なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第190話:コンテストに向けて

「やあサレンちゃん。お疲れ様」

「いえ」

 

 アオイから返事を貰い、先に帰ってからしばらく待っていると、ミリーさんが個室に入って来た。

 

 ……あれ? アオイが出た後に鍵をしたような気がするのだが……まあミリーさんの事だし、気にするだけ無駄か。

 

「結構酷い顔をしていたけど、どんな話をしたの?」

「考えられる聖女と勇者の現状と、遠回しに命の危険がある事。それからあまり時間が無い事を伝えました」

「なるほどねぇ……まあ悪くはないけど、あまり追い詰めちゃ駄目だよ」

 

 駄目なのは分かっているが、なるべく犠牲を出さないためには仕方のない事なのだ。

 

 開幕でサクナシャガナが信徒の命を吸収するなんて暴挙に出なければ、最低でもアオイとマヤは助ける事が出来る。

 

 残っていたクッキーをミリーさんは食べてから腕を組んで、悩まし気な表情を浮かべる。

 

「それで、何か良い情報は手に入った?」

「ミリーさんが欲しい情報かは分かりませんが、勇者が聖女を人質に取られている可能性が高い事と、教皇が聖女の死を望んでいる事が分かりました」

 

 両方とも考察の域を出ないが、ほぼ間違いない事だろう。

 

 現にミリーさんは驚く事無く、「へー」って感じの顔をしている。

 

「尾行らしき人は居たけど、護衛らしい人が居ないから不思議に思ってたけど、戦争の事を考えれば読めた展開だね。その前に、ここが戦場になるとは思ってないだろうけど」

 

 神がやろうとしている事と、人がやろうとしている事でズレがあるのは仕方のない事だ。

 

 教皇の事だし、神敵を倒すついでにうまく帝国に罪を擦り付けようとでも考えているのだろう。

 

 勇者と聖女では聖女の方が使い道があるとは思うのだが、教皇の中では聖女の方が邪魔になる何かがあるのだろうな。

 

「神に仕える者としてあまりにも無責任だと思いますが、やはり国となり権力を得てしまえば、人も変わってしまうのでしょうね」

「やっていることはともかく、欲のない人間じゃあ国の運営なんて出来ないから、考え方自体は悪くないんだよねー」

 

 基本的に政治と宗教は切り離すものだからな。

 

 この二つを同時にやろうとした結果、どうなったかは歴史が証明している。

 

 宗教とは心の拠り所であり、それ以上の思想を増やさない方が上手く行く。

 

 なので、俺は帝国に歯向かう気はないし、基本的に従順でいる気だ。

 

 ミリーさんを敵に回したくないし。

 

「国民に取っては災難かもしれませんが、騒動のついでに教皇もどうにか出来れば良いですが……」

「その辺りは帝国の国益に関わってくるから、私の方でどうにかするよ。これでも騎士だからね」 

 

 個人的にどうしてミリーさんが帝国の騎士団に入ったかとても気になるが、それは全てが終わってから聞いて見るとしよう。

 

 人に過去を聞くのは、地雷を踏み抜く可能性があるからな。

 

「あまりやり過ぎない様にお願いしますね」

「それは勿論さ……いや、ほんと」

 

 何か言いたげな言い方だが、ルシデルシアのやらかした事を言いたいのだろう。

 

 ホロウスティアを出てからの、単純な殺人数ならばライラの次に多いだろうからな。

 

「おほん。聖女関係の話は終わりにして、そろそろ出発しようか。早めに着いといて損はないからね」

「そうですね。軽く現地でも弾いておきたいですし、早いに越したことはありません」

 

 出来ればアオイをコンテストに誘いたかったが、時間的にも立場的にも流石に無理なので諦めた。

 

 さて、ひのきの棒からエクスカリバーに変わった攻撃力の凄さを見せに行くとしよう。

 

 ……おっと、店を出る前にヴァイオリンを拡張鞄から出しておかなければな。

 

 

 

 

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「この前来たよりも、少し賑わっているねー」

「少ないですが、屋台もありますね」

 

 日が傾き始めた頃、音楽通りに着いたがそこそこ人通りが多い。

 

 ついでに通りの入口にはコンテストの看板が立て掛けられており、案内用のパンフレットを配っている人も居た。

 

 多いと言っても、流石に聖都の大通りよりも少く、規模で言えばヘンリーさんが言っていた様に町内会の祭り程度だ。

 

 店の前では練習を兼ねてなのか、演奏をしている人が多く、場所によっては拍手が聞こえてくる。

 

 歩くのに苦労はないが、これだけの人数を収容できるのだろうか?

