なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第118話:出発!

 王国へ向かう日の朝。

 

 今日は珍しくシラキリと一緒には寝ていないので、普通に目が覚める。

 

 ……珍しくなんて言葉が出る辺り、最近はシラキリと当たり前の様に一緒に寝ていたんだよな……。

 

 まあシラキリはまだ幼いし、俺と出会う前は一人っきりで生きていたのだ。

 

 少し位甘やかしても、バチは当たらないだろう。

 

 スフィーリアを含めた、ホロウスティアに残していく奴らには前日の内に色々とお願いしてあるし、荷物もミリーさんから貰った拡張鞄に殆ど入れてある。

 

 なんだか旅行の日の朝みたいなドキドキ感があるが、これから行くのは復讐の旅である。

 

 それも相手の行動次第では、惨殺が行われる事となるだろう。

 

 まあ、この世界に来て初めて他の場所に行くのだし、少し位浮ついても良いだろう。

 

 俺は基本的に見ているだけだし。

 

 いつものシスター服に着替え、鉄扇を袖に仕込む。

 

 一応手袋も服の裏ポケットに仕舞い、太腿にポーションを装備した革のベルトを巻き付ける。

 

 全て祝福を付与してあるので、回復能力は勿論解毒効果も相当なものとなっている。

 

 保険として装備しているが、ライラが戦いを開始する際には数本渡しておく予定だ。

 

 それとペインレスディメンションアーマーの魔石を、別の鞄に忍ばせておく。

 

「おはようございます。準備は宜しいですか?」

 

 廃教会の外に出ると、いつもは鍛錬をしているライラ達が鍛錬をせず、荷物の最終チェックをしている。

 

 ライラがいつも装備しているグランソラスは念のため拡張鞄とは別の鞄に入れ、髪が見えなくなるように外装を纏っている。

 

 七曜剣グローリアはいつもの様に分解して装備している。

 

 またライラの外装は俺がパーカーを作ってもらった店で、特注して作ってもらった。

 

 通常よりもフードが大きく、縁を重くすることで捲れ難くしながら、蒸れないように工夫してある。

 

 俺の私服とペアルック風になってしまったが、誤差だろう。

 

 若干パーカーを着ているシラキリの目が怪しかったが、それも誤差である。

 

 折角なのでシラキリに合いそうな、耳用の穴が開いているパーカーも頼んだが、流石に今日には間に合わなかったので、帰って来てからプレゼントしようと思う。

 

「皆さん準備は宜しいようですね」

「うむ」

「はい」

「忘れ物はありません」

 

 それは何よりだ。

 

 外の台座に鎮座している女神像は、スフィーリアにたまにでいいので掃除をしてほしいと頼んである。

 

 流石に教会内の掃除を頼むわけにはいかないので、帰ってきたら大掃除しなければだろう。

 

 若しくは上手く金を稼いでおいて、建て替えてしまうのも手かもしれない。

 

 特に公爵家からこっそりと、金目の物を盗めるのならば盗んでしまいたい。

 

「おはよー。みんな準備出来ているみたいだねー」

 

 丁度良いタイミングでミリーさんが現れ、軽く欠伸をする。

 

 装備はいつも通りだが、バッグを背負っている。

 

 眠そうだが、きっとギリギリまで飲んでいたか、或いは仕事をしていたのだろう。

 

 荷物の中にはライラとシラキリの強い推しで、酒類は一切入っていない。

 

 長時間旅をする場合ただの水は腐ってしまうので、薄いワインなどを持っていくのが普通だが、拡張鞄は性質上異空間に物を入れている関係で、時間の流れが現実と乖離している。

 

 つまり、ほとんど時間が進まないみたいなのだ。

 

 なのでただの水でも一ヶ月程度ならば鮮度を保てる……かもしれない……いや腐ってくれないだろうか……。

 

 まあそんなこんなで、水を問題なく運搬できるので、酒はいらないだろうと言われた。

 

 そう言われてしまえば何も言い返すことは出来ず、言い訳らしい言い訳もできなかったので、昨日の夜は一人で最後の晩餐(酒宴)をしていた。

 

