呪術師なんてセイロス教と相性悪そうですけど、地下の住人として案外平和的に過ごしてます。 作:こももなっつ
アビスに住んでいる人間の年齢層は様々である。
くしゃくしゃの皺が目立つ老年から、二桁にも満たない小さな子供まで。
その中でも若年層は地下街の警備や教団から秘密裏に仕事を斡旋されたり……いわゆる自警団のような組織として活動している。
アビスの管理者である修道士アルファルドの提言により、地上の士官学校に準えて、
学級として組織された自警団もどきは……──
□
ちなみに、私たちの外見も
「お待たせしました、ルカ」
「こんにちは。アルファルドさん」
さて、そんな教室で私は適当な本を読みながら暇をつぶしていた。人待ちであった。
待ち人が来たので、流し読みしていた本に感慨も抱かず閉じて、その人に視線を向ける。
このアビスの管理者でもある、セイロス聖教会の修道士、アルファルド。
地下街の雰囲気から真逆の方向に位置している、見た目から漂う“善人感”満載の人。柔和な笑顔が魅力的である。
「相変わらず掃き溜めに鶴って感じですよね~」
「鶴?」
「鳥です。真っ白な、綺麗な鳥」
「……相変わらず博識ですね」
「変な方向にな」と通りがかったユーリスが余計な一言を吐く。
「ユーリスくんも見た目だけなら鶴っぽいよね」
「へーへーそりゃどうも。……あ、そうだ。アルファルドさん、この前の件だけど……」
私の嫌味を軽く受け流して、ユーリスはアルファルドと話し出してしまった。──私の用事で来てくれているんだけどなぁ。
アルファルドは見た目に違わず、温厚で、とにかく心優しい。
私たち地下の住人の事を案じて、こうして時折アビスの様子を伺い、環境の改善に努めてくれる。
温厚篤実な姿に、個人主義が基本の住人たちが、アルファルドには心を開いており、慕われている。そもそも私を含めてここに居る殆どが、アルファルドの恩情あってここに居られるのだ。
アルファルドが来れば、わらわらと住人達が集まりはじまって、もみくちゃにされる。今日も今日とて、一人一人に耳を傾けながら来たものだから、約束の時間より遅れてきたのだろう。──他者を優先する典型的な良い人。それがアルファルドだ。
「あ、……そういや、ルカに用事だったな。悪い。“訪問”か?」
ユーリスの言葉でようやく本題に入ってくれた。「ああそうでした」とアルファルドが私に振り返る。
「“訪問”の同行をお願いします」
セイロス教はガルグ=マク修道院を中枢(中央教会)とし、各国に支部を置いている。
帝国には南方教会、王国には西方教会、同盟領には東方教会といった具合だ。
“訪問”とは、中央教会による定期巡回および、各地方教会の業務の手伝いだ。
そして、その訪問に私も時折同行することがある。なぜかといえば、私の“力”が必要になる場面があるからだ。
「今日はどこに行くんですか?」
「本日は王国領の西方教会へ。外に馬車を用意していますから、さっそく参りましょうか」
「わーい馬車!お尻が痛くなるやつ!」
「馬を乗るのも下手くそな上に、馬車すら乗るの下手くそだよな、お前」
ユーリスは呆れたように言うが──馬車なんて生涯で乗った事ないんだもん!!!
