なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第232話:戦争の終わりに

 大盛況の朝食が終わった後は、調理器具を全部洗い、眠るために馬車へ乗り込む。

 

 就寝が早かったとはいえ、夜番のため四時間しか寝ていない。

 

 しかもルシデルシアに邪魔をされたし。

 

 起きていようとすれば起きていられるが、休める時に休むのが一番だ。

 

「何かあったら起こして下さいね」

「分かっている。ゆっくり休んでくれ」

 

 後の事は全てライラに任せ、安眠木箱の中に入る。

 

 ライラ達は再び魔法の訓練をするらしく、マヤとタリアは調合の材料を集めるために森へ入ると言っていた。

 

 起きたら問題が起きていた……なんて事にはならないだろうが、まあ何も起きないと良いな。

 

 

 

 

 

 

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 サレン達がまったりとキャンプを楽しんだ日の夜。

 

 教国と帝国の戦争は、介入者により新たな局面を迎えようとしていた。

 

「おい! 第三部隊長は何所に居る!」

「分かりません! 探してはいますが、誰も知らないと……」

「くっ! 奴隷部隊の責任者はどうした?」

「自室にはいなかったので、同じく探しています……」

 

 響く第二隊長の怒声。

 

 戦争は劣勢とは言え、なんとか継続できる状況の中、数名の隊長や指揮官クラスの人間が姿を消した。

 

 死体どころか血の一滴すら残さず、まるで神隠しの様に……。

 

 これで血痕でも残っていれば、帝国による暗殺だと思えるが、何も残されていない以上、ただいないだけなのか判断が難しい。

 

 だが、それも最初だけであり、一人……また一人と隊長が居ないと報告が上がれば、取り乱すのも仕方の無い事だろう。

 

 奇跡が使えなくなり、大神殿とも連絡が取れなくなった今、神聖騎士団に残された道は少ない……いや無かった。

 

 降伏をする……案としてあったが、神命として出された作戦である以上、選ぶことは出来ない。

 

 そして聖都に帰るという事は、聖都で何かを起こした存在と対峙することになるかもしれない。

 

 順調だったのだ。今の今まで。

 

 被害はあまりなく、それでいてしっかりと帝国に損害を与えていた。

 

 国境を落とし、支配下に置けばまだ何とかなるかもしれない。

 

 第二隊長の頭の中では、その様なシナリオが描かれていた。

 

 無論全ては帝国側の策略。正確にはアルテによる嫌がらせであったのだが、そんな事を教国側が知るすべはない。

 

「――厳戒態勢を発令。直ちに戦闘隊形を取るように」

「は、はい!」

 

 怒鳴ったところで無意味だと冷静になった第二隊長は、第二副隊長へと指示を出す。

 

 本来ならば休息を取るべき時間だが、こうなってしまっては動くしかない。

 

 この不可解な事件は帝国の仕業なのか、それとも聖都の件に関係しているのか……。

 

 瞬く間に慌ただしくなり始め、窓の外では明かりが灯り始める。

 

 第二隊長が居るのは神聖騎士団の支部としてある建物であり、その造りは強固であり、忍び込むのは困難を極める。

 

 しかし居なくなった隊長たちが居たのは、この建物である。

 

 安全であるはずだが、安全とは言い切れない。

 

 第二隊長は背もたれに寄り掛かり、天井を見上げる。

 

 あと少し。あと少しで帝国側の国境を、攻め落とせるかもしれない。

 

 命令系統が断絶されたとはいえ、やりようはまだある。

 

 いざとなれば玉砕か、自らの手で神の下に旅立つしかないかもしれないが、通常手段でどうにかなるならば、その方が良い。

 

「前に……出るしかないか」

 

 なし崩し的に第二隊長は総司令の立場に居るが、この場に居るべきは本来第一騎士団長となる。

 

 ただの隊長である第二隊長には、荷が重いものなのだ。

 

 第二隊長は天井を見上げた状態で、一度目を閉じる。

 

 ここからが正念場だと、自分を追い込むために。

 

「よし!」

 

 目を開けた第二隊長は、立ち上がろうと身体に力を入れる。

 

 しかし手足が動くことはなく、驚きに声を上げようとするが、それすら叶わない、

 

 ほんの一瞬前は声が出せたはずなのに……。

 

 パニックになりながらも、唯一動く顔を動かして辺りを見渡すが、何もわからない。

 

 何者かの襲撃……それしかない。

 

 せめて魔法で外にいる誰かに知らせようとするが、ピンク色の何かが視線の端に映り、第二隊長の意識は闇へと落ちていった。

 

