呪術師なんてセイロス教と相性悪そうですけど、地下の住人として案外平和的に過ごしてます。 作:こももなっつ
使った調理器具や食器をしっかり洗って、しっかり水気を切る。なんていったって地下で換気も悪いので、生乾きは大敵だ。乾いた布巾で食器に残る水滴を念入りにふき取っていく。
「ルカ。それ終わったら、こっちに来てくれ」
と、そこでユーリスに呼ばれた。……こういうときの話しぶりは、何か情報を手に入れたときだろう。彼は、彼独自の組織を束ねており、フォドラの裏社会に網目のように張り巡らされている。そのため彼のもとには種々雑多な情報が入ってくるのだ。
「ルカ。あとはやっておくから、ユーリスのところ行ってやりな」
「ほんとうに?ありがとう。おじさん」
踊り子おじさんのご厚意に甘えて手元の食器を預け、厨房を後にした。
ユーリスを中心に、ハピ、コンスタンツェ、バルタザールが集まるテーブルへと私も着席し、「集まったな」とユーリスが切り出すのを静かに聞く。
「……どうやら昨日付で、あの壊刃ジェラルトが、セイロス騎士団に復帰したそうだ」
告げられた情報に、「まじかよ」とバルタザールとコンスタンツェが息を吞む。……私とハピは、その話の何がすごいのかよくわからず、二人して首を傾げた。
ガルグ=マク修道院には教会お抱えの騎士団の兵舎と、士官学校が併設されており、私とハピ以外の三人は士官学校に在籍していたことがある。なので、その人物についても何かしら聞き及んでいたのだろうが、全くかかわりのない私たちにとっては、やはりよくわからない。
「あの、っていってもどなた様?その、“怪人”ジェラルト」
「“壊刃”な。……元々、セイロス騎士団に所属していた屈強で有名な騎士団長だよ。20年くらい前に退役してから、自分で傭兵団を立ち上げて各地でその手腕をふるっていたんだが……それが戻って来たっていう話だ」
なるほど、有名人がやってくるというわけか。それは一大ニュースだ。
「どうやら、野外訓練していた士官学校生が、野盗に襲われた際に助けたのが偶然にも、ジェラルト傭兵団だったらしい。で、巡り巡ってセイロス騎士団に復帰する、みたいな流れになったんだろうな」
──野盗に襲われたなんて災難な。でもそのお強い人が通りがかった結果幸運でもあったのかな。
「……確か」コンスタンツェが挟む「今年の士官学校の級長は……各国君主の子息子女が担ってらっしゃるのではなくて?」
「帝国なら、エーデルガルト皇女。王国なら、ディミトリ王子。同盟は……盟主リーガン家の嫡子のクロードだったか?どいつもこいつも第一継承者だろ?」
コンスタンツェの言葉にバルタザールが続いて、頷きで返すユーリス。
「え、それってさー。最悪の場合……」
「誰か一人でも大けがなんてことになれば、とんでもない醜聞になるんじゃ……」
フォドラの政事情に疎い私とハピでも、さすがに事の重大さに背筋が凍った。
「まあ、野外訓練には騎士団も、教師も同伴しているから、そこまで深刻な事態には陥らないだろうけどな。……とにかく、そこに現れたのが、とってもお強い傭兵ってわけだ。行方知れずとなっていた最高戦力が見つかったんだから、教団にとってはエビで鯛を釣り上げたようなもんだろ」
──各国元首のお子さんがたをエビと例えていいのか。
「そんで、もう一個デカい情報だ。──なんと、壊刃には子供がいたっていう話で、こいつが今期の学級の担任教師として赴任したらしい」
「子供ぉ??いやまあ居てもおかしくない年齢だろうがなぁ……っても、いくつか知らねえけど」
「っていうか、士官学校の先生なんて、そんな簡単に任せてもらえるんだね~。教員免許持ってたんだ」
「教員免許?」と四人が、そちらに引っ掛かってしまった。この世界の仕組みはやや中世っぽいところがある。そんな時代に教員免許なんてあるわけないか。時折久遠琉馨との常識のずれが生じてしまう。気をつけようがないのでもう仕方がない。
「……えーと、前に先生をやってたとか、経験があったの?」
「いや?聞いたかぎりじゃ、ジェラルト共に、傭兵として渡り歩いていただけだと」
つまり未経験であると。──大丈夫なのか。士官学校の人事は。
「それで?どの学級を担当されるのですの?」
「さあ?そいつは今日決めるんじゃないのかね。俺が聞いたのは、壊刃の子供が教師やるってところまでだ」
修道院内で大きな人事採用があったということらしい。
大樹の節もだいぶ過ぎたころだというのに、随分とドタバタしているものだ。
「それからその壊刃の子供は、傭兵の力量としてはかなりの腕前らしい」
その情報に目を光らせたのはバルタザールだ。彼は無類の喧嘩好きなので、強い者ときたら真っ先に興味を示す。
「戦場で奴と出くわして生きて帰れることは、まずない。顔色一つ変えず、淡々と人を斬っていく」
その様子から通り名がついた。……──灰色の悪魔、と。