なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第10話:お金は大事

 現れた三人組はここらを支配するマフィアだったのだろう。

 だが、俺が思っていた以上にスッキリしていると言うか、マフィアと言うよりはただの不動産の営業みたいだった。

 

 とりあえず一難去った訳だが、新たな問題も浮上した。

 

「さて、お腹も空きましたし、今度こそひな鳥の巣に行きましょう」

「うむ。うむ? 我がとやかく言うものではないかもしれないが、金銭は大丈夫なのか?」

 

 月二万ダリアの支払い。

 

 物価から見るに決して安いわけではないだろうが、多分高いわけでもない。

 

 宿屋などの値段を知っているわけではないが、三人でこの広さならばもしかしたら安い方だろう。

 

「何をするにしても、お腹が空いていては力も入りませんからね。食べてから考えましょう」

「うーむ……」

 

 ライラは微妙な表情をしているが、食べられる内に食べる事は大事だ。

 

 シラキリなんて既にウキウキとしている。

 

「シラキリはさっきの人達を知っていますか?」

「いえ。あんな人達が居るのは初めて知りました」

 

 ひっそりではなく大体的に掃除をしていたから現れたのか、この場所に何かしらがあるから現れたのか。

 

 気になるが、先ずは金を集めよう。

 

 再びひな鳥の巣がある通りに来たが、朝と同じく人で賑わっている。

 

 仄かにアルコールの匂いが漂い、酒場の方に足が進みそうになるが、子供二人を連れいくのは些か健全とは言い難いだろう。

 

「いらっしゃ……あっ、来てくれたんですね」

「朝は無理を言ってすみませんでした。席は空いていますか?」

「お姉ちゃんに言われて念のため空けてあるわ」

 

 何時来るか分からない俺たちの事を待っていてくれたのか。

 あの姉には感謝だな。

 

 看板娘に案内されたのは壁際の席だった。

 他の席に比べて少し大きく、後数人は座れる余裕がある。

 

「此方が夜のメニューです」

「ありがとうございます」

 

 朝の時と同じく何がどんなメニューか分からないが、買い物の際に食材の見た目と名前を結構確認したので、少しはマシだ。

 

 元の世界と同じ名前の物もあれば、別な物もあったので、俺の中で異世界? って気持ちが大きくなっている。

 

 酒と思われるメニューもあるが、まだ我慢しよう。

 この身体でも酒が飲めるとは限らないからな。

 

「私はマートトの鳥ステーキとパンで」

「私も同じのお願いします!」

「我も同じで頼む」

「はーい」

 

 因みにマートトは多分トマトの事だと思う。

 見た目はトマトだったので、大丈夫な筈だ。

 

「シスターサレン。良ければだが、明日は冒険者ギルドに行かないか?」

「ギルドですか?」

「うむ。恐らくだがシスターサレンの治療は、他の教会の聖女や教皇クラスはあると思う。下手に布教してその力を十全に示せば、人攫いに遭うか、潰される可能性がある。我が護衛で居るとしても、全てを防ぐのは難しい。なので先の事を見据えて地位を上げるのと、力を付けるのはどうかと思うのだ」

 

 言わんとしている事は分かるが、戦いを知らない日本人に戦いをしろと言われても、全く覚悟が出来ていない。

 魔法でも使えればまだマシだが、掃除中にこっそり色々と試してみたが、使える予兆は今のところ無い。

 

 剣なんて振ったこと無いし、シラキリやライラの血では何故か動揺しなかったが、普通に震え上がる自信がある。

 

「構いませんが、私は戦うなんて事は出来ませんよ?」

「それについては問題ない。この三人でパーティーを組めば良いのだ。シラキリは戦えるか?」

「サレンさんを守るためなら頑張ります!」

 

 賛成二人に反対一人……まあ、なる様にしかならんか。

 

「分かりました。因みに冒険者ギルドの事も全く覚えていないのですが、知っておいた方が良い事はありますか?」

「我も人伝てだが、喧嘩では武器を抜かない事。依頼書は汚さない。ギルド内で酒は飲まない。程度の事しか知らんな」

「私が聞いたのですと、バランス良くパーティーを組んだ方が良いとか、受付の人は怒らせない方が良いとかですね」

 

 俺が知りたいのはそんな事ではないのだが、まあ、明日実際行って調べれば良いか。

 

「教えてくれてありがとうございます」

 

 そう二人にお礼をした所で、看板娘が料理を運んできた。

  

「お待たせしました! お父さんが話をしたいから、食べ終わったら呼んでね」

「分かりました」

 

 マートトの鳥ステーキは想像していた物と同じだったか、日本の味になれているせいか少し物足りない。

 

 美味しいには美味しいが、〆サバと思って食べたら焼きサバだった位の差がある。

 

 ライラは非常に上品に食べており、やはり育ちが良いのだろう。

 

 一方シラキリは少し四苦八苦しながら食べている。

 

 …………ライラはともかく、何故シラキリの飯の面倒まで俺が見ているのだろう?

 

 道案内は助かっているが、どちらかと言えば俺が面倒を見られる方ではないだろうか?

 

 まあ、シラキリには後々馬車馬の如く働いて貰うとしよう。

 

 周りの客の話しに耳を傾けながら夕飯を食べ終え、看板娘に食器を下げてもらって少し待っていると、店主が近寄ってきた。

 

「今朝は黒油の使い方を教えてくれてありがとう。俺はこの店の店主のコルトだ」

「いえ、此方も無理を言ってすみません。私はサレンディアナと申します。この二人はライラとシラキリです」

 

 コルトはよっこらせと、年寄り臭いことを言いながら席に座った。

 

「アイリから話を聞いたが、信徒を募集してるんでしょう。お礼って訳ではないですが、聖典や教え次第ですけど、信徒になりたいと思うのですが……」

 

 アイリはあの時会計をしてくれた娘の方だろう。

 

 それと、俺の顔を見る内に口調が徐々に丁寧になっていくのが面白いが、指摘しないでおこう。

 

 信徒が増えることは喜ばしいことだが、はいどうぞと許可することは出来ない。

 

「それは喜ばしいことですが、お礼でなんてのは不要です。信仰に不要な感情を挟むことは教義に反することです」

 

 シラキリとライラは少々特殊な事情だったので別だが、今回のは賄賂で信徒を得ようとしているのと同じだ。

 

 個人的には別に良いと思うが、なるべく潔白なイメージを持ってもらった方が良いだろう。

 

「あー、確かにそうですね。先ずは教えて頂いても良いですか?」

「はい。それでは掻い摘んでイノセンス教の事をお話しさせていただきます」

 

 コルトさんに役所でしたのと似たような事を話す。

 追加で日常的な祈りは食事の時のいただきますとご馳走様と、言う事も話す。

 

 ついでに信徒はこの三人だけの新興宗教だと言う事と、俺の記憶があまり無い事も話す。

 

「なるほど。聞いた限りでは悪くないですね。因みにレイネシアナ様は加護とかあったりするんですか?」

「はい。おそらくとなってしまいますが、癒しの加護があります」

「……それだけですか?」

「……はい?」

 

 どういう事だと思いライラを見ると、何かを考えてから口を開いた。

 

「癒し……治療だけの加護は通常不人気なのだ。ポーションや医学の発達により、どちらかと言えば戦闘寄りの神の方が喜ばれる。まあ、神の加護を貰える人など稀だから関係ないと言えば関係ないが、祈る価値があるかと問われれば、難しい所であろう」

 

 ――異世界と言えば回復とか治療が人気と思っていたが、まさか普通に医学などが発達しているとは思わなんだ。

 

 それにポ-ションがどれ位の効き目があるか知らないが、魔法と違い誰でも使う事が出来るのだろう。

 

 それなら身を守るための攻撃手段の方が欲しくなるのが、人というものだ。

 

 どうやらこの異世界は俺に冷たいらしい。

 

「無論医療やポーションにも出来ること、出来ない事はあるし、良し悪しはある。だが、下手な宗教の神官に頼むより確実だし、人間関係による拗れも殆どない。まあここらが一般論だろう。だが、我はレイネシアナ様を崇めるのに相応しい神だと思っておる」

 

 ライラから発せられた気の様なものに、コルトさんが息をのんだ。

 

「そう……なのですか?」

「うむ。それに、日々の糧に感謝するのは飲食店としても外聞はいいだろ」

「そうですね。……これを機に決めてみたいと思います」

「あっ、私も入信します」

 

 ひょこっとアイリが手を挙げながら、話しに入ってきた。

 

 何だか釈然としないが、まあ良いだろう。

 

「ありがとうございます。本来なら信徒となった証などを渡すのでしょうけど、本登録をして余裕が出るまでお待ち下さい。それと、此方に署名の方をお願いします」

 

 役所で貰った冊子を取り出し、信徒一覧の所に名前を書いてもらう。

 ついでにライラとシラキリにも書いてもらい、これで後16人だ。

 

「おーい! 注文が溜まってるんだから早く戻ってきな!」

「おっと、家内に呼ばれてしまいましたな。そう言えば、マートトの鳥ステーキはどうでしたか? 何か意見があれば是非お願いします」

「そうですね……バジルだけではなく酸味を引き立てる辛みと、コクを与える様な調味料があればまた変わった味になると思います」

 

 要は胡椒とニンニクを足せって事だ。

  単品ならこれでも良いが、ご飯と一緒ならは、もう少しパンチが欲しい。

 

「おおそうですか! シスターさんは料理に精通しているようですな。今度……」

「お父さん?」

 

 コルトさんが何か言おうとすると、アイリが口を挟んだ後にすごすごと厨房へと帰って行った。

 

 夕飯も食べ終えたし、そろそろ帰るとするか。

 

 なんか忘れている気もするが、アイリにお金を払い店を出た。

 

「待って! 私も! 私も入るから!」

 

 …………ああ、看板娘の事を忘れていた。

 

 コルトさん。アイリ。レイラの三人が、新たな信徒となった。

 

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