なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第115話:ディアナの想い

「サレンさん! 着きましたよ」

「此処が青の庭園(ブルーガーデン)ですか……」

 

 ミシェルちゃんに連れられ、朝から喫茶店でお茶をしたり、少しブラインドショッピングしたり、ドーガンさんの所で新しい武器? を買ったりした後に来たのが、青の庭園(ブルーガーデン)と呼ばれるダンジョンだ。

 

 それと何故か分からないが、喫茶店辺りからずっと寒気……悪寒がする。

 

 万全を期している筈なので、ライラ達に知られていないとは思うが…………少し不安になって来たな。

 

 今現在、ミシェルちゃんは俺の腕に腕を絡めている。

 

 諦めてなすがままの状態だが、もしもライラ達に見られでもすれば、いらぬ火種となるだろう。

 

 一応ダンジョンに潜るので、ミシェルちゃんはしっかりと装備を整えている。

 

 体験入団の時みたいな全身鎧ではなく、関節部分や心臓等を鉄で覆い、他は動きやすく革で出来ている鎧だ。

 

 それとバックラーと、剣を一本装備している。

 

 ゲームで言えば、準前衛や冒険者の装備と言った所だろう。

 

 防御よりも動きやすさを重視している。

 

 俺はこれまでと同じく、ギルド出張所で武器を借りた。

 

 流石に大きなハンマーはなかったので、丈夫そうな棒を選んだ。

 

 正式に名前はあるのだろが、棒は棒だ。

 

 何故ミシェルちゃんが青の庭園に来たかだが、此処はダンジョン内に花が生えており、それをネグロさんにプレゼントしたいらしい。

 

 ここの花は魔力が形を持ったものであり、ダンジョン外に持ち出せば二日程で消えてしまうが、それはそれは綺麗なものなのだとか。

 

 まあ折角ならばと付き合う事にしたのだが、距離が近い事近い事……。

 

 これから当分会えなくなるので、今だけは仕方ないか。

 

 しかし、ダンジョンだと言うのに妙に華やかというか、あまり殺伐としていない。

 

 俺が行った事のあるダンジョンは一つだけだが、もっとこう……血生臭い感じがしていた。

 

「ダンジョン入場予定の方は集合してくださーい!」

 

 ミシェルに手を……腕を引かれてあちこち歩いていると、集合を呼びかける声が聞こえた。

 

「あっ! 時間みたいですね。行きましょうサレンさん!」

「そう焦らなくても大丈夫ですよ」

 

 久々のダンジョンとなるが、個人的にダンジョンにはあまり行きたくない。

 

 ルシデルシアが居る関係で、事故が起こりえるからだ。

 

 流石に初心者ダンジョンに、毛が生えたレベルの場所だから大丈夫だと思うが、心配はある。

 

 短時間で尚且つ浅い場所のならば大丈夫だろうとルシデルシアは言っていたが、最悪の場合はまたルシデルシアに頑張ってもらう事になるだろう。

 

 しかし、何故ダンジョンの方から寒気を感じるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

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「うわー。噂には聞いていましたけど、凄いですね」

「そうですね。ここまで咲き誇っているとは思いませんでした……」

 

 やっとのこさダンジョン内に入ると、それはそれは見事な花畑が広がっていた。

 

 色とりどりだが全体的に色は薄く、儚く美しく感じる。

 

 流石の俺も、これは見惚れてしまった。

 

 ダンジョン内なので勿論魔物は居るが、一層目は弱いゴブリン種しか居ないので、怪我や死ぬ恐れはない。

 

 若い男女が多いと思ったが、こう言った綺麗な風景はデートに最適だろう。

 

 青の庭園は三十層あるダンジョンで、五層目までは比較的弱い魔物しかいないが、他のダンジョンと同じく深層はかなり凶悪なモノとなっている。

 

 分類的に土の系統のダンジョンとなるが、見ての通り植物が生い茂っている。

 

 そのため深層は状態異常を付与してくる植物の魔物がうようよと居るとか。

 

 しかも植物なので、コアとなる部分を破壊するまで動き続ける。

 