「これで終わりっと。さて、退散退散」

 

 第二隊長が最後に目にした物。それはミリーの髪だった。

 

 第二隊長は意識を失ったものの、まだ生きては……いや、今ミリーによって首の骨を折られて死んだ。

 

 鍛えられた人間を血が出ない様に殺すのは大変だが、場所が室内ならばミリーにとっては造作もない。

 

 悟られない様に部屋の酸素を失わせ、思考能力が低下した所で手足を真空の刃で斬り裂き、最後は一気に酸素以外の空気を送り込み、意識を刈り取る。

 

 最後の行為では気付かれる可能性があるが、その時に相手はもう何も出来ない。

 

 使用する魔力も最小に抑えているため、余程相手が手練れではない限り、第二隊長の様になすすべもなく殺される事となる。

 

 死体を担いだミリーは、手足から血が出る前に外へと抜け出し、他の死体を纏めておいた場所に第二隊長の死体を放り投げる。

 

「第二に、第五副隊長に第六の隊長。それから第三団長と……」

「お待たせしました。此方はこれで最後になります」

「私も終わりました」

 

 ミリーが死体の確認をしていると、首だけを持ったアーサーとシラキリが音もなく現れる。

 

 三人が殺した教国の人間は合計で八人。

 

 その誰もが役職を持っており、命令を出す側の人間である。

 

 命令系統が乱れれば、それだけ時間を稼ぐ事が出来、混乱に拍車がかかる。

 

「お疲れ。怪我とかもなさそうだね。それじゃあいこっか」

「承知しました」

「はい」

 

 ミリーは自分が殺した死体から首だけを切り取り、アーサーが死体を地中に埋める。

 

 ついでにシラキリが臭い消しの為に水を撒き、三人は教国から姿を消す。

 

 三人が目指すのは帝国の司令官である、黄翼騎士団の居る屋敷となる。

 

 各国境の指揮は黄翼騎士団が取っており、有事の際は全ての命令系統が統合される事になっている。

 

 黄翼以外で動くのは基本的に治安部隊の赤翼と、流通の勘目を背負う青翼となり、緑翼と白翼は今回ほとんどお休みとなる。

 

 緑翼による情報統制や白翼による潜入も戦争という枠組みの中では重要だが、今回は動かすなととある人物から黄翼が命令を受けてしまっているため、何も出来ないのだ。

 

「……慌ただしくなり始めたみたいだが……何が始まったやら」

 

 教国が慌ただしくなり始めたのを感じた、黄翼騎士団第五団長は、紅茶を飲みながら椅子に寄りかかる。

 

 この戦争。帝国側は全くやる気がない。

 

 やろうとすれば戦争を吹っ掛けられた次の日には、教国側の国境を更地にする事も出来た。

 

 無論そんな事をすれば非難を浴びる事は分かっているので、穏便に敵の指令施設辺りを襲撃し、とりあえず皆殺しにする位だろう。

 

 今回の戦争は宣戦布告が無く、教国から齎されたのは帝国を糾弾する声明が一度だけだ。

 

 それを信じる者は帝国側には誰も居らず、一部の兵士は久々に暴れられるとウキウキとしていた位だ。

 

 それなのに突如現れた黒翼騎士団からの指令で、ご覧の有り様である。

 

 その代わりと言ってはなんだが、黒翼騎士団からの情報提供のおかげで、爆発テロによる被害は最小限に留められていた。

 

 もしも情報提供がなければ戦争には勝てても、少なくない被害を被っていただろう。

 

「さて、暇潰しに見に……」

 

 第五団長は教国の様子を見に行くため、立ち上がろうとするが扉を叩く音が聞こえ、瞬時に戦闘体勢に入る。

 

 そう、扉を叩く回数や響く音が第五団長の知らないものだったからだ。

 

 更に言えば、扉の前には見張りの兵士が立っているので、本来ならばこんなことは起こり得ない。

 

 戦闘音もなければ、人の倒れる音もしなかった。

 

 第五隊長が気を引き締めるにたる状況なのだ。

 

「誰だ?」

「あれ? これじゃなかったかな? とりあえず敵じゃないんだけど、入っても良い?」

 

 若い、少女と思われる声。

 

 声から黄翼騎士団の符丁を知っていることを匂わせているが、第五団長の知らない声であり、緊張が高まる。

 

「――入れ」

「どうも」

 

 入ってきたのは、なんともちぐはぐな三人組だった。

 

 冒険者風の背