なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第218話:生きていくためには

 マーズディアス教国の件については偵察してから考えようということで落ち着き、昼食のために一度馬車を止める。

 

 料理を作るのは基本的に俺だが、最近はアオイが手伝ってくれるようになった。

 

 マヤには調味料の準備をしてもらったり、配膳の準備を。

 

 シラキリはパンをコネコネしてから焼いてもらっている。

 

 誰が何をするかは決まっているので、準備はあっという間に終わる。

 

 食材はしっかりと買い足してきたので、一週間ほどは問題なく、最悪シラキリのパンがあるので、適当に狩ってくればさらに三日間は問題ないだろう。

 

 そんなわけで今日のお昼はシラキリの焼いたパンといつものトマトスープ。それから適当に栄養を考えて焼いた肉である。

 

 トマトは栄養価が高いので、成長期の子供達には丁度良い。

 

 旅となるとどうしても栄養が偏りがちになってしまうが、拡張鞄様々である。

 

「いやー今日もおいしいねぇ。これもマヤちゃんのおかげかな?」

「そうですね。マヤさんが作って下さった調味料があるから、旅でも食事を楽しむ事が出来ています」

「あ、ありがとうございます……」

 

 照れるマヤだが、マヤが居なければ俺達はともかく、アオイ達はかなり苦労した事だろう。

 

 とっくの昔にホロウスティアから持って来たものは無く、マヤが居なければ街で買った塩とちょっとした香辛料だけの味付けになっていただろう。

 

 まあそれでも不味い物を作らない自信はあるが、飽きが来るのは早かっただろう。

 

 肉は少し前にシラキリが狩って来た魔物の肉だが、これもしっかりと赤みがあり、食べ応えがある。

 

 昼飯後は軽く休憩を挟み、再び出発である。

 

 そう言えば、旅をしている途中は雨が降ってきていないな。

 

 聖都に居る時は何日か降っていたが、水は足りているのだろうか?

 

 いや、魔法でも賄えるから、相当ひどい水不足が起こらない限り、干ばつの心配はないのだろう。

 

「さてと、今日もやるとしますか」

「今日こそ負けない」

 

 出発して少しすると、ミリーさんとシラキリが武器を装備する。

 

 いつもの見張り兼訓練の為に、馬車から飛び降りるのだろう。

 

 シラキリとミリーさんの訓練は今の所シラキリの全敗らしく、馬車から出る時はやる気満々だが、帰ってくる時は大体涙目である。

 

 ミリーさんの本気の戦いを見た後だと、あれに勝つのは流石に難しいだろうと思ってしまう。

 

 今のミリーさんはあの時とは違い身長が低く、全盛期って訳ではないだろうが、百年の間に培ってきたわざは本物だ。

 

 勿論シラキリとは相性が悪いだけで、ライラが本気ならばミリーさんも分が悪いだろうが、そう簡単には負けないだろう。

 

「あの、俺にも訓練って出来ますか?」

 

 ミリーさんとシラキリが馬車から降りようとすると、ユウトが訓練の参加を申し出た。

 

 これに対してミリーさんとシラキリは視線を合わせてから、首を傾げる。

 

「うーん。それは何でだい?」

「これから先、この世界で生きていくなら力が必要だと思って。駄目ですか?」

「何となく何を考えているか分かるけど、ホロウスティアなら別に力が無くても生きて行けるよ。治安もかなり良いし、召喚者である君達を無下にはしないだろうからね。今回は本当の意味で被害者な訳だし」

 

 確かに犯罪らしい犯罪は俺の近くでは起きていないし、見回りの兵士も多いので、安心感がある。

 

 ひな鳥の巣やシラキリが贔屓にしているパン屋なんかも、まさに普通の店であり、どう見ても強くなんてない。

 

 確かに手っ取り早く金を稼ぐならばダンジョンだが、ダンジョンだからと言って金が簡単に稼げるわけではない。

 

 シラキリやライラは例外だが、それでも初期投資は額面上はかなりの金額だし、俺のせいだが死に掛けてもいる。

 

 生半可な覚悟で選ぶ物ではない。

 

「……それでも、生きていくためには……」

「まあ鍛えたいなら反対はしないけど、安易に力に逃げるのはあまり良くない事だからねー。ほら、復讐が復讐を呼ぶなんて事にも、なりかねないからね」

 

 若干ライラに突き刺さりそうな言葉だが、ライラの場合は復讐を繋げないために、皆殺しを選択している。

 

「――お願いします」

 

 忠告を聞きながらも、ユウトは真剣にミリーさんへと頼み込む。

 

 傍らではアオイが心配そうにしているが、ユウトはアオイに相談せずに決めたようだな。

 

 この件には、俺から口を挟まない方が良さそうだな。

 

「そこまでやる気があるなら、これ以上は言わないでおくよ。けど、訓練の前にまずは基礎体力からだね。とりあえず限界まで馬車と並走しようっか」

「分かりました!」

 

 元気よく返事をするが、馬車と並走か……。

 

 馬車の速度は大体、ジョギングよりも少し速い程度かな?

