なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第173話:見えて来た白亜の壁

「…………何をしているのだ?」

「少し身体を鍛えようと思いまして。この揺れですと何も出来ませんから」

 

 三時間程色々と筋トレをやっているとライラが起き上がり、筋トレをしている俺に微妙な視線を向けてくる。

 

 何を言いたいのか分かるが、そんな目で俺を見ないでほしい。

 

「……そうか。だが、流石にやりすぎではないか?」

「これでも自重のみなので、かなり楽ですよ?」

 

 揺れる馬車の中で逆立ちし、揺れを全て腕で吸収する。

 

 辛くはないが、これが中々難しく、何度か失敗をしたが、今は腕より上は全く揺れていない。

 

 因みに神官服のままではパンツが丸見えになってしまうので、シラキリの視線に耐えながら買ったスボンを履いている。

 

 一応シスターを名乗っているので、相応の格好を心掛けなければならない。

 

「いや……うむ。なるほど。あれからどれくらい経った?」

「三時間位になりますね。あれから一度も止まっていませんので、順調だと思います」

 

 ライラも起きたので逆立ちを止めて、腕を揉みほぐす。

 

 筋肉が張っている感じは全くなく、疲労もほとんどない。

 

 今回の教訓だが、筋トレ自体には意味がないと知ることが出来た。

 

 だが平衡感覚や、技術的なものを鍛える事は出来るようだ。

 

 分かりやすく例えると、剣を振って筋トレは出来なくても、剣の振り方は学べるということだ。

 

 だからどうしたというわけではないが、やはりこの身体は高性能である。

 

「そうか……ならばそろそろ……」

 

 ライラが木箱から起き上がろうとしたタイミングで大きく馬車が揺れ、ライラがバランスを崩したので手助けする。

 

 ライラからお礼を貰ったところで馬車がとまる。

 

 どうやら休憩の時間になったみたいだな。

 

 いつもならば外で焚き火をするのだが、獣道なだけあり、結構草木が鬱蒼としている。

 

 アーサーに整備してもらうことも出来るだろうが、そこまでして外で休みたいわけではないので、今日も珍しく荷台の中での食事となる。

 

 マヤ達はマヤ達で食べてもらい、俺達は俺達でとなる。

 

 シラキリは向こうに行ったままとなるが、ミリーさんは草まみれで帰ってきた。

 

「いやー。分かってたけど、結構しんどいね」

「後どれくらいで山道に出るのだ?」

「この速度なら後二時間って所だね。それから更に二時間で山を下りられるかな」

 

 日程的には一日遅れとなるが、今日中に山を下りられるのは嬉しいところだな。

 

 山道も揺れは少ないとはいえ、やはり揺れは小さい方が旅は楽だ。

 

 サスペンションがかなり効いているとは言え、偽装の関係上タイヤはホロウスティアで使われている奴とは違う。

 

 そこだけが唯一の欠点だ。

 

「そうですか。休憩はどれ位の予定ですか?」

「三十分位したら出発だね。あまり長く止まっていたら、魔物と遭遇するかもしれないし」

 

 お昼休憩としては短いが、辛い時間はなるべく早く終わって欲しい。

 

 さて昼飯は、シラキリが作ってくれたパンと、干物系だけだ。

 

 流石に荷台の中で火を使う訳にもいかないし、何かを作る時間がある訳でもない。

 

 それに、食べ過ぎてしまえば揺れで吐いてしまう可能性もある。

 

 なので、軽く腹に溜まる程度の量に留めておく。

 

「一時はどうなるかと思ったけど、何とかなりそうで良かったよ。食料も溜め込んでいるとは言え、追加で一週間長引くとかなったら、流石に厳しいからね」

「拡張鞄があるとはいえ、限度はありますからね」

「最悪は狩ればよい。処理をするのに少々時間が必要になるがな」

 

 食料が無くなったとしても、ライラの言う通りに狩ればどうにかなる。

 

 これだけ自然が豊かだし、魔物が居るって事は魔物が繁殖できるだけの食べ物があるのだ。

 

 旅と言えば水がネックだが、シラキリも居るし水を生成できる魔導具もあるので、今日の朝食みたいな贅沢な食事さえしなければ、飢え死にする事はない。

 

 そもそも数日馬車を走らせればどこかの街に着くので、そうそう問題はないがな。

 

「さてと、お腹も少しは膨れたし、私は向こうに戻るよ」

「はい。午後もよろしくお願いします」

 

 いつもに比べると寂しい食事を終えて、軽く休憩してから再び出発する。

 

 揺れる馬車の中で出来ることはなにもなく、揺れに合わせて荷台で数時間揺られていると、一度大きく揺れてから一気に揺れが小さくなった。

 

 どうやら山道に戻れたみたいだな。

 

 それから更に数時間すると暗くなり始め、山を下りきることが出来た。

 

 大きな街道が使えればこんな山なんて越えなくても良いのだが……まあ文句を言っても仕方ない。

 

 もう少ししたら夕食の時間になるし、何か美味しいものでも作って気を紛らわそう。

 

 

 

 

 

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 山での遠回りから三度程街で買い物をし、魔物やら暗殺者やらから逃げること……何日くらいだ?

