なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第104話:依頼を受けるのが悪い

「……質問の意味が、分かりかねるのですが?」

 

 まずはすっとぼけてみる。

 

 俺が何者かと問われても、ただの人以外の回答を持ち合わせていない。

 

 それに、たったこれだけの言葉では、真意が見えてこない。

 

「この都市にはね。外部から入って来た人間の魔力を、全て記録する結界が張られているのだよ。有事の際は、照合した魔力から顔を割る事も出来る。そうだろう。王国から来たアーサー君?」

 

 …………物凄く雲行きが怪しくなってきたな。

 

 そんな結界があるのも驚きだが、そこから人を探せるだけの組織力もあるのか。

 

「それと、この都市で生まれた者は、出生届を出す義務がある。少々膨大な数字となるが、最終的にどこの誰かを辿る事が出来るのだよ」

 

 つまり、この都市で生まれ育ちましたという嘘は意味が無い。

 

 逆に外から来ましたと言っても、ではどこから来たのかとなり、結局嘘がばれてしまうだろう。

 

 結界に俺の魔力が登録されていれば良いが、今のオーネストさんの言い方からすると、その可能性は低い。

 

 では転生した異世界人です……なんて答えては、鼻で笑われるだけだろう。

 

「正直に申しますと、今住んでいる教会で目が覚める前の事は殆ど覚えていないため、私自身も分からないのです」

「イノセンス教……重症患者を治せる程の存在がシスターの肩書きとは、いささかおかしくはないかね?」

「こればかりはよそはよそ、うちはうちとしか言えません」

 

 とりあえず俺がどこの誰かは保留にしてくれるみたいだが、今度は宗教の事か……。

 

 俺が創り出した架空の宗教だが、実際は過去に存在している。

 

 名前も無ければ宗教の関係者はディアナ一人だけだが、それでも嘘ではない。

 

「そうか。ところで一つ聞きたいのだが、君はルシデルシア・レイネシアスとサレンディアナ・バレンティアという人物を知っているかな?」

 

 ――これは、間違いなく何かに気付いているな。

 

 公爵ともなれば、古い歴史の本が数冊あってもおかしくない。

 

 ルシデルシア曰く世界規模の戦いだったわけだし、全ての歴史を消すのは不可能なのだろう。

 

『今の世でも、我の名とディアナの本名を知っている者がいようとはな……』 

 

(わりとピンチなんですが、良い案とかない?)

 

『この様な輩は知らぬ存ぜぬと押し通せば、勝手に理解するものだ。敵対する気が無いと言っている以上、大丈夫だろう』

 

(そういうもんかねぇー……)

 

 つか、ディアナの本名ってバレンティアなんだ。

 

「いえ、人から聞いた事も、本で見たこともありません。私が記憶を失う前でしたら知っている可能性はありますが…………その二名はどの様な方なのでしょうか?」

 

 念には念を入れて、嘘を話さないようにしているが、如何程の効果があるか……。

 

 ヤバい結界があるのだから、人の嘘を見抜く結界があっても、俺は驚かない。

 

「遥か昔。神代と呼ばれていた頃の人物だよ。少々似たような名前があったから確認しただけだよ。しかし、そうか……このホロウスティアを預かる者として、背景が何も見えない人物を野放しにするのは宜しくない」

 

 一瞬悩む様な仕草をするが、直ぐに切り替えて嫌な事を言ってくる。

 

 個人的に敵対する気はないが、公爵としては……っか。流石貴族様だ。

 

「私はね。君の事をルシデルシア・レイネシアスかサレンディアナ・バレンティアの転生体と睨んでいる。しかし、君は否定するんだね?」

「はい。私はその様な存在ではありません」

 

 正確には二人の魂を内包した、一般異世界人です。

 

 身体は作り替えられてこの世界のモノになっているけど、別に転生したわけではない。

 

「……ふぅ。どうやら、君の方が一枚上手のようだ。最後になるが、教国の事をどう思っている?」

「現状は宜しくない状態かと。何やら呼び出したとの噂も聞き及んでいます」

「どうやってその情報を手に入れたか気になるが、良く分かった」 

 

 この情報はアーサーから教えられたものだが、やはり機密情報だったか。

 

 だが、この情報は俺が教国を嫌っていると分かってもらうには丁度良い。

 

「色々と聞いて済まないね。これでもこの都市を預かる者としての責任があるんだ」

「いえ、出生が怪しいとは私自身も分かっていますので。仮にこの都市を去れと言うのでしたら、その言葉には従います」

「息子の恩人に対してそんな事はしないさ。それに、そちらの二人は中々の手練れみたいだからね」

 

 俺とオーネストさんとの会話中、アーサーとシラキリは無になっていた。

 

 流石に殺気を出してはいけないと理解しているのはありがたいが、だからって無は無いだろうに……。

 

 逆に怪しいとしか、言いようがない。

 

 席が近ければ諫める事も出来るのだが、こんな大きなテーブルでは無理だ。

 

 まあ二人はおいといて、とりあえずこの都市から退去する事態にはならなそうだな。

 

