なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第133話:ルシデルシアのせい……じゃない?

 シラキリと交代で寝袋に入り、目を閉じる。

 

 意識が落ちていった後、浮上すると共に目を開けると、いつものルシデルシアの部屋にいた。

 

 ここにはあまり来たくは無いのだが、ピアノの練習だったり、ヴァイオリンの練習だったりとかなりの頻度で来ている。

 

 学生の頃にたむろしていた、友達の家位の頻度だ。

 

「来たか。まあ座れ」

「言われなくても」

 

 ここでなら自分を取り繕わなくても良いのだが、自分の声が自分で慣れない。

 

 夢の中くらい元の姿に戻れれば良いのだが、そんな便利な魔法はない。

 

 ソファーに座ると俺とルシデルシアの前に紅茶が現れ、一口飲む。

 

 悔しいのだが、これが中々美味い。

 

「さて、情報も集まったところで、余の考察も交えて話すとしよう。先ずは奴の名前だが、豊穣の神サクナシャガナで間違いない」

「ライラの家で剣を放ってきた奴だな?」

「ああ」

 

 急に身体が動かなくなり、剣で腹を貫かれた。

 

 意識を失う前に遠目だが、翼の生えた人が見えた。

 

 ミリーさんが先程話した事を考えれば、奴がサクナシャガナなのだろう。

 

「奴の能力や人柄は置いとくとして、現在の奴の状況を話そう。先程の話通り、現在の奴は人の身に堕ちている」

「堕ちているって事は、状況的にあまり良くないと?」

「うむ。前に神について話したと思うが、現在の奴は最低でも五人以上の神の力を取り込んでいるはずだ。人と言う器も限界はあるが、先程の話を聞く限り、器の方も無理矢理大きくしているのだろう」

 

 ルシデルシアは規格外だからおいておくとして、そもそも人の身に神を降ろす事自体が普通じゃないと思うのだがな……。

 

 俺が無知なのもあると思うが、普通神より人の方が容量とかが小さいと思うのだが、どうなのだろうか?

 

「サレンなら分かると思うが、普通ならば人の身に神など降ろせば、爆発四散するだろう。それに、他の神を取り込むなんて事も不可能だろう」

「なら何であんなのが?」

「これは推測でしかないが、人の器を繋ぎ合わせ、神の精神を入れられるだけの大きさにしたのだろう」

「……俺の場合は?」

「余とディアナは器の外で間借りしていただけだ。今は特殊な状況だが、コップに付着する水滴が余達だった感じだな」

 

 分かりやすい例えだが、例えからすると物凄く嫌な予感がする。

 

「人の器って普通拡張とが出来るものなのか?」

「不可能だ。方法は余にも分からぬが、あやつは魂のフランケンシュタインといった感じだろうな」

「器を砕いてから継ぎ接ぎして、大きくしたと?」

「うむ。三十人程いて生き残りが二人だとするならば、そう言う事だろうな」

 

 人の業……とでも言うのか、それとも神の執念なのだろうか……。

 

 悪い言い方だが、人とは消耗品の部品みたいなものだ。

 

 倫理を無視するならば、これ程万能で使い勝手の良い部品は中々ない。

 

 神にとっては、そう言う事だったのだろう。

 

「それと天界に善意の方が残ったと言っていたが、それはおそらく違うだろう」

「……どういうことだ?」

「奴は既に他の神を取り込んでいる。つまり、天界側で何かしらのアプローチがされていた可能性が高い」

 

 言い分は分かるが、それならばミリーさんが生かされている理由が分からない。

 

 ミリーさんなんて危ない存在ではなく、他の人物を聖女にするなり、端からミリーさんを監禁しておけば良いのだ。

 

「サレンが考えている事は分かる。おそらくだが、ミリーが聖女になったのは不可抗力なのだろうと思う」

「不可抗力?」

「うむ。予測の域を出ないが、器となった少女の悪足掻きの結果であり、サクナシャガナに乗っ取られる瞬間、ミリーを自分の聖女としたのだろう」

 

 あり得ない……ことではないな。

 

 もしもサクナシャガナが完全の状態ならば、もっと世界が混沌としていてもおかしくない。

 

 人の身になったのは百五十年位前だが、暗躍自体はもっと昔からしているのだからな。

 

 まあ向こうもおそらく…………いや、これまで全てルシデルシアのせいだったから、視野が狭まっていたな。

 

 一つ勘違いしていたことがある。

 

 俺がこの世界に居るのは、聖女召喚によってディアナが呼ばれたからだ。

 

 もしもルシデルシアに復讐したいならば、呼ぶのは聖女ではなくて魔王だ。

 

「確認したいのだが、もしも剣で刺される時に居たのが俺ではなく、ディアナだった場合どうなっていた?」

「神力はディアナには通じぬ。あの剣も普通に避けていただろう。それがどうした?」

「俺は意識を失ってしまったが、サクナシャガナは直ぐに退いたんだよな?」

「そうだな。我が表に出る前にはいなくなっていたな。どれだけの神を取り込んでいるか分からぬが、余の存在には気付いていない可能性もある」

 

 なるほど。なるほど。

 

「通常時の俺ってどちらかと言えばディアナよりなんだよな?」

「そうだな。魔力の質などもほぼディアナと同等だろう」

「今回の件だが、おそらく復讐の相手はルシデルシアではなくて、ディアナではないだろうか?」

「――ほう?」

 

 ニヤリとルシデルシアは笑みを浮かべてから、腕を組んでソファーにもたれ掛かる。

 

 これはあれか? 自分が悪くないと分かり、安心したってやつか?