 上層とは違い、深層は物凄く不人気だとミシェルが待っている間に教えてくれた。

 

 今回の目的地は四層となるので、早速歩き始める。

 

「そう言えばミリーさんが、サレンさんもダンジョンに何度か行ったって言ってましたけど、どんな人と行ったんですか?」

「教会で一緒に暮らしている方達とですね。どちらも私よりも年下ですが、とても頼りになる子達です」

「ふーん。一緒にですか……どんな子なんです?」

「シラキリとライラと言うのですが、どちらも素直な良い子ですね。偶然助けてから一緒に居るのですが、いつも助けてもらっています」

 

 素直な良い子なのは本当だが…………多くは語るまい。

 

 特にシラキリは、甘えん坊なのは変わらないが、どうも俺に関わる問題に対しては殺気だってしまう。

 

 それはライラとアーサーも一緒だが、二人は最低限わきまえている。

 

 そして本当はシラキリではなくライラとアーサーでダンジョンに行ったのだが、ミシェルちゃんに男と一緒に行ったと言うのは不味いのですり替えておく。

 

「へー。その二人って強いんですか?」

「シラキリの方はそれなりにですが、ライラはとても強いですね。事情があって詳しくは言えませんが、この都市でも上位に入ると思います」

「……本当に年下なんですか?」

 

 生まれや境遇。才能に武器。

 

 本人の努力もあるが、ライラはとにかく強い。

 

 年相応な面もあるが、既に人殺しも経験しているし、躊躇が無い。

 

 ロマンしかない魔導剣も、当たり前のように使いこなしているし、グランソラスを使わなくてもドラゴンゾンビを倒せるくらい強い。

 

「はい。それとシラキリの方は今年入学予定なので、もしかしたら会えるかもしれませんね」 

「そうなんですね。でしたら先輩として面倒を見ないとですね!」

 

 同じ学園に入学するかは分からないが、多分面倒を見られるのはミシェルちゃんの方になるだろうな……。

 

 ネグロさんやミリーさんが太鼓判を押すくらい、シラキリは凄く賢く強くなっている。

 

 俺の前では口調以外年相応だが、ネグロさんとミリーさんが言っているのだから、きっとそうなのだろう。

 

 ギルドランクも、いつの間にか上がっているし。

  

「あっ、ゴブリンです! サクッと倒してきますね」

 

 会話をしている内に二層目へ降り、更に歩いていると三匹のゴブリンと遭遇した。

 

 一層目は大量の冒険者? が居たが、二層目は一気に人が居なくなったためか、魔物っぽい魔力をそこそこ感じる。

 

 ミシェルちゃんは先程までのデレデレとした様子から一転し、体験入団の時の模擬戦の時と同じく、キリっとした姿になる。

 

 ロングソードを抜いたミシェルちゃんは花畑を駆け抜け、ゴブリンの首を刎ね飛ばす。

 

 一匹二匹と確実に倒し、三匹目が手に持っているさびた剣で攻撃してくるが、バックラーで防御したあと、空いた胴体を切り裂いて倒してしまう。

 

 見事なものだ。

 

 普通……とは呼べないが、少女が何の躊躇もなく魔物を倒す。

 

 これぞ正に異世界らしい。

 

 戦い方も普通と呼べるものであり、安心感が持てる。

 

 圧倒的な暴力を振るうライラや、一撃必殺のシラキリとは違う。

 

 これが普通なのだ。

 

「やりましたよサレンさーん! さぁ、どんどん進みましょう!」

「慌てなくても大丈夫ですよ」

 

 念のため足元に注意しながらミシェルちゃんに近づき、再び下層を目指して歩き始める。

 

 ダンジョン内の太陽が燦々と降り注ぎ、心地よいそよ風すら吹いている。

 

 あの淀んだ空気の墓場の掟(リビングルール)とは大違いだ。

 

 最初の一戦以降は魔物と出会うことなく、三層へとたどり着く。

 

 三層はこれまでと違い、木が生えており視界が悪い。

 

 とは言っても所狭しという程ではないので、体験入団の時に入った森よりかなりマシだ。

 

