なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第103話:ただのお礼……ではない

 中央役所に転移して軽く観光していると、直ぐに時間となってしまった。

 

 知らない場所を歩くのは、やはり楽しいものだ。

 

 中央は学園がある関係か、若者が多い。

 

 それにともない、店も若者向けが多数を占める。

 

 時間の関係でほとんど見られなかったが、また今度来るとしよう。

 

 公爵家の最寄りの馬車亭で降りると、燕尾服を着た老人……先日エメリッヒと一緒に居た執事が、待ち構えていた。

 

「サレンディアナ様。本日はお越しいただき、ありがとうございます。立ち話も何ですので、まずはお連れ様共々こちらの馬車にお乗りください」

「承知しました」

 

 流石本物の執事なだけあり、所作が洗練されている。

 

 昔知り合いと行った執事喫茶とは雲泥の差だ。

 

 何故男なのに執事喫茶に行ったかだが、知り合いが女性であり、一人では入るのが怖かったからだ。

 

 決して俺や知り合いが特殊性癖だったからではない。

 

 俺達三人プラス執事が馬車に乗ると、ゆっくりと馬車が動き出す。

 

 流石は公爵家の馬車なだけあり、揺れがほとんどない。

 

 まるで車に乗っているみたいだ。

 

「改めて、お礼を言わせて頂きます。今朝方、森での被害報告書が上がってきたのですが、広範囲に渡って地面が抉り取られていたみたいですね。あの時サレンディアナ様が咄嗟に動いていなければ、どうなっていた事やら……」

 

 ……まあ互いに当事者なのだし、緘口令なんて気にしなくても良いのか。

 

 それよりも、シラキリの視線が痛い。

 

 大丈夫。命の危険は無かったから。

 

 何なら武器さえあれば、多分俺一人でも勝てたかもしれないし。

 

 その時はミシェルちゃんが死んでいた可能性があるけど。

 

「お気遣いなく。人として当然の事をしたまでです」

「そうですか。宜しければ、お連れ様方のお名前を教えて頂いても宜しいでしょうか?」

「アーサーと申します」

「シラキリ……と申します」

「アーサー様に、シラキリ様ですね」

 

 よくある異世界の物語では、獣人などは差別の対象だったりするのだが、流石実験都市ホロウスティアと呼ばれるだけあり、シラキリにも寛容なのだろう。

 

 全く嫌そうな顔をしていない。

 

「サレンディアナ様はシスターと聞き及んでいますが、どの様な宗教なのですか?」

 

 世間話とばかりに聞いてくるが、下手に流すことも出来ないんだよな……。

 

 公爵家が、教国の現状を知らないはずがない。

 

 そして俺がどれにも属していないと、調べているはずだ。

 

「レイネシアナ様を崇めている、イノセンス教と申します。基本的な理念は、食に感謝を捧げ、皆で仲良くしましょうというものになります」

「それはまた大らかな宗教ですね。因みに加護は如何なものですか?」

 

 加護……これが中々に厄介なんだよな。

 

 昔は良く分からず、回復と補助だけと答えたが、実際は違う。

 

 俺だけが不具合で、それしか使えないのだ。

 

 実際はルシデルシアが決める事ができ、加護を与えたスフィーリアは攻撃魔法も使える。

 

 如何程のモノなのかは後程聞くとして、実際の加護はルシデルシアの気分次第となる。

 

 話を戻して、回復と補助だけと話す事は出来ず、では実際どうなのかと聞かれれば、その時によって変わるとしか言えない。

 

 まあ、ここは上手く誤魔化せばいいだろう。

 

 あくまでも、俺はって事にしておけばいい。

 

「私が扱えるのは回復と補助となります。補助には防壁の様な魔法も含まれています」

「なるほど。その防壁で助かったのですね」

「はい。ギリギリでしたが、魔物の爆発に巻き込まれずに済みました」

 

 どこまで公爵家が把握してるか知らないが、ミリーさんが魔石を回収しているので、魔物の正体までは知られていない……と思いたい。

 

 ミリーさんがどこの誰かは分からないが、流石に公爵家と直で繋がっているなんて事はないだろう。

 

 それに、基本的に俺の事を擁護している感じもする。

 

「そうだったのですね。シスターという事でしたが、補助の面に特化しているから助かったということですか」

「ええ。その代わり、私は攻撃魔法の類は全く使えません」

「今時珍しいですな…………っと、もうそろそろ着きますので、準備のほどをお願いします」

 

 質問という詰問をされている内に、公爵家に着いたようだ。

 

 全く……人の好さそうな笑みを浮かべている癖に、嫌な人だ。

 

 

 

 

 

 

 

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 馬車が止まり、応接間に案内される。

 

 準備があるという事で、しばらく待っていて欲しいとの事だ。

 

「……サレン様」

「なんでしょうか?」

 

 応接間に入ってしばらくすると、アーサーが小声で話しかけてきた。

 

「壁の一部が薄く作られており、声が聞こえやすくなっています。おそらく此処は貴賓向けではなく……」

「そうですか……教えて頂きありがとうございます」

 

 ……ただ礼をしたいから呼んだ……ってだけじゃないわけか。

 

 まああの執事も世間話って感じで話していたが、探りを入れてきたわけだからな。

 

 ………………そう言えば、これも依頼と言えば依頼だったな。

 

 俺は依頼に呪われているのか?

