なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第123話:大人の時間

「戻って来たか……何かあったのか?」

 

 アイリスの街での買い出しと布教モドキを終えて。ライラが居るらしい森まで帰って来たのだが…………俺は落ち込んでいた。

 

 そんな俺の隣ではミリーさんが怒っていますと、分かりやすく頬を膨らませてそっぽを向いている。

 

 何も知らないライラは不思議そうにしているが、この状況は仕方ないのだ。

 

 注目を集めるためのバイオリンの演奏。

 

 これ自体は全く問題なかった。

 

 ライラがこれから行おうとしている事を仄めかし、イノセンス教への興味を誘う。

 

 マッチポンプみたいな感じもするが、何か起こるか話しておくことで、公爵家が潰れた後の混乱を少しでも減らすためだと言われたので、仕方なく提案に乗らせて貰った。

 

 つつがなく終わり、さあ帰ろうと思ったところで、女性に声をかけられたのだ。

 

 そしてなし崩し的な感じでもう一曲演奏したのだが……事故……事件が起きた。

 

 幸い事件に気付いた人は、ミリーさんだけだったらしい。

 

 俺すらも演奏後にルシデルシアから聞かなければ、気付くことはなかっただろう。

 

 どうやら、俺が歌ったせいで、街全体が淡く光っていたらしい。

 

 ミリーさんは屋根の上から俺を見下ろしていたから気付けたらしい。

 

 どんな効果があるかルシデルシアにも分からないが、ダンジョンの時の事を考えると、良い意味でも悪い意味でも普通では無い結果となるだろう。

 

 ミリーさんは俺がダンジョンで起こした事件を知っていたらしく、門の所でのやらかしも含めてそれはもうぷんすかと怒った。

 

 隠密行動中なのに騒動を起こすなとか、やたらめったら力を振るえば良いという訳じゃないとか。

 

 人を助けたいのは分かるけど、場所と手段を考えろと。

 

 他にもこんこんと怒り続け、今に至る。

 

 一応17歳と名乗ってはいるが、実年齢は29歳となるので、俺の方がミリーさんより年上となる。

 

 年下の女性に怒られるのは、結構堪えるものがあった……。

 

「聞いてよライラちゃん。サレンちゃんってばさー……」

 

 それからミリーさんは、街であった事をライラへと聞かせ始めた。

 

 俺はその間こそこそと離れ、夕飯の準備を進める。

 

 一度怒った女性と言うのは、中々静まってくれないのだ。

 

 一人になった事だし、念のためまた確認しておくか。

 

(また聞くけど、本当に何が起きたのか分からないのか?)

 

『分からん。薄っすらとディアナの鼓動が聞こえたと思ったら、ああなっていたからな。寝ぼけている人間に聞いたところで、まともな回答は得られん』

 

 その通りと言えばその通りだが……寝ているならずっと寝ていて欲しいものだ。

 

 傍迷惑極まりない。

 

(薄々予感しているが、ディアナが起きた理由はなんだ?) 

 

『……ディアナは芸術面に関心を持っていてな。余に音楽を教えたのも奴だった。鍵盤楽器や弦楽器の基礎を広めたのも、ディアナであったな』

 

(つまり?)

 

『心が震えて思わず目が覚めた……と言った所だろうな』

 

 だろうねというか、それしかないよな……。

 

 ダンジョンの時もそうだが、俺の意思とは完全に別の意思で発動していた。

 

 俺が自分の意思でやっているわけではないので、調整したり止めたりすることは出来ない。

 

 それはルシデルシアも同じであり、珍しく申し訳なさそうな声をしている。

 

『これからサレンが何かをやる際は、ディアナが眠っている場所を遮断しておく。次はもうないはずだ』

 

(そうか……)

 

 俺には、それ位の言葉しか言えなかった。

 

 会話しながらも食事の料理は着々と進み、後はスープが煮えれば終わりという所で、ライラとミリーさんがこっちに来た。

 

 ミリーさんはまだ少し怒っている様な感じであり、ライラは複雑な表情をしている。

 

 少しだけだが今回の事件はライラも関わっているので、予想外の結果に申し訳なく思っているのだろう。

 

「食事の準備をしておきました」

「まったくサレンちゃんは……はぁ」

 

 溜息を吐き、ミリーさんは腰を下ろす。

 

「シスターって名乗ってるけど、絶対嘘だよね?」

 

 黙秘しておきます。

 

「その……些か問題があったようだな」

「ライラが心配する事はありませんよ。きっと天で見ているレイネシアナ様が、困っている民を見て奇跡を起こしたのでしょう」

「神様ねー……」

 

 スープとパンを二人に渡し、ミリーさんがジト目で見てくる。

 

 今回は本当に事故なので、信じてもらいたい。

 

「はい。道中でも話しましたが、ミリーさんに言われるまで私自身もあんな事になっているとは分かりませんでしたので。それに、ミリーさんが言った通りの規模ならば、人の魔力では無理なはずですからね」

 

 俺の言い分に、スープを飲みながらミリーさんは呻く。

 

 ぶっちゃけ魔力量的には俺でも行えるだろうが、流石にミリーさんが知るわけもない。

 

「それもそうだけど、聖女クラスなら出来てもおかしくないしねー。森での事を考えると、それ位魔力があっても私は驚かないよ」

「何の事か分かりませんが。私はただのシスターですよ」 

 

 森で戦ったルインプルートネスの出来事を、どれだけミリーさんが考察しているか分からないが、決定的な証拠は残していない。

 

 ミシェルちゃんが黙っている限り、ルシデルシアがやったとは分からないはずだ。

 

