なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第191話:コンテストの様子

「今回はかなり人が多いですね」

「聖女様と勇者様が来たおかげでしょうな。観光客もかなり多いとか」

 

 音楽通りで行われるコンテスト。

 

 その会場にて、二人の男が微笑みを浮かべながら談笑する。

 

 いつもならば店の関係者位しか訪れないのだが、聖女と勇者が現れたことで聖都の観光客が増え、それにともないこんな辺鄙な場所で行われるコンテストにも、訪れる客が増えたのだ。

 

「噂では聖女様か勇者様が見に来るとか噂があるが、あまり増えすぎるのも困りますね」

「あまり席の数は多くないですからね。それに、今回は……」

 

 片方の男は持っていたパンフレットを見て、少し嬉しくも困惑の色が混ざった笑みを浮かべる。

 

「ええ。あのヘンリーさんの所が、久々の出場ですからね。ヘンリーさんが出るわけではないですが、とても楽しみです」

「わたしも同じ気持ちですが、優勝が厳しくなる事だけはなんとも……しかし、何故奏者の欄が空白になっているのか……何か聞いていますか?」

「いいえ。知りませんね。一応小耳に挟んだ話ですが、ヴァイオリンの演奏をするとか」

 

 このコンテストは最低限のルールはあるが、ちょっとくらいの茶目っ気が許されるくらいは緩く、職人としてだけでなく奏者としてもレベルが高いヘンリーのお願いがかなった結果であるが、それを知るものは少ない。

 

 男達が話している間にも会場には人が増えていき、観客席が埋まっていく。

 

 更に奏者達も様々な楽器を持ちより、各自の控室で最終調整を行っている。

 

 あまり大きくもなく、名誉が手に入る様なコンテストではないが、店側としては勝てるものならば勝ちたいと思っている店が殆どだ。

 

「さて、私も最後の準備をしてくるとしましょう」

「分かりました。お互いに、悔いのない様にしましょう」

 

 会場を眺めていた二人は、自分達の店の奏者が待っている控室へと帰って行く。

 

 そんな二人とすれ違う様に、黒髪の青年が会場へと入って来た。

 

「演奏のコンテストね……俺じゃなくて聖女の方が適任だと思うけど」

「聖女様は少々体調が悪いそうでして。公務ではなくただの視察ですので、基本は見ているだけで構いませんのでどうか……」

「分かってるよ。俺に選択肢なんて無いんだから」

 

 勇者であるユウトは観客の流れに乗るようにして、護衛と共に席へと座る。

 

 ユウトの顔を知っている国民は多いが、人ごみに紛れてしまえば簡単には分らなくなる。

 

 更に服装もいつも着せられている鎧ではなく、ありふれた神官服なので尚更だろう。

 

 護衛もユウトの顔がなるべく隠れるように歩いているため、気付いたものは殆ど居ない。

 

「それで、視察って言われても演奏なんてほとんど知らないぞ?」

「どんな感じか雰囲気だけでも味わってもらえれば。宗教と演奏。戦争と演奏は身近なものですから」

 

 ユウトは顔を顰めるものの、護衛に言い返す事はせず、ステージを黙って見詰める。

 

 サレンの予想通りユウトはアオイを人質に取られており、教皇の傀儡となっていた。

 

 どちらかと言えば体育会系のユウトにとって、楽器のコンテストはただ眠くなるだけであり、既に早く帰りたいと考えている。

 

 少しうとうとし始めた頃、ステージの上に司会が現れた。

 

「ご来場の皆様。本日は第六十五回聖都音楽通りコンテストにご来場いただき、ありがとうございます。観客席が全て埋まるのは初めての事でして、私としても大変喜ばしい事です。さて、長い挨拶なんて似合いませんので、早速開始しようと思います。本日は十二店舗からの出場になります。半分終わりましたら一度休憩を入れますので、お忘れなく」

 

 このコンテストは楽器の括りがないため、どんな楽器が出るか分からない面白みがある。

 

 楽器のコンテストをやるとしか伝えられていないユウトは、最初の奏者が出た段階で思わず目を見開いた。

 

「あれは……」

「エントリーナンバー一番。最新楽器店による、ドラムとギターのデュオになります。魔石を組み込むことにより、通常のギターとは違った味わいのある音を出す事に成功したそうです」

 

 元の世界で見た事がある、ドラムセットとエレキギター。

 

 異世界で見られるとは思わず、思わず隣に座っている護衛をユウトは見る。

 

