「……美味しいですね」
「ありがとうございます」
ミリーさんが用意してくれた、木を倒して座りやすくした椅子もどきに座り、夕飯を食べる。
アオイも気に入ってくれたようだ。
俺の舌は日本人の時と同じ味覚なので、俺が食べて美味いと感じるものは、アオイやユウトにも美味しいと感じられるはずだ。
「これは……私が作った奴ですか?」
「はい。別れる前に作って頂いたものになります。身体も暖まり、丁度良いと思いまして」
少し濃いめにしてあるので、パンとの相性もバッチリである。
パンを食べるシラキリが少しもの足りなさそうにしているが、これでもパンの中では美味しいお店の奴なので、我慢して貰う。
「しかし、人数が増えたねー。お腹も膨れてきたし、改めて自己紹介でもしておく? そっちの二人は誰が誰だが分からないでしょ?」
アオイとユウトは聖都では有名なので、マヤとタリヤが知らないわけがない。
しかし逆にアオイ達が俺達の事を知っているわけがないので、自己紹介は必須だろう。
「それでは私から。イノセンス教のシスターをしています、サレンディアナ・フローレンシアと申します。この度はライラとミリーさんの、付き添いという形で同行していました」
教国の件は調査という名目だったが、王国でサクナシャガナにちょっかいを出され、ミリーさんの件があったので、戦うことになるのは分かっていた。
とは言っても俺の言った事は事実ではあるので、問題ない。
主にミリーさんとライラがジト目だが、嘘ではないのだ。
「サレンちゃんも色々とあるみたいだけど、まあその通りだね」
「そうだな。貴様に同意するのは業腹だが、シスターサレンは付き添いとして来てくれただけだな」
ちゃんと二人共認めてくれた。
なんだか刺々しいけど、これで少しは場も柔らかくなっただろう。
「次は我だな。ライラ……」
ライラが自己紹介しようとするが、ふと何やら言葉を止めた。
「いや、今更隠す必要もあるまい。我はライラルディア・フェイナス・グローアイアス。元ユランゲイア王国の公爵令嬢だ。今となっては家自体が無いので、ただのライラで頼む」
ライラの自己紹介を聞き、アオイ達四人が驚くが、その中でもタリアの驚きが大きかった。
「グローアイアス家というと、あの山断ちのですよね?」
「ああ。あの剣は我が持っている。その件も含めて実家と色々とあり、最終的に滅ぼす形となったのだが、戦争にあれが使われる事は今後ないだろう」
「ほろぼ……いえ、その髪ならば、王国では仕方なかったのでしょうね……」
マヤとタリアは純粋に悲しんだような感じだが、アオイとユウトは少しライラを怖がっている様に見える。
滅ぼしたって事は相応に人を殺しているので、現代人の感覚では人殺しは忌避する存在だ。
そこにどんな事情があったとしても、殺しなのだからな。
まあ俺達のメンバーは全員人を殺した経験があり、シラキリは分からないが、最低でも各百人以上は殺している。
ルシデルシアが暴れてくれたおかげで、俺も四桁を越える人間を殺しているのだが、この世界は殺すか殺されるかなのだ。
殺しを肯定するつもりはないが、殺さなければ終わらない事もあるのだ。
それはライラとミリーさんの件が証明している。
ライラの場合は殺さない限り、たとえグランソラスを手放したとしても、財力が続く限り暗殺者を仕向けて来ただろう。
ミリーさんの場合はそもそも殺さないと戦争や世界の危機なので、サクナシャガナを殺すしかなかった。
俺はまったく会話をしていないが、ルシデルシアも特に生かそうともしていなかったみたいだし。殺す以外の選択は無かったのだろう。
「ホロウスティアに行けば王国の噂も流れてくるだろうが、世代が変わった後のグローアイアス家はやる事をやっていたからな。我が手を下さなくても滅んでいただろう。シラキリ」
ライラの自己紹介が終わり、次はシラキリの番となる。
シラキリは夕飯御を食べ終わると早々に俺の膝の上に座り、現在はお茶を飲んでいる。
見た目はとても愛らしいのだが、初めて行った初心者用のダンジョンではゴブリンの首を斬り落とし、何度か見た魔物との戦いも、大体最後に首を斬り落として倒している。
装備もいつの間にか忍者……クノ一みたいになっていた。
「……シラキリと申します。サレンさんに命を助けて頂き、それから一緒に暮らしています。これから学園に通う予定です」
……普通の自己紹介が終わり、シラキリの頭を撫でてやる。
…………いや、よくよく考えたらおかしいのだが、まあ指摘する必要はない。
ライラの自己紹介で少し固くなっていたアオイ達が笑みを浮かべるが、俺の考えが外れてなければ、アオイ達の前でシラキリは天使達を殺していたはずだ。
その事を忘れているのだろうか?
