なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第200話:ちゃっかりマヤちゃん

「揺れ……ですか……」

 

 照明の灯りしかない、地下室の一室にて、マヤはため息混じりに呟いた。

 

 囚われの身になってしまったマヤだが、落ち込んでいる様子は見られず、今も調合をしていた。

 

 サレン達が死んだと思っているロイとコングだが、マヤの尽力もあり、逃がすことに成功していた。

 

 その代わりタリアが人質となってしまったが、マヤはサレンの言葉を、今も信じている。

 

 強制されて作らされているポーションの一部をこっそりと別容器に取っておいたり、エリクサーの材料を少しくすねておいたり。

 

 出来ることをやりながら、待っている。

 

 しかし……。

 

 一度目の揺れが起きてからも、何度か揺れが続き、部屋の壁にヒビが入るのをマヤは視界の端に捉える。

 

「誰かいますか?」

 

 鍵のかかった扉に向かってマヤが誰かを呼ぶが、声が返ってくる事は無い。

 

 いつもならば誰かしら扉の外で待機している筈なのだが、揺れの事もあり、神殿で何か起きているのだろうと、マヤは持っていた素材を机の上に置きながらか考える。

 

 調合する薬品次第では、かき回す回数すら指定されるほど難易度の高い物があり、こう揺れが起きては下手な調合は出来ない……という言い訳が出来る。

 

 だからと言って、マヤがこの部屋で出来る事は無い。

 

 部屋と外を繋ぐ扉は特殊な魔法が使われており、マヤの使える魔法では壊すことが出来ず、調合で使う金属品を使ったとしてもビクともしない。

 

 また薬品にも強く、酸性の液体をかけたとしても扉にかかっている浄化の魔法により無効化されてしまう。

 

 つまり、外に人が居なければ、マヤは外に出る事が出来ないのだ。

 

「多分……いえ、サレンさんだろうけど……」

 

 幾度となく続く揺れの原因について考え、そんな一言をマヤは漏らす。

 

 地下である以上、もしも部屋が崩れればマヤは生き埋めとなり、死ぬだろう。

 

 扉を含めてこの部屋は頑丈だが、それでも限界がある。 

 

 壁にヒビが入っているのがその証拠だろう。

 

 仮に部屋が無事だったとしても、地上に上がるための通路が無事とも限らない。

 

 ルシデルシアが言っていたように、あまり時間は残されていないのだ。

 

「……準備しておこうかな」

 

 一人でいる時間が増えたせいで独り言が増えたマヤは、その事に落ち込みながらも、部屋の中にある貴重な素材を集め始め、鞄へと入れていく。

 

 死ぬにしろ生きるにしろ、この部屋には危ない物から希少な物まで、様々な物が揃っている。

 

 用途次第では毒になったり爆発する可能性があるので、仕分けを行い、ついでにサレンが助けに来た時、持って帰れるように準備をしているのだ。

 

 折角準備してもらった希少な物なのだ。少し位貰って帰っても、罰は当たらないだろう。

 

 僅かに溢れてくる、部屋が崩れるかもしれない恐怖を押し殺しながら、マヤは訪れるであるタイムリミットを待つ。

 

 準備も終わり、天井からパラパラと砂が落ち始めた頃、マヤは扉の方を見た。

 

 その行動は何となくしたものだったのだが、そのタイミングで、外から足音の様なものが聞こえてきた。

 

 もしも足音の主がサレンでなかったとしても、マヤの命は助かるだろう。

 

 マヤの価値は、マーズディアス教の聖女であるアオイよりも上である。

 

 それはサクナシャガナの観点からであり、人である教皇からすればアオイの方が高いのだが、サクナシャガナとしては絶対にマヤを手放すわけにはいかない。

 

 天使を放っておきながら、マヤが襲われる事もなく地下室に居られるのはそのためだ。

 

 だからと言って簡単に助け出せる余裕はサクナシャガナにも無いが、マヤの助けが来る可能性は少なからずある。

 

 だが、その助けは新たな監禁先に移るだけであり、助かるのは命だけである。

 

「本当に此処に居るんですか?」

「はい。地下への入り口や、道中にあった門からするに、間違いないと思います。位置的にも、此処ならば会いに行く事も難しくないでしょうから」

「確かにおかしいですが……そんな事が許されるんですか?」

「国が違えば常識が違うのと一緒です。大麻と同じです」

 

 聴きたかった声と、知らない女性の話し声。

 

 聖都まで一緒に来たことで、人となりは十分に理解したつもりでいる。

 

 だから、消して嘘を吐くような人ではないのは十分に理解している。

 

 しかし本当に来ると信じられていたかと問われれば、そうとも言えない。

 

 何せ教国を相手取るという事は、一国を相手にする以上の重みがある。

 

 神の力は加護という形で現れ、その力は人により強弱があるものの、広く知られている。

 

 有り得ない話だが、神が死ねばその加護も失われる事となる。

 

 神が頂点である教国に喧嘩を売れば、その信徒全員に喧嘩を売る事になる。

 

 勿論教国と言っても様々な宗教がある訳だが、今回は大元である。

 