□
この世界の交通事情はお察しの通り、馬だ。鉄道どころか蒸気機関すらまだ無い。
遠出する場合は馬車を使うか、直接馬に跨って走らせるかの二択なので、基本的に皆乗馬することに慣れている。
私は一向に慣れない。こう見えて、運動音痴の部類に入る。──「体幹ザコだな」とは真希評だ。
整備されている道とはいえ、コンクリートのように真っ平というわけではない。
敷き詰められたレンガの隙間に車輪が嵌ればガタンと揺れる。
つまり、ガタガタと車輪が浮き沈みする影響で、とってもお尻が痛くなる上に、私はあちらこちらに揺れまくる。対面のアルファルドは一切ブレが無い。──電車ってすごい発明なんだなぁ。改めて思う。
この世界にやってきてからというのも、思うことは現代科学や先人たちの偉業への尊敬と感謝である。
一時間あれば軽井沢まで行ける時代ということは、もっと貴ばれることではないのだろうか。そんなことを揺られながら思う。
「……それでいてよく酔わないですよね、ルカ」
「三半規管は強いんですよね~」
体幹は弱いが、コーヒーカップで攪拌されようが、パンダにぐるんぐるんに振り回されても気持ち悪くなることはなく、あと目を回ることもしない。自慢だ。
□
そこから何時間か経過してようやく目的地へと到着した。お尻の痛みを感じながら、馬車を降りる。ずっと座りっぱなしで肩も凝った。空気を思い切り吸って、全身を伸ばす。じわじわと凝り固まっていた何かが手の先から抜けていく感覚に気持ちよさを覚える。──座っていただけなのに無駄に疲れている。
王国領、西方教会前。
北方に位置する王国は土地柄寒冷であるが、ここは帝国領との国境付近であるためか寒暖差はそこまで無く心地よい風が肌を撫でる。
私たちの到着に気付いた西方教会の修道士が、こちらへ近づいてきて「お待ちしておりました」と恭しく頭を下げて歓迎する。私たちも軽く頭を下げて挨拶を交わし、修道士の案内で教会へと入った。
「では、ルカはここで待っていてください」
「はーい」
まずは教会関係の用事ということで、アルファルドと教会の人が内部に入っていき、私は礼拝堂でお留守番することに。手近な長椅子に腰かけて、ぼんやりと内装を眺めた。
窓に掲げているステンドグラスが目に入る。日の光を浴びて、きらきらと輝いていた。──モチーフは女神なのかな。セイロス教の主神となってる……名前なんだっけ……。
「……おや、士官学校の生徒かな?」
ぼんやりとステンドグラスを眺めていれば、不意に声をかけられた。そちらに顔を向ければ、初老の男性が。──誰だろう?
訝しげに見てしまったからなのか、男の人は「ああすまない」と謝りを入れた。
「私の息子も今年通っていてね。
──と言われても。本当の士官学校生じゃないんですよ、私。身なりだけでして。
なんて言ったらお互いに困るだけなのは、火を見るよりも明らか。
適当な学級を言って誤魔化そうかとも考える。……私は他の学級の名称を知らなかった。ダメだ。
「そうなんですねー。今日は修道士様のお手伝いで来てるんですよ」
というわけで話題を変更した。
「なんと、もう中央教会の方がいらっしゃるのか」
「え、あ、はい。つい先ほど到着して」
「おお、それはいけない。……失礼する。お嬢さん」
教会の関係者だったのか、男の人は足早に内部の方へ入っていった。誰だったのかと聞く間もなかった。……二度と会うこともなさそうだけども。
そうしてまた訪れた静寂。私は、ふう、とため息をついて長椅子を座りなおした。少し目を閉じる。風が窓に当たる音が聞こえる。
教会は人里から少し離れた場所に建っているから、人々の喧噪はなく、あるとすれば小鳥の囀り。本当に静かなところだ。穏やかに心が落ち着いていく……。
□
「……ルカ。……おや?ルカ!聞こえてますか?」
「──……あっ!すみません、アルファルドさん。終わったんですね」
「はい。お待たせしました……ステンドグラスを見ていたのですか?」
ぼんやりと窓のステンドグラスを眺めていたら、意識もぼんやりと遠くへと行っていたようだ。アルファルドの声掛けで意識が戻る。どうやら教会の用事は済んだらしい。
「神祖を模したものですね。神祖の頭上に輝く星が青海……灰狼が守っている星ですね」
「灰狼の学級のモチーフでしたっけ」
「そうです」
学級ごとに、動物の意匠をこしらえた旗があるそうで、灰狼の学級もそれに倣って作られた。
女神が住まうとされている青海の星を守護する灰色の狼。それが私たちの学級に描かれているものだ。
「……さて、そろそろ参りましょうか」
「そーでした。やっと私の出番ですね」
そうそう。何故私がアルファルドの訪問に付き添っているかといえば……“呪霊”退治をするためであった。