、討伐の手から逃れ、海の向こうを目指したものがいたのかもしれない」

「解放王の話って続きがあったんだ……。それは知らなかった」

 かつてフォドラの大地に邪なるものが降り立った時に、それを討ち払った者たち。それが解放王ネメシスと、彼に連なる十人の英雄たち。そこまでは知っていたが、その後は英雄の遺産の力に溺れてしまったので、聖セイロスによって鎮められたというのが続いていたみたいだ。

 どんな世界でも過ぎた力は滅びを迎えるものなのか。存外、人間の根底は違う世界だったとしても変わらないのだろう。

「再三教団からの要請があったかと思いますが、応じなかった理由とは?」

「私は帝国の外務卿だ。手札は何枚あっても困ることはない」

 特に教団に対して、英雄の遺産を保持しているかどうかは切り札になる、とゲルズ公爵は続けた。

 “英雄の遺産”は分かりやすく武力の目安だ。遺産の有無で外敵からの抑止力にも働く。

 ……加えて言えば最近では帝国と教団の関係は芳しくないという。そういった観点からも踏まえて備えとして保持をしていたかったのだろう。

「……だが、私は外務卿失格だな。私情を優先してしまった」

「私情?」

「今は亡き友人と、その娘の恩返しに、手札を手放そうとしているのだから」

 国益よりも、縁を。かつて共に戦った者への餞へ。英雄の遺産は、ヌーヴェル家が遺したコンスタンツェへと渡ることとなった。

 

 □

 

「さあ、大修道院に戻ってきましたわ!」

 途中予期せぬ出来事に見舞われつつも、目的を達成した私たちは無事にアンヴァル市街からガルグ=マク修道院へ帰ってきた。

 室内に入ったとたんに人が変わったようにコンスタンツェの様子が一気に明るくなった。

 日差しを少しでも浴び無くなれば瞬時に切り替わる。ある種器用な人ではないだろうか。

 それはさておき、あとは回収した遺産を教団へ献上をして仕事を終え──「あ、悪い。ちょっとその遺産貸してくれるか」ようとした時、ユーリスがコンスタンツェの手にあった英雄の遺産“ドローミの鎖環”をひょいと取り上げてしまった。

「ちょっと!何を勝手に……って、それは!……適合反応!?」

 ユーリスがドローミの鎖環を手に取った瞬間、埋め込まれていた赤い石……紋章石が淡く発光した。これが意味することは──

「貴方まさか、オーバンの紋章を……!?」

「そういうこった」

 英雄の遺産の使用条件は、遺産に埋め込まれている紋章石と使用者の紋章が一致すること。

 ユーリスの紋章がオーバンのものであるということの証左だった。

「……っていうか紋章って十傑譲りのものがあったり、四聖人譲りのものがあったりでイマイチ分かってないんだけど……オーバンっていたっけ??」

「オーバンの紋章はフォドラから消えたんだよ。紋章を継ぐ血筋なんてものも存在しない」

「ユーリスくんのそれは??」

「俺は例外」

 ──どういうこと???疑問が残る。だが、ユーリスはこれ以上話さないらしい。話題を強引に切り替えてきた。

「ってことだ。コンスタンツェ、悪いんだが……この遺産を貸し出してもらえるよう、口添えを一緒にやってくれねえか?」

「貴方、何言い出しますの!?」

 切り替えた先にとんでもない嘆願が飛び出してきた。コンスタンツェは信じられないという表情を浮かべて声を荒げる。ユーリスは宥めながら、彼女が納得しそうな理由を述べる。

「さっきも言った通り、紋章を継いでいる血筋はない。教団で把握している限りでは、俺がフォドラで唯一これを扱えるってことだ。大修道院の宝物庫で眠らせておくよりは、よほど実用的で、よほど安全だと思うがな」

「……まあ、確かにヴァジュラの件もアルファルドさんに管理を一任するってことで許されたし。いいんじゃない?」

「ルカっ貴方まで!」

 前節で取り戻したバルタザールの母方の故郷の秘宝であるヴァジュラ。

 さすがにバルタザール個人が所有権を握っているのは角が立つだろうということで、アルファルドに無理言って通してもらった経緯がある。紋章持ちではない者に預けるよりも、制御できる者に預けた方がいくらか安全だろう。ということで通せるとは思う。

「安心してくれ。悪用なんてしねえよ。ゲルズ公にも申し訳が立たねえしな」

「……貴方、最初からこれを狙って同行を申し出ましたわね!?」

「ゲルズ公がこれを持て余すくらいなら使ってやる方がマシだと思っただけさ。せいぜい、人のためになるような使い道を考えてみるつもりだよ」

「まったく信用ならない言葉をつらつらと……!!」

「ってわけで、アルファルドさんのところにいこーぜ!」

 善は急げ、コンスタンツェに二の句を告げさせるな。ユーリスに背を押されながらコンスタンツェは連れてかれてしまった。

 コンスタンツェが私に向かって「ルカ~~~!!」と助け船を請う声を出すが、残念ながら私に出来ることはない。

泣く泣く「行ってらっしゃい」と見送るしかなかったのであった。

「助ける気がまるでありませんわ!!!!」

 ──ちなみにこれは余談だが、アンヴァル限定のモモスグリのシャーベットは期待値を超えてとても美味しかった、ということを残しておく。

 

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