なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第135話:過去を振り返る

 ミリーさんが取り出した首輪を見て、俺とシラキリは揃って首をかしげ、ライラとアーサーは苦い顔をした。

 

一体この首輪はなんなのだろうか?

 

「ホロウスティアからほとんど出ていないサレンちゃんとシラキリちゃんは、知らないかもしれないけど、これは奴隷用の首輪さ」

「奴隷用の首輪ですか?」

 

 奴隷と言ったら首輪。

 

 後は紋様とか契約書的なものが思い浮かぶので、言いたいことは何となく分かる。

 

「そっ。国によって色々と法律が違うんだけど、マーズディアズ教国でこれを付けている人以外は、何をされても文句は言えないんだ。まっ、それだけでもないんだけどね」

「個人的にはあまり好きではないのですが……」

 

 一応シラキリにこれを付けさせない方法が一つ思い浮かぶが、それをシラキリが受け入れる事は無いだろう。

 

 先に帰っていてくれと言っても、首を横に振られるのは目に見えている。

 

「これ自体は本物じゃなくて、ただの偽物だから外そうとすれば簡単に外せるよ」

 

 そう言ったミリーさんは自分の首に首輪をつけ、それからすぐに外してみせた。

 

 あくまで見た目だけって事か。

 

「どうするかはシラキリちゃん次第だけど、これが駄目なら先に帰って……」

「つけます」 

 

 全てをミリーさんが言い終わる前に、シラキリがきっぱりと言い放つ。

 

 そしてミリーさんの手から首輪を奪い取ろうとするが、それをミリーさんはひょいと避ける。

 

「つけるのは王国の国境に着いてからだよ。これはあまり長くつけていない方が良いからね」

「……分かりました」

 

 何故かシラキリは落ち込みながらミリーさんから離れ、俺の隣に戻ってくる。

 

 ライラが苦笑いをしているが、自分から首輪を嵌めようとするのを見れば、苦笑いするのも仕方ないだろう。

 

「後の事は道すがら話そうか。それじゃあしゅっぱーつ!」

 

 ミリーさんの掛け声と共に、森の中を歩き始める。

 

 先ずは国境だが、無事に抜けられると良いな……。

 

 

 

 

 

1

 

 

 

 

 

「あっ」

 

 遠足気分で森の中を歩き、とくに問題なく一日目を終えた。

 

 そして次の日一旦森を抜けて歩いていると、急にミリーさんが声を上げた。 

 

「ねえライラちゃん」

「どうした?」

「今更だけど、妹は良いの?」

 

 ライラは顔を歪めた後、ため息を吐いた。

 

 そう言えば親であるコネリーの話は聞いたが、家族の事は何も聞いていなかったな。

 

 貴族の子息が一人だけなんてそうそうないだろうし、姉妹や兄弟が居てもおかしくない。

 

「あれは放っておけば勝手に潰れてくれよう。それに、あわよくばこちらの利になり得るかもしれん」

「あー……まああの性格だしね。ライラちゃん的にはこれからどうなると思う?」

「あの腐った王国が取る手段など、簡単に予想がつく。愚妹を悲劇のヒロインに仕立て上げ、適当な王子と結婚させる。そして残っている利権や財産を全て王国側で接収するだろう」

 

 なんだかライラが言っている事は王国にとっては良い事の様に聞こえるのだが、末恐ろしさを感じさせる何かがある。

 

 一体どういう事だろうか?

 

「それで?」

「愚妹に王子が取り込まれ、散財させられた結果、あたかも悲劇のヒロインの様に振舞いながら、王国に不幸を振りまくだろう。愚妹は自分さえ良ければそれで良いクズだからな。自分以外は全てゴミとでも思っているのだろう」

 

 何だろうな……昔外国に居たとある貴族の様な奴だな……。

 

 妹がまともだから生かすのではなく、妹を生かしておいた方が王国への復讐になるという事か。

 

 平民が困る事にはなるが、ライラとしては知った事ではないのだろう。

 

 石を投げてきた相手を許せるほど、善人ではないし、俺がライラの立場でも慈悲を見せる事は無いだろう。

 

「それで少しずつ傾いてきた所で、王国を滅ぼすと?」

「我はそこまでする気は無い。滅ぼすも取り込むも、帝国次第だ。手土産としては、過分ないだろう?」

「あー、便宜を図れって事?」

「捉え方は任せる。が、場合によっては我の力の向きが変わるかもな」

 

 不敵な笑みを浮かべるライラとは違い、ミリーさんはガックリと肩を落とす。

 

 何気ないやり取りだが、ミリーさんの思いを知ってしまった今となっては、痛々しく見えてしまう。

 

 本当によくこれだけ、自分を偽れるものだな。

 

 騙ってる自分とは違い、その胸に秘めた憎悪は凄いものだろうに。

 

 いつもならこのまま会話を流してしまうが、ミリーさんの好感度を上げておかなければいけないので、少し加わるとするか。

 

「ライラ。あまりミリーさんを苛めてはいけませんよ。一応帝国の騎士でもあるのですから」

「ふっ、そうだな」

「一応ってなんだよー。まあ、とりあえず報告は上げておくけど、決めるのは上だから、あまり当てにはしないでよね」

 

 何故だか呆れられてしまったが、どうやら選択肢を間違えたようだな。

 

 ゲームみたいに選択肢があれば楽なのだが、現実ではそうもいかない。

 

 キャバクラで培った俺の話術を持っても、男と女では使える手口が違うので、ほとんど使う事が出来ない。

 

