なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第186話:サレンの口説き術

「ほんで、一体全体何があったのさ?」

 

 ヘンリーさんの店で色々とあった後、帝国の息が掛かっている喫茶店へと寄り、茶をしばきながらミリーさんに追及されている。

 

 話の流れ的にどうしてもアオイの事と一人で出かけた事を話すしかなく、店では後で話すと流したが、ミリーさんが逃がしてくれるわけもなく、あっという間に連行されてしまった。

 

 どこまで話して、どこを誤魔化すべきか……。

 

「先程軽く話しましたが、少し前にこっそりと出掛けた時に、お昼に偶々立ち寄った酒場で軽く食事を取っていた所、変装をした聖女が偶々相席となり、話をする機会がありました」

「うんうん。それで?」

「何となく怪しいと思って色々と話した結果、二人きりで話す機会を得る事が出来まして、向こうの内情を教えてもらいながら、少し相談に乗りました」

「色々とツッコミたいけど、その時にまた会う約束をしたと?」

「はい」

 

 自分で言っておいてなんだが、本当に運が良いのか悪いのか微妙な所である。

 

 シャバの空気を味わいながらお忍びで酒を飲んでいたら、仮想敵として一番注意しなければならない聖女に会い、隠していたのにあっという間にバレてしまった。

 

 即落二コマ並みの早さだ。

 

 不機嫌そうにミリーさんはストローでジュースを飲み、大きなため息を吐く。

 

「サレンちゃんが騒動の種を作っていたのおいといて、聖女はどんな感じだった?」

「精神的にかなり疲れているようでした。勇者の方は分かりませんが、聖女の召喚は本意ではないようです」

「従わされているって感じか……何か気になる事は言ってた?」

「どうやら騙されているようでした。全てが終わったら帰してもらえると教皇が約束していたそうです」

 

 下手に本当の事を教えては敵対される恐れがあるとはいえ、あれだけ良い様に使っておいて騙し続けているのは、悪意があるからだろう。

 

 召喚の主体はサクナシャガナだろうが、召喚したかった者が出なかったので、ミリーさんを殺すために使おうとしているのは予想できる。

 

 だが、出会い頭に俺を殺してくる神が、見せびらかすようにパレードをするはずがない。

 

 聖女と勇者の現状は、教皇が関係しているのは想像するまでもない。

 

「なるほど。色々と可能性は考えられるけど、動き出すのも時間の問題そうだね」

「ミリーさんは神から何か話を聞いていませんか?」

「ここ数年は何も無いね。けど、向こうは私が此処に居る事位は分かっていると思うよ。仮にだけど、私が聖都から出ようとすれば、向こうの準備が出来ていなくても殺しに来るだろうね。聖女と勇者なんて手駒も居るし、精神が安定していないなら、洗脳なんて手もあるし」

 

 やっぱり洗脳とかあるんだな。

 

 まあ聖女の状態から予想は出来ていたけど、やはり異世界は怖い。

 

「因みにサレンちゃんは聖女とどんな話をしたの?」

「元の世界に帰れない事と、教皇が騙している可能性がある事。それと外の世界に出てみることを提案しました」

「悪くないね。最悪殺す事になるとしても、私達に少しでも情を持ってくれれば、それが隙になるからね」

 

 知り合いを殺すとなると躊躇するものだが、ミリーさんは割り切るタイプだからな……。

 

 まあミリーさんだけではなく、ライラやシラキリも、俺の敵となる相手ならば知り合いでも殺しそうではあるけれど。

 

「出来ればサクナシャガナだけを倒して、ハッピーエンドで終わってほしいですが……」

「向こうの聖女は分からないけど、私の場合はサクナシャガナを倒した場合、加護がなくなって死ぬだろうからね」

「もしもですが、生き残れるとしたら生き残りたいですか?」

 

 助ける方法はあるが、ミリーさん自身が望まなければ使うことが出来ない。

 

 あの日からなるべくミリーさんと関わる回数を増やし、何とか思い止まって欲しいと頑張ってきた。

 

 次は行動ではなくて、言葉の時間だ。

 

 ミリーさんは氷だけとなったコップを持ち上げ、悩ましげに見つめる。

 

 氷が少し溶け、個室の中に小さな音を響かせる。

 

「正直、私の中って憎しみ以外の感情が薄いんだよね。だから、生きたいかって聞かれても、あまりねー」

「分かっています。ですが、それでも私はミリーさんと共に生きたいと思っています」

「うーん」

 

 前回アオイと一緒に入った店舗は違うが、内装はほぼ同じであり、窓がないため少しだけ薄暗い。

 

 だから、表情の機微まで読み取るのは難しい。

 

 それにミリーさんの場合、目に見えている情報で判断するわけにはいかない。

 

 俺以上に人を相手にしてきたのだし、対人能力……と言うよりは自分を偽る能力は高い。

 

 だから、反応を見て判断するのではなく、反応を無視するのが一番だ。

 

「自分で言うのもなんだけど、私って面倒な女だよ? これまでの付き合いで分かってると思うけどさ」

「ですが、私達がホロウスティアに帰った後に、問題無く過ごせるように手を打ってくれているのでしょう?」

 

 全てを語ってくれてはいないが、拡張鞄やピアノなど、ミリーさんは俺達にとって利益になる物を用意してくれている。

 

 ミリーさんがいつから覚悟を決めていたか分からないが、俺が教国に寄って帰るって話をした時には、最低限考えていたのだろう。

 