「それじゃあ次は私だね。私はミリー・トレス。一応冒険者をしているよ。今回は諸事情で聖都まで来た感じだね。今後ともよろしく」
流石に本当の事を教えるつもりは無いようだな。
一応黒翼騎士団は帝国の機密事項だし、俺達が特別なだけで、普通は教えて良いものではない。
「あの……発起人と言っていましたが、結局何があったのですか? 神殿は跡形もなく壊れてしまいましたし、何やら異形の者に襲われたりも……」
「ざっくり言えば、神の御乱心って奴だね。私の依頼元が帝国なんだけど、不審な動きがあるって事で、調査に来てたんだよね。召喚者の件もだけど、色々と黒い噂が絶えなくてねー」
誤魔化し方としては悪くないように感じるな。空気を読んでライラは何も言わないし、睨みもしない。
ギルドからの依頼と言われてしまえば、それ以上問いただす事は難しく、納得するしかない。
どうせ実際にミリーさんはギルドから依頼を受けていそうだし、ホロウスティアに戻った後のアリバイも問題ないのだろう。
「そんで現れた飛んでいた変なのについてだけど……あれって何なんだろうね?」
…………そう言えば、ミリーさんが天使を知っているわけが無いのか。
俺もルシデルシアから聞かされたからあれが天使だと知っているが、果たして知っている人間は居るのだろうか?
「あれは天使と呼ばれる存在です。文献に神の先兵と記されており、信徒を生贄に捧げる事で、呼び出すとされています」
居ましたね。知っている人が。
これこそ年の功って事なのか、タリアさんが神妙な表情で話し始めた。
「本来は魔王が現れた際に、どうしようもなくなった際に使われるものらしいですが、あのような事になるとは……」
「そう言えば神殿に、生きている人間ってほとんどいなかったんだっけ?」
「そうだな。生き残りはあの時アーサーが守っていた者だけだろう。ほぼ更地となっていたし」
地下牢以外に隠れる場所があるならば、もしかしたらまだ生き残りが居るかもしれない。
そう思いたいが、ルシデルシアは戦いの際に、サクナシャガナが神力を撒いたため、隠れていたとしても死んでいると語っていた。
正確には天使へと変異するのだが、その天使はサクナシャガナの死と共に消え去ったので、死んだのと同じだ。
「なるほどね。出来れば私も色々と話したいんだけど、国からの依頼だからさ。そこはごめんね?」
「いえ。こうして今生きていられるのは、あなた方のおかげですので、深くはきくつもりはありません」
「お互い色々とあるもんね。まあ、此処に居るのはみんな訳ありだろうけどね」
一先ずミリーさんの自己紹介……嘘紹介が終わる。
こちらのメンバーの最後は、アーサーとなる。
元グローアイアス家の執事と言っていたが、間違いなく嘘である。
果たして、どんな自己紹介をしてくれるのだろうか?
「私はグローアイアス家で執事していました、アーサー・ディルムントと申します。元はライラの専任執事でしたが、今は訳あってサレン様に付き添っています」
普通。あまりにも普通だ。
問題としてはそのグローアイアス家をライラと一緒に滅ぼしているので、裏には重い物もあるが、そんな事を知る由もない。
ライラの話し方では、まるで一人で滅ぼしたようにしか聞こえないだろうし。
見た目は勿論中身もイケメンなアーサーだが、戦い方は勇者と言うよりは暗殺者である。
……そう言えば、俺達の中で普通に戦うのってライラだけだな。
そのライラも普通と言うよりは殲滅戦を得意とするきらいがあるが、それ以外は全員忍者や暗殺者である。
俺の中には魔王もいるので、魔王パーティーとして見れば妥当なのかもしれないな。