神戸 南京街。
中華式の建物が立ち並び、人々で賑わうこの場所を、皆無と璃々栖は歩いていた。
本日2人は、久々に取れた休みを利用してデートに繰り出しているのである。
因みに御忍びで来ている為、知っているのは聖霊他数名のみである。
「あはァッ、デートじゃデート」
璃々栖は、非常に上機嫌であった。
「ウキウキやなぁ、璃々栖」
「当然じゃァッ、其方と久方振りのデート、心が弾まぬ訳がなかろう?」
「せやな。俺もワクワクし過ぎて、昨日はあまり寝れへんかった」
そう言って、皆無は欠伸をする。
「気持ちはわかるが、それで眠くなっては本末転倒じゃろ」
「大丈夫や。羊数えて寝たからぐっすりや」
「隣からブツブツ聞こえとったのは其れか・・・・時に皆無、羊は何語で数えたのじゃ?」
「何語?日本語やけど?」
「それでは駄目じゃ。あれは英語で羊を意味するシープと眠るを意味するスリープをかけておるから、英語でないと効果は無いらしいぞ」
「そうなん!?」
「まぁ、予も人伝に聞いただけじゃがのぉ」
「人伝なんかい!・・・・ん?」
皆無は足を止め、10メートル程先から向かって来る長身の青年を見据える。
「どうした?皆無」
「いや、あのこっちに歩いて来る人、見覚えが・・・・あ!!」
「な、なんじゃ、大きな声出しおって」
そう言う璃々栖をよそに皆無は駆け出し、青年の元へ駆け寄る。
「千晶師匠!」
「やぁ、皆無君!久しぶりですね」
青年の名は捌岐千晶。
第七旅団最強と謳われる十二聖人の一角にして二丁拳銃の名手でもある。
「お久しぶりです!いやぁ、こんなとこで会えるなんて!」
「私も君に会えて嬉しいです・・・但し」
「?」
「お連れの方を放っぽり出すのは感心しませんねぇ」
千晶が顔を向けた方向に、皆無は振り返る。
「お連れの?・・・・あ」
そこには、頬を少し膨らませながら歩いて来る璃々栖の姿があった。
「璃々栖ごめん!師匠に会えた嬉しさでつい・・・・」
「璃々栖?・・・・すると貴女が阿栖魔台の」
「シー、今は御忍びで此処に来ておる。余り其の名を出さないでくれると、助かる」
「嗚呼、そう言う事でしたら」
千晶は指を口元に当て、横にスライドする。
「其方は確か、皆無の師であったのぉ」
「はい、捌岐千晶と申します。師匠と言っても、銃を少し教えた程度ですが」
そう謙遜しながら言う千晶を、璃々栖は見つめる。
(以前の試合の際も思ったが、やはり此奴態度とは裏腹に強大な力を持っておる。本気を出していなかったとはいえ、彼奴相手に良く戦っておったし・・・・)
「皆無君達は如何して此処に?」
「はい、璃々栖とデ・・・・デ・・・・」
言いかけた言葉が出てこない皆無。
(独り言ならあれやけど、人に言うと大分恥ずかしいな・・・・)
「デ・・・・デ・・・・」
「デートじゃァッ」
答えたのは、璃々栖である。
「全く、デートと言うだけで照れるとは、子供じゃのぉ皆無?」
そう言って揶揄う璃々栖。
其の耳がほんのり赤みを帯びているのを、彼は見逃さなかった。
「師匠は如何して此処にいてるんです?」
「興行見物の帰りに食事をと思いましてね。宜しければ、一緒に如何です?」
御馳走しますよ、と千晶は付け足す。
「食事か・・・・璃々栖、どうする?」
「そうじゃのぉ、丁度腹も空いてきた頃じゃし・・・・お言葉に甘えるとするかの」
「分かりました、では案内しましょう。この先に、美味しい団子が食べられる店が在るんです」
「団子、ですか?」
皆無が問い、
「只の団子ではないですよ。黄金の団子です」
千晶が答えた。
10数分後。
「お待たせしました。芝麻球〈胡麻団子〉3人前でございます」
其の店員の言葉と同時に、テーブルに10数個の球体-芝麻球の乗った皿が置かれた。
芝麻球は、全面が金色の胡麻で覆われ、堅牢且つ荘厳な雰囲気を醸し出している。
「おぉ・・・・!確かに黄金じゃァッ」
璃々栖は芝麻球を1つを摘む。
「熱っつ!?」
「そら出来立てやから熱いやろ」
皆無は少し呆れながら、芝麻球を離した指をお冷やの入ったガラスコップに当てる。
「少し冷めるのを待ちますか」
千晶が懐中時計を取り出し、テーブルに置く。
其れから数分か数十秒か。
「・・・・璃々栖、涎垂れとるで」
「皆無こそ、何度唾を飲み込む気じゃ?」
眼前の料理を前にして、2人の我慢は早くも限界を迎えかけていた。
(・・・・頃合いですかね)
「では、いただくとしましょう」
千晶の言葉を合図に全員手を-璃々栖と皆無は片掌を重ね-合わせ、
「「「いただきます!」!」」
3人とも、ピンポン玉よりひと回り大きい球体を摘んで齧り、咀嚼する。
瞬間、彼らの口内を美味の2文字が襲う。
胡麻の香ばしい風味、弾力のあるモチモチとした生地、そして程良く甘い黒餡、其れらの味々が混ざり合い、口いっぱいに広がって行く。
「これは美味じゃァッ」
「美味っ・・・・美味しいです、師匠!」
「あはは、喜んでもらえて何よりです」
其の後も3人の手と口は止まる事なく、皿に乗った芝麻球をあっという間に平らげてしまった。
「「「御馳走様でした!」!」」
「師匠、御馳走様でした!」
「馳走になった千晶殿、感謝する」
店を出てから、皆無と璃々栖は千晶に礼を言う。
「どういたしまして。それでは私はこれで」
「もう行ってしまうんですか?」
「皆無君?君は隣の方とのデェトの為に神戸へ来たのではありませんでしたか?」
千晶は優しく諭すように言う。
「先程はうっかり誘ってしまいましたが、本来であれば私は其れを避けるべきでした」
そして、璃々栖の方を向く。
「璃々栖陛・・・・さんは如何です?折角のデート、2人きりで過ごされたいのでは?」
「よ、予か?そうじゃな、できれば、その・・・・過ごしたい」
「だ、そうですよ?」
「・・・・」
皆無は、璃々栖に対する申し訳なさでいっぱいの顔になった。
「そう気落ちしない。これから挽回すれば良いだけの事です」
「千晶師匠・・・・」
千晶はニコリと笑い、皆無の方をポンポンと叩く。
「では、私はこれで失礼します」
そう言って手を振った後、千晶の姿は行き交う人々に紛れ見えなくなった。
「快い御仁じゃったのぉ」
「・・・・ほんまにごめん璃々栖。師匠に会えて嬉しかったからって、璃々栖の事放っぽり出したりして」
「良い良い。親しい者と会える喜びは予もわかる。
それにの・・・・」
璃々栖は片方の腕を伸ばし、
「デートはまだ始まったばかり。これからが本番じゃァッ」
掌を、皆無に差し出す。
「・・・・それじゃ璃々栖・・・・エスコートしても良いか?」
皆無は其の掌に、自身の手を置く。
彼女は其の手を優しく握り、
「うむ。頼んだぞ、我が愛しき夫よ?」
天使のような微笑みを見せる。
2人は互いに手を握り合いながら隣に立ち、再び歩き始めた。
其の後、彼女らがデートを満喫した事は、言うまでもない。