なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第184話:弦楽器専門店

 俺のイノセンス教はともかく、宗教と言うのは救うべき存在が居なければ成立しない。

 

 救うと言うよりは、施しを与えることの出来る存在とも言える。

 

 それは国で言う貴族と平民の様な関係だが、宗教の場合は下手な貴族よりも質が悪い。

 

 貴族は領地を豊かにし、領民も豊かにする事が出来るが、宗教が存続するには豊かではない平民が必要になる。

 

 俺の偏見も交じっているが、この国では下手な国よりもスラムの立場は悪いはずとなる。

 

 暮らし自体は悪いものではないかもしれないが、どう足搔いても這い上がる事は出来ない。

 

 仮に這い上がれたとしても、それはどこかの宗教に所属し、首輪を付けられるということだ。

 

「国として見れば、システム化されているとも言えるのでしょうか?」

「ホロウスティアでもやっている事だけど、わざと身分や住む所を別けるのは案外有用なんだよね。普通に暮らしている人達は安心を得られるし、家の無い人たちも最低限屋根を手に入れる事が出来るからさ」

「ですが、ホロウスティアと違って、こちらは救済がないのですね?」

「そうしちゃうと、国として崩壊しちゃうからね」

 

 国が推し進める宗教ではなく、宗教として国となった弊害か。

 

 ミリーさんの言う通りではあるが、今の状態が別に悪いってわけでもない。

 

 基本的に飢える事はないだろうし、ホロウスティアとは違うが、宗教のあるおかげで最低限の生活も出来ているのだろう。

 

 それに最底辺として、奴隷が存在している。

 

 何故奴隷制度がこの様な形で残ってしまっているのかは疑問だが、これについてはサクナシャガナが裏で糸を引ているのだろう。

 

 俺もそうだが、健全な日本人は奴隷と聞くとどうしても忌避感を感じる。

 

 俺の場合は本当に最初だけだったが、おそらくアオイ達は奴隷の事を教えられていないのかもしれない。

 

 たまに首輪をした獣人やドワーフを見かけるので、見れば分かる様なものだが、何かしら言いくるめられていたり、認識阻害されているのだろう。

 

 魔法があるのだし、洗脳に似た事が出来てもおかしくない。

 

 正直色々と腑に落ちない事が多いが、神を相手に人の常識を解くのは無意味だ。

 

 俺の存在も、ミリーさんの存在も、俺が培ってきた知識からすれば常識外れだし。

 

「ここまで言っておいてなんだけど、決してこの国の在り方が間違っているわけでもないんだよね。政治に正解は無いし、答えは出ないからさ」

「それは、ミリーさんの人生経験から出た答えですか?」

「どちらかと言えば、歴史を読み解いた見解かな。人としては確かに長いけど、エルフや一部のドワーフや獣人はもっと長生きしているから」

 

 人として見れば確かに長生きだが、異世界だけあってもっと長生きしている種族が居るんだったな。

 

 まあそうだとしても、その思考に辿り着くには相応の頭の良さが必要だ。

 

 色々と投与されたり、実験されていたと言っていたので、色んな面で普通の人よりは上位の能力なのは確かだろう。

 

 分かりやすく言えば、教育された人間って事だ。

 

「そう言えばそうですね。私も色々と落ち着きましたら、一人旅に出て見るのも良いかも知れませんね」

「それは少し難しくないかなー……シラキリちゃんとか絶対に離れないだろうし」 

「出会いから色々とあったので仕方ないですが、なるべく早く独り立ちしてほしいですね……」

「あはははー」

 

 珍しくミリーさんは本気で苦笑いをし、俺から目を逸らす。

 

 いつもみたいにふざけてくれよ……。

 

 

 

 

 

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 シラキリの最近の出来事をミリーさんから聞きながら歩いていると、少しずつ人通りが少なくなってきた。

 

 大通りから外れた事もあるが、楽器がある通りは少し奥まった所であり、城壁が近い場所となる。

 

 正門からは結構離れていて、しかも宿屋なんかもないので、観光客も来る理由がない。

 

 人通りがそこまで多くないおかげかあまり煩くなく、店から楽器を演奏している音が聞こえる。

 

 決して大きいわけではないので、周りに配慮して壁を防音性にしているのだろう。

 

 もしくは魔法で音があまり漏れないようにしているのだろうか?

 

「ここら辺は久々に来るけど、結構店が増えてるねー」

「高級品の筈だとは思うのですが、これだけ店があって大丈夫なのでしょうか?」

「販売だけじゃなくて、修理だったり教室とか開催したりしてるんじゃない? それに聖歌とか歌う時に呼んだり、或いは借りるとかも出来るだろうし」

 

 確かに売る以外でも、収入の足しにすることは出来るか。

 

 噴水のある広場でも演奏して稼いでいた人が居たが、あれは素人ではなくて店の関係者なのかもしれないな。

 

 ホロウスティアや王国ではピアノやヴァイオリン位しかまともに見かけなかったが、此処にはそれだけではなく、打楽器や管楽器等も並んで居る。

 

 隣国でも見かけない辺り買っているのは貴族なのだろうが、やはり値段は相応のものだ。

 