 それでも俺を不審に思っているのは確かだろうし、下手な行動はとれないだろう。

 

 ……とる気は無いから大丈夫だけど。

 

「さてと、サレンディアナへの褒美だが、正式に帝国の民としての身分を与えよう。保証は私がするので、下手な貴族では手出し出来なくなるだろう。宜しいかな?」

 

 ふむ……悪くはない。後ろ楯があれば、何かあった際に助けを求める事が出来る。

 

 ただ公爵としては、首輪を嵌めておくための提案だろう。

 

 問題が起きた場合に、俺の行動を把握しておく事が出来る。

 

 本当ならばもう少し突っ込んだ報酬を考えていたのかもしれないが、俺の事があまりにも分からないので妥協をしたのだろう。

 

「はい。生まれすら分からない私にとっては、過分の配慮でございます」

「それは良かった。何かあれば、頼ってくれたまえ。保証についてだが、後日ギルドを通して公爵家の家紋が刻まれたメダルを送らせてもらう。今日は態々来ていただいてすまなかったね」

 

 とりあえず乗り切ったな……。

 

 全く……何かあるとは思ったが、ここまで大変な事になるとは思わなかった。

 

 確かにこれまでと違って肉体的な大変さは無かったが、精神的には今回が一番堪えた。

 

 オーネストさんの話が終わり、残っていた使用人が、俺達が入ってきた扉を開ける。

 

 もう帰って大丈夫という事だろう

 

「本日はお招きいただきありがとうございました。それでは失礼させていただきます」

「ああ……」

 

 最後の挨拶をした時に、オーネストさんは何か言いたそうにするが、そのまま見送ってくれた。

 

 部屋の外に出るとそのまま屋敷の外に向かい、来た時と同じく馬車亭まで送ってくれるそうだ。

 

 アーサーとシラキリは少々ピリピリとした雰囲気だが、話すのは帰ってからにしよう。

 

「お疲れさまでした。それでは馬車へどうぞ」

「ありがとうございます」

 

 出迎えてくれた時の執事が馬車の前で待っており、再び一緒に乗り込む。

 

 また質問責めされると思ったが、料理の事を話すだけに留まる。

 

 ついでに、メダルと一緒に今日飲んだワインを三本戴ける事になった。

 

 大変な一日だったが、これだけでも来た甲斐があったと言うものだ。

 

 

 

 

 

 

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 サレン達が部屋を出て直ぐに、オーネストは眉間を揉んだ。

 

「父様……先程話されていた内容は?」

「ちょっとした確認だよ。しかし、エメリッヒもとんでもない化け物を引いたみたいだね」

「はい?」

「いや、此方の話だ。前にも話したが、遺族への謝罪は自分でやりなさい。今回の犠牲は、必要外のものなのだからね」

「はい。すみませんでした」

「分かっているなら良いさ。先に下がっていなさい。私は少し飲んでから戻るとするよ」

 

 表向き、依頼で起きた死者に対して依頼主が補償をする必要はない。

 

 だが今回はエメリッヒの身勝手な行動で、被害が出てしまった。

 

 エメリッヒの行動により、一部の騎士の不正が浮き彫りになったが、だからと言って許されることではない。

 

 深々と頭を下げた後、エメリッヒは部屋を出て行った。

 

「やれやれ。もう少し不真面目でも良いと思うのだが…………お前達も下がって居なさい。それと、私が出るまで部屋には誰も入れないように」

「畏まりました」

 

 部屋に居た数少ない使用人すらいなくなり、大きなテーブルにオーネストだけがポツンと残される。

 

 テーブルの上にあるワインの瓶を開けて、グラスに注いで香りを楽しむ。

 

「黒翼、居るのだろう?」

 

 決して大きくはないが、威厳のある声が部屋に広がる。

 

「はいはい。居ますよー」

 

 何処からともかく……いや、やる気の無い女性の声がテーブルの下から聞こえてくる。

 

 しかし、確かに声はするのだが、気配を全く感じない。

 

 居るだろうと思ったが、オーネストは決して館に黒翼を呼んではいない。

 

 ここに居ると言うことは、公爵家の警備を掻い潜ってきたと言うことだ。

 

 もしも声の人物がオーネストを殺す気ならば、もうこの世にオーネストはいないだろう。

 

「あー。本当に面倒だねー。よっこいしょっと!」

 

 テーブルの下からピンク髪の……ミリーがゴロゴロと転がりながら出てきて、服を叩きながら立ち上がる。

 

 貴族の中でも、王族の次に偉い人物を前にして、全く敬う気の無い態度。

 

「君だったか。手紙の通り探りをいれておいたが、何か分かったかね?」

「何となくはね。それにしても、嘘を吐くのが上手いね。流石公爵様です」

「称賛として受け取っておこう」

 

 オーネストは古い文献と言ったが、そんな物は存在しない。

 

 全ては、今朝届けられた手紙に書かれていたことだ。

 

