なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第224話:一方その頃のミリーさん

「見えてきたか……」

 

 アルテはミリーよりも数段速い速度で教国側の国境へとたどり着き、息を潜める。

 

 さて、サレンについてはどうしようもないと考えているアルテだが、任務である以上危ない橋だろうが、地雷原だろうが突破しなければならないのが黒翼騎士団だ。

 

 遠くで見るだけならば、誰にだって出来る。

 

 対象に近づき、実際に為人を確認するまでが、黒翼騎士団では常識なのだ。

 

 これが最初からターゲットならば話は変わるが、サレンは一応あのミリーに信用されている人物であり、強行手段を取るのは不可能である。

 

 運が良い事にミリーがサレンの所から離れるのを見たアルテは、早速サレンへと粉を掛けた。

 

 これについては本当に運が良く、もしもシラキリがサレンの近く居た場合、問答無用で敵として認識されていただろう。

 

 正確にはシラキリも認識していなかったが、ずっと誰かがつけて来ているのは分かっていた。

 

 そして動きの音や癖だけは覚えたので、仮にアルテがどれだけ誤魔化したとしても、シラキリは見破ることが出来た。

 

 シラキリの事をどうにかしないとと考えているサレンだが、基本的にシラキリを信頼しており、シラキリが敵対したならば敵だろうと割り切る。

 

「居るとしたら……向こうか」

 

 人が居ない事を確認したアルテは地面へと潜り、国境の街の中に姿を表す。

 

 その服装は少しだけ地味になっており、腰に差した剣が無ければ、ただの一般人にしか見えない。

 

 アルテが実際にサレンと話し、行動を共にして思った感想は、普通に良い人だったである。

 

 サレンがホロウスティアで宗教を立ち上げ、神官として活動をしているとは分かっていたアルテだが、どうみても厄介そうなアルテのお願いを聞いたのは、実は割りと驚きであった。

 

 更に依頼書の確認から始まり、アルテのこれまでの活動を聞いたりと、神官に見られる楽観的な物は無く、顔に似合わずとても親身に話を聞いていた。

 

 なんとなく黒翼騎士団の門を叩いた時の事をアルテは思い出しながらも、目的通りにサレンとパーティーを組んで、薬草を取りに出かけた。

 

 基本的に前を歩いていたアルテだが、しっかりとサレンの動きも見ていた。

 

 動き方こそ、戦いを生業にするものではないが、両腕に武器を隠しているのをアルテは見抜いていた。

 

 更にスカートの下にも何かを持っているのは気付けたが、流石にそれが何なのかまでは見ていない。

 

 折角なのでサレンの動きも見たいと考えたが、行きは一切魔物と出会うことはなく、アルテは違和感を覚えるものの、街の近場なので魔物に出会わないなんて事はたまに起こることである。

 

 そのまま雑談をしている内に目的地に着き、薬草の採集を始めた。

 

 無理に誘ったというのに、サレンは特に文句を言うこともなく薬草を摘み、アルテは周りの警戒をしながらサレンを観察する。

 

 あのミリーが絆され、ギルドとこれまでの道中の会話でサレンが善良であり、帝国に仇なす者ではないのはほぼ間違いない。

 

 懸念することもあるが、ここでサレンを殺しでもした場合、ミリーが帝国の敵に回る可能性がある。

 

「はぁ……またなのね……」

 

 ミリーを見つけたアルテはうんざりした様に呟き、自然な足取りでミリーの所に向かう。

 

 ミリーが居たのはとある建物の上であり、普通は見つけることも出来ない場所だ。

 

 そして普通に歩いたら行けない場所でもあるのだが、アルテにとってはこの程度問題ない。

 

「久し振り」

「げっ」

 

 音もなく屋根で寝っ転がっているミリーの横に立ち、ぶっきらぼうに声をかける。

 

 それに対しミリーは物凄く嫌そうに顔を歪め、女性が出してはいけない声を出す。

 

「もう少し慎みを持ちなさいって言っているでしょう」

「別に誰も見ていないんだしよくない? それでこんな所まで遠路遥々どうしたのさ」

 

 一応上司となるアルテの手前、ミリーは寝転がるのを止め、胡坐をかいて座る。

 

 その様を見てアルテは拳骨を落としたくなるが、グッと我慢する。

 

 一々ミリーに反応していては疲れるだけだと、アルテは理解している。

 

「あなたのこれからについての話よ。目的は果たしたみたいだけど、どうするつもり?」

「とりあえずしばらくは、黒翼騎士団として働く予定かな。急に居なくなっても困るでしょ?」

「私は困らないけど、第三は崩壊するわね」

 

 今でさえ人手不足に悩まされている第三騎士団はミリーが抜けた場合、活動自体を縮小しなければならなくなる。

 

 現状は何とかホロウスティア全体を見られているが、それはミリーが居てこそだ。

 

 ここでミリーが抜ければ、アランは家に帰る事が出来なくなるだろう。

 

「でしょ? まあ落ち着いてきたら抜けると思うけど、それから先は気分次第かなー」

「サレンディアナ……ね」

「あー、もしかして任務?」

 

 たった一言であるが、それだけでほとんどの事をミリーは察した。

 

「そうでなければ、私が帝都から出るわけないでしょ。あなたをどうにか出来る人なんてほとんどいないんだから」

「いやーそれほどでも」

「そろそろ怒るわよ?」

 

