なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第127話:目覚めし原初の魔王

「やってくれおる! 奴め、堕ちおったか!」

 

 赤い髪は黒く染まり、頭からは二本の角が生えた姿。

 

 サレンは……いや、ルシデルシアとなったサレンは、血を吐きながらもその怒りを声として出す。

 

 膨大な魔力が吹き荒び、戦っているライラは手こそ止めないものの、その魔力により全身に鳥肌が立った。

 

 今までに感じたことも無い邪悪な魔力。

 

 魔物で言えばSS……いや、それ以上だろう。

 

 今のライラをもってしても、逃げ出したくなる程のものだった。

 

 そしてライラがそう感じているという事は、コネリーの騎士達も感じているという事だ。

 

 一部の者はライラから魔力を感じた方に視線を送り、事態を把握しようと勝手に動き出した。

 

 ルシデルシアは腹に刺さった剣を乱暴に引き抜き、無理矢理傷を塞ぐ。

 

 回復の奇跡こそ使えないが、ルシデルシアは魔法として回復魔法を会得している。

 

 傷跡は少し残るが、後でサレンに戻れば綺麗に治す事が出来るだろう。

 

 そして、引き抜かれた剣は腐りながらボロボロと崩れていき、消えてなくなった。

 

 直ぐにサレンへと戻っても良いが、今のサレンは怪我のショックによって気を失っている様な状態だ。

 

 それに……。

 

「一撃で逃げたか……小癪な真似を」

 

 剣を放った者は既に逃げ出しているが、安全とは言い難い。

 

 何より、ルシデルシアの気が済まない。

 

 この身体は自分だけではなく、サレンとディアナのモノである。

 

 剣で貫かれた程度とは言え、許すことは出来ない。

 

 黒幕についてどうにか出来れば良いと思っていたルシデルシアだが、この時点をもって、明確に相手を敵と定めた。

 

「見ているだけにしようと思ったが……やられたならばやり返すのが余の流儀だ。繋がりは知らんが、恨むならば馬鹿な事に加担した己を恨め」

 

 踊らされているとはいえ、コネリーもルシデルシアからすれば同じ敵であり、滅ぼすべき対象である。

 

 ライラに全て任せようと、サレンと決めていたが、手を出されたなら別である。

 

 怒りに任せてルシデルシアは、魔力を周囲に巡らせる。

 

「果てより()でし虚空の門よ。災禍を振り撒き、余の眼前に道を切り開け」 

 

 ルシデルシアから魔力が一点に集まり、いびつな形をした魔法陣を作り出す。

 

 込められた魔力はライラの使った山断ちを優に超えており、あまりの魔力に魔法陣の周辺の空間が歪む。

 

「ファイナル・カタストロフィー」

 

 魔法陣が弾け飛び、世界の一部を闇が満たす。

 

 突然の事態にライラは足を止めて目を見開く。

 

 そして魔力で強化されている目で、ルシデルシアを捉えた。

 

(あの服は間違いなくシスターサレンのモノだ。しかし、あれは……何が起きている……)

 

 ライラが困惑する中、ライラの目の前で闇がズレる。

 

 そして……闇の中の全てが消滅した。

 

 その範囲はとても広く、ライラの目の前を起点とし、見渡せる範囲が更地と化した。

 

 残りの騎士の六割以上が巻き込まれ、コネリーの屋敷も一部くり抜かれた様になくなってしまった。

 

 もう、戦いどころではない。

 

 山断ち以上の悲惨な惨状に、騎士達は恐慌状態に陥り逃げ出してしまった。

 

 指令を出していた男や、その側近はルシデルシアの魔法によって消失し、隊長クラスもほとんど消えてしまった。

 

 恐慌を収められる立場の者はおらず、ライラも戦いどころではなくなってしまった。

 

 それよりも、今の魔法を使った存在の方が、ライラは気になって仕方ない。

 

 おそらく、魔法を使ったのはサレンだと予想はつく。

 

 だが見た目は変わり果て、どう見ても同一人物には見えない。

 

 神官服を着ていなければ、気付けなかっただろう。

 

 それに、服に付着している血も気になる。

 

 一先ず戦いは終わり、ライラがグランソラスを鞘に納めると髪の輝きも収まる。

 

 酷い眩暈に襲われるが、ライラは目を閉じてゆっくりと深呼吸をした。

 

 この後は、コネリーを殺せば終わりとなる。

 

 だが、その前にサレンの変化について確かめなければならない。

 

 渦中に居る二人とは別に、ミリーは遠目から全ての騒動を見ていた。

 

「……もう、帰りたいな」

 

 その一言が、ミリーの現状の全てを表している。

 

 ライラの放った山断ちに、グローリアの魔法による一斉掃射。

 

 それからサレンを襲った五人や、屋敷の方から放たれた一本の剣。

 

 ――そして、サレンの変化。

 

(サレンちゃんが避けられなかったって事は、何かあったんだろうけど、この感じって森で感じた魔力と一緒だよなー。二重人格ってよりは全く別人っぽいし、うーん……知りたくなかった様な……けど)

 

 ミリーは暗殺者の死体から剣を引き抜き、先の事を考える。

 

 変化したサレンが敵ではないことは分かるが、だからと言って近づくことは躊躇われる。

 

 おまけに今使われた魔法も問題だ。

 

 ほとんど間を置かずに放たれた今の魔法を。もしもホロウスティアで使われれば、一発でホロウスティアは半壊するだろう。

 

 一発耐えれば終わりなら良いが、今の魔法すら全力ではない。

 

 そう、ミリーは思えた。

 

 サレンだけの問題ならば説得すれば良いが、サレンを攻撃した存在も気になる。

 

 ほとんど感知できなかったが、数キロ離れている場所から正確に狙撃している時点で、相当な人物だと予想できる。

 

 どうしてサレンを狙ったのか……。

 

 相手には心当たりがあるが、一旦胸の奥にしまい込む。

 

「気が重いなー。そう思わない?」

 

 こんな時でも襲ってくる暗殺者達に、ミリーは声を掛ける。

 

 そして迫りくる剣を右手に持っている剣で弾き、首を左手の剣で斬り飛ばす。

 

 更に飛んでくる風の魔法を屈んで避け、右手の剣を投げる。

 

 一番近い暗殺者に接近し、すれ違いながら頸動脈を斬り、更に腰に差していた小剣を強奪する。

 

 左手に持っていた剣に魔力を込めて投擲すると、暗殺者が避ける寸前に爆発し、辺りに鉄片を撒き散らす。

 

 暗殺者達は鎧など着ていないため、鉄片により血を撒き散らす事となる。

 

 最もダメージを負った暗殺者に接近し、首に小剣を突き刺して殺す。

 

 死体となった暗殺者を蹴っ飛ばして盾にし、更に腕に持っていた剣を奪い取る。

 

(強くはないけど、やっぱり数が多いね……結構殺したと思ったんだけどなー) 

 

 此処に来るまで数十人規模の追っ手や暗殺者を殺しているのだが、今日サレン達と別れてから既に十人以上殺している。

 

 溜息を吐きながらも蹴っ飛ばした死体と共に暗殺者に近づき、一人二人と命を刈り取る。

 

 そして襲って来た計五人の暗殺者を亡き者にしたミリーは、武器の補充をしてから死体を魔法で粉々に粉砕する。

 

「粗方殺ったと思うけど……うーん」 

 

 合流するか暫く様子を見るか……。

 

 ミリーは遠くに居るサレンを見る。

 

 丁度ライラと合流したところだが、まだ髪は黒くて角が生えたままである。

 

 今戻れば何かしら情報を得られるかもしれないが、何が起こるか分からない。

 

 このまま様子を見るに徹すれば、一先ず命の危機は無い。

 

 ミリーが抱えている()()()な問題を考えるならば、今の状態のサレンの事を知っておきたい。

 

 もしも今のサレンが、ミリーの求めるような存在ならば……。

 

 自分が抱えているこの淀んだ復讐心を、解き放ってくれるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 敵だった騎士が逃げたライラは、サレンと合流したのだが、口を開く事が出来なかった。

 

 祖父とは違う上に立つものとしての覇気。

 

 いつもよりも更にキツイ目元。

 

 服に空いた穴と、付着している血も気になるが、一体どうすれば良いのかライラは熟考する。

 

 そして考えているのはルシデルシアも同じであった。

 

 サレンが可愛がっている少女たちの前に出る気は全くなかったのだが、まだサレンは目覚めていないので、代わる事が出来ないのだ。

 

 ミシェルの時と同じく口止めするべきであるが、下手な事を言ってサレンの精神を不安にさせる結果だけは招きたくない。

 

 そしてルシデルシアに幼子……少女の扱い方はサッパリである。

 

 サレンを通して見ているとはいえ、自分が出来るわけではない。 

 

「ライラ……だったな。余は諸事情でサレンと共にある者だ。サレンを害する気は無いので、安心せよ」

「……はい」

 

 相手は恐怖の対象であるはずなのだが、ライラは声を聞いて妙な安心感を感じてしまった。

 

 それは祖父に抱いていた肉親への情の様なものであり、意味が分からずライラは困惑する。

 

 原因はライラのグランソラスこと、神喰のせいだった。

 

 先程までグランソラスの能力を使っていたため、グランソラスの残留魔力がまだライラの中に残っているのだ。

 

 そしてグランソラスは、ルシデルシアが造ったものである。

 

 意思のある武器であるグランソラスに、親愛を感じるなというのも酷な話であった。

 

「どうもー。裏方のミリーさんだよー」

 

 二人の間に重い空気が流れる中、空からミリーが降って現れる。

 

 熟考した結果、ミリーは話してみる事にした。

 

 相手はミシェルを一応助けているはずの存在であり、サレンの嫌がる事はしないと予想できる。

 

 ならば、自分が殺される可能性は低い。

 

 そう判断した。

 

「お前はミリーであったな。暗殺者はよいのか?」

「ほとんど潰したよ。それで、あなたは一体誰なのでしょうか? サレンちゃんじゃないサレンちゃん?」

 

 話し方や容姿が変わりどうみても、サレンと名乗ることは出来ない。 

 

 それにルシデルシアとしても、自分をサレンディアナと名乗る事はしたくない。

 

(気を抜いた自分を恨むがよい。サレン……)

 

 責任をサレンへと擦り付け、どこまで話すかを考える。

 

 既にルシデルシアは死んだ存在であり、表に出るべき存在ではないし、表に出るべきではないと考えている。

 

 ならば、サレンと同じ手を使うしかない。

 

 騙るのだ。自分自身を。

 

 幸い丁度良い名前が一つ残っている。

 

「余の名はレイネシアナ。神であり、訳あってサレン……ディアナの身体を借りている」

 

 サレンが作り出した偽りであり真実の神。

 

 ルシデルシアは自分で自分を騙った。

 

 

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