なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第216話:ライラとラーメン

「これは……」

 

 木箱からワイングラスを一つ取り出したライラは、ゆっくりと持ち上げて、ワイングラスを見回す。

 

「たまたま見かけた露天で売っていましたので、セットで買ってみました。インテリアとしても良いですし、ライラにはピッタリではないでしょうか?」

「いや……しかしこれ程の物が……」

 

 軽く飲み口の部分をライラは触り、顔が驚愕の色に染まる。

 

 やはりライラならばこのワイングラスが、どれだけのものか理解している様だ。

 

「ライラが思っている程の金額は支払っていませんよ。しっかりと予算を……少し超えてしまいましたが、私のお小遣いの範囲には収まっています」

 

 超えたのはミリーさんの分も一緒に買ったからだが、それでもグラス二個分として見ればまだ安い。

 

「それならばまあ構わぬが……これを本当に貰っても良いのか?」

「はい。何かの際には、一緒にワインを飲めればと思いまして。お気に召しましたか?」

「ああ。グランソラスを受け取った時とはまた違う胸の高鳴りを感じる程だ。本当にありがとう」

 

 どうやらかなり気に入って貰えたようだ。

 

 ライラが笑顔なのは相当珍しい。

 

 ライラは一旦箱へとワイングラスを戻し、ラッピングを元に戻す。

 

「今すぐ帰って一杯飲みたくなるが、それはホロウスティアに帰ってからにしよう。付き合って貰えるかな?」

「はい。喜んで」

 

 これで何かやらかしたとしても、そこまでライラに怒られる事は無くなるだろう。

 

 代わりにミリーさんへのヘイトが増しそうだが、必要経費だ。

 

 ミリーさんなら許してくれるだろうし……。

 

 ライラから木箱を受け取り、拡張鞄の中に入れる。

 

 ワイングラスの様な割れ物も、この拡張鞄ならば気にしないで運ぶことが出来る。

 

 多分もうこの鞄無しの生活には戻れないだろう。

 

 元の世界では、スマホが手放せなかったのと同じだ。

 

 ゆったりと喫茶店で過ごしていると、空がオレンジ色に染まり始め、店内も騒がしくなり始める。

 

 もう直ぐ夕飯の時間だが、流石に此処で食べていくのは勿体ない。

 

 席が埋まり切る前にお会計を済ませて、外へと出る。

 

「夕飯はどうしますか? どこかで食べて行きますか?」

「そうだな。折角の自由な時間なのだし、食べてから帰るとしよう。この様な機会は中々ないからな」

 

 確かにライラと二人きりで出掛けた事は、これまで片手で数える位しかない。

 

 シラキリやミリーさんは比較的一緒に出掛けることはあるが、ライラは中々ない。

 

 何ならアーサーよりも二人だけで出掛けた回数は少ないだろう。

 

 基本的にライラはダンジョンにほぼ毎日通っていて、帰ってくるのは夜になる少し前だ。

 

 昼間ならばともかく夜は全員で食事をするので、それからライラと二人きりになるなんて事は無い。

 

「そうですね。ホロウスティアではライラと二人きりで出掛けたのは、数えるほどしかなかったですね」

「先立つものが無ければ、生活もままならんからな。とは言ったものの、どの店にするかだが……」

 

 何故かライラは俺を見てから、じっとりとした視線に変える。

 

 何故?

 

「酒場ではなく、料理だけの場所にするとしよう。シスターサレンが間違いを犯すとは思わぬが、念のためな」

 

 ……なにも言えないので、苦笑いだけしておいた。

 

 幾度となくミリーさんと朝帰りしているし、旅の途中でミリーさんとこっそり酒盛りをした回数は片手では足りない。

 

 それもあってミリーさんが心を開いてくれたのだろうが、ライラに正座をさせられた回数もそれなりにあった。

 

 ライラからすれば、いい大人が何をやっているのだと文句を言いたくなるのは当たり前であり、今のような言葉が出るのも仕方ない。

 

 出来れば夕飯は海鮮を食べたいが、既に港からは大分離れているため、もう新鮮な海鮮を食べることは出来ない。

 

 シラキリが学園を卒業した位のタイミングで、皆で食べに行きたいものだ。

 

 日本酒……じゃなくて聖酒と一緒に食べる刺身はさぞ美味しいだろう。

 

 ……いかん。飲みたくなってきた。

 

「少し肌寒いですし、温かい物が食べたいですね」

「ふむ。確かに日が沈んだせいか、風か冷たいな。確かラーメンとやらが有名だったはずだし、それで構わないか?」

「はい」

 

 聖都では一度だけラーメンを食べたが、それをライラに話すと不機嫌になる恐れがあるので黙っておく。

 

 フリーマーケットをやっていた広間から離れ、微かにアルコールの匂いがする通りに進む。

 

 昼間は無かった屋台が増えていたり、酒場が開店したりしている。

 

 肉の焼ける匂いや、香辛料の匂いが腹に沁みてくる。

 

