なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第171話:山での立ち往生

「焚き火って、やっぱり良いよねー」

 

 数日街道を馬車で進み、とある日の夜に、ミリーさんが焚き火を見ながら風に揺られる。

 

 うん。言葉通り揺れているのだ。

 

「……あの、宜しいのですか?」

「気にするな。馬鹿が馬鹿をしたから、お仕置きしているだけだ」

 

 ミリーさんを見上げてマヤが心配そうにするが、ライラがバッサリと切り捨てる。

 

 現在ミリーさんは、木に吊るされてロープでグルグル巻きにされている。

 

 正にミノムシといった風貌だ。

 

 そして再びこんな姿にされた理由だが、また酒をこっそりと飲んで……なんて理由ではない。

 

 なんならそこまでミリーさんは悪くないのだが、反省の色が薄いという事でライラが吊るした。

 

「物資的には余裕がありますが、あれを魔法でどうにかするのは少し難しそうですね。調べたところ、地盤もかなり脆くなっている様なので。それに……」

「分かっている。遠回りするしかなかろう」

 

 こそこそとアーサーとライラが話し合っているが、俺達は少し困った状態となっている。

 

 早い話、立ち往生と言う奴だ。

 

 山道と谷のどちらかを進むかの別れ道で、本来は谷を進む予定が、ミリーさんの提案で山道を進むことになった。

 

 その結果、道中で土砂崩れがあり、道が通れなくなっていたのだ。

 

 ミリーさんが山道を選んだ理由はちゃんとあり、納得できるものだったが、その結果遠回りを強いられる事となってしまった。

 

 一応アーサーがガイアセイバーを本気で使えば、土砂崩れ程度どうにかなるのだろうが、それは手の内を明かすのと同じ事だ。

 

 間違いなく俺達を監視している奴もいるだろうから、そんなことをするわけにはいかない。

 

 ガイアセイバー以上に危険な剣もあるが、向こうを使えば土砂ではなくて、山がなくなってしまう。

 

「まさかこんな事になっているなんて思わなかったんだよー」

「しばらく吊るされておれ」

 

 ミリーさんも抵抗すれば良いのに、ロープを巻かれている間は無抵抗だった。

 

 ライラの手際が良いのもあるのだろうが、少し位は自責の念があるのだろう………………いや、多分ないだろうけども。

 

 そんな俺は現在夕食を作っている。

 

 味付けについてはマヤから色々と学ばせてもらい、かなり改善してきている。

 

 そして味付けについては満点なマヤだが、何と普通の料理を作ることが出来ない。

 

 学んだことがないのもあるらしいが、数ミリグラム単位で食材や調味料を調整しなくては本人の気が済まないらしく、キャンプ飯みたいな大雑把な料理が作れないのだ。

 

 もしもマヤだけに料理を任せると、三時間くらい掛かってしまう。

 

 なので、俺が作っている。

 

 一応タリア……さんには手伝いをして貰っている。  

 

「もう夕食が出来ますから、ミリーさんを下ろしてください。埃を立てないように丁重にね」

「シラキリ」

「分かりました」

 

 前回はクナイを投げて地面へと落としたが、今回はちゃんと結び目を解いてからゆっくりと地面へと降ろす。

 

 それから一閃でミリーさんに巻かれた縄を切り落とす。

 

 結構な技前で。

 

「あらあら。賑やかで良いわね」

「騒がしくてすみません。煮込み終わりましたのて、配膳の方をお願いします」

「はい」

 

 今日の夕飯はビーフストロガノフ風カレー? とマヤが作った干し肉。

 

 それとシラキリが作ったパンだ。

 

 サワークリームっぽい物が調味料の中に有ったのと、マッシュルームっぽいキノコをミリーさんが森から取って来たので作ってみたが、中々美味い。

 

 俺の料理スキルはマヤのおかげで、二段階くらいアップしたと思う。

 

 まあ男料理から家庭料理位のレベルアップとも言えるが。

 

 全員に料理を配り、焚き火を囲んで食べ始める。

 

 ミリーさんが犠牲になってくれたおかげで、空気は悪くない。

 

「これはまた変わったスープだな。だが、パンに良く合っている」

「マヤさんに分けていただいたスパイスで作りました」

「初めて食べる味だけど、トマトの風味が良いねー」

 

 手前みそだが、マヤの協力もあって良い出来である。

 

 元となったスパイスを調合したマヤも、笑顔で食べている。

 

「旅の途中にこれ程美味しい料理が食べられるのでしたら、いくらでも調合させていただきます」

「サレンさん達に会うまでは、基本的に乾パンと干し肉が基本でしたからね。神の御導きに感謝いたします」

 

 タリアさんはマヤを見ながら微笑み、ゆっくりとパンを食べる。

 

 こんなまったりと食事をしているが、警戒はしており、皆しっかりと武器を持っている。

 

「さて、山道が使えぬわけだが、他の道はあるのか?」

 