 

 日記を見れば正確な日数が分かるが、大体三週間程過ぎ、やっと目的地が見えてきたな。

 

 街の中に居る間は、馬鹿くらいしか手を出してこなかったが、道中はやはり色々と問題が起きた。

 

 問題と言っても基本的に俺は見ているだけなので、被害を受けていたマヤ達に比べれば気軽なものである。

 

 思いの外俺関係の騒動は何も起きず、怪訝そうに見られることはあっても、声をかけてきたり手を出してくる人は誰も居なかった。

 

 こっそりとライラ辺りが始末している可能性もあるが、俺個人は平和なものである。

 

 大きな街道に出た事で、これまでみたいになりふり構わない襲撃は無くなる筈だ。

 

 一応宗教国家だし、下手な国よりも国民を大事にしなければならないはずだからな。

 

 関係ない民衆を巻き込んだ結果、支持が減ってしまうのは困るはずだ。

 

 今みたいに代替わりして直後ならば、猶更不祥事は嫌だろうからな。

 

「遠目から見ても、立派な城壁ですね」

「堅実性を第一というよりは、見栄えを重視しているように見えるな。見た目よりも脆いだろう」

 

 普通に見れば城壁はまだ遠いが、集中してみればかなりしっかりと見る事が出来る。

 

 ライラは目を強化してみているようだが、俺の場合は気合だ。

 

 真っ白で凹凸がない城壁は立派だが、ライラの言う通りに見栄えを重視しているだけなのだろう。

 

 戦争を考えてホロウスティアみたいに、バリスタやら結界やらがあるようには見えない。

 

 ホロウスティアの結界については、ライラですらあることに気付けなかったらしいが、ルシデルシアは当たり前の様に知っている。

 

 やろうとすれば誤魔化せるようだが、俺が外に出るという事は誰かと一緒なので、誤魔化してしまうと後で黒翼が出ばってくる可能性がある。

 

 さて、そんな事はおいといてだ。

 

『神力の膜を感じるな。やはり当たりの様だ』

 

(召喚された聖女と勇者は?)

 

『有象無象については分からん。だが、ミリーと同じ様な加護を受けていると思われる人物が居るのは確かだろう』

 

 流石にまだ距離があるし、色んな神の聖女が居るのだから、ルシデルシアでも正確には分からないか。

 

 だが、それでもサクナシャガナが居るのは確かだろう。

 

 何所に隠れているかは知らないが、ミリーさんが居る以上此方の動きはバレていると考えて間違いない。

 

 やろうとすればミリーさんの加護も誤魔化すことは出来るが、誤魔化し過ぎてしまえば向こうの動きを読み難くなるので、誤魔化すのは俺だけとなる。

 

 それに、あまり姿を隠し続けていては、時間が掛かってしまう。

 

 わりと世界の危機ではあるのだが、シラキリの入学も同じくらい大事だ。

 

 ただ……。

 

「いやー、来るのは久々だけど、結構混んでるねー」

「そうですね。この様子では、門を越えるのはかなり先になりそうですね」

 

 大きな街道に出て、聖都が見えてきたせいか、道がかなり混んでしまっている。

 

 流石にずっと馬車に乗っているのも暇なので、散歩がてら馬車の外に出て皆で歩いている。

 

 聖地なだけあり、混雑していると思ったが、こんなに酷いとは……。

 

「ホロウスティアみたいに城門が複数あればこんなに混まないのに、迷惑なものだよねー」

「門が少ないのですか?」

「ざっくり言えば、神の思し召しとして、門は正門の一つだけなんだよね。因みにまっすぐ進むと教皇の居る神殿に、辿り着けるようになっているよ」 

 

 こんな世界だというのに、本当に戦争については考えていないようだな。

 

 まあ宗教とは普通の国にとっては、獅子身中の虫みたいなもので、下手に喧嘩を売ると国民が反旗を翻しかねないものだ。

 

 最初から戦争をする気は無いと示すならば、この都市の造りは悪くないのかもしれない。

 

 神を阻むものは何もないと言った感じかな?

 

 裏事情を知っている俺からすれば、馬鹿らしいとしか言えない。

 

 出入り口が一つしかないって事は、入る事は勿論出る事にも時間が掛かる。

 

 もしも逃げるとなったら、混乱すること間違いなしだ。

 

 それにライラは見栄えだけと言ったが、この世界には魔法があるのだ。

 

 壁を強化するなんて事ができてもおかしくない。

 

 所詮見た目なんて、神にとってはあまり関係ないのだ。

 

 そう、神にはであって、人には色々と関係が出てくる。

 

「ミリーさんは聖都の地理に詳しいのですか?」

「ざっくりと程度だね。最後に来たのも結構前だし」

「でしたら地図の作製をお願い出来ますか? 少し気になる事がありまして」

「ふーん。了解」

 

 ミリーさんの「ふーん」は何を考えているのか分からないので怖いが、地図はあって困るものではない。

 

 自分の足で歩いて調べる予定であるが、俺はあまり出歩かない方が良い。

 

 一応敵対しているのだからな。

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