呪術師なんてセイロス教と相性悪そうですけど、地下の住人として案外平和的に過ごしてます。   作:こももなっつ

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渋谷事変9

 21:25 東京メトロ明治神宮前駅

 

「おわっ!?」

「どうしたの?」

「いや、なんか耳に……」

 突然声を上げて立ち止まった虎杖に全員が振り返る。虎杖は左耳を抑えていた……が、次の瞬間には何かを掴んで握りつぶそうとした。虎杖の手の中から、「待て待て待テ! 味方だバカ!!」と機械染みた声が聞こえる。──どこかで聞き覚えがある。虎杖の手に纏う“糸”をじっと見つめた。

「……メカ丸くん?」

「その声は久遠だナ。ああ、京都校のメカ丸ダ」

 “糸”から見てメカ丸のものだった。怪訝そうにしていた虎杖も、やがて合点がいったのか強く握っていた手を緩めてくれた。覗き込めば、随分と丸く小型になったメカ丸が居た。彼の術式、“傀儡操術”によるものだろう。

「時間がなイ。一度で聞き分けロ」声から緊迫した雰囲気が伝わる。

 

 ──記録。

「──五条悟が、封印されタ」

 21:25 五条悟 封印。

 

「──“あの”、五条悟だよ? 何を根拠にそれを信じればいい?」

 メカ丸から伝えられた情報は、私たちの想定を超えて、……いや、そもそもそんなことを想定なんかしていない。冥冥ですら受け入れがたいものだった。

「悪いが何もない。あえて言わせてもらえバ、“俺がココにいることダ”」

 メカ丸曰く。

 彼は10月19日に真人──先ほどの蝗GUYも言っていたツギハギ呪霊だ──に殺されていた。

 この小型メカ丸は、生前の彼が残した“保険”。発動条件は“五条悟封印後”に限定したもの。「──不発のリスクを低減するため、事前にこの傀儡を忍ばせるのも三箇所までとしタ。虎杖悠仁は高専所属の術師の中で最も内通者の可能性が低イ。久遠琉馨も同様。そして冥冥、アンタもこの状況で完全にシロと確信しタ」

「何故?」

「索敵に長けている人間が渋谷で暗躍せずに明治神宮前に派遣されているからダ。虎杖はそもそも数か月前まで呪術界との繋がりがなかっタ。久遠はまあ、五条派閥だしナ」

 私の知らない間に勝手に五条派閥入りされている。言わんとしていることはわかるけれど。

 ──呪術高専(東京)以外に呪術界隈知らないし。

「いやいや」冥冥は試す。「体よく協力を拒むためかもよ。それにすぐ渋谷に向かおうとした虎杖君たちを、今の今まで止めていたのは私だ」

「では何故──アンタを始末するための呪詛師がここに向かっていル?」

 指摘されて初めて、気配を感じ取った。メカ丸の言う通り、こちらへ近づいてきている。──二人ほど。

「ふむ。コイツらと君たちが戦った呪霊、どっちが強い?」

「多分、バッタ呪霊よりも強い」

「そうですね。さっきのバッタ呪霊が二級と見積もるなら……準一級以上はありそうです」

「そんな連中がウヨウヨいるのか。今までどこで何してたんだろ」

 口にした疑問はそのままに、冥冥は私たちに指示を出した。

「呪詛師は無視して先に進もう。まずは五条君の安否確認だ」

「駄目ダ!!」メカ丸が強く阻止した。──どうやら、私たちの想定を超えて渋谷の状況は変容しているみたいだ。

 

 今の渋谷には四枚の“帳”が降りている。五条を中心として、A一般人を閉じ込める帳、B五条を閉じ込める帳、C術師を入れない帳、そしてAの帳で構成されている。

 私たちがいる線路の先も、Cの帳で塞がれている。私たちと同じように渋谷各地に配置された術師たちもいずれかの“帳”の中にいる。“帳”の内側では電波は断たれてしまうため、携帯を用いた連携を取れない。

