なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第182話:ミリーとのデート

『朝だぞ』

 

 ルシデルシア目覚ましによって意識が覚醒し、目を開ける。

 

 最近は暇だからと寝ている間もルシデルシアの所でお世話になっていたが、今日は大事な用事があるので、ぐっすりと寝かせて貰った。

 

 朝から出かけるわけではないが、下手にミリーさんより遅く起きると逃げられる可能性もあるので、時間としては早めの起床となる。

 

 身体を起こして隣のベッドを見ると、ピンク色の髪と膨らんでいる布団が見えた。

 

 ここで逃げられていた場合、次は一週間後となるので、逃げださないでくれて良かった。

 

 身体を解すついでにシャワーを浴びて、軽く身支度をしておく。

 

 流石にいつもの神官服で外を歩く事は出来ないので、昨日と同じくパーカーにズボン……と行きたい所だが、今日はスカートをはいておく。

 

 個人的にはズボンの方が楽なのだが、ルシデルシアからの提案で仕方なくスカートにしたのだ。

 

 勿論反論したが、ルシデルシアの言い分にも理があり、妥協するしないの話となったので、俺が折れたのだ。

 

 本当に意味があるのかは分からないが、それは俺とミリーさん次第だろう。

 

 ついでにスカートならばポーションホルダーを巻いておけるので、有事の際は直ぐに動くことが出来る。

 

「ふわ~。おはよう。サレンちゃん」

「おはようございます。朝食は宿の食堂で食べますか? それとも、外で食べますか?」

 

 起き上がったミリーさんは目を擦りながら、「あ~」と声を出しながら悩み始める。

 

 先程寝ている時は跳ねていなかった髪は、四方八方に跳ねていて、カーペットでゴロゴロした後の猫の様に見える。

 

 短髪だと言うのに、凄いものだ。

 

「折角だし、外で食べようかねー。時間は…………まだまだ大丈夫だね。シャワーを浴びてくるよ」

「分かりました」

 

 ふらふらしているミリーさんを見送り、俺は俺で髪を結ぶ。

 

 角の跡が見えないようにする結び方は結構大変で、結ぶのに時間がかかる。

 

 とは言っても、流石にミリーさんのシャワーが終わるよりは早く終わるので、暇つぶしにヴァイオリンを取り出す。

 

 馬車に乗っていた時は暇を見てはヴァイオリンを弾いていたが、宿屋で引き籠ってからは色々とあって一度として弾けていない。

 

 この部屋がどれだけ防音に優れているかは調べてあり、ヴァイオリンの音程度ならば問題ないと分かっているが、日本人として騒音については委縮してしまう気持ちがある。

 

 新入社員の頃、安いアパートを借りて住んでいたのだが、自分以外の音ってのは結構なストレスになる。

 

 壁が薄かったのもあるが、寝ようとしたら聞こえてきた、隣の玄関の扉が開く音。

 

 深夜に聞こえてくる喘ぎ声。

 

 休日の朝に聞こえる洗濯機が動く音。

 

 塵も積もればって奴で、我慢できずに一年経った後、防音に優れているアパートに引っ越した。

 

 その後はマンションに移り住み、音の問題はほぼ無くなった。

 

 そんな昔の事はなるべく忘れてしまうとして、取り出したヴァイオリンの弦を軽く押す。

 

 それからチューニングを兼ねて少しだけヴァイオリンを弾き、音を確かめる。

 

 中古品だったこともあり、もうそろそろ弦を変えた方が良いかも知れないな。

 

 夢の中で演奏しているやつよりも音の湿り気が変わり、出したい音を出す事も出来ない。

 

 木の部分も大分痛んで来ているし、折角ならば買い替えるのもありだろう。

 

 ピアノがミリーさんのおかげで新しく手に入ったが、あれはホロウスティアでしか弾く事が出来ない。

 

 音楽というのは人と密接な関係があり、手札としては切り札と言っても良い代物だ。

 

 電子ピアノでもあれば拡張鞄でも持ち運ぶ事が出来るが、そんなものがこの世界に登場するのはかなり先の事となるだろう。

 

 俺の腕がプロと遜色ない程度ならば、楽器の良し悪しはあまり関係ないのかもしれないが、俺程度の腕では楽器が良くなければ良い音を出せない。

 

 それと、やっぱり中古ではなくて新品の方が良い。

 

 確かヴァイオリンの木の耐久年数は数百年あるらしいが、雑に扱われていたせいか、結構痛みが激しい。

 

 味があるとも言えなくないが、気分的にはあまり良くない。

 

「あったまったー……って、珍しく弾いているね」

「はい。折角なので調子を確かめてました。中古品だったせいか、弦がもうそろそろ駄目になりそうですね」

「ふーん。なら折角だし、楽器を売っているお店でも見に行ってみる? お金ならまだまだ沢山あるし、ダンジョンでも結構稼いでるからさ」

 