「それで、どうしてあんな事を聞くように?」

「サレンちゃんの事でちょっと気になる事を、魔大陸から持ち帰ってね」

「ふむ。原初の魔王と、原初の聖女だったかな?」

「そう。今から数百年前に存在していた二人だよ。世界を終焉に導こうとした最悪の魔王のルシデルシア・レイネシアスと、その魔王を止めるために生まれた、全ての聖女の原初たる存在のサレンディアナ・バレンティア。まあ、こっちの大陸には記録がほぼ無いみたいだけどね」

 

 魔大陸に旅立っていた黒翼騎士団のウォルターが持ち帰った情報は、ミリーが望んだものではなかったが、興味をそそられるものだった。

 

 イノセンス教と呼ばれる宗教は見つからなかったものの、サレンに関係していそうな存在が見つかったのだ。

 

 それが、過去に世界を震撼させた原初の魔王と、世界に光を齎した原初の聖女の二人。

 

 詳しい情報までは集まらなかったが、ミリーの勘がサレンと関係していると、足りなかったピースその物だと告げた。

 

「情報ね……まあここはまだ出来てから百年位しか経っていないから、文献が無いのも仕方ないだろう」

「いんや。多分意図的に消されているみたいだよ。緑翼でも確認したけど、切り取られたようにして一部の歴史だけが本から消失しているみたい」

「ふむ。それは気になる情報だね。だが、それが何か問題でもあるのかね?」

「これまでは無かっただろうね。けど、これまでとは異なる教国の動きに、挑発するような王国の動き。そして、あまりにも不自然な現れ方をしたサレンちゃん。そのサレンちゃんに関係していそうな過去の偉人。…………まあ、後はこっちで上手くやっておくよ」

「君達の事を信用していないわけではないが、大丈夫なのかね?」

 

 オーネストは腕を組んで、ミリーを睨みつける。

 

 そこには先程までの優しさは無く、公爵に相応しい威厳のある威圧を放っていた。

 

 幼子ならば死んでもおかしくない威圧の中でさえも、ミリーの様子は変わらず、自分からオーネストに近づいて行き、蓋の開いたワインの瓶を手に取る。

 

「話の中で、転生体って聞いたけどさ。多分、本人だよ。仮説も証明もしようもないけど、あの子には世界を破壊しうる力と、救える力の両方が備わっている」

「……赤の他人ならば、馬鹿馬鹿しいと切り捨てるのだがね」

 

 これまで様々な死線を乗り越え、様々な情報に触れてきたミリーの勘。

 

 なにより黒翼の肩書きは、帝国では簡単に背負えるものではない。

 

「まあ悪いようにはならないと思うよ。正直、正攻法でサレンちゃん()に勝つのは無理だからね」

「それは、魔力を封印してもか?」

「無理無理。今の魔導具じゃあ抑えきれないだろうね。あれには致命的な弱点があるしね」

「弱点?」

 

 帝国で開発された、魔力を無効化する結界の魔導具。

 

 これまで様々な場面で使われ、成果もかなりのものとなっている。

 

 オーネストも昔魔導具の説明を受けており、この屋敷にも数個保管されている。

 

 ミリーに弱点と言われても、それらしいものはぱっと浮かばない。

 

「あれって魔物の魔石を核として使って、魔石以下の魔力を無効化出来るって能力なんだ」

「それが?」

 

 魔物は人に比べて魔力の量が多いとされている。

 

 特にダンジョンに現れる魔物は身体自体が魔力の塊なのもあり、魔石に蓄えられている魔力も多い。

 

 素材が取れないとは言え、魔石の恩恵は計り知れない。

 

 だからダンジョンを潰すのは最終手段なのだ。

 

 そして魔物の種類にもよるが、A級の魔石一個で騎士の中隊ならば無力化が出来る。

 

 それだけの性能があるのならば、問題ないはずなのだ。

 

「逆に言えば、魔石よりも魔力がある奴には効果が無いのさ。まあ、全ては私の想像であり空想だけどね」

「それにしては、とても悲観している様には見えないのだが?」

「そりゃあ、もしかしたら…………おっとこれ以上は内緒だよ。それでは公爵様。善良なる市民の願いを聞いていただき、ありがとうございました」

 

 見た目だけは素晴らしい礼をしたミリーは、ワインを片手に持ったまま、オーネストの前から姿を消す。

 

「黒翼騎士団……態々出向くとはな……」

 

 残されたオーネストはそう言葉を漏らす。

 

 そして、皇帝から聞かされた黒翼騎士団の事をふと思い出す。

 

 黒翼の忠誠は皇帝ではなく、国である。

 

 決して表に出る事は無く、誰からも称賛される事はない。

 

 だが彼らほど、真髄な者達はいない。

 

 そんな騎士団が追う、一人の女性。

 

「教国……少し痛い目に遭ってもらうかな」

 

 軽く笑ったオーネストは、部屋を出て執務室へと向かう。

 

 公爵である前に、オーネストは親である。

 

 息子を亡き者にしようとした存在を許す気は無い。

 

 何よりも帝国は、やられたらやり返すのが信条とされているのだ。

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