なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第161話:良い旅

「馬車に問題は見付からなかったので、これにて検問は終わりとなります。良い旅を」

 

 部屋で二十分程待っていると、やっと馬車の方も許可が出た。

 

 どうやらライラは見付からなかったようだ。

 

 アーサーのガイアセイバーや、ライラの魔導剣は隠せるものではないので、馬車に置いたままだったが、特になにも言われなくて良かった。

 

 流石に物が物なので、贈呈用の品と考えられたのかもしれないな。

 

「問題無いようでなによりです」

「此方としても同意見だ。外まで案内するので、付いてこい」

 

 部屋から出て、馬車まで案内される。

 

 外見上変化はなく、荷台の荷物は配置が変わっているが、減っているなんて事は無さそうだな。

 

 特に会話をすることもなく馬車へと乗り込み、アーサーが出発させる。

 

 後はこのまま国境を出る流れだ。

 

「何も起きなくて良かったねー」

「そうですね。思ってたよりも高圧的ではなかったですし」

 

 仕事としてなるべく高圧的に接している感じだったが、根がいい人なのだとよく分かった。

 

 さて、だらける前にライラを箱から出すとしよう。

 

 運が悪いことにライラの入っている箱は上に積まれているので、安全を考えると俺がやるのが一番良い。

 

 そんなわけで箱を下ろし、通常の蓋と隠し蓋の両方を取り外す。

 

「やっとか。問題なく越えられたようだな」

 

 怠そうにしながらライラが箱から出てきて、軽く柔軟をする。

 

 無事に密入国の完了である。

 

 折角心配してもらっていたのだが、世間的に見て俺達がやっていることは完全に犯罪だ。

 

 大量殺人からの密入国兼逃亡。

 

 知られることはないだろうが、捕まれば即死刑だろう。

 

「お疲れ。先ずはこのまま国境を出て、二つ先の町辺りまで行って、そこで軽く買い出しだね」

「やっと身体を動かす事が出来るな。後で手伝え」

「えー、シラキリちゃんとやりなよ」

「憂さ晴らしに付き合わせるわけにもいくまい。それなりに念を入れてやりたいのでな」

 

 国境の街ではまったく訓練が出来なかったので、ストレスの発散をしたいってことか。

 

 確かにストレスの発散にシラキリを付き合わせるわけにはいかないな。

 

「うーん。別にいいけど、魔法は無しだからね?」

「無論だ。騒ぎになっても困るからな」

 

 魔法は無しと言いながら、ライラは魔導剣を組み換えて三本の剣を作り、一本は床へと置いたままにする。

ままにする。

 

「私もやります」

「やるのは良いけど、先ずは街を出てそれなりに離れてからね。人通りの少ない道を進む予定だから、訓練の時間は結構取れるよ」

 

 やる気を出すシラキリを宥めて、ミリーさんが苦笑いをする。

 

「あっ、お金は両替しておいたから、間違わないようにね」

「分かりました」

 

 色々と準備をしてくれているようで助かる。

 

 やはりミリーさんを仲間に引き入れたのは、正解だった。

 

 

 

 

 

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 国境を越えてから街を出て、しばらくは馬車や人通りが多かったが、二日もするとまばらになってくる。

 

 人も少なくってきたので、ライラも髪を隠すことを止めて、荷台の幕も開けたままになった。

 

 そして暇なので、ミリーさんに色々と知識を披露してもらった。

 

 教国は三つあり、現在居るのがアレスティアル教国になる。

 

 ここはサクナシャガナとは関係ない国であり、一応敵ではない。

 

 しかしホロウスティアでは他の教国と一緒になって、俺に嫌がらせをしていた…………らしい。

 

 俺の預かり知らぬところで色々とあったらしいが、直接的にダメージはないので許さない事もない。

 

 チエルの件は直接的とは言えなくはないが、向こうもまさか俺と繋がりがあるとは思わなかったはずだ。

 

