なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第167話:マヤの商談

「ライラさんの武器って重くないのですか?」

 

 宿屋を出発して歩いていると、マヤがライラの武器を見ながら呟いた。

 

 背中に大剣を二本。腰に普通の剣を二本。

 

 どれも少女が持つにしては大きい。

 

「常に身体強化しているから大丈夫だ。無論、魔力切れを起こすようなヘマはしないから安心してほしい」

「そうなんですね。特殊な剣の様に見えますが、宜しければお聞きしても?」

「俺も気になるな。戦えることは知っているけど、それだけの得物は見たことが無いからね」 

 

 ロイも話に混じり、ライラは仕方なく答え始めた。

 

「これはとあるドワーフが作った試作型の魔導剣だ。七つの属性を持った剣を自在に組み合わせる事が出来、見ての通り様々な形の剣を使う事が出来る」

 

 因みにグローリアは形が形のために鞘が無い。

 

 いや、買った当初はあったのだが、流石に変形機構のある鞘なんてのはドーガンさんにも作るのが難しく、ライラの意向でいつの間にか使わなくなったのだ。

 

 抜き身は危ないと思うかもしれないが、ちゃんと剣帯に特殊な保護魔法がかかっており、ライラが身体に括りつけている時は刃が何かを切る事は無い。

 

 値段が値段なので、そこら辺のアフターケアもしっかりとしてるのだ。

 

「それは凄いですね……待って下さい。それは全ての属性をライラさんが使えるという事ですか?」

 

 純粋に驚いたマヤだが、直ぐにライラの言ったことのおかしさに気付き、真顔になる。

 

 それに対してライラは軽く笑って返す。

 

「流石に全ては使えん。水と光だけは、剣の補助を借りて補助的に使える程度だ」

「それでもかなり……いえ、なんでもありません」

 

 ロイが何か言おうとするが、そのまま口を閉ざす。

 

 加護無しの場合、一つか二つの属性が使えれば良い中で、ライラのこれは割りと非常識である。

 

 沢山の属性が使えれば強いと言うわけではないが、確かロイはライラの戦いを見ていたらしいので、ライラが強いのを知っているのだろう。

 

 剣の腕はまだまだと本人は言っているが、完全に謙遜にしか聞こえない。

 

 剣にも魔法にもライラに隙はないのだ。

 

 まあそのライラはグランソラスなんて対軍……いや対神武器を持っているので、本気ならば剣や魔法の腕以前の問題となるのだが。

 

 ルシデルシアが言うには、個人でグランソラスに抗う術は無いらしいし。

 

「それだけの剣ともなると、とても値が張ると思うのですが……」

「試作と名が付いているように、まだ未完成故初期費用はそうでもなかった。その代わり改造費は天井知らずだがな」

「そう言えば今のところどれくらいかかっているのですか?」

 

 ライラとシラキリが武器の改修? 改造をしているのは知っているが、合計でいくら使っているのかは聞いていない。

 

 一度一緒にドーガンさんの所に行った時は加工費で十万と言っていたが、素材費を含めれば一気に膨れ上がっている。

 

 加工費だけで済むのは、ライラが冒険者であり、素材を自分で取りに行けるからだろう。

 

「加工費だけならば、教国の通貨で言えばこれまでで二百万程だな。素材費はないが、もしも素材費を合わせれば三千万位だろう」

「……あの、ひょっとしますと、ライラさんってかなり凄い方なのですか?」

「さてな。この髪が持つ意味を知っているのならば、大方理解できるだろう」

 

 ライラはマヤが何かしら隠し事をしている事に、気付いているようだな。

 

 まあ俺達は勇者一行ではなくて、魔王一行だ。

 

 情報関係についてはかなりのアドバンテージがある。

 

 何せ五人中三人はそちら方面のプロみたいなものだし。

 

 しかし、それにしてもとんでもない額だな……。

 

 流石に土地代には届かないが、教会の建て替え費用にはなる。

 

 流石に豪華絢爛なとはいかないが、質素な教会を作る分には足りる……と思う。

 

「あっ、あの店になります」

 

 話をしている内に目的の店に着いたのか、マヤが足を止める。

 

「いらっしゃいませ。何かご入用ですか?」 

 

 店に入ると、ふくよかなお腹をした男性が店番をしており、数人の客が店内を見ている。

 

 マヤがおすすめするだけあり、店内には様々な調味料や香辛料が揃っている。

 

 店番もふくよかなだけあり、人の良さそうな顔だ。

 

「おすすめの物を三点程。それからソルトと黒ペッパー。バジルとタイム。ガーリックにターメリックとジンジャー。ああ、後それから……」

「ストップ、ストップだお嬢さん。流石にそんなにいっぺんに言われても用意できんよ。とりあえずおすすめのをご用意するので、待っていて下さい」

 

 まくし立てられた店番は何とかマヤの言葉を遮り、商品の棚から香辛料を三つ持ってくる。

 

 分かっていたつもりだが、調合や薬関係の宗教なだけあり、此方方面にも明るいんだな。

 

 一応知っている名前ばかりだが、そうポンポンと名前なんて俺は出せない。

 