 ありがたい申し出だが、流石に気が引けてしまう。

 

 楽器なんて娯楽品はかなり高く、一般人ではそう簡単に手が出せるものではない。

 

 とは言っても、どこに行くか決めていなかったし、買う買わないは別として、見に行くのはありだろう。

 

「そうですね。ならお願いしても良いですか?」

「良いよ良いよ。着替えるから少し待っててねー」

 

 裸だったミリーさんは髪をわしわしとタオルで拭き、魔法で水気を一気に吹き飛ばしてから着替え始める。

 

 いつ見ても思うが、本当にミリーさんは幼児体型である。

 

 一応膨らみもあるので女性だと分かるが、ライラと良い勝負だろう。

 

 まあライラとシラキリの体型がスレンダー寄りなのは年齢と、これまでの食生活のせいなので、その内女性らしくなっていくだろう。

 

 ――ああ、もしかしたらそう言う事かな?

 

 アニメやゲームについてそれなりに詳しいから思い至ったが、ミリーさんはわざと今の体型を維持しているのかもしれない。

 

 いつもはエネルギーの消費を抑えるために、最も消費を抑えられる体型を維持し、いざと言う時に解放する。

 

 おそらくミリーさんの奥の手はこれだろう。

 

 普段は全く感じさせない神力を全開にして戦う。

 

 それならば神と戦う事が出来てもおかしくない。

 

(そこんとこ、どうだ?)

 

『ふむ。確かにあの時、能力を使った時以外神力を感じなかった観点から見れば、その仮説は有り得るだろう。神の中にも形態を複数持っている奴が居たからな』

 

 神力や魔力があるので、変身する奴はやはり居るか。

 

 まあ変身はざっくりと言えば、武器を持ち代えるみたいなものだ。

 

 常日頃から強大な武器を持っていては疲れてしまうので、必要な時にのみ武器を持つ。

 

 そんな感じだ。

 

(それでサクナシャガナに勝てるのか?)

 

『向こうの状態を正確に知らないゆえ、ただの当てずっぽうとなるが、勝率は二割もないだろう』

 

(それは俺の腹を貫いたあれのせいか?)

 

『それが一番の理由だが、それ以外にも武器の有無だな。余の様に特別ならまだしも、ただの武器が神に効くはずも無い。如何に神力を纏わせようと限界がある』

 

 ルシデルシアの言い分は俺も頷けるものである。

 

 どんなに強靭な人間も、生身でハンドガンを受ければ死んでしまう。

 

 そしてただのハンドガンでは数十ミリもある鉄板を貫く事が出来ない。

 

 だが、どちらも例外がある。

 

 ハンドガンを通さない防弾チョッキを装備したり、ハンドガンではなくてもっと大口径の弾を使えば貫く事が出来る。

 

 ミリーさんは国境の街で新しく剣を二本調達していたが、業物ではあっても魔剣や神剣と呼ばれる武器に並ぶものではない。

 

 そしてルシデルシアが神力があってもと言った様に、ミリーさんはサクナシャガナの事で騙されている。

 

 サクナシャガナ側は、やろうとすればいつでもミリーさんの加護を取り上げる事が出来る。

 

 ミリーさんが善と思っている方も同じく敵側であり、ミリーさんは踊らされているだけだ。

 

 俺としては真実を教えて上げたいが、百五十年の凝り固まった思考を解す事は無理だろう。

 

 そして、俺が話した結果サクナシャガナに確認でも取られれば、その時点でサクナシャガナは大きく動き始めるだろう。

 

 サクナシャガナの動きを待ってはいる現状だが、だからと言って盛大に動かれては被害が大きくなってしまう。

 

 近い内に、ミリーさんは神殿への侵入を試みるだろう。そしてそれの呼応してサクナシャガナが動き、マーズディアズ教国もミリーさんを討伐するために動き出す。

 

 そしてミリーさんを殺してから戦争を仕掛けるのだろうと、ルシデルシアと俺は予想している。

 

 予想通りなら、ミリーさんが戦いを始めるタイミングで俺達も動けば、被害はマーズディアズ教国の兵士位で済むはずだ。

 

 まあ戦いの規模的に神殿は瓦礫となるだろうが、流石に良識のある奴も居るだろうし、戦えない奴らは逃がされるだろう。

 

「お待ちどー。さて、行こっか」

 

 悩んでいる間に、ミリーさんの準備も終わったか。

 

「はい。行きましょう」

 

 ヴァイオリンをしまい、拡張鞄を肩に掛けて部屋を出る。

 

 先ずは何か食べに行くとしよう。

 

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