 世界に喧嘩を売っていると言っても過言ではないだろう。

 

 その辺りはミリーが一番よく知っているので、正体を知られないように動いているが、目撃者をゼロにする事は流石に出来ない。

 

 その代わり、帝国の領地で狼藉を働いていた暗部の人間を全員殺したので、多少顔がバレた程度でどうにかなる事は無い。

 

 更に信徒の一部はサクナシャガナの手によって天使の生贄にされてしまったので、

 

「妙な扉ですね……。マヤさん。いらっしゃいますか?」

「はい。お久しぶりです」

「はい。お久しぶりです。約束通り、助けに来ました」

 

 ふと、マヤはサレンと別れた時の事を思い出した。

 

 一ヵ月も経っていないが、とても昔の様に感じる。

 

 一緒にご飯を食べ、焚き火を囲み、お茶を飲む。

 

 聖女となってからは、得る事の出来なくなった友達との触れ合い。

 

 流れそうになる涙を我慢し、マヤはバッグを持って立ち上がった。

 

「その扉は特殊なのですが、鍵を持った看守はいませんでしたか?」

「いえ、此処に来るまで人に会う事は無かったですね……マヤさん。扉から十分に離れて下さい」

「はい……」

 

 サレンから言われた通り、マヤは扉から離れた。

 

 それから直ぐに刃の様な物が扉を通り過ぎ、大きな音を立てて扉が倒れる。

 

 サレンが扉の両端を、グランソラスで斬って壊したのだ。

 

 これをグランソラス以外でやろうとすれば扉の方が勝つが、サレンの筋力とグランソラスの切れ味の前では、如何に強固な扉も豆腐と変わらない。

 

 剣を片手に持って現れたサレンに、思わず目を見開いて驚くマヤだが、そこから更に驚く事になる。

 

「あなたは……マーズディアス教の聖女様。それに、勇者様まで……」

 

 サレンに背負われた青年とサレンと一緒に現れた少女。

 

 二人は立場的にマヤの敵である存在だった。

 

「話したい事はあると思いますが、あまり時間が無いので、此処を出ましょう。タリアさんも助けなければいけないですからね」

「……はい」

 

 サレンがその事を知っている事に更に驚くが、此処まで助けに来られる人間なので、相応の情報網があるのだろうとマヤは納得する。

 

 部屋を出ようとしたタイミングで、再び大きく揺れが起こり、マヤとサレンは視線を合わせて、互いに頷く。

 

 だがその時、ふとサレンは違う事を考えた。

 

「すみません。気付け薬とかありますか?」

 

 移動速度的にはユウトを背負っていても問題無いが、サレンがマヤの所に向かう途中で起こった戦闘は苦戦を強いられた。

 

 いくら強力なポーションや治療の奇跡を使えると言っても、即死したらどうしようも無いので、戦い方を工夫しなければならなかった。

 

 幸い戦い自体は二回だけだったが、サレンはルシデルシアを呼ぶかどうか、本気で悩んだりしていた。

 

 なので、せめて少しでも自由に動けるように、ユウトを起こそうと考えた。

 

「有ります……今使いますので、少しお待ちください」

 

 バッグから小瓶を取り出したマヤは、ユウトの鼻先で蓋を開けて直ぐに蓋をする。

 

「うっ! ゴホ! オェ……!」

 

 サレンの戦いの最中すら気を失ったままだったユウトが、咳をしながら目を覚ます。

 

 念のためサレンは直ぐにユウトを床へと降ろし、アオイをユウトの傍に着ける。

 

 目が覚めたユウトは、目の前に居るアオイに驚き、その後ろに居るサレンを見つけて睨みつける。

 

 しかし、何故ユウトが睨みつけたのかは理解できず、呆けた顔をした。

 

「ユウト、大丈夫」

「あ、ああ。大丈夫だけど、どうなっているんだ?」

 

 ユウトは自分が何を思い、何をしたのかしっかりと覚えている。 

 

 更に他国から来たマヤが居るのを見つけ、混乱に拍車がかかる。

 

「色々とあるけど、時間が無いから今はとにかく着いてきて」

 

 よろよろとアオイに手を引かれて立ち上がり、その時に服に空いている穴が目についた。

 

 確かに刺された筈なのに、穴から覗く肌は綺麗な物であり、ユウトは疑問に思いながらもアオイの指示に従う。

 

「もう一人助けた後に、私の仲間と合流して逃げて頂きます。此処は危ないので、急ぎましょう」

 

 三人というよりはユウトに聞かせるように話しかけ、通路へとサレンは足を進める。

 

 ユウトはアオイの顔を不安そうに見るが、アオイの顔に部屋で見たような不安はなく、力強く手を引かれる事になった。

 

「お……」

「話は後にしましょ。生き埋めなんて嫌でしょう?」 

 

 ふとユウトが辺りを見渡すと、ヒビの入った壁があった。

 

 周りに窓もなく、此処がどこなのか何となくユウトは理解した。

 

 既にマヤはサレンのあとを追っており、アオイ達も後を追うように走り出した。

 

 

 

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