呪術師なんてセイロス教と相性悪そうですけど、地下の住人として案外平和的に過ごしてます。 作:こももなっつ
渋谷事変1
──記録。
2018年10月31日19:00──渋谷。
東急百貨店 東急東横店を中心に半径400メートルに及ぶ一般人のみを閉じ込める“帳”が降ろされたのを確認。
渋谷にて行われていたハロウィンイベント参列者は1万を超えており、未曽有の大混乱が発生。帳の縁まで逃げてきた一般人が口をそろえて叫ぶ。──五条悟を連れてこい。
20:31 五条悟 現着。
20:39 青山霊園
冥冥班:冥冥(1級術師)、憂憂、久遠琉馨(1級査定保留中)、虎杖悠仁(1級査定保留中)
五条バックアップのため待機中。
補助監督より報告:明治神宮前駅に渋谷と同等の帳を確認。冥冥班、現地へ捜査開始。
──記録。
20:51 東京メトロ明治神宮前駅、2番出口側
冥冥班現着。補助監督より帳の説明を受ける。
地下鉄の駅全体を覆う“一般人を閉じ込める帳”の内側、副都心線ホームを中心に“術師を入れない帳”が新たに降りていることを確認。
二つの“帳”の間に、これらの帳を降ろしている呪霊、もしくは呪詛師が居るとの報告。
調査:冥冥の黒鳥操術にて明治神宮前駅構内を視察。
地下四階、ツギハギの呪霊による術式で改造された人間が徘徊。一般人を襲撃中。
予測:殆ど一般人が地下五階の副都心線ホームに閉じ込められている。
地下一階と地下二階の間で冥冥の烏が狩られたことから、帳を降ろしている犯人はこの辺りに居ると推察。
改造人間の処理と、帳を降ろしている者の処理の両方を行う必要有。相談の上、二手に別れることを決定。
冥冥、憂憂は地下四階直通の七番出口より突入し、一般人の救出。
久遠、虎杖は二番出口より突入し、帳を降ろしている犯人の討伐。
「──それじゃ虎杖くん。気張らずに行こっか!」
「……そこは、気張っていこう、じゃないんすか??」
──記録。
21:03 東京メトロ明治神宮前駅地下二階
久遠、虎杖 バッタ型の二級~一級相当呪霊と対峙。
姿かたちはバッタそのものだが、その体躯は人間並みに大きかった。私たちが到着したときには、どうやら“お食事中”だったみたいで、人間をバクバクと食べていた。呪霊にとってのターゲットは人間だ。そういうもの、という常識を前提にしたとしても、その光景を目の当たりにして不快感を覚えないわけがない。隣にいた虎杖の表情が途端に険しくなった。──虎杖は、“こういうこと”を最も嫌う、優しい人間だ。
バッタ呪霊は私たちの気配に何秒か遅れて気付いて、こちらをゆっくりと振り向いた。
「オッオマオマエ、ジュジュジュジュじゅじゅちゅ、呪術師だろ」
拙いながらも人語を操れるようだ。知能がある。……となると、最低でも準一級くらいだろうか。それに、私たちが呪術師であることを把握していた。誰かの入れ知恵……手を組んでいる存在がいる。
「呪術師だろ? ナァ。俺は賢いンダ」
「──ツギハギ顔の呪霊が来てるだろ? どこにいる」
バッタ呪霊の話に聞く耳を持たず、虎杖は用件だけを端的に聞き出そうとした。彼はやけに、その“ツギハギ呪霊”について拘る節を見せる。
“ツギハギ呪霊”は過去虎杖が交戦したとされる、要注意呪霊だということは事前の情報で共有されていた。他にも2体ほど呪霊と徒党を組み、他にも呪詛師と組んでいるとかなんとか。
「ツギ、ハギ……? ツギハギ?」
「顔に縫い目のある奴のことだ」
「!! 馬鹿にスルな!! それ位知ッテる!! 俺は……賢い……!」
知能はあるようだが、堪能というわけではなさそうだ。
「“真人”は下……。俺はココで“帳”ヲ守ってるンだ」
そして賢さを自称する割には口が軽いようだ。それはそれで助かる。──さて。
「……虎杖くんは、蝗害って知ってる?」
「あの……バッタが大量発生して、稲とかめっちゃ荒される災害だっけ」
「そうそう」