 しかし適当に作ったスープだが、割りと美味しいな。

 

 買ってきたパンは、ホロウスティアでシラキリが買ってきてくれる物に比べると数段劣る。

 

 肉も何だがパサついている感じがする。

 

 ホロウスティアで買って来たパンの在庫はまだあるが、折角なので食べてみたけど失敗だったな。

 

「森で思い出したけど、サレンちゃんって料理も普通に出来るよね」

「基本的な事だけですよ。切ったり焼いたりするくらいは誰にでも出来るでしょう?」

 

 凝ったものを作らないのならば、料理なんて簡単だ。

 

 レシピが無いので目分量となるが、尖った味覚をしていない限り変な味になることもない。

 

 少しライラの視線が泳いでいるが、俺は見なかったことにする。

 

「簡単に言うけど、出来ない人は出来ないものなんだよ? それにめんどいし」

「道中は私が作りますので、任せてください」

 

 談笑しながら夕食を終えて、片付けをする。

 

 野営用の魔導具を持ってきているので、今の様に料理は勿論、寝るのも問題ない。

 

 これで馬車があればもっと楽なのだが、道無き道をいく関係で仕方ない。

 

 さて、問題は片付けが終わった後だ。

 

 森を背にしているとはいえ、ここで寝るわけにはいかない。

 

 魔物避けに焚き火をしないといけないし、日が完全に落ちてからの焚き火は目立つので、こんなところでやれば見付けてくださいと言っているようなものだ。

 

 森の中へと入り、ライラが作っておいてくれた広場で腰を下ろす。

 

 焚き火を起こし、ミリーさんとアイコンタクトをする。

 

 今回の買い出しでこっそりと酒を買ってきたわけだが、ライラに知られるわけにはいかない。

 

「夜の番ですが、一人が寝て、一人ずつ交代で宜しいでしょうか?」

「そうだな。それで問題なかろう」

 

 先ずはさりげなく、俺とミリーさんが起きていてもおかしくない理由を作る。

 

 そして肝心なのが、ライラに寝ていてもらうことだ。

 

 ――それも何も勘づかれることなく。

 

「最初はライラが寝てください。その次はミリーさんと言うことで」

「……分かった」

「りょうかーい」

 

 ライラが寝ようとしている間に、ミリーさんは野営用の罠を仕掛け、俺は暇潰しにノートへ色々と書いておく。

 

 出会った魔物や、あった出来事。街の名前や街で見聞きした事。

 

 要は日記みたいなものだ。

 

 ネットで調べれば情報を得られる現代とは違い、この世界では人から聞くか、自分で調べるしかない。

 

 なので忘れないように、こうやって書いておくことは大事なのだ。

 

 それに旅の間は毎日書いているので、ライラに不審がられる事もない。

 

 二十分程で書き上げて拡張鞄にしまい、焚火の近くに移動する。

 

 するとミリーさんも罠の設置から帰って来て、隣に座る。

 

 言葉は交わさず、揃ってライラの方を見る。

 

 規則正しく身体が上下しているので、一定の間隔で呼吸しているのだろう。

 

 ライラが横になって十分以上経っているので、既に寝ているかもしれないし、まだ寝ていないかもしれない。

 

 もしも狸寝入りだった場合、直ぐに酒を取り上げられてしまうだろうが……。

 

 ミリーさんの方を見ると、頷いてくれた。

 

 どうやら本当に寝ているみたいだな。

 

「それでは……」

「そうだね……」

 

 拡張鞄からコップとワインを取り出し、摘まみとして豆を炒って塩を振った物を取り出す。

 

 本当はチーズなんかも食べたいが、匂いがきついのはライラを起こす可能性があるので、今回は諦める。

 

「飲むのも久々だねー」

「久々と言っても、ホロウスティアを出てから一週間も経っていませんよ?」

 

 飲めないなら飲めないで耐えれば良いのだが、飲める機会があるのなら飲みたい。

 

 そして今がその機会である。

 

「それでもだよ。とりあえず一杯やろうか」

「そうですね」

 

 乾杯してから、先ずは一杯分を飲み切る。

 

 開けたのは、どこにでもある普通の赤ワインだ。

 

 ホロウスティアの様に沢山の種類があったわけではないので、店員イチオシの奴を数本買って来た。

 

 所謂名産品のワインと言う奴だな。

 

 酸味が舌から喉へと抜け落ち、身体が仄かに熱くなる。

 

 少々物足りない感じだが、やはりホロウスティアで売られている酒が特別なのだろう。

 

「うーん。昔飲んだ時よりも、味が落ちてるね。これじゃあ輸出してもあまり売れなさそうだよ」

 

 単純に不味くなっていただけか。

 

 昔の美味しいのを飲んでみたかったが……。

  

「原因は何でしょうか?」

「多分人手不足だろうね。それと、味が良いのは献上させられてるかもね」

「それはまた……」

 

 あまり詳しくないが、ワインを作るのは結構手間が掛かったはずだ。

 

 異世界なのだから魔法でどうこうってのはあるかもしれないが、それでもどうしようもない部分はあるのだろう。

 

「国や領地って人が支えてこそ成り立つものなんだ。その人を蔑ろにすれば、このワインの様にどんどん駄目になっていくってわけさ」

 

 ミリーさんはグイっとワインを飲み、吐き捨てる様に言う。

 

 どれだけ健全な企業でも、腐敗する可能性はある。

 

 その腐敗を取り除けるならば良いが、出来ないならば待っているのは破滅だ。

 

 この公爵領のようにな。

 

 

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