シトシトと雨の降る日。
皆無と璃々栖は、自室でくつろいでいた。
本日のスケジュールは白く、溜まっていた仕事は数10分前に片付いている。
詰まる所、フリーである。
本来なら、ベッドに入り互いと恋戯〈イチャイチャ〉したい所であった。
が、時間は未だ昼。
急な来客や用事に備え、2人はセミフォーマルな格好をして夜迄待機する事にしていた。
「そういやさ、璃々栖」
事の起こりは、皆無の発したこの問いであった。
「なんじゃ?」
「前に、霊界の映画を魔術で見してくれた事あったやん?」
「あぁ、あったのぉ。それがどうしたのじゃ?」
「いや、他にどんなのがあるか気になってなぁ」
「観てみるか?」
「え、観られんの!?」
そう言って、幼子のように目を輝かせる皆無。
「と言っても、予が以前観た物のみじゃがな・・・・では行くぞ、射影【キネトスコープ】!」
瞬間、部屋の中に巨大なスクリーンが映し出され、同時に映像が流れだす。
が、今回は其れだけではなかった。
「発声【トーキー】!」
璃々栖が詠唱した、数秒後であった。
「す、凄い!音が・・・・!」
何と、スクリーンから音声が聞こえて来るのである。
当時、映画の殆どが無声であった為、皆無は驚愕した。
「それでは、此処で観ようか」
璃々栖は、丁度スクリーン前にある2人掛けのソファに座る。
「ほれ皆無、早よ座らんか」
「へ?あ、あぁ、分かった」
皆無は璃々栖の隣に座った。
片身がたがいの片身に触れ、体温が伝わる。
図らずも、彼の鼓動は少々速くなった。
「では、始まり始まりじゃァッ」
重厚なBGMから始まった最初の作品は、数100年前に実在した魔王の活躍を描く所謂、時代劇、であった。
魔王が身分を隠して市井の人々に溶け込み、権力者の不正や悪行を暴いて懲らしめる、という内容である。
「やはりラストの殺陣は圧巻じゃ!」
「これ、地獄級魔術とか撃ちまくってる気ぃするんやけど・・・・本物?」
「勿論。と言っても、外見だけ派手で威力は殆どない模倣〈ダミー〉じゃから安心して良い」
「なるほど、模造刀みたいなもんか」
軽快なトランペットの音から始まった2つ目の作品も時代劇であった。
が、主人公らは殺し屋であり、悪人-人間ではない-に虐げられる民から金を貰って標的を殺す、1作目と比べると随分とダークな作風の話となっていた。
殺し方は様々で、手槍で延髄を突いたり紐で吊り上げたり、といった得物を使った方法や、拘束魔術と火系魔術の合わせ技で騒がせる事なく消し炭にする、といった魔術を駆使した方法、若しくはその合わせ技と、多数の種類があり見所となっていた。
「この大量の蝶々を操って殺す技、ユニークやな・・・・璃々栖?」
ふと皆無が隣を見ると、彼女は少々浮かない顔をしていた。
「・・・・以前、霊界に行った時、この話とさっきの話が同時上映されててのぉ、気になって入って観た。そしたら、この話の方が観客が倍以上に多く、ふと思ってしまった」
「何を?」
「民は真の王が圧政を正す事を無意識に諦め始めているのではないか、とな」
「・・・・」
「じゃが客の入りようから、悪は何れ滅びるという事までは諦めていない、とも思えたのは幸いじゃった」
「・・・・璃々栖」
皆無は、彼女の手を優しく握る。
「な、なんじゃ?」
「必ず取り戻そう。民も国も」
「!・・・・そうじゃな」
そう言うと、璃々栖は手を握り返す。
同時に其の顔は、明るさを取り戻した。
「お、主役登場じゃ。普段の昼行灯と戦闘時の容赦なさの対比が良いのじゃァッ」
最後の作品は打って変わって現代劇、少年と少女の恋愛譚であった。
2人の前には何度も困難が立ち塞がり行手を阻むも、其れらを乗り越えに乗り越え、最後にはハッピーエンドを迎えた。
「これは予が1番好きな話故、最後にとっておいた」
「・・・・」
「どうした?皆無?」
「いや、画面の主人公とヒロインの姿が、俺と璃々栖に重なってしもてな・・・・」
「其方もそう思うたか・・・・」
2人は、音が止み映像が消えていく空間を眺める。
ふと隣を見ると、互いの目と目が合った。
時刻は既に19時。
客や用事が来る事はもうないだろう、と2人は思った。
そして、
「璃々栖・・・・」
「皆無・・・・」
2人の顔、唇が近づき合って触れ合う寸前に。
其の時、不意に部屋の扉がノックされた。
瞬間、2人は驚き顔を離す。
「な、なんじゃ?」
「陛下、宰相閣下、御食事の支度が整いました」
扉の向こうから聖霊の声が聞こえて来る。
「あ、あぁ、わかった。直ぐ行く」
「哈ッ」
コツコツと、聖霊の足音が遠ざかって行く。
「あ、危なかった、聖霊に見られる所やった」
「仕方ない、恋戯はベッドに入ってからじゃのぉ」
「せやな・・・・」
「そう暗い顔をするな皆無よ」
璃々栖は皆無の耳元に顔を近づけ、
「後でじっくり、堪能しようぞ?」
蠱惑的な声で囁く。
皆無は、心臓が飛び跳ねる感覚を覚えた。