「頼む俺の指示に従ってくレ。俺のこの保険もすぐ消えてしまウ」

「冥さん」

「──久遠さんから“見て”、どう思う?」

 ……私の目には、呪力が“糸”のような形に見える。術式というよりは共感覚が働いているらしい。呪力の根源は感情だ。喜怒哀楽、一つずつ“糸”の色があり、他人によって癖がある。故に、私はある程度他人の感情を読み取ることができる。(とはいえ、卓越した術師は感情をコントロールしているものだ。現に冥冥の色は冷静であった)

 だが、それが読み取れるのはあくまで人間に限られる。

「このメカ丸くんは“傀儡操術”のものだから、“糸”の色は何もありません。……本当に、死んでしまっていることは事実だと思います」

 京都校で出会ったメカ丸も“傀儡操術”で操ったロボットで、他の人に比べて“糸”の色は薄かったけど……それでも確かに、彼の感情はあった。

「分かった」冥冥は私の言葉に確証を得て続けた。「指示を聞こう。言ってごらん」

「虎杖と久遠は明治神宮前に戻り、地上から渋谷に向かってくレ。五条封印を術師全体に伝達。五条奪還をコチラの共通目的に据えロ。久遠はその目で術師がどこにいるか把握できル。虎杖のサポートをしてくレ」

「冥冥は虎杖が抜ける隙を作ってくレ。呪詛師撃退後は、とりあえずこの線路を抑えて欲しイ。だがまだ相手の出方が分からン」

「臨機応変ね。ところで君の口座はまだ凍結されていないね?」

「エ?」

「あ、私、冥冥さんの方につくよ。情報伝達は速い方がいい。私虎杖くんより遅いし。足引っ張っちゃう」

「えっ、俺どこにだれが居るか分かってないんすけど……」

「七海さんが東京メトロの13番出口にいるから、とにかく一直線に向かえばいいよ。それに伏黒くんと猪野さんもいるしね。あの班が一番話が通じやすいと思うよ」

「押忍!」

「僕は?」

「好きな方につケ」

「じゃあ姉様!!!」

 恙なく作戦が決まったところで、ここからはタイムアタックだ。五条は全てにおける要の存在。彼の消失は呪術界、人間社会の基盤が丸ごと壊れることを意味する。少しだけ背筋が伸びる感覚だ。

 

「皆、来たよ」

「……冥冥だな?」

「好きに動いていいよ。合わせるから」

「押忍!!」

「はーい!」

 

 ──記録。

 22:02 東京メトロ明治神宮前―渋谷間

 冥冥班、呪詛師、呪霊と交戦。

 

 私たちを襲撃してきた呪詛師だったが、全て冥冥が圧倒してしまった。さすが第一線で活躍している術師だ。私の出番は殆ど無かった。少し相手の動きを妨害したくらい。出会い頭には殺る気満々であった呪詛師も、その威勢は見る影もなく萎み、地面にめり込むくらいに土下座をしていた。

「すみませんでした!! もう悪さはしません!! だから命……命だけは!!」

「憂憂、それから久遠さん。命の価値、命の重さは何に比例すると思う?」

「勿論! どれだけ姉様にとって利用価値があるかです!!」

 必死な命乞いに気にも留めず、冥冥は私たちへ質問を投げかけた。唐突な展開に面食らった私を余所に、憂憂は即答した。流石どこまでも姉中心の弟である。

「ありがとう。久遠さんは?」

「うーん。……どれだけ善い行いをしたとか? 人助けとか」

「生温い回答ですね」

「良いと思うよ。私は」

「僕も良いと思います」

 ……どこまでも姉中心の弟だ。ああ、また二人の領域が展開された。──やっぱり虎杖くんと一緒に行った方が良かったかもしれない。

「君は?」

「えっ!?」

 まさか振られると思わなかったのか、問われた呪詛師は口ごもってしまった。なお、その時点でタイムリミットを迎えているとも気付くころには、何もかも遅かった。

「命を狩る者がその天秤を即答できない。そんなんだから負けるんだよ。──因みに私にとって用益潜在力そのものが命」

 ──その言葉って人間に使うものなのかな? という疑問が浮かんだが、冥冥にとって全ての基準は金(かね)であるから、人も等しく、金銭で計られるのだろう。

 

 ──記録。

 22:02 東京メトロ明治神宮前―渋谷間

 冥冥班、呪詛師討伐完了。

 

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