 そのためシラキリを、家の方で寝るように説得しておいたのだ。

 

 ライラが居る手前、補給以外で街に寄ることは出来ない。

 

 次に酒を飲めるのは、教国に着いた時か、最後の補給の後となるだろう。

 

「おはようございます。これからよろしくお願いしますね」

「あいあい、そんじゃあ行こっか。歩きとなれば結構時間が掛かるからね」

 

 馬車で行くと思っていたが、街道が使えないので馬車も使えない。

 

 途中までは可能だが、向こうが本気ならば、ホロウスティアから来た馬車を見付け、そこから俺達の足取りを辿る事も可能だろう。

 

 公爵が馬鹿ならば、戦力の逐次投入なんて事をしかねないから、道中で見つかるわけにはいかないのだ。

 

 拡張鞄を俺が持ち、各自で鞄を持って廃教会を後にする。

 

 東冒険者ギルドでマチルダさんに軽く挨拶をして、転移門で西冒険者ギルドへ跳ぶ。

 

 そこから馬車で西門の近くまで行って降りる。

 

 転移している距離を含めれば、これだけで三十キロ位の移動となる。

 

 車があれば一時間もかからないだろうが、歩きでは移動したくない距離だ。

 

「外……初めて出ます」

「シラキリは、ホロウスティアから出た事がなかったのですか?」

「はい。サレンさんと会うまでは転移門も使った事が無かったので、外に出る機会がありませんでした」

 

 日本で言うならホロウスティアは県みたいなものだから、子供が一人で他に行く理由もないか。

 

 ダンジョンに行くときは、基本的に着くまで馬車の外に出る事はないので、ダンジョン付近もホロウスティアの延長みたいなものだ。

 

 ダンジョンはノーカウントとなる。

 

「此処を知ってしまえば、他など田舎みたいなものだ。理由が無ければ外には行かない方が良いだろうな」

「そうですね。インフラだけではなく、食べ物一つとってもホロウスティアより上の場所は殆ど無いと思います。流石に他の大陸は分かりませんが」

 

 王国からきたライラとアーサーからすれば暮らしやすいのだろうが、俺からすればまだやはり不自由感がある。

 

 水と電気は魔導具でどうにかなっているが、ごみについては基本的に灰になるまで燃やして埋めて、お風呂は身体を水で濡らした布で拭いているだけである。

 

 銭湯があるが、俺は入れない…………入りたくないし、ベッドも木板の上に厚手の布を引いているだけである。

 

 騎士団の寮でマットレスだったり目覚まし時計などがあるのを知ったが、庶民が手を出せる様な金額ではなかった。

 

 金があれば元の世界に近い水準の生活が出来るかもしれないが、そんな金は無いのだ。

 

 ワクワク感がいつの間にか消え失せ、世知辛い世の中だと項垂れていると、西門が見えてきた。

 

 それと見知ったシスター服を着た女性が、門の近くに佇んでいる。

 

 見送りはしなくていいと言っておいたのだが、まさか来るとはな……。

 

「見送りをしなくてもいいと言った筈ですよ。スフィーリアさん」

「これから暫く会えなくなるので、最後にお顔だけでもと思いまして。サレン様が居ない間、イノセンス教をお任せください」

 

 気品を感じさせる礼をしたスフィーリアは、俺に近づいて来て手を握る。

 

「何故とは聞きませんが、どうか無事にお戻りください。私は勿論、オーレンやマイケルさん達も、サレン様の事を待っていますので」

「ありがとうございます。それでは後の事はお願いします」

 

 スフィーリアを含め、オーレンとマイケル達に本当の事は話していない。

 

 用事があって数ヶ月ホロウスティアを離れるので、その間よろしくと伝えただけだ。

 

 話し合いはネグロさんを交えて行ったので、今のスフィーリアみたいに何かに感づいている可能性はあるが、とりあえず依頼という事でお願いしてある。

 

 お目付け役としてアドニスにもお願いしてあるので、暴走はしないだろう。

 

「はい。行ってらっしゃいませ」

 

 今度こそ門を潜り、ユランゲイア王国に向けて出発する。

 

 今日も空は晴れており、旅には丁度良いだろう。

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