 地面は平らだし、草木をかき分けて歩かなくても良いからな。

 

 ただ妙な事なのだが、俺達に近づいてくる魔物の反応っぽいのが、急に消える事が何度か起きている。

 

 俺の感じているのは大雑把なものだが、妙な感じがする。

 

 ただ単に減るなら分かるが、こっちに向かってきている魔物だけ倒されているなんて都合が良い事が自然に起こるわけが無い。

 

 ふと、ライラとシラキリが頭に思い浮かぶ。

 

 ……いや、此処にあの二人が居るわけが無い。

 

 シラキリは買い物中の筈だし、ライラもこんな場所に来る理由がない。

 

 きっと気のせいだろう。

 

 結局一度も魔物と会うことなく、三層目から四層目に下りる。

 

 四層目は三層目と同じだが、少し鬱蒼としており、視界が悪い。

 

「此処に私が欲しい花があるらしいです。見る角度で色合いが変わるので、直ぐに分かると思います」

「分かりました。名前はあるのですか?」

「通称ですが、虹の花と呼ばれています。このダンジョンの花は風景と同じ扱いで、正式な名前なんかをつけなかったみたいです」

 

 何かしら効果があるならともかく、抜けば二日程度で消えてしまう花に名前をつける意味はないか。

 

 しかし虹の花か……折角だしライラ達にプレゼントしてやるか。

 

 二人とも一応少女なのだし、たまにはそれらしいものを渡すのもありなはずだ。

 

 素材は良いのだが、二人とも化粧っ気が全くない。

 

 俺が言えた義理ではないが、少し位着飾っても良いと思う。

 

 折角年頃の少女なのだし、もう少し戦い以外の趣味を持って欲しい。

 

 まあシラキリは帰ってきたら学園へ行かせるので大丈夫だが、問題はライラだろう。

 

 今のライラは、復讐を糧にして生きている節がある。

 

 燃え上がった炎が消えた後、人は無気力となるものだ。

 

 ライラなら大丈夫だと思うが、先の道を示すのも、大人の役目だろう。

 

 ……そうだな。帰ってきたらシラキリとライラ用のシスター服を作ってやるか。

 

 それと、俺はともかくミリーさんからはなるべく距離を取らせよう。

 

 この前は話さなかったが、あの人はシラキリとライラを黒翼騎士団に勧誘する気なのだと思う。

 

 でなければ、ここまで甲斐甲斐しく世話を焼かないだろう。

 

 俺の我儘なのかもしれないが、アーサーはともかくシラキリとライラには平穏な生活を送って欲しい。

 

 俺がヒモ生活を送れるようになってから。

 

「あっ! 今見えました! 行きましょうサレンさん!」

 

 木々を縫いながら歩いていると、虹の花を見つけたのか、俺の手を引きながらミシェルちゃんが走り出す。

 

 少しすると視界が開け、一面の花畑が姿を現した。

 

 そこはまさに虹の様に煌めく花が一面に広がっており、初めてこのダンジョンに入った時以上の衝撃を受けた。

 

 それと共に、なぜか無性に寂しさが込み上げてくる。

 

 これは……ルシデルシアではなく、ディアナの感情だろう。

 

 ダンジョンとはエデンの塔と呼ばれる、天界と地上を繋ぐ物の破片でできている。

 

 そしてディアナは半神の様な存在であった。

 

 その関係で、何かがあったのだろう。

 

(何か知っているか?)

 

『本人から聞け。我とて語りたくないものがある』

 

 いつも以上に不機嫌だが、まあ悲しいって感情だから嫌な事があったのだろう。

 

 何せ、寝ているはずの人間の感情が溢れる程なのだからな。

 

「……サレンさん? どうかしましたか?」

「いえ。それよりも、早く摘みましょう。いつ魔物が現れるか分かりませんからね」

 

 込み上げてくる涙を押し留め、早足で花畑に向かう。

 

 過去を忘れろとは言わないが、今を生きる事についても考えてほしいものだ。

 

 まあ、生きているとは少々言い難いがな。

  

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