 まだ焦る時間でもないし、少しずつミリーさんの事を知っていくとしよう。

 

「巻き込まないでくれれば、それ以上は言わん。無意味な争いなどこりごりだからな」

「いやー、それはサレンちゃんと居る限り避けられないんじゃあないかな?」

 

 ミリーさんの頭をライラが叩き、とても良い音を響かせる。

 

「いてて……ちょっと冗談を言っただけなのに、ライラちゃんは容赦がないなー」

「ふん。馬鹿な事をほざくのが悪い」

 

 庇ってくれるのはありがたいが、ミリーさんがそう言いたくなる理由も分かる。

 

 これまで俺が巻き込まれて来た事件は数多く、しかも中々の規模だ。

 

 悪いのは俺というよりはルシデルシアやディアナなのだが、一心同体となっている今、俺のせいとも言える。

 

 騎士団の件だけは完全に巻き込まれだが、それ以外がなぁ……。

 

「僅か三ヶ月ほどでしたが、色々とありましたからねぇ……シラキリやライラとの出会いも含めて」 

「……」 

 

 シラキリとライラが揃って空を見上げるが、これまでの事を思い出しているのだろう。

 

 そして、揃って俺から目を逸らした。

 

 思い出した結果、起きた事件の数々の中身で、ミリーさんの言った事が的外れではないと気付いたのだろう。

 

「いや……まあサレンちゃんが悪い訳じゃあないのは分かっているけど、基本的に大事件には全部関わっていたからね」

 

 ミリーさんが慰めの様な言い訳を並べるが、俺自身が理解しているので問題ない。

 

 これから先も、色々な問題に巻き込まれていくのだろう。

 

「我ながら、色々な事件に巻き込まれはしましたが、その代わり皆さんと出会えましたから、悪い事ばかりではないです。ですが、視線を逸らされるのは……」

「む、すまぬ。色々とあったものだからな……」 

「ごめんなさい……」 

 

 一番俺の被害を受けていないアーサーだが、その代わりライラやシラキリに色々、と酷い目に遭わされているのは知っている。 

 

 まあアーサーはライラ関係の人間なので俺は悪くないと思うが、一概に俺が悪くないとは言い切れない。

 

 今のライラやシラキリの性格は、多分俺のせいだからな。

 

 そう言えば昨日からずっと気になっていたことがあるのだが、空気が緩い内に聞いておくか。

 

「そう言えばミリーさんの武器はどうしたのですか? ずっと手ぶらみたいですが?」

 

 ぴたりとミリーさんが止まり、それから何食わぬ顔で歩き出す。

 

 その様子を見たライラの目は険しくなるが、一体どうしたのだろうか?

 

「いやー。実は戦っている時に壊れちゃってさー。国境に着いたら買おうかなーなんて」

「つまり、国境まで戦う気は無いと?」

「いや、いざとなればシラキリちゃんの小刀でも借りようかなーと」

「嫌です」

 

 きっぱりとシラキリは断り、ぷいっとそっぽを向く。

 

 その後ミリーさんは、ライラの方を向く。

 

「貴様の武器の使い方を知っている我が貸すと思うか?」

「だよねー…………どうしましょ?」

 

 腕を組んで首を傾げるミリーさんに対して、ライラがため息を吐く。

 

 しかも態々声を出しながら。

 

「どうせ数日の事だ。剣が無くても良いだろう。それに、無くても戦えるのだろう?」

「まあね。そういうわけで、基本的に戦いは任せたよ」

 

 にっこりと笑ったミリーさんの頭を、再びライラが叩き、中々の音を響かせる。

 

 先日数千人を虐殺したと言うのに、何も変わらないと言うか、平和と言うか……。

 

 PTSDとか鬱とかになってもおかしくないと思うのだが、流石異世界である。

 

 まあそれは俺にも言える事だが、魂が混ざってしまっている俺の精神は、日本に居た頃とはかなり変質している。

 

 殺人への忌避感はあるものの、目の前で人が死んでも動じない胆力がある。

 

 自分の手で殺すことは出来なくても、死への価値観は間違いなく変わっている。

 

 こんな他愛もない時間が続けば良いのだが……やれやれ。

 

 それからもダラダラと言う程でもないが歩き続け、夜を迎える。

 

 野営自体は慣れたものだが、街灯が無い真っ暗な夜は少し恐怖を感じる。

 

 そんな恐怖を感じる代わり、焚火の良さに気付く事が出来た。

 

 昔キャンプが流行った理由が良く分かる。

 

「今日は何事もなく終わって良かったねー」

「……むう」

 

 シラキリが不満そうに呻いているが、あれも訓練なのだから仕方ない。

 

 歩いている時に、暇という事でシラキリの訓練をする事になった。

 

 内容は簡単なもので、ミリーさんを捕まえる。つまり鬼ごっこだったわけだが、結局シラキリは捕まえる事が出来ずにタイムアップとなった。

 

「私はちょっと明日の朝まで出かけてくるから、見張りとかは頼んだよ」

「何所に行かれるのですか?」

「馬車を取りにちょっとね。それじゃあまた朝に」

 

 アーサーに手を上げてから、ミリーさんは闇の中へと消えていく。

 

 明日からはやっと、馬車での移動となるのか……歩くのはそんなに辛くないが、歩いている間は何もすることが出来ない。

 

 馬車がどの程度しっかりしているか分からないが、バイオリンの練習位は出来るだろう。

 

 現実と夢では違いがあるからな。

  

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