「ふむ。あの店はどうだろうか? 中々良さそうな店構えであり、品もありそうだ」

 

 ライラが選んだのは、五月雨龍と書かれた店だった。

 

 ……うん、見返しても五月雨龍だ。

 

 間違いなく元の世界の言葉であり、この世界には無いものである。

 

 ライラも店の名前自体は読めなさそうだし、多分店主も分かっていないだろう。

 

 転生者はミリーさんが言う限り、ここ百年位はいないわけだし。

 

「良さそうですね。並んでもいなさそうですし、入りましょう」

「ああ」

 

 中に入ると、むわっとした生温い空気が押し寄せてきた後、心地よい風が吹き抜ける。

 

「いらっしゃい! お好きな席へどうぞ」

「席か……」

「テーブル席にしましょう。そちらの方がゆっくりと食べられそうですから」

 

 店内は聖都で入ったのより広く、清潔に保たれている。

 

 それなりに人も入っているが、酒場の様な煩さは無い。

 

 さて、メニューは……。

 

「一口にラーメンと言っても色々とあるのだな。聖都にも沢山店があった理由は、これのせいか」

 

 ライラの言う通り、醤油に味噌。塩に豚骨。更にそこからの派生や麺の種類も色々とあり、中々凄いメニューとなっている。

 

 少し不安があるが、周りの客を見る限り美味しそうに食べているし、雰囲気も悪くない。

 

 単純にこれだけのラーメンを作れるポテンシャルがあるのだろう。

 

 前回は濃いものを食べたし、今回はあっさり目にしておくかな。

 

「私はこの塩ラーメンにしようと思いますが、ライラはどうしますか?」

「悩ましいな……我はこのオススメの、味噌ラーメンとやらにするとしよう」

 

 あっ、ちゃんと見てなかったが、味噌ラーメンがオススメなのか。

 

 白米と一緒に食べる味噌ラーメンはとても良いが……いや、塩ラーメンにしよう。

 

 味は気になるが、ライラから一口貰えば良い。

 

 店員を呼んで注文をして、しばらくするとラーメンが運ばれて来た。

 

 見た目はまんま普通のラーメンだが……。

 

 いつも通り祈りのいただきますをしてから、一口すする。

 

 これは……悪くないな。

 

「ふむ。悪くない。味噌は転生者から伝わったものだと聞き及んでいたが、この様な味なのだな」

 

 ライラの方もご満悦らしく、ずるずると食べていく。

 

 塩ラーメンは野菜と海鮮出汁を合わせたものみたいだが、雑味はなくスッキリとした味わいだ。

 

 トッピングもスープを邪魔しない様な味付けになっていて、しっかりと計算されているのが分かる。

 

 昔食べた一番美味しかったのに比べれば劣るが、この世界でと考えれば素晴らしい出来だ。

 

「そうですね。こちらの塩ラーメンも出汁がしっかりとしていて美味しいです」

「なるほどな。ホロウスティアでの評判はあまり良くなかったが、行ってみるのも有りだな」

 

 いや、これを食べた後にホロウスティアで食べるのはおオススメしないが、本場とその他の差を身をもって体験してもらうとしよう。

 

 これも一つの経験というものだ。

 

「良ければ、お互いに一口交換しませんか? 味噌味も気になりまして」

「それは……いや、そうだな。我も気になるし、良いだろう」

 

 ほんのりと顔を赤くするが、直ぐに冷静になる。

 

 初心というか若いというか……この歳になるとあまり恥ずかしいという感情が湧く事は無いからな……。

 

 ミリーさんとのキスも少し緊張はしたが、それ以上の感情は無かったし。

 

 お互いにどんぶりを交換して一口食べる。

 

 ライラが感心するだけはあり、味噌も美味しい。

 

 この品質の味をホロウスティアで味わえるならリピートするのだが、それは流石に強欲というものか……。

 

 ひな鳥の巣のコルトさんに相談して、ラーメン屋をやってくれる人でも探してみようかな?

 

「美味しいが、塩の味と言うよりは野菜や魚介の味だな。何故塩なのだ?」

「おそらくあっさりとした味なので、分かりやすく塩味と表現しているのだと思います」

「言われて見ればそうだな……本当の塩の味ではないが、納得は出来る」

 

 俺自身何故塩ラーメンの名前が塩ラーメンなのか知らないが、大きく間違ってはいないだろう。

 

 確か、出汁とかに塩ダレを入れているからとかだった様な気もするが、異世界だし詳細なんて知らなくても問題ない。

 

 ライラと一緒にラーメンを食べ終え、折角なのでデザートも食べてから店を出る。

 

 ラーメンだけではなくデザートの杏仁豆腐も普通に美味しく、最初の時に感じていた不安は完全に消し飛んでいた。

 

 出来る店は出来るという事だな。

 

「ありがとうございましたー!」

 

 店員の元気な声に見送られて、外へと出る。

 

 良い感じに気晴らしになったし、明日からも頑張れそうだ。

 

 

 

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