 一応チエルを唆そうとしていた人はホロウスティアから追放され、宗教の方は罰金を課せられたと噂で聞いた。

 

 どの教国関係の宗教かは教えられなかったが、この話は一旦おいておこう。

 

 教国は三つとも国境が隣接しており、教国内は行き来が楽にできる。

 

 普通に考えればありえない事なのだが、この世界ではこれで成り立っている。

 

 元の世界の宗教で考える場合、宗教同士は基本的に分かりあう事が出来ない。

 

 片方の宗教は豚肉を食べる事を禁忌とし、もう片方は豚肉を食べる事を推奨していた場合、争いが起きるのは必至だろう。

 

 他人だからと無視出来れば良いが、神を信仰している者の大半は、自分の信仰を他人に押し付けようとするのだ。

 

 言葉で言って分かれば良いのだが、神敵は殺せってなるのが常だ。

 

 しかし、この世界では隣接していても戦争が起こることなく維持されている。

 

 三つの内二つは中身が一緒と言うのがあるが、アレスティアル教国の気質によるものが大きい。

 

 所謂戦いの神を崇めており、戦って勝つことが理念とされている。

 

 この戦いと言うのは殺し合いも含まれはするが、基本的に不殺を掲げているため、人的被害はかなり少ない。

 

 また、聖地も被っていないため、聖地を取り合っての争いも起きない。

 

 更に言えば三つの教国は、下部組織として零細の宗教を抱えている。

 

 相互扶助と言えなくもないが、潰さない代わりに上納金を納めている関係なので、ヤクザやマフィアとそう変わらないかもしれない。

 

 一応それ以外にもメリットはあるみたいだが、俺には関係ないとミリーさんは話すことはなかった。

 

 それはその通りだが、後程俺も似たような宗教体系を取る必要が出てくるので、この話しはその時に聞くとしよう。

 

 アレスティアル教国については今回は通り過ぎるだけなのだが、注意事項がある。

 

 他の国も一緒だが、俺の情報が少なかれど出回っている可能性が高いのだ。

 

 更に教皇の代替わりのせいで国内は荒れるとまではいかないが、まだまだ忙しなく動いている。

 

 俺の存在はホロウスティアの宗教関係者にとって、とても大きなものなので、向こうからしたら何故国内にいるのかと驚かれる事になる。

 

 排除に動くのか、これまで以上に熱心な勧誘をするかの二択であり、放置されることはない。

 

 変装しようにも俺の容姿は目立つので、髪の色を変えでもしない限り、直ぐにバレてしまうだろう。

 

 そして魔法的な隠避は魔法を無効化する方法がある以上、染めるしかないのだが、そもそも宗教や名を偽る事が出来ないので、無意味である。

 

 神への想いを偽るのは禁忌であるので、仕方ないと言えば仕方ない。

 

 俺自身が偽っていると言うのに、偽る事が出来ないとはまた面倒な事だ。

 

 まあ染めるのが面倒というのもあるので、俺の事についてはバレてから考えれば良い。

 

 下手に計画を立てた所で、崩れるのは目に見えている。

 

 俺の場合はライラみたいに隠れても意味は無いからな。

 

 とは言え、流石に仕事は諦めよう。

 

 騒ぎになると分かっていて、やるつもりはない。

 

 再びニートとして過ごそうと思う。

 

 また、教国にもダンジョンがあるが、俺は入りたくないので関係ない。

 

 ダンジョンで思い出したが、エデンの塔の跡地に行くのを忘れていたな。

 

 サクナシャガナに襲われたせいで、すっかり忘れていた。

 

 行ったところで何か得られる可能性は低いが、ディアナが目覚めたら行ってみるとしよう。

 

 まだまだ先の話だが、エデンの塔は直す必要があるかもしれないからな。

 

 神の減りすぎ問題とかもあるし。

 

