なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第195話:決戦の朝

 おそらく聖都最後となる朝。約束の時間までは午後からだが、だからと言ってゆっくりとし過ぎるのはあまりよくない。

 

 隣のベッドを見ると、俺が寝る時には居なかったミリーさんがスヤスヤと寝ていた。

 

 いつ帰って来たのか分からないが、無事ならばそれで良いだろう。

 

 身体を起こしてミリーさんの剣の鞘を見ると、明らかに傷が増えている。

 

 夜に出かけて、尚且つ戦闘をしてきた。

 

 しかし俺を起こす事も無ければ、今はこうやって寝ているのを考えるに、俺の事を探っていた奴らを潰して来たのだろう。

 

 神殿の奴らに俺の事を知られた時点で、何かしらアクションがあると思ったが、せっかちな奴らだ。

 

 いつもならばミリーさんを起こすところだが、今日はまだ寝ていてもらおう。

 

 宿から出なければ、危険も無いだろうしな。

 

 時計を見ると、八時を示していた。

 

 食堂に時間の制限があるわけではないが、朝の九時まではモーニングとして、モーニング用のメニューがある。

 

 その中にはコーヒーと焼いた食パンのセットがあり、これが中々美味しいのだ。

 

 無難なセットだが、シンプルイズベストと言う奴だ。

 

 凝った料理も嫌いではないが、個人的にはお茶漬けみたいなシンプルな料理も好きだ。

 

 それに酒を大量に飲んでいる事は置いておいて、宗教と贅沢は切り離さなければならない。

 

 宗教とは人の拠り所であり、大抵の信者は裕福ではない層となる。

 

 施す側の人間が肥え太っていれば、その言葉はあまりにも虚しい物となる。

 

 それに、宗教の終わりとは大抵が暴動か、国から御達しのどちらかだ。

 

 日本の場合は、戦国時代に寺院の腐敗とかがあり、それにより焼き討ちをされたりしている。

 

 暴動とは少し違うが、ドイツであった迫害が一つの例だろう。

 

 ともかく、贅沢は敵とは言わないが、弁えておいて損は無い。

 

 それが敵地だとしてもな。

 

 軽く身支度を済まし、部屋から出る。

 

「おはようございます」

「おはようございます、シラキリ。シラキリも今から朝食ですか?」

「はい」

 

 階段を降り始めたタイミングで、後ろからシラキリが声をかけてきた。

 

 シラキリは基本的にアーサーと一緒であり、仕事の関係で朝が早く、朝食を一緒にする機会はかなり少なくなっていた。

 

 俺の朝が比較的遅いのもあるが、アーサーは大体朝の六時過ぎには宿を出ているのだ。

 

 元の世界では、仕事のある平日朝の五時半起床だったが、基本的にニート状態の今は、大体八時とか九時に起きている。

 

 寝る時間が大体二十二時から二十三時位なので、結構長い間寝てはいるのだが、大体は夢の中でルシデルシアに呼ばれ、演奏をさせられたりしている。

 

 そのせいかしっかりと寝ている筈なのに、あまり寝た気がしない。

 

 眠気自体は無いのだが、少しだけ気怠い感じが残るのだ。

 

 シラキリが伸ばして来た手を握り、一階の食堂へと向かう。

 

 シラキリはいつもの奴隷服だが、宿を出発する時はホロウスティアで着ている服に着替えてもらう予定だ。

 

 間違いなく戦闘となるので、フル装備しておいてもらわなければならない。

 

 奴隷服状態では最小限の装備しかできないし、終わり次第帰るので、もう首輪と服を着替えてしまって問題ないのだ。

 

 食堂はそれなりに混んでいるが、端の方は空席が幾つかあるので、待つこともなく席に着く。

 

 予定通り俺はモーニングセットを頼み、シラキリはオムライスを頼む。

 

 コーヒーを飲みながらゆったりと過ごす朝というのも、悪くない物だ。

 

「シラキリ。今日は大変かと思いますが、よろしくお願いしますね」

「任せて下さい。しっかりとこなして見せます!」

 

 オムライスをスプーンで食べながら、シラキリが応えてくれた。

 

 初めの頃は食べ方もストリートチルドレンらしいものだったが、今は貴族の食事会に出たとしても、問題ない位綺麗に食べている。

 

 多分俺よりも食事のマナーがしっかりしているのではないのだろうか?