 俺なんて市販されているブレンド物以外では使う事はない。

 

 流石に隠し味でバジルを使う程度はするが、様々な香辛料を混ぜるなんてのは無理だ。

 

 料理とは奥が深いものであり、使われる調味料や香辛料は多岐に渡る。

 

 一々自分で組み合わせて使える程、俺は料理の趣旨が深くない。

 

 昨日マヤに使わせてもらった奴も、かなり精密な調合をしているのだろう。

 

 日本に居た時ですら、あれ程のブレンドされた調味料を味わったことはない。

 

「えーっと、とりあえずこの三つが今のおすすめだね。どれも中々良い仕上がりになってるよ」

「それでは少し失礼しますね」

 

 慣れた手付きで店番が持って来た袋を開けて、匂いを嗅ぐ。

 

 それを三回繰り返した後、軽く悩むようなそぶりをした後に二度三度と頷く。

 

「コリアンダーとカモミールを二十グラムずつお願いします」

「ふむ。何故オレガノを避けたんだね?」

「収穫の時期が少しずれしまっているようですね。品質に問題はないですが、香りが少々弱いです」

「ふむ。でしたら此方はいかがでしょう? 少々値は張りますが、一級品に近い物となります」

「……ブレンドされているものは結構です。粗悪品ではないですが、やり過ぎは良くありませんよ?」

「お見逸れしました。誠意は金額にて出させて頂きます」

 

 お互いに笑みを絶やさず、言葉の攻防の末に店番が頭を下げる。

 

 聖女ではなく、これではただの商人だな。

 

 神の意思だの、お布施の代わりにだのと言わない分好感が持てる。

 

 しかもさらっと値切っているし。

 

「こんなものですかね……。サレンさんは何を買うのですか? 目利きはお任せください」

 

 自信満々に言われても、俺が買う予定なのは塩と胡椒。それからバジル位の予定だ。

 

 それ以上は素人である俺に使えと言われても無理だ。

 

「塩と胡椒以外はマヤさんのおすすめをお願い出来ますか? 出来れば後で使い方も教えていただけると」

「分かりました。お任せください」

 

 再びマヤは店番と、あーだこーだと話を始める。

 

 年下だと言うのに、本当にしっかりとしている。

 

 この様子ならば任せて良さそうだな。

 

 ついでに安く済んでくれるのはありがたい。

 

 邪魔するのも悪いし、終わるまで店内を見て回るとしよう。

 

 主に売っているのは香辛料だが、それ以外にもちょっとした雑貨や、干物も売られている。

 

 干物は出汁を取るのに使え、日持ちもするので重宝する。

 

 折角だし、少し買っておこうかな。

 

 椎茸っぽいのがあるので、みそ汁やお吸い物を作るのに良いだろう。

 

 出来れば鰹節なんかがあれば良いのだが、流石に無いか。

 

 後は魚や肉の干物もあるので、良さそうなのをライラに選んどいてもらう。

 

 冒険者なので、そこら辺の保存食にも詳しいはずだろうからな。

 

「いや、日帰りが基本故、良し悪しなど分らん。マヤさんに任せてしまった方が良いだろう」

「そうですか。ロイさんはどう思われますか?」

「俺でもそれなりの目利きは出来ますが、マヤさ……んに任せた方が確実かと思います。干物に使われている調味料から判断できますから」

「そうですか。でしたらマヤさんに、お願いしてみようと思います。どうかよろしくお願いします」

 

 それもそうかとしか言えないが、折角ならばお願いしてしまった方が、美味しいものが食べられる。

 

 しかし、ロイがマヤの名前を呼ぶ時に、一瞬だけ間があった。

 

 間違えて()()ではなくて様で呼びそうになってしまったのだろう。

 

 聖女ならば様付けで呼ぶのが普通だろうし。

 

 分かっていた事だから気付かない振りをしといておくが、少々迂闊過ぎないだろうか?

 

 日常的に呼び慣れており、それだけ尊敬されていると考えれば好感は持てるが、身を隠しているならば相応の注意が必要だ。

 

 王国では色々と騒動を起こしてしまったが、ライラの存在が知られる事無く国境を越えられたのは、相応の注意を払っていたからだ。

 

 命を懸けているのならば、しっかりとしてほしい。

 

「お待たせしました。此方がサレンさん達の分になります。お金は馬車に戻った時にお願いします」

「ありがとうございます。すみませんが、干物選びにも付き合っていただけないでしょうか?」

「お任せください! 良いのを選んで見せますよ!」

 

 良い笑顔を浮かべて、マヤは干物の売られているコーナーに歩いて行く。

 

 何やらテンションが高いが、良い物が買えたのだろうか?

 

 まあ悪い事ではないし、放っておいて良いだろう。

 

 しかし、その道の専門家が居ると楽でいいな。俺だったならば適当に買って、後々痛い目を見ていたかもしれない。

 

「サレンさん。どれを買う予定ですか?」

 

 おっと、呼ばれたので行かないと。

 

 店内なので走ったり騒いだりはしていないが、身体から楽しんでいる雰囲気が出ている。

 

 まったく、元気な子だな。

 

 

 

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