 

 マラソンとすれば少し速い気がするが、まあそれも訓練という事だろう。

 

 シラキリとかミリーさんは、そんなの関係無しに鬼ごっこしているし。

 

 それも攻撃ありで。

 

 ユウトはミリーさんとシラキリの後に続いて馬車から飛び降り、馬車の横を走り始める。

 

 シラキリとミリーさんは直ぐに見えなくなったが、おそらく前の方でやり合っているのだろう。

 

 金属のぶつかる音が少しするし。

 

「あの、大丈夫でしょうか?」

「本人次第としか言えませんね。包丁が食材に向くのか、それとも人に向くかは使い手次第なのと一緒です。もしも不安ならば、ユウトさんに寄り添ってあげて下さい」

 

 ライラにも言える事だが、力を何所に向けるか、何に使うかは本人しか選べない。

 

 たとえ外部から言われたとしても、その結果を生み出すのは自分だ。

 

 復讐の手段を選んだライラだが、それだって仕方の無い事だし、あれでも被害は最小と言っていい。

 

 本当にとことんやるならば、公爵だけではなく王国まで滅ぼした方が良かったが、ライラは公爵家だけに留めた。

 

 確かに王国までとなると現実的ではないが、グランソラスがあれば出来そうな気がする。

 

 まあ滅亡する前に帝国とかが介入しそうだが、可能性としては十分あり得た未来だろう。

 

「シスターサレンの言う通りだな。だが、選んだからには相応の覚悟があるはずだ。心配だからと無下にはしない方が、互いのためだろう」

「ライラさん……そうですね。ユウトが前に進もうとしているように、私も頑張りたいと思います」

 

 どうやらアオイも、少しは立ち直ってくれたようだ。

 

 そう簡単にはトラウマを乗り越えられないだろうが、前を向いていられるなら、それも時間の問題だろう。

 

 しかし、今更だがアオイやユウトよりもライラの方が年下なんだよな……。

 

 身長や見た目は確かにライラの方が下だと分かるが、貫禄があるせいか、ミリーさん以外は全員ライラにさんをつけて呼ぶ。

 

 シラキリはちゃんなのに、これが人としての差か……。

 

 俺も人前では気を付けるとしよう。

 

 俺一人ならばともかく、ミリーさんが居るとどうも酒を飲む欲を抑えられない時がある。

 

 これで酔って飲めなくなるならばともかく、俺はいつまでも飲んでいられる。

 

 無論限界はあるが、小さな店なら全て空けられるだろう……流石にやらないけど。

 

 いつも以上に和やかな雰囲気となり、途中でユウトが倒れて動かなくなるまでは問題なく旅が続いた。

 

 まあミリーさんが回収してくれたから良かったが、馬車は車以上に急には止まれないのだ。

 

 それに、馬にもかなりの負担が掛かるので、出来る限り進んだままの方が、馬に優しい。

 

 まあ負担だろうが怪我だろうが、俺が居れば簡単に治せるのだが、これもユウトの経験となるだろう。

 

 無理は禁物ってな。

 

「うぅ……面目ないです」

「もう、ユウトったら、無理をしたら意味無いでしょ」

 

 回収したユウトは俺ではなく、マヤが治療を施した。

 

 何やら確認したい事があるということで譲ったが、奇跡で治療をしたマヤは自分に驚き、ついでにタリアも驚いていた。

 

 どうやら……と言うか分かっていた事だが、サクナシャガナを倒した時のあれのせいでしっかりと治療の方も強化されているらしい。

 

 ざっくり言えばマヤを通して神力がマヤの信仰する神……イリヤナス神に流れ、それによりイリヤナス神の神としての格が上がり、調合の腕だけではなく奇跡についても強化されているのだ。

 

 これがマヤ以外もなのかは分からないが、当面の間イリヤナス神の力が衰えるなんて事は無いだろう。

 

 ……そんな事をルシデルシアが話していた。

 

「一体どうしてこれほどまで強化されているのでしょうか?」

「サクナシャガナを倒した事で起きた変化だと思いますが、私にも分かりませんね……」

 

 問題が問題なだけに、おいそれとマヤやミリーさんにも教えてはいけない情報である。

 

 今回は神そのものだったが、神力を奪うだけならば、聖女や信徒でも良いのだ。

 

 そして別に奪うだけなら、グランソラスが無くても出来る。

 

 教えたからと直ぐにどうこうなる事ではないが、新たな火種を生み出さないためにも、この情報は墓場まで持っていく。

 

 ルシデルシアに聞いてみたところ、過去には神力の奪い合いもあったようだからな。

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