なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第156話:アーロンとコーヒー

「お、シスターさんだけとは珍しいじゃねぇか。他のはどうした?」

 

 リビングで鉄扇のメンテナンスをしていると、アーロンが帰ってきた。

 

 背中には大剣を背負っているのは会った時と一緒だが、雰囲気は大分柔らかいものとなっている。

 

 不動産屋としての仮面を被らずに、黒翼騎士としての態度なのだろう。

 

「ライラは部屋で、それ以外の方は外に出かけています」

「そうか。シスターさんは……それは何を?」

「鉄扇と呼ばれる、護身用の武器の手入れです。ご覧になりますか?」

 

 二つある内の片方は今現在バラした状態だが、もう片方はまだそのままである。

 

 鉄扇はかなり精密な武器に部類されるが、この鉄扇はそうではない。

 

 そもそも素材は鉄ではないし、多少の傷程度は勝手に直る。

 

 そう簡単に歪むこともなく、上手く先端で振るえば鉄程度ならば斬れる程の硬さと薄さを兼ね備えている。

 

 だからと言って放置しておくのも何なので、バラしてから一枚ずつ磨いている。

 

 傷は消えても、ちょっとしたくすみは消えないからな。

 

「……少し見させてもらおうか」

 

 バラしていない方の鉄扇を持ったアーロンさんは、眉をひそめながらも隅々まで鉄扇を見て、開いたり閉じたりする。

 

 職業柄なのだろうが、かなり手慣れた感じに見える。

 

「……これって隠し持っているのか?」

「はい。基本的に袖に隠しています」

「こんなん持ってちゃあ魔法も使えないし、重くないのか?」

 

 見ただけで素材が何なのか分かるのか……流石だな。

 

 まあ持っていると魔力を持っていかれる感覚があるとドーガンさんも言っていたし、分かるものなのかな?

 

 鉄扇の素材は魔法を阻害する効果があるので、効果だけ聞けば強そうに聞こえるが、使用者の魔法も阻害する。

 

 ついでに比重が鉄の比ではなく、物凄く重い。

 

「私は魔法が使えないので、問題ありません。それに、この程度の重さは問題ありません。良ければ、その大剣を貸していただいても?」

「あ? まあ構わねぇぜ」

 

 明らかに重い大剣を受け取り、親指と人差し指で持って腕を伸ばす。

 

 その状態でも腕は震えず、感覚で言えばテレビのリモコン位の重さを感じる程度だ。

 

「――おいおいおい。どんだけ怪力なんだよ……よく持てるな」

「少し特殊な事情がありまして。剣をお返ししますね」

 

 驚きに固まりながらもアーロンは大剣を受け取り、背中に背負う。

 

「あの人と一緒に居るから普通じゃないとは思っていたが、顔の通り、凶悪なようだな」

「この顔は生まれつきですので何とも。もっと愛嬌のある顔ならば、布教活動も楽なのですが……」

「……まあ……何だ。あの人が力を貸してくれてんなら、大丈夫だろうよ。色々と有能な人だからな」

 

 顔を逸らしながらもしっかりと応援してくれる辺り、根は良い人なのだろう。

 

 この顔のおかげで良かったことは、ナンパされないこと位だろう。

 

 それ以外ではデメリットであった事しかない。

 

 酒場で飲んでいたら、急に踏んでくださいとか、罵ってくれとか言ってくる酔っ払いが現れたりしたからな。

 

 後は話しかけてきたと思ったらすぐに逃げて行く人や、声をかけたら逃げられたなんて事もある。 

 

「つかぬ事をお聞きしますが、ミリーさんは黒翼騎士団の中で、どれ位有名なのですか?」

「……あの人が何番隊所属か知っているか?」

「確か三番隊と」

 

 折角他に人が居ないので、ミリーさんについてアーロンさんに聞いてみる事にした。

  

 ミリーさんが黒翼騎士団所属と分かってからたまに話をしているのだが、俺が思っている以上に黒翼騎士団は極秘な存在らしく、あまり教えてくれない。

 

 聞けたのは何番隊なのかと、同じ隊の隊員についてだ。

 

 後は人が少なくて、名前通りブラックって事だな。

 

 後ライラが犬とか何とか言っていたような……。

 

「そうかい。因みにだが、黒翼が帝国外でどう言われているか知っているか?」

「あまり知りません。ミリーさんから話を聞くまで、存在すら知りませんでしたので」

 

 他の翼については本にも載っていたが、黒翼については何も書いてなかった。

 

 ライラから聞いて知ったのだが、黒翼騎士団とは都市伝説の様な存在なのだ。

 

 一般でも知っている人はいるが、あくまでも噂程度であり、本当にあるとは思っていない。

 

 貴族の間ではかなり有名だが、その特異性から社交界とかで話題に上がる事は少ないのだとか。

 

「なるほど。まあ黒翼の存在は、基本的に極秘にされている。知らなくても仕方ない事だろう。俺から話せることは少ないが、それでも構わないか?」

「ありがとうございます」

 

 駄目だとは思ったが、どうやら話してくれるみたいだな。

 

 まったく知らない俺にとっては、少しの情報でもありがたい。

 

 どれ位話が長くなるか分からないが、流石に飲み物も無しというのは少々寂しい。

 

 折角ならばワインでも飲み交わしたいが、まだ昼間であり、ライラが居る家の中で酒を飲む勇気は俺には無い。

 

 なので、あまり淹れたことはないのだが紅茶を用意した。

 

 なお、自分の分にはこっそりとラム酒を入れておいた。

 

「紅茶になります」

「悪いな……なぁシスターさん。カップを交換しないか?」

「味見の時に口を付けてしまったので、遠慮しておきます」

 