呪いは、人の負の感情が積もり積もった形だ。顕著な例でいえば、人が恐れるものが呪霊として顕れる。街談巷説、都市伝説、民話、人から人へ、もしくはそれが字となり記録となったものも例外ではない。
蝗害。
バッタの大発生に伴う大規模な“災害”。農作物だけでなく、紙や着物、小屋……植物性のものは全て食い尽くされたという。人間社会に大きく脅威をもたらした、“恐怖の象徴”。
「多分、そのあたりの呪霊かなって……まあ、見たまんまだよね」
「っすね。コイツが二枚も帳降ろしてるようには見えねえけど……」
「な、なにを、コソコソコソ話、ッテル!」
さて問題点とすべきはバッタではなく、帳のほうだ。虎杖の言う通り、このバッタ呪霊が結界術を扱えるほど器用な事が出来るとは思えない。またバッタは“守っている”と先述した。そして後方に見える地面に刺さっている杭らしきもの。そのあたりに仕掛けがあると見てよさそうだ。
「ちょっとだけ待って」臨戦態勢に入る虎杖に制止をかけて、私は一歩前へと出た。
「何の呪霊なのかな? って思って。そこまで大きいってことは、きっと凄い呪霊なんだろうな~」
「フ、フフ! そ、そうだロ!! 俺は凄くて賢いンダ! 蝗GUYっていう立派ナ名前ダッテある!!」
読み通り、煽てればポロッと吐いてくれた。そして本当に見たまんまであった。
「そうなんだ! かっこいいねぇ~」
「そうダ! 俺ハかっこイイ!! 人間の味の違いも分かルンダ!」
“真人の呪術によって変えられた人間の味は悪い”と、頼んでもいないのに余計な嗜好まで喋ってくれてしまった。おかげで……「あー……」逆上した虎杖による鋭い蹴りが、蝗GUYの鳩尾に綺麗に入る。完全に不意を突かれた蝗GUYは成すすべなく吹っ飛ばされて、壁に激突した。
「すまん、先輩」
「いいよいいよ。そういう瞬発力は良いところだと思う」
「おっ、オマエ、さては、賢くないナ……!?」
「そうなの。だから教えてほしいな。バッタさんは、何を守ってるの?」
「教えるワケないだロ!! あれが、しょ、しょく、しょく“嘱託式の帳”で! 俺は、それを守らなくちゃいけないンダってことを!!」
「そっか、残念。──ありがとう」
嘱託式、の言葉から察するに、帳の効果をあの杭が肩代わりして発動させているのだろう。結界術は高度な技術にあたる。帳は初歩の結界術とはいえ、杭にその術式を埋め込ませるなんて、どこの誰が開発したのか。確かにあれならば結界術師を立てずとも手軽に使えるが……。──ともかく、コイツから聞けることは聞いた。ならあれは破壊すべきものという認識でいいだろう。
「虎杖くん、お願いしても良い?」
「うっす」
虎杖に迎撃の許可を下す。彼の身体能力なら余裕でその呪霊を祓えるはずだ。その間に私は杭に“糸”を繋げる。
「──バッタくん。これは私の個人的な意見なんだけどね。本当に賢いひとは、言っていい事とダメな事の区別をつけられるひとだと思うな~」
「賢い奴は、あまり自分のことを賢いって言わん」
そんなことを知ったところで、バッタ呪霊の腕が四本あったところで、人間よりも身体機能が優れたところで、虎杖との“差”は埋まらないだろうけど。
バッタ呪霊が攻撃するよりも先に、虎杖の一撃一撃がバッタ呪霊の殻を破壊していく。あれで凄いのが呪力と身体能力のみで圧倒しているという点だ。──虎杖は、半年足らずで確実に私よりも戦闘技術を超えている。……半年ありゃ誰だってお前のへっぽこ技術追い越せるわ、という真希のツッコミが聞こえた気がした。
では私は私の得意分野で仕事をしよう。──渾融操術。私の術式。私の呪力は他の術師と違って“溶け込む”らしい。私の目には呪力が“糸”のように漂っていて、それを私の“糸”に繋いでいく感覚だ。杭の呪力の根を締め上げて、窒息させる。呪力が練られなければ、呪いは存在を維持できない。──“堅結び”。
──記録。
21:10 東京メトロ明治神宮前駅地下二階
久遠・虎杖ペア、明治神宮前駅に降りた帳を解除、並びに二級~一級相当バッタ型呪霊討伐完了。