 聖女を召喚したって事は、そこにサクナシャガナが関わていると、ミリーさんならば気づいたはずだ。

 

「一応とはいえ付き合ってもらっている身だからね。それにサレンちゃんのおかげで、あれが居るって確定出来たからね」

「それは私が気を失っていた時の事ですか?」

「さあ、どうかな?」

 

 あの時の出来事は、一応俺は知らない事となっている。

 

 ルシデルシアに説明してもらっているので知ってはいるが、下手に話しても不審に思われるだけなので、ここは流しておく。

 

 ミリーさんも、ルシデルシアとの約束を破る気は無いだろうし。

 

「因みにだけどさ、私に生きて欲しいって言うけど、方法はあるの?」

「ある事にはあります」

「――えっ?」

 

 俺が即答で返したのは予想外だったのか、思わずミリーさんは持っていたコップをテーブルの上に落とす。

 

 運良く倒れる事は無かったが、大きな音を立てて、水滴が飛び散る。

 

 もうそろそろ核心を突いてくると思っていたので、聞かれたら即答する気でいた。

 

 論より証拠と言うわけではないが、此処は曖昧にしない方が良いと判断した。

 

 ミリーさんは自分で言った様に、復讐以外はどうでも良い。この復讐が終わればそれで良いと思っている。

 

 ここで分かりませんと言えば、ほら見た事かと笑われてしまう。

 

「それは本当に?」

「はい。神託により、方法は教えられています…………少し…………かなり疑いたい気持ちはありますが」

「それで、その方法とは?」

「その前に、どうすれば助けられるのかを話させて下さい」 

 

 しっかりと話すつもりだが、流石にキスすれば生き残ると話すだけでは、正気を疑われかねない。

 

「ミリーさんの現状は、加護による能力で得られているものであり、加護には担当する神が不可欠とされています。しかし加護自体はミリーさんに定着しているものであり、加護だけをそのままにし、配給する神力の先を変えれば、理論上神が死んだとしても加護をそのままに出来ます」

「だけど、そんな事は普通出来ないでしょう? もしそんな方法があるなら、とっくに誰かが試しているだろうし」

 

 加護とは神に紐づいているので、ミリーさんの言う通り、神の死は加護を失うと同意義だ。

 

 全く知らない周波数に同調し、更に音の強弱を寸分の狂いなく合わせる事で、ようやくスタートラインになる。

 

 更にそこから色を合わせたりパスを奪うためには相手よりも神力が強くなければと、色々とあるのだが、俺のやろうとしている方法は裏技のため、そこまで難しいものではない。

 

 その代わり、ルシデルシア以外がやるのは不可能なだけだ。

 

 まあ正攻法の場合は流石のルシデルシアでも面倒と言うだけはあり、今回の場合はデメリットの関係で使う事が出来ない。

 

 使えばその時点でサクナシャガナに気付かれ、奪っている最中に介入してくるのは目に見えている。

 

 そもそもミリーさんの加護は、正確にはサクナシャガナが奪った子供に繋がっているのだが、サクナシャガナからある程度操作できるだろうと思っている。

 

 そうでなければ、天界の方からミリーさんに話し掛けたりなんて出来ないだろうし。

 

「通常は無理ですが、我が神が仰る方法なら可能ではないかと、私は思いました」

「それは?」

「ミリーさんの加護を別の神の神力で一時的に覆い、サクナシャガナを倒した後に神力を馴染ませ、繋がりを別の神に挿げ替える。一時的ならば加護を持たせることが出来るので、サクナシャガナがいなくなった後ならば、何とかなるそうです」

「…………ふーん」

 

 色を感じさせない返事をして、ミリーさんはしばし考え込む。

 

 情報が情報のため、思う所があるのだろう。

 

 可能性に賭けてくれるか、それとも俺の想いを踏みにじり、死を望むのか。

 

「少し気になったんだけどさ、サレンちゃんってどれ位嘘をついてるの?」

「全体で言えば一割ですね。基本的に誠実であるのが教えとなりますので」

 

 正確には、本当の事は一割位しか話していない。

  

 存在自体が偽物であり、そもそも俺はこの世界の住人ではない。

 

 しかし、ここまでの過程……道のりは本物だ。

 

 だから、一割。その程度という事だ。

 

「何がとは聞かないけど、ついでに寿命ってどうなの?」

「最低でも人のそれよりも長生きするそうです。自分の種族は分かりませんが、最低でも数百年はあると思います」

「そんな気はしていたけど、マジかー…………んで、どうすればは分かったけど、どうやれば良いの?」

 

 一言も俺の言葉に乗ってくれていないが、まあこの程度は想定の範囲内だ。

 

 絶望や憎しみというのが、どれだけのものか俺には分からないが、そう簡単に無くなったり変えられるものではない。

 

 俺がこれまでであった一番の絶望なんて、ボッタくりキャバクラで二十万を払った時位だ。

 

 だからなるべくミリーさんの意表を突く様な言い回しをして、精神をかき乱すようにしているが、如何程の効果があるか……。

 

 さて、最後の仕上げといこうか。

 

「方法は――ミリーさんが本心から生きたいと願い、私にキスする事です」

「ふぇ?」

 

 ミリーさんは、俺が想定していたよりも間抜けな声を出し、想定していた通りの愛らしい間抜け顔を披露した。

  

 

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