 流石にラム酒の匂いが強すぎたせいか、気付かれてしまったようだな。

 

 まあ譲る気は無いので、アーロンさんの対面に座り、さっさと一口飲んでおく。

 

「あの人が好きそうな性格をしやがってからに。本当にシスターなのかい?」

「良ければ聖書をプレゼントしましょうか?」

 

 国境で布教は駄目だが、この位は大丈夫だろう。

 

 相手は一応帝国民だしな。

 

「遠慮しておく。さて、あの人についてだが、俺が知っているのは基本的に人から聞いたものだ。それを踏まえた上で聞いてくれ」

 

 紅茶に大量の砂糖を入れたアーロンさんは、一口紅茶を飲んでから話し始めた。

 

「あの人……ミリーさんについてだが、黒翼の中でも珍しく外回りの人だ。最近じゃあホロウスティアで活動しているらしいが、昔はあちこちを転々としていたらしい……が」

 

 一度言葉を区切った後、アーロンさんは辺りを見回す。

 

「俺が知っている中でも、あの人の活動は二十年以上前から確認されている。この意味が分かるか?」

「見た目と年齢が合っていないということですね」

「ああ。俺も此処に飛ばされてから五年経つが、帝都に居る時は様々な噂が飛び交っていた。曰く、不老だとか。曰く、生んだ子供とすり替わったとかな。まあゴシップとしてはこんなもんだな。後は知っているとは思うが、あの人は黒翼の中でもかなり強い部類に入る。それと他の能力もかなり高い」

 

 見た目と年齢については知っているが、おいそれと他人に話せる内容ではないので、知らない振りをしておく。

 

 強さについてはライラから聞いているし、多芸なのは見ていれば分かる。

 

 アーロンさん自身が別にミリーさんと親しい訳でもないし、仕方ない事ではあるが、あまり新しい情報を得ることは出来ないかもな……。

 

「隊長になれるだけの能力はあるが、何故か拒んでいるって噂があるな。俺としては羨ましい限りだ。それと、身長の事を気にしているらしい。下手に本人の前で言うと、大変な事になるってもっぱらの噂だ」

 

 女性ならば、身長や胸の薄さを気にするのは仕方の無い事だろう。

 

 俺としてはもう少し胸は小さい方が良いのだが、今更どうしようもない。

 

 どちらかと言えば巨乳の方が好きだが、あくまでも他人のを揉んだり見たりする場合だ。

 

 自分の事となって思ったが、小さい方が何かと楽で良かった。

 

 小さいと言うよりは、そもそも男だったので、大きいも小さいもなかったのだが。

 

「あの人について話せるのはこの位だな。これ以上突っ込んだ事を話せば、俺が消されてしまう」

「いえ、少しでも知る事が出来ればと思っただけですので、気にしないで下さい」

「ふっ、そうかい。あの人の事ではないが、折角だし第三部隊の事を少し教えてやろう」

 

 ニヤリと笑ったアーロンさんは、紅茶の代わりを持ってくると言って、一度席を外す。

 

 数分すると、仄かに香ばしい香りが漂い、アーロンさんが帰って来た。

 

「待たせたな。これは知り合いからもらった珍しい飲み物だ」

 

 テーブルの上に置かれたコップの中で黒い液体が湯気を立てており、良い香りが漂う。

 

 どう見てもコーヒーですね。

 

 昨日の朝喫茶店で飲みました。

 

「コーヒーですか」

「なんだ、知っていたか。あまりメジャーじゃあないから、驚くと思ったんだがな」

 

 頭を掻きながら悪びれた様子で、砂糖とミルクをどうするか聞いてきたので、ブラックで大丈夫だと伝える。

 

 コーヒーは喫茶店で飲んだのより雑味がなく、かなり美味しい。

 

 酸味が強いが口当たりがまろやかであり、香りもフルーツのような感じで、余韻が長く続く。

 

 これはわりとお高いコーヒーなのではないだろうか?

 

「黒翼は全部で六部隊まであるんだが、その中でも第三部隊は有名でな。隊長の名前は知っているか?」

「アランさんですか?」

「そうだ。若くして隊長になり、第二の帝都と呼ばれる、ホロウスティアの裏側を支配している傑物だ」

 

 アランさんと会ったのは一度切りであり、薄暗い事もあってしっかりと確認出来ていないが、確かに若かった様に見えたな。

 

 マフィアみたいな人という印象が一番残っているが、多分三十代くらいだろう。

 

「その下に三人の副隊長が居て、更にその下に平の騎士が居る。まあ平と言っても、実力は他の翼の副隊長クラスだ。他の翼を貶す訳じゃあないが、黒翼は基本的に激務だからな。実力がなければやってられんのさ」

 

 他国の国境で、一人で働かされているアーロンさんの言葉は、中々重みがあるな。

 

 普段のミリーさんは忙しそうには見えないが、王国に出かける前、偵察という事で、一人で出掛けていたりする。

 

 ついでにライラと協力……とは言えないが、一緒にシラキリを殺そうとした違法奴隷商を捕まえたりもしている。

 

 そう言えばドーガンさんが、ミリーさんはよく武器を壊すとか言っていた気がするな。

 

 ……激務なのだろうな。

 

「アランさんの他に二人ほど会った事があるのですが、人数はどれ位居るのですか?」

「残念ながらそれは機密事項だな。シスターさんを信用していないわけじゃないが、人数ってのは結構大きな情報でな。言えるとすれば、こんな広い街で担当が俺一人って理由を察してくれ」

 

 なるほど。人手不足って事か。

 

 

 

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