 鍋にあった大量のビーフストロガノフ風カレーが綺麗に無くなり、食後のお茶を飲みながら今後の話を始める。

 

「それについては、地理の確認をしない事には何ともねー」

 

 今居るのは、土砂崩れで通れなくなった道から二時間ほど離れた場所で、木が少し立っている山道だ。

 

 とは言っても馬車が通れるような道は、ミリーさんが知っている限りではこの一本だけとなる。

 

 此処に来るまで大体一日程かかっており、もしも他のが見つからずに、山を下りてから別の道を探すとなると、かなりの日数が必要になるだろう。

 

 かなりの余裕を持ってはいるが、あまり無駄にするのは良くない。

 

 それに、物資に余裕があるとはいえ、何も起きなければと頭に付く。

 

 マヤ達が居るので、街道をそのまま進むなんて選択は取れないので、この選択は間違えではないのだが……。

 

「それは貴様とアーサーに任せる。それとだが、土砂崩れは自然的な物と見て良いのか?」

「私の魔法で見た限りは自然な物ですね。人為的ならば、あそこに着いた段階で襲われているでしょうし」

 

 アーサーの言う通りだと、俺も思う。

 

 人為的な物ならば、こうもゆっくりとしていられないだろうし。

 

 かなり大規模な土砂崩れであり、あれだけの事をするのならば、既にアクションがあるはずだ。

 

 しかし道を引き返し、夕食を作って居る間も何のアクションもない。

 

 なんなら態々護衛である、ミリーさんの戦力を削っておいたのにだ。

 

 そこまで悪くないミリーさんを吊るしていたのは、ちゃんとわけがあったのだ。

 

 わけはあったが……八割以上はライラとシラキリの八つ当たりだろう。

 

 因みに此処に来るまでに二度ほど襲われているが、シラキリとロイ達が撃退している。

 

 正確には皆殺しとも言うが、暗殺者なんて生かす意味が無いので、これについて俺から言う事は何もない。

 

 そして皆殺しにしている事について、マヤは知らない。

 

 シラキリとライラが特殊なだけで、人の生き死にというのは関わるだけで多大なストレスに成りえる。

 

 最初に助けた時も、マヤとタリアは馬車に乗ったままだったので、戦いがあったのは知っていても、どうなったかまでは知らないだろう。

 

 とは言っても、聡いマヤならば理解していてもおかしくない。

 

「まあ今夜はゆっくり休んでいてよ。ちょちょいと見てくるからさ」

「よろしくお願いします。月明かりでそこそこ明るいとは言え、私達では何も出来ませんから」

 

 動き回るだけならともかく、地形の把握なんてのは俺には不可能だ。

 

 道に迷ったら最後、此処には帰って来られないだろ。

 

「夜番は私達にお任せください」

「よろしくお願いします。ロイさん。コングさん」

 

 マヤ達と一緒に行動するようになって変わったのだが、俺の夜番が無くなった。

 

 依頼として俺達は護衛をしているが、だからと言ってロイ達がサボって良いわけではない。

 

 なので夜番はロイ達とミリーさん達とでの交代制になり、神官組は免除される形となった。

 

 そのため、俺の負担はかなり減った。

 

 減ったのだが、夜にこっそり酒を飲む機会が失われてしまったので、少し寂しくもある。

 

 ビーフストロガノフを作る時に、こっそりと赤ワインを飲んだけど。

 

 まあ隠し味として使う際の味見程度だが、やはり安物は微妙だな。

 

 元々調理用としてライラに頼んで買ったが、酸味がきつかった。

 

 次の街が待ち遠しい……。

 

「それじゃあ、遅くなる前に私は行ってくるよ。また明日の朝にね」

 

 ミリーさんは装備を整え、軽く背伸びをしてから闇の中へと消えていく。

 

 多分道を探すついでに、何人か葬るつもりなんだろうな……。

 

 情報源としても使えるのだろうし、拷問してから……な。

 

「それでは私達は休むとしましょう。片付けも終わりましたからね」

「そうだな。今は何も出来ぬし、休むのも大事だからな」

「……そうですね。その通りかと思います」

 

 マヤにおやすみの挨拶をしてから、荷台へと乗り込む。

 

 仄かに焚き火の光が幌を突き破り、ほんのり荷台の中が明るい。

 

 真っ暗だと何も見えなくなってしまうので、寝るならばこのくらいが丁度良い。

 

 スマホがないこの世界では、直ぐに光源を…………作る方法はいくらでもあるな。

 

「ライラ。何かありましたらよろしくお願いしますね」

「心配無用だとは思うが、任せておけ」

 

 そう言えば、ライラと一緒に寝るのはあの日ライラが寝落ちした以来だな。

 

 今はシラキリをマヤに預けているし、ミリーさんは偵察中だ。

 

 ふむ……ふむ。

 

「たまには一緒に寝ませんか?」

「……………………ああ」

 

 長い長考の末、ライラは小さく答える。

 

 顔の色までは流石に分からない暗さだが、抱きかかえた時のライラの体温は中々高かった。

  

 

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