呪術師なんてセイロス教と相性悪そうですけど、地下の住人として案外平和的に過ごしてます。 作:こももなっつ
そうして眠った次の朝は、昨日と同じ木目が消えかかっている梁を目にするのであった。
まだ夢の中だろうか。眠って夢の中で起きるという、少し恐怖を感じる類の夢だったりして……なんて考えてはみたが。そういうわけではないのだろう。
肌に感じる風の冷たさが、ここが現実なのだと知らせてくる。
視界に映るのは、昨日よりは少し血色が良くなったように見えるが、傷の癒えない、私のものとは思えない、私の腕。
久遠琉馨ではない、別の人間の身体。けれど意識は、久遠琉馨(私)のもの。
俄かに信じがたい現状。現実だとは受け入れがたい。だが、これは現実。
いつまでもベッドの中で、もしかしたら次目覚めたときには久遠琉馨に戻っているなんて可能性を願っていても変化が訪れるとは到底思えない。
となれば、行動するしかないか。
こうして、拾われたミッテルフランク歌劇団で雑用係として働く傍ら、この世界についての情報、情勢を集めながら、順当に資金を貯めていき、ある程度貯まったところで、歌劇団を離れ、更なる情報収集のため隣国であるレスター諸侯同盟領へと足を踏み入れたところで、なんやかんや面倒なものに巻き込まれて、追い回されて、どさくさに紛れて重要な資金を持ち逃げされて……
すったもんだの末に、地上からの掃き溜めが流れ着く最終地点ともいう地下の住人となったのであった。
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フォドラ大陸。
三つの国に分かれて統治されており、大陸の南半分をアドラステア帝国、北方をファーガス神聖王国、そしてその東方にレスター諸侯同盟領といった形だ。
三国の中心地にはこの大陸全土で信仰されているセイロス教と呼ばれる宗教団体の総本山、ガルグ=マク修道院が建立している。
……というのが、私がいる世界の大まかな全容だ。世界地図は、この時代にはまだ作られていないようで、フォドラ周辺の島国が描かれているまでが限界であった。
これだけ見知らぬ土地名が出てきて、なおかつ地図を見ても、私の知っている地形と違うことを踏まえれば……まさかまさかの、本当に異世界転生したという真実味を帯びる。
転生、というよりは転移と言った方が正しいだろうか。あの偽物夏油の言うことが本当ならば、久遠琉馨の魂が肉体からはじき出されて、この女の子の身体に入り込んだ……取り憑いたという表現のほうが適切か。こういうことも出来るのか、渾融操術。と、自身の術式の解釈についてまた一歩進んだ。何分渾融操術は、その存在だけ伝えられていて、本当にあるかどうかすら曖昧模糊だったという。そのため、他の相伝術式と違ってマニュアルというものが無い。
魂の転移が出来ることが分かったのはいいが、困ったことがある。この肉体から抜け出せない。というかどうやって抜け出せばいいんだ。そうこうしているうちに、こちらの世界で六年目の生活を迎えようとしていた。──これ元の世界との時間の流れとか、その辺りどうなんだろう。考えただけで内側が冷えてくる。一旦この考察は止める。
もう一つの疑問点といえば、この女の子は一体誰なんだろうということ。
久遠琉馨(私)の意識が目覚めたときには、それなりに身体が成長した状態……少なくとも10代半ばほど年齢は重ねているはずだ。それまでの人生、アンヴァルの路地裏で倒れるまでの彼女は、誰なのか。
大変申し訳ないことに、久遠琉馨(私)として目覚めてしまった後から、この女の子の意識が表面にやってくることがなくなってしまった。一応、元の女の子の魂?気配?らしきものは何となく感じられるが──私が悪さをして、本来の意識を押しやって、私が居座ってるとかだったら本当にごめんなさい案件すぎる。
何とかしてこの身体の持ち主の意識が戻ってきてほしいところなのだが……。本来の彼女が生きるべき時間を奪っているようで罪悪感が湧いてくる。ただでさえ、結構好き勝手にやってしまってる。
──それにしたって、“地下の住人”になってしまったことは、さすがにやり過ぎただろうか。でも好き好んでそうなったわけじゃない、ということを言い訳しておく。不可抗力だ。ごめんね!!