 

「いらっしゃ……やあ、来てくれたんだね」

 

 店に入るとヘンリーさんが掃除をしており、笑顔で迎えてくれた。

 

「先日振りです。本日は宜しくお願いします」

「いやいや、お願いしたのはこちらだからね。一応これがコンテストの流れになるから、読んでおいてね」

 

 ヘンリーさんからコンテストのスケジュールが書かれた紙を受け取るが、少しだけおかしい事が書いてあった。

 

 俺としてはありがたい事だが、出場する奏者は店名と一緒に名前が載っているのだが、ヘンリーさんの店は奏者の所が空欄になっている。

 

 更に順番も最後で、作為的なものを感じる。

 

 終わったら直ぐに結果が出ると思えば良いかもしれないが、最後というのはあまり好きではない。

 

「すみません。何故最後になっているのですか?」

「久々に僕の店が出る事を伝えたら、思ったよりも盛り上がっちゃって、なし崩し的にトリを飾る事になってしまってね。少し訳ありそうだから、名前は伏せさせてもらったけど、嫌だったかな?」

「いえ、少し疑問に思っただけなので、気にしないで下さい」

 

 人の良さそうな笑みを浮かべるヘンリーだが、これぞ正しく有難迷惑って奴だろう。

 

 横でミリーさんが流石とでも言いたそうに頷いているが、違う、そうじゃない。

 

「コンテストまでまだ時間があるけど、練習していくかい? 一応会場でも練習出来るけど、個人的には本番まで全部隠しておきたいから、ここで練習していってくれるとありがたいけど」

「そうですね。少しだけ練習させていただいても宜しいですか?」

「勿論さ。そこに見える扉の奥が演奏用の防音室になってるから、時間まで使ってもらって構わないよ」 

 

 ほとんどの店が外まで聴こえる様に演奏していたが、ちゃんと演奏するための部屋も用意しているんだな……。

 

 まあ講習などでも稼いでいると聞いていたし、防音室があるのは当たり前か。

 

「私は少し見回って来るよ。三十分位したら戻って来るけど、何か買ってきて欲しい物とかある?」

「でしたら何か冷たい飲み物をお願いします」

「りょうかい。じゃあ頑張ってねー」

 

 ひらひらと手を振りながら、ミリーさんは店を出て行く。

 

 見た目だけは重厚な扉を開けて防音室に入ると、外から聞こえていた音楽がまったく聞こえなくなる。

 

 防音室はかなり広く、カラオケの中位の部屋位はある。

 

 今回のコンテストでの演奏だが、俺なりに本気を出したいと思っている。

 

 幾度となく暴走しているディアナについても、ルシデルシアがどうにかしてくれるので、もう憂いはない。

 

 ケースからヴァイオリンと弓を取り出し、念のため汚れなどがないか確認する。

 

 今日の朝も軽く弾いたとはいえ、確認しておいて損はない。

 

 次に音の確認のために一音ずつ弾き、強めにビブラートをかける。

 

 最初の時は完全に初心者だったが、やはり講師がいると上達が早い。

 

 技術が必要なものを我流で覚えるのは、天才でもない限り時間が必要となる。

 

 俺も睡眠時間をかなり削って練習し、ルシデルシアから合格を貰ってからも、夢や現実で練習している。

 

 ピアノと違い、ヴァイオリンはどこでも練習出きるので、暇潰しには丁度良いのだ。

 

 筋トレとは違い、しっかりと成長を実感できるし。

 

『今回は何を弾く気だ?』

 

(いつもならお前が作ったのか知っている曲を弾きたいところだが、念には念を入れて、今回は違う曲を弾く気だ)

 

『ほう……』

 

 魔王らしいにやけ顔が、今にも見えそうな声をルシデルシアは出す。 

 

 確かにディアナが暴走をしないようにルシデルシアが手を打ったが、絶対暴走しないとは限らない。

 

 更にこれまでのディアナの暴走は、ルシデルシアが作った曲を弾いた時に起きている。

 

 ならば、違う曲を弾けば良いのだ。

 

 一から曲を作るなんて事は出来ないが、幸い元々あった曲をアレンジ出来る程度の腕はある。

 

 元の世界ではそれなりにオーケストラとか、演奏会にも足を運んだことがあるのも幸いしている。

 

 曖昧にしか覚えていないが、この身体ならば足りない部分を上手く埋め合わせる音感がある。

 

 だが本音を言えば、ソロではなくピアノとのデュオだったり、弦楽器でのトリオなどの方が、幅広い音を奏でることが出来る。

 

 まあヴァイオリンのソロはソロでメリットはある。

 

 純粋な音での勝負。

 

 足し算も掛け算も出来ない、単一の音の出来映え。

 

 ピアノとはまた違ったものを魅せることが出来るだろう。

 

 さて、音の確認も終わったし、ミリーさんが帰ってくるまで練習をしておくとしよう。

 

 

 

  

 

 

 

 

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