 

 最低限のマナーは営業の基本として学んだが、本当に最低限だからな。

 

 ホロウスティアでは見かけなかったコーヒーだが、折角なのでアーサーに生豆を買っておいて貰っている。

 

 この時代に自動焙煎機は無いので、焙煎用の金網とコーヒーミル。それからろか用の布も一緒に買ってもらった。

 

 流石に紙のフィルターは売ってなかったが、これは時代的な物だろう。

 

 ホロウスティアの技術でならば多分作れるだろうから、もしかしたらホロウスティアで売っているかもしれない。

 

 教国の商品は北区側で売られているのが多いらしいが、ほとんど東区から出ていないので、あるかどうかすら分からない。

 

 教国で買ったミルなんかもホロウスティアで売っているとは思うが、探すのが大変だろうし、帰る場所で買っておいた方が安心だ。

 

 そうこうしていると、シラキリもオムライスを食べ終えたので、着替えやら用意やらの為に部屋へと戻る。

 

「おんや? おはようサレンちゃん。ご飯を食べに行ってたの?」

「おはようございます。起こすのも悪いと思い、先にいただいてきました」

 

 少しだけ力が入ってしまい、音を立てて部屋の扉を閉めた所、ミリーさんがのっそりとベッドから起き上がった。

 

 かなり眠たそうだな。

 

「何か飲み物でも淹れましょうか?」

「あー、何か目が覚める様な奴をお願い」 

「分かりました」

 

 アーサーが買ってきくれた商品の中にハーブティーがあるので、お湯を沸かして準備する。

 

 目が覚めると言えばコーヒーなのだが、生憎お湯を沸かすことは出来ても火を起こす魔導具はここには無いので、焙煎することが出来ない。

 

 ルシデルシアに表に出て貰えば豆を炒る程度のことは出来るだろうが、流石に今ルシデルシアに出て来てもらう事は出来ない。

 

「あー、ハーブティーね。これなら目も覚めそうだよ」

 

 淹れたハーブティーをミリーさんに渡すと、少しだけ嫌な顔をしてから魔法で冷まし、一気に飲み干した。

 

 ハーブティーは使うハーブにもよるが、好き嫌いがある。

 

 今回は目覚まし用の飛び切りキツイ奴なので、ちびちび飲むよりは一気に飲んだ方が楽だと思ったのだろう。

 

「ふぅ……中々キツイけど、目が覚めたよ」

「それは良かったです。眠そうですが、いつごろ帰って来たのですか?」

「多分三時位じゃないかな? まだ真っ暗だったからね」

 

 あっけからんに言うが、ミリーさんは俺がミリーさんがしていた事に勘付いていると分かっているのだろう。 

 

 それだけ俺に心を許してくれている……そう思う事にしておこう。

 

「お疲れ様でした。良ければ朝食を運んできましょうか?」

「いや、自分で食べに行くよ。宿にも伝えておかないといけない事があるからさ」

 

 ベッドからぴょんと飛び降りたミリーさんは、そのまま部屋を出て行ってしまった。

 

 そう言えばこの宿での寝泊まりは、黒翼騎士団の福利厚生の一部だったな。

 

 出て行くならば、手続きをしなければならないのだろう。

 

 ……何か既に完全なヒモになっている気がするが、楽が出来ると割り切っておこう。

 

(確認だが、用意しておいたものはあるか?)

 

 

『神喰さえあればあとはどうとでもなる……強いて言えば、念のためにポーションを幾つか用意しておく位だろう』

 

(それは既に用意してあるさ)

 

 隠しておいたグランソラスを取り出し、一度鞘から抜き出す。

 

 意思があるのは分かっているが、持っていると少しだけ懐かしい気持ちになる。

 

 前の世界を合わせれば、結構長い年月ルシデルシアと一緒に居る事になる。

 

 今となっては魂すらも一緒のわけだが、馴染むのではなくて、懐かしい気持ちになるのは何故だろうか? 

 

 何となくルシデルシアに聞くのは癪なので、グランソラスを鞘へと戻す。

 

 ロングスカートと、内ポケットが付いているジャケット。それからポーションとヴァイオリンを取り出し、準備を進める。

 

 拡張鞄は出かける時にアーサーに預けるから良いが、ヴァイオリンの入っているケースは戦いの最中も持っていなければならないので、少し不安がある。

 

 早めにマヤかアオイを見付けて、持っていって欲しいが、上手く行くだろうか……。

 

 流石にこのヴァイオリンが壊れるような事があれば、一ヶ月は引きずる事になるだろう。

 

 高いのは勿論だが、おそらくこれと同じヴァイオリンが作られることは無いだろうしな。

 

 持ち物の確認も終わったので、着替える前にシャワーを浴びておくかな。

 

 シャワーを完備している宿なんてほとんどないし、ホロウスティアに帰っても銭湯に行くことは出来ない。

 

 教会を立て直す時には風呂場を作って貰おうと考えているが、建築には相応の時間が掛かる。

 

 たっぷりとお湯を使って身体を洗う機会は、今を逃せば相当先になってしまう。

 

 そんな訳で縛っていた髪を解いてから服を脱いで、シャワーを浴びる。

 

 身体を拭く生活にも慣れてはいるが、心が日本人のせいか、やはりお風呂が恋しくなる。

 

 慣れたと言えば、髪の扱いのみかなり慣れてきた。

 

 複雑だった髪の結び方も、今では手慣れたものだ。

 

 少しだけ呆けながらシャワーで身体を温め、それから髪と身体を洗てから出る。

 

 サッパリとした所で服を着ながら時計を見ると、十一時となっていた。

 

 あっという間に三時間も経っていたようだ。

 

 さて、心残りは無いし、準備するとしよう。

 

 ……キスをするな。

 

 

 

 

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