「始めて見る形状ですね。教会としてはあまり馴染みがないですが、今は静かにしていましょう」

「……はい」

 

 演奏が始まると聴いた事のある音が響き渡り、ユウトは召喚される前の事を思いだず。

 

 既に数ヶ月この世界で生きているが、ユウトも出来れば元の世界に戻りたいと思っている。

 

 あっという間に演奏は終わり、続いて二番三番と演奏が続いて行く。

 

 演奏会というよりは、この世界の住人にとってはビックリドッキリ大会みたいな楽器ばかりだが、出場者は皆本気で演奏しており、聴いていて心地良い。

 

 演奏が終わる毎に拍手が巻き起こり、ユウトもいつの間にか眠気が飛び、コンテストを楽しんでいた。

 

 六人目も終わった所で休憩になり、ユウトはこれまでの演奏を思い返す。

 

 開幕のエレキギターやドラム。無難にピアノだったり、鉄琴やホルン。

 

 純粋な腕だけではなく、様々な音色を楽しめるこのコンテストは思っていた以上に楽しいものだった。

 

 出来ればアオイにも聴かせたかったと想いを馳せている内に、休憩時間が過ぎていく。

 

 今更ながらと思いながら、ユウトは貰ったパンフレットを眺めていると、不自然な個所を見つけた。

 

「あの、この店って?」

「そのお店は聖都でもかなり名高いお店ですね。今回の視察も、その方のお店が出るという事で決まった様なものです。何故空欄なのかは気になりますが、楽しみですね」

「なるほど……」

 

 それはあまり見かけない楽器が出てくるかもしれないからなのか、それとも純粋に素晴らしい演奏をするからなのか。

 

 流石にそこまでユウトは聞く気にはなれず、再びステージの上に視線を戻す。

 

 休憩時間も終わり、後半戦が始まった。

 

 最初はペダルハープで、大きいため二人で運んでステージに上がってくる。

 

 眠たくなるような音色が流れるが、楽器の珍しさも有り寝るような観客は誰も居ない。

 

 甲乙つけ難い演奏が続いて行き、あっという間に最後の順番となる。

 

 ステージに上がって来たのは、遠目からでも鮮やかな赤い髪が良く目立つ女性だった。

 

 頭の両サイドを盛るように髪を結んでいて、そのせいか顔の輪郭がくっきりとしている。

 

 鋭い視線と雰囲気のせいか、僅かに会場の気温が下がった様な感覚に陥る。

 

 使う楽器はヴァイオリンで、普通の楽器である。

 

 一礼をした後にヴァイオリンを構え、演奏が始まる。

 

 鋭くもどこか柔らかい音色が響くが、その音はこれまでの演奏とは違い、まるで直接心を揺さぶってくるような演奏だった。

 

 どこか懐かしく、されど知っている訳ではない。

 

 これまでの奏者達を卑下するわけではないが、その差はあまりにも大きい。

 

 そうユウトは感じてしまった。

 

 いや、そう感じたのはユウトだけではない。

 

 他の観客達も、ただただ無心で演奏に酔いしれる。

 

 この時間が永遠に続けばなんて思いながらも、あっという間に時は過ぎていき、演奏が終わる。

 

 余韻を楽しむための残心も終わり、観客達の心が現実へと帰ってくる。

 

 誰もが素晴らしいと拍手する中、一人だけ他とは違う反応を示すものが居た。

 

(これは流石の私でも恥ずかしいな)

 

 サレンがあからさまだったのもあるが、今演奏された曲はミリーの為に演奏されたものだった。

 

 どうか生きて欲しい。どうか一緒に居て欲しい。

 

 そう願いが込められているのを、ひしひしとミリーは感じた。

 

 長年生きているだけあり、ミリーは様々な分野の知識を持っている。

 

 技量もかなりのものだが、それもあって相手に求める技量も高くなっている。

 

 初めてサレンに演奏させた時は曲からサレンの出生を探ろうとしたが、全く知らない曲であり、その思惑は頓挫した。

 

 その代わり、ピアノを弾く技量の高さに驚き、いつの間にか好かれてしまっていた。

  

 ミリーは一般的な教養を持ち合わせており、一般的な倫理感も持ち合わせている。

 

 しかし、それらを全く無視できる精神構造しているのだ。

 

(うーん。これが恋って奴なのかなー。少しだけシラキリちゃんやライラちゃんに悪いけど、寿命は私の方が長いし、別に良いよね?)