 だが、高いと言ってもライラやシラキリの武器に比べれば、そこまでではないように思える。

 

 俺も少しずつ毒されているのだろうな。

 

「それにしても、思っていたよりも色々と売られていますね」

「異界の知識については三教国が一番持っているからね。その中でも楽器や料理は見ての通りだね」

「目移りしてしまいますが、先ずはヴァイオリンが売っている場所を見て回ろうと思います」

 

 ついでに交換用の弦も買っておこうと思うが、確か弦にも種類があったような記憶がある。

 

 俺が覚えているのはナイロン製の奴と、心材に金属を使っている奴。それから動物の腸か何かを使っている奴だ。

 

 確か名前は……ああ、テニスのラケットにも使われているガット弦。羊の腸だったな。

 

 俺の持っているヴァイオリンの弦はほぼ間違いなくこれだろう。

 

 チューニングすれば良いが、直ぐに音が安定しなくなってしまうのは自然由来だからだろう。

 

 折角ならば色んな弦を試してみたいが、この世界には他にも種類があるのだろうか?

 

「おっ、あそこは弦楽器の専門店みたいだね。寄って行こうっか」

「分かりました」

 

 ショーウィンドウにチェロが置かれている店をミリーさんが見つけ、一緒に入る。

 

 流石に高級品を扱っているだけはあり、辺り一面に楽器が置かれているなんて事は無く、まるで宝石店みたいな感じだ。

 

 もしくは昭和の様なアンティーク感漂う内装とも呼べる。

 

 おっと、一応ヴァイオリンを出しておくか。

 

 まだ入って直ぐなので店員は来ていないし、外からも見られる事は無い。

  

「おや? こんな時間からお客さんとは珍しいね。それはヴァイオリンか……要件は何かね?」

 

 店内に入って少しすると、三十代くらいの痩せた男性が出てきた。

 

 少し怠そうにしているが、一応俺達をちゃんと客として扱っているので、店としては問題なさそうだ。

 

「ヴァイオリンの状態を見てもらいたいのと、場合によっては新しく買おうかと思いまして。ついでに、替えの弦を幾つか」

「な、なるほど。先ずはそのヴァイオリンを少し見せてもらえるかい?」

 

 何故か……というか、俺に怯えているようだが、こればかりは慣れてもらうしかない。

 

 悪いのは顔が怖いルシデルシアのせいだ。

 

 無論ディアナのせいもあるが、基本的に悪い事柄はルシデルシアのせいにしておけば良い。

 

 作業台まで移動してから店員にヴァイオリンを渡し、店員はモノクルっぽいのを掛けてヴァイオリンの状態を見始める。

 

「うーん。手入れはしっかりとされている様だけど、結構痛みが激しいな。もしかして中古品か?」

「はい」

「なるほど。弦も変色を始めているし、木の方はほんの僅かだけど腐食している部分があるな。正直なところ、物次第では修理より新品を買った方が安いだろうね」

 

 やはり結構傷んでいたか……分かっていた事だが、このヴァイオリンは此処までだろう。

 

 ミリーさんの方を見ると、やれやれと首を振られる。

 

「そうですか……でしたら、新しいヴァイオリンを紹介していただけますか?」

「ふむ。手入れの状態から弾けるのは分かるが、良ければ少し弾いてみて貰っても良いか? これでも此処で売っている弦楽器は自分が作っていてね。我が子を託すに足る人物なのか確かめたい」  

 

 売ります買いますの方が楽で良いのだが、こういった職人気質の人が作る物は品質が良いと相場が決まっている。

 

 満足させられるかは分からないが、上手くいけばヴァイオリンを安く買える可能性がある。

 

 満足させられるかは分からないが、弾くだけならばタダだからな。

 

「分かりました」

「即答とは良いね。流石にこれを弾かせるのは心許ないから、ちゃんと弾ける奴を貸そう」

 

 店員……多分店長はそう言ってから作業台の下からヴァイオリンケースを取り出し、中からヴァイオリンを取り出した。

 

 俺が使っていたのと比べて、しっかりとニスでコーティングされており、弦もくすみがない。

 

 新品ではないのだろうが、見事なヴァイオリンに見える。

 

 俺に審美眼なんてものは無いので、ただの感覚だが。

 

「サレンちゃんが持ってるやつより綺麗だね」

「作ってからしっかりと手入れしているからね。それじゃあ軽く何かお願いするよ。おっと、その前に確認をよろしく」

 

 店長はミリーさんに笑顔で言葉を返し、俺にはぎこちない笑顔でヴァイオリンを渡してくる。

 

 軽くならば、王国の街で弾いた奴……だとミリーさんが思い出して怒り出しそうなので、馬車で練習がてら弾いていた奴で良いか。

 

 軽く弦の調子を確かめて、音の確認をする。

 

 引っ掛かりもなく、音のズレもない。

 

 正にこれだよこれと、言いたくなるようなヴァイオリンだ。

 

 「それでは一曲」

 

 弓を持ち、ヴァイオリンを構える。

 

 さて、どこまで上手く弾けるだろうか?

 

 

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