 アルテがスッと手を上げるのを見たミリーは、頭を下げて謝る。

 

 そしてその頭目掛けてアルテは拳を振り下ろした。

 

「いてて……それで、アルテちゃんから見てサレンちゃんはどうだった?」

 

 頭を抱えてのた打ち回ったミリーは、座り直しながらアルテへと話しかける。

 

 アルテが此処にいる理由や、何をしていたかなんてのは先程の一言でお見通しであり、態々自分の目の前に現れた事についても、分かっていた。

 

「……今時数少ない、神官らしい神官かと。あなたがくれたお茶も気に入っていたようですし」

「えっ、あれを?」

「はい。爽やかで飲みやすいと」

「それは少し驚きだけど、まだあれを飲んでいるの?」

 

 少し揶揄おうとサレンとの出来事を話したアルテだが、直ぐに自分が墓穴を掘った事に気付いた。

 

 アルテが黒翼騎士団へ入団することになった経緯は、目の前で頭を抱えているミリーである。

 

 そしてアルテが休憩の際にサレンへと渡したお茶のレシピの作成者は、ミリーであった。

 

 過去に色々とあったこの二人だが、平たく言えばミリーはアルテの育ての親であり、そんな親が残した物を今も愛用している。

 

 例えるならば、親から貰った時計を、今も愛用している大人となった子供を見たようなものだ。

 

 とっくに捨てていると思ったのに、今も使ってると知った親は、まず驚き、それから温かい眼差しを子に向ける事だろう。

 

 子が何を思っているのか、考えもせずにだ。

 

 アルテはこみ上げてくる感情を悟られる前に殺し、無表情を保つ。

 

「はい。仕事に疲れた時に飲むのに最適ですので」

「まあお酒を飲めない時なら、あれも良いかもね。すっかり忘れてたけど、今度また淹れてみるかなー」

 

 下手な反応をすればミリーを喜ばせるだけだと知っているので、嘘にならない範囲で本当の事を話す。

 

「こほん。帝国として何かするならばともかく、黒翼が動くことは今のところ無いです。無論、今はと付きますが」

「何かしても、サレンちゃん達に真正面から勝つのは無理だろうからねー」

 

 暗殺方面はシラキリとアーサーが居るため不可能であり、真正面から戦うにしてもライラをどうにかしなければ、最低でも数万以上の戦力が必要となる。

 

 挙句にいざとなればルシデルシアが降臨し、全てを塵に変えてしまう。

 

 ルシデルシアが居なければまだ勝ち目はあるかもしれないが、現状この世界でサレン達を殺すのは不可能だろう。

 

 何せ、過去にルシデルシアを倒した側の人間すら、ルシデルシアと共に居るのだから。

 

「とりあえずあなたが残る事については、報告しておきます。サレンディアナに付きましては、問題が起きない限り黙っておきます」

「あらら、そんなんで良いの?」

「あなたがいる以上、最悪の事態には陥らないと判断しました。それと、話せる範囲で事件について教えて下さい」

「はいはい。分かってるよ。少し長くなるよ?」

「良いから早く」

 

 後を着けていたアルテだが、流石に何を話していたのかは知らないし、結果も大まかにしか分かっていない。

 

 ミリーがホロウスティアに帰ってから報告を聞いても良いのだが、帝都へ真っ直ぐ帰る場合、ホロウスティアに寄ると遠回りとなるのだ。

 

 マーズディアス教国から街道を通る場合はホロススティアを通らなければならないが、黒翼騎士団が普通に道を使う事はあまりない。

 

 と、言いたいところだが、そんな事をするのは極一部の騎士だけとなる。

 

 ミリーはサレンの内側にいるルシデルシアの事だけは誤魔化し、それ以外は全てアルテへと話す。

 

 神に復讐する事は既に話してあり、それに伴い国が滅ぶ可能性も伝えてある。

 

 無論皇帝を含め誰一人として無理だと考えていたが、結果は神が死に、それに伴い奇跡を失った信徒が大量に出たのをアルテは確認している。

 

 今聞いているミリーの報告に嘘はないだろうと、思ってしまっている。

 

「……って感じかな。それと、どうやら近い内に爆発するみたいだから、帝国側に伝えといて。多分三日以内位かな?」

「そっちはどうするつもり?」

「流れ次第だね。戦いになれば教国が負けるのは分かっているし、恩を売るのか、それとも挟撃するかは相談してみないとだね」

「そう……私はこのまま帰ります。何かありましたら追って連絡します」

「はいはい。それじゃあまた機会があったらねー」

 

 やる気の無い返事をして、ミリーはアルテに向け手を振る。

 

 再び殴りたくなる衝動に駆られるが、アルテは無視して屋根からいなくなり、街の中へと消えていく。

 

「うーん。まさかアルテちゃんがねー……さて、私も帰るかな」

 

 事が事なだけに、誰かしら動いているとは思いながらも、特に気にしていなかったミリーだが、アルテが来たことには少し驚いていた。

 

 ミリーがアルテに会ったのは三年ぶりであり、少し感慨深いものがあった。

 

 それはそれとして集めたい情報は集め終わり、ミリーもアルテと同じく誰にも気付かれること無く街から姿を消す。

 

 黒翼騎士団にとって、機密情報を盗むことは簡単なことなのだ。

 

 

 

 

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