 

 言い訳するような……自分に言い聞かせるような。

 

 人である以上、こうも想いをぶつけられれば、乙女の顔になってしまう。

 

 アドニスに好きと言われた時は何も感じなかったが、サレンから求められると悪い気分ではない。

 

 年齢が年齢のため変な勘違いを起こすことなく、ミリーはサレンの想いを受け止めた。

 

 少々曲解しているが、大筋は合っている。

 

 サレンの優勝がほぼ確定となりそうな中、ヘンリーは満足そうに頷いてから、話し掛けてくる他の店の関係者に対応する。

 

 あのヴァイオリンはどうやって作った?

 

 奏者の女性は誰だ?

 

 何故今回に限って出場したのか?

 

 全てを受け流しながら、先程の演奏を頭の中で反芻する。

 

 店で一度弾いて貰っていたが、サレンの腕前はヘンリーが思っていた以上だった。

 

 まるで誰かを思うかの如く奏でられた旋律は、その誰かではないヘンリーの胸にまで届き、虜にした。

 

 叶うならば、あの演奏を何度でも聴きたいし、更に素晴らしいヴァイオリンを作りたい。

 

 最近は惰性的に生きてきたヘンリーにとって、サレンとの出会いは正に運命的であったと言える。

 

「ヘンリーさん。あのヴァイオリンって他にも作っているんですか? 良ければ言い値で買いますよ」

「残念ながらあれだけですよ。僕が優勝した時に貰った素材の事覚えています?」

「素材といいますと…………もしや世界樹の枝ですか?」

「そうだよ。ダンジョンで偶然出たって噂になっていた奴さ。加工も大変だったけど、それに相応しい音だったでしょう?」

 

 世界樹と呼ばれるものは世界に幾つかあるが、ヘンリーが手に入れたのは今は無き最古の世界樹の枝だった。

 

 希少性は高いが、素材としての価値は低いとされ、高額ではあるが手が出ない程ではなかったため、コンテストの景品とされた。

 

 何故価値が低いかだが、世界樹の枝はその世界樹が生きている間に加工することで、その真価を発揮する。

 

 そして最古の世界樹は既に枯れ果てており、宝箱から手に入れたとしても、珍しさはあるものの素材としては二流として扱われたのだ。

 

 そんな世界樹の枝だが、ヘンリーは色々と手を尽くして一つのヴァイオリンとして完成させた。

 

 ヘンリーとしても最高傑作と呼べるヴァイオリンだったのだが、何点か難点があった。

 

 一つは世界樹の枝を使ったせいか、通常のヴァイオリンよりかなり重く、今張ってある弦は枝の繊維を解して作ったため、弾くのにも力がいる。

 

 そこら辺の説明をせずに、直感に従いサレンへとヴァイオリンを渡したが、今となっては正解だったと思っている。

 

 使われている素材のため、流石のミリーも何なのか気付かず、サレンも小石と鉄球程度の差が分からないため、ヴァイオリンの異質さに気付かなかった。

 

 渡した弦は通常の品だが、あの音はヴァイオリンと今の弦だからこそと言えるだろう。

 

「それは流石に手が出せませんね」

「僕もあれだけ大変な作業は、あまりしたくないですからね。それと、少し内密の話が……」

「何でしょうか?」

 

 ヘンリーは話していた、コンテストの開催者である男と共に誰もいない部屋へと入っていった。

 

 開催者の男にとって、困ることを相談するために。

 

 ヘンリーが個室で話をしている間に、コンテストの観客による投票が行われており、今は集計を行っている。

 

 ユウトは勿論サレンへと投票し、護衛も同じく投票した。

 

 余韻も無くなり始めた頃、ユウトは神妙な顔で口を開く。

 

「少し相談なんだけど、あの人を神殿に呼ぶ事って出来ないかな?」 

「それは聖女様のためですか?」

「ああ。最近のあいつは伏せがちだから、少しでも刺激になれば良いと思ってさ」

「そうですね……おそらく二日後辺りならば時間が取れそうなので、あのお店の店長に相談してみようと思います」

 

 偶然か、あるいは必然か。ミリーの言っていた五日以内の言葉通り、事態は動こうとしていた。

 

「俺の肩書きを使っても良いから頼む」

「ええ。私ももう一度聴きたいですからね」

 

 投票の結果が発表され、優勝はサレンとなった。

 

 壇上でサレンが挨拶をする中、ユウトと護衛は会場を去っていった。

 

 

 

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