 今回の目的地はマーズディアズ教国になるのだが、国を跨いでの移動となるので、一週間以上かかる。 

 

 人間以外は人に非ずとしており、奴隷以外でこの国に居ることは出来ない。

 

 例外もあるが、シラキリが例外になることは不可能なので、首輪を嵌めて奴隷になってもらっている。

 

 因みに俺も正式には人ではないが、検査などをされても人としか認識されない。

 

 角の跡はルシデルシアが顕現するためにあり、見た目は人ではないが、人でもあるのだ。

 

 つまり、これまで通り角の跡さえ見られなければ、人間と名乗れる。

 

 まあそれ以前の問題があるのだが、俺は迫害をされないと言うことだ。

 

 滞在については国境の街と同じく、ミリーさんが何とかしてくれているようなので、心配はない。

 

 そしてそんなミリーさんだが、現在ライラと戦っている。

 

「やはり動きだけは速いな」

「そりゃあそういう仕事をしているからね」

 

 街道を外れ、森の近くに馬車を停めてから二人は戦いを始めた。

 

 お互いに二刀流であり、相手を傷つける魔法の使用は禁止している。

 

 使っているのは真剣なので、当たればどこかしら飛びかねないのだが、そんなミスをするような二人ではない。

 

 身体強化をし、地面が抉れる位強く踏み込み、幾多も剣を交える。

 

 戦いながら会話をする余裕がある辺り、全力というわけではないのだろう。

 

 ライラは剣を分解させないし、ミリーさんも剣以外での攻撃はしていない。

 

「やはり剣の腕だけで貴様に勝つのは難儀しそうだな」

「ライラちゃんは剣士じゃなくて、魔法使いでしょうに……」

 

 ライラの強みはその魔力量であり、ミリーさんが言う通り剣士ではなくて魔法使いだ。

 

 当たり前のように剣で戦っているが、ライラが剣の修行を本格的に始めたのは、俺と会ってからとなる。

 

 それまでは魔力にものを言わせて、時間を稼ぐように使っていた。

 

 技量でミリーさんに叶う筈もなく、何ならライラの剣の腕はシラキリよりも低い。

 

 なのに何故ミリーさんと打ち合えているかだが、魔力で身体だけではなく目も強化しているからだ。

 

 目で剣筋を追えれば、後はどうとでもなるとライラは言っていた。

 

 俺も似たようなことをやっているが、チートを疑いたくなる。

 

「むー」

「シラキリは私のお手伝いをお願いしますね。戦いはまた今度です」

 

 戦っている二人を尻目に、現在俺は昼飯を作っている。

 

 作っておいたサンドイッチは昨日の内に無くなったので、今は時間になったら馬車を止めて料理を作っている。

 

 そして唸っているシラキリは、放っておくと戦いに混ざりそうなので、手伝いをさせている。

 

 いつもならばそれなりの物を作って終わりだが、今回はパンを生地から作ってもらってる。

 

 なんとシラキリはパンが好きなだけあり、パンを作る事が出来るのだ。

 

 例のシラキリが贔屓にしているパン屋でシラキリは働いていた事があり、材料さえあればパンを作る事が出来る。

 

 だが、そんな材料を俺は買った覚えがない。

 

 このシラキリ。パンだけでは飽き足らず、パン酵母すら買ってきていたのだ。

 

 小麦粉やバターすら用意してあり、折角時間があるという事で作っている。

 

 窯についてはガイアセイバーを持っているアーサーに作って貰った。

 

 土属性とは便利な魔法である。

 

 この中で言えば、光属性だけは使える人が居ない。

 

 完全に悪役側の属性構成である。

 

 いや、一応俺は光属性と呼べなくもないのかな? 中身に魔王が居るけど。

 

「美味しいパンをお願いしますね」

「頑張ります!」

 

 シラキリを煽てながら、パンの具材とスープを作る。

 

 旅って感じがするなー。

 

 

 

 

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