 

 受ける度に、何かしらに巻き込まれている気がする。

 

 此処での会話は公爵家側に筒抜けとなり、かと言って何も話さなければ、それはそれで不審がられる。

 

「シラキリ。最近勉強の方はどうですか?」

「ネグロさんに色々と教えて頂いています。学園の入学も問題ないって言っていました」

「それは良かったですね」

 

 なんかほとんどシラキリに学園へ入りたいかどうか聞く前に、話が進んでいるんだよな。

 

 色々と学んで欲しいとは思っているが……まあ良いか。

 

「そう言えば少し遅くなってしまいましたが、何かお願い事はありますか?」

「……また一緒に寝たいです」

「分かりました。今日も一緒に寝ましょうね」

 

 先程からピクピクと動いている耳に、触れないようにしながら頭を撫でる。

 

 俺と会話しながら、シラキリは壁の向こうの会話を聞いているのだろう。

 

 内容は後で聞くとして、今は上手く誤魔化さなければならない。

 

 あくまでも、俺達はただの一般人であり、野心がないと分かってもらえれば、それだけでいい。

 

 それからしばらく雑談していると、扉を叩く音がして、執事が入ってきた。

 

 待った時間は二十分程なので、 決して遅いと言うほどでもないが、俺達を探るには十分な時間だろう。

 

「お待たせしました当主様と、ご子息であられまするエメリッヒ様の準備が整いました。此方へどうぞ」 

 

 部屋を出て少し歩くと、大きなテーブルのある部屋に案内される。

 

 テーブルには白い布が敷かれており、上には活け花が置かれ、清潔感を感じさせる。

 

 態々大きなテーブルで距離を取って食べるのは、暗殺などを防止するためだと、昔本で読んだな。

 

 後は毒殺などの際に、悪足掻きさせないためだとも。

 

 そして部屋に入って直ぐに、別の扉から二人入ってくる。

 

 片方は先日会ったエメッリヒだが、頬を赤く腫らしている。

 

 もう一人は公爵様……エメリッヒの父親だろう。

 

 上に立つ人間としての風格がある。

 

「待たせてしまって済まないな。私は現公爵家の当主であるオーネスト・プライドだ。先日は息子が世話になったようだね」

「いえ。あくまでも依頼の一環として動いたまでですので、そこまでの事はしておりません」

「それでも、結果として助かっているのだ。さて、先ずは食事をしよう。客人をいつまでも待たせるわけには行かないからね」

 

 座るように促され、全員が座ると料理が運ばれてくる。

 

 それと、食前酒としてワインが注がれた。

 

 流石にシラキリとエメリッヒはジュースのようだが、食前酒とは言え、昼間から酒とはね……嬉しい限りだ。

 

「食事の前に、祈りを捧げても宜しいでしょうか?」

「構わないよ。このホロウスティアでは、弾圧なんてことはしないからね」 

 

 やはりイノセンス教の事を、多少なりにも知っているようだな。

  

 でなければ、何も言わずに許可何て出さないだろう。

  

「それでは。レイネシアナ様に感謝を捧げ、いただきます」

「ああ。いただくとしよう」

 

 クイッとワインを一口……少しだけ……全部飲み干す。

 

 流石貴族なだけあり、芳醇な味わいのワインだ。

 

 それから料理をいただくが、食材の味を活かすような、シンプルな物が多い。

 

 貴族だから豪華な料理を食べているわけではない……と言ったアピールなのか、貴族の料理を出す程でもないと判断されたか……。

 

 まあ料理の味は勿論、ワインも美味しいので、前者だろう。

 

 アーサーの表情は読めないが、シラキリは美味しそうに食べている。

 

 そして気付いたら、ワインを一本空けていた。

 

 おかしいな。そんなに飲んでいないはずなのだが、不思議なものだな……。

 

 三杯目を飲み始めた辺りから、周りから視線が突き刺さっていたが、俺は知らない。

 

「料理は口にあっているかな?」

「はい。シンプルながら、素材の味を活かした良い味付けです」

「そうか。この様な料理を出すと驚かれる事が多いのだが、それは良かった」

「それはどうしてでしょうか?」

「貴族とは見栄を気にするものでね。調度品しかり、料理しかり。目で見て分かりやすく権威を示せる物を好むのだよ」 

 

 そう言えば、公爵ともなればもっと豪華絢爛な屋敷に住んでいてもおかしくないが、此処に来るまで目を奪われるようなものは見ていない。

 

 一応絵画やちょっとした調度品はあるが、豪華と言うよりは品がある感じだ。

 

 煌びやかとは言えない。

 

 オーネストは軽く笑い、腕を組む。

 

「私……と言うよりは、我が家系は実用性を好む性格みたいでね。自分たちにお金を使うより、もっと有意義な事にお金を使っているのだよ。まあ、その性格もあって、エメリッヒが無理をしてしまったようなのだがね」

「……すみません」

 

 エメリッヒは顔を逸らしながらも、謝罪をする。

 

 実際問題エメリッヒが来なければ、あそこまでの被害が出なかった可能性は高い。

 

 結果論となってしまうが、人が死んでいる以上簡単に終わる問題ではない。

 

「気付いていると思うが、あの依頼はエメリッヒが横槍を入れたために、起きた事件だと見ている。まあ、表沙汰には出来ないがね」

「……その様な事を、私に話しても宜しいのでしょうか?」

 

 分かっていたが、不穏な空気を感じる。飯を食べて軽く話してさようなら……とはいかんか。

 

 アーサーに視線を送ると、首を横に振った。

 

 ……うん。どんな意味か分からないや。

 

「この程度なら問題ない。さて、食事も楽しんで貰ったようなので、そろそろ本題に入るとしよう」

 

 オーネストが指を鳴らすと、扉や窓が全て閉められ、二人の使用人を残して全員居なくなる。

 

 態々話して良い事を話してからのこの対応……否が応でも緊張が走る。

 

「先に断っておくが、私は君達をどうこうする気は毛頭ない。それを踏まえた上で、正直に答えて欲しい。サレンディアナ・フローレンシア。君は、何者だい?」

 

 オーネストの鋭い眼光が、俺を貫いた。

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