  

「あの聖女召喚を企んだのがサクナシャガナだとして、お前を召喚するならばそんな事をしないはずだ。流石にルシデルシアとディアナの魂が一緒に居るなんて相手には分からない筈だろう?」

「そうだな。この世界の生き物が知る方法は無い」

「何故ディアナなのか分からないが、向こうが本当に呼び出したかったのはディアナであり、ルシデルシアは異物なのだろう。俺にあんなことをしたのも、俺をディアナだと勘違いしたからだろうな。当たる筈の無い攻撃が当たり、拍子抜けしてさっさと帰ってしまった……そんな所か」

 

 サクナシャガナが態々出張って来た理由は、おそらくミリーさんだろう。

 

 そしてそこにディアナとよく似た人間が居たので、挨拶代わりに攻撃したらあっさりと死んでしまったから帰った。

 

 向こうとしてはこんな所か。

 

 無論考察しなければいけない点はいくつも残っているし、俺の仮説も的を射ていない部分がある。

 

 現実として俺は狙われた身であり、俺を狙ったサクナシャガナは敵だ。

 

 そしてミリーさんの敵でもある。

 

 この事が揺らぐことは無いだろう。

 

「そういう事もありえるな……人にとっての希望ではあったが、神からしたらまた別の問題の可能性もある。何故復讐なんて企てたかは本人に聞かなければならんだろうな」

「個人的には聞く必要もなく殺したい相手ではあるけどな。大きな事を成そうとしている人……神の言葉は惑わせるだけだろうからな」

 

 復讐が目的だとすれば、その裏には同情してしまいそうな情報があってもおかしくない。

 

 ならば、殺されそうになったから殺す。

 

 ただの正当防衛としておいた方が、何も感じないで済む。

 

 やるのは俺ではないが、知らない方が幸せな事は、いくらでもある。

 

「そうだな。余もディアナと、あの勇者との決戦の際は幾多も言葉を交わしたが、今思えばやるべきではなかったと思う。余も言葉に流されなかったわけではないからな」

「そういう事だ。言葉というのは剣にも盾にもなる。状況さえ整えば、言葉一つで人は簡単に死ぬんだからな」

 

 若い世代で例えれば虐め。社会で言えばパワハラ。

 

 ラスボスが主人公の言葉で改心するなんてのも、例の一つだろう。

 

 俺も言葉で人を騙している様なモノだが、時には言葉なんて不要な方が良い。

 

「ところで、ディアナの魂の様子はどうだ?」

「順調ではあるな。余が目覚めた時と比べれば、大分整ってきている。まあ、差で言えばコンマ以下の上方修正だがな」

「この世界に小数点なんて概念は無いはずなんだがな……」

 

 俺が知っている事は、ルシデルシアも知っている。

 

 それはこの世界だけではなく、元の世界での事もルシデルシアは知っている。

 

 おそらく実際に生きていた時よりも、色々と賢くなっていると思う。 

 

 それが良いか悪いかはまた別だけど。

 

「まあたった数ヶ月で、期間が上方修正されたのだ。サレンの頑張り次第ではもっと早くなるだろう」

「早く目覚めて欲しいが、不安でもあるんだよな……これまでのやらかしを考えると」 

 

 寝ている筈なのに、これまで何度も問題を起こしてくれている。

 

 シラキリの件だけは百歩譲って許しても良いが、それ以外は本当に寝ているのか疑いたくなる位だ。

 

 無駄に話し掛けてくるがルシデルシアが可愛く見える程度には、辟易している。

 

「……まあなんだ、奴も悪気があるわけではない。許せとは言わぬが、聖女とはそう言うものだ」

「そう言うものってどう言うことだ?」

「これと決めたことは絶対に譲らない、鋼の意思……まあ、ただの我が儘だな」

 

 結構ディアナに対して評価をしていたのだが、ルシデルシアよりもポンコツだと考えを改めた方が良さそうだな。

 

 目覚めたら頭を叩いてやるとしよう。

 

「そう落ち込むでない。ディアナだが、目覚めさせるのを少し早められるかもしれん」

「どうやってだ?」

「余がサクナシャガナを倒す際に、神喰で奴の神力を奪い、ディアナの魂に取り込ませる。上手くいけば大幅な短縮となるだろう」

「危険性は?」

「余達には無いが、不安要素が一つだけある」

 

 確かルシデルシアは過去に大量の神の力を取り込んでいるとか言っていたし、取り込むこと自体は大丈夫なのだろう。

 

 問題はその不安要素だろう。

 

「それは?」

「ミリーとサクナシャガナ。それから依り代となった少女の繋がり次第では、ミリーも一緒に喰われる事となるだろう」

 

 運が悪ければミリーさんも犠牲になるかも……か。

 

 出来れば、そうなる事は避けたい。

 

 ミリーさん的にはサクナシャガナさえ倒せれば良いのだろうが、先々を考えればミリーさんに生きていてもらわなければ困る。

 

「その不安要素を無くす方法ってあるのか?」

「――勿論だ」

 

 ルシデルシアは魔王らしい笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がる。

 

 何だか、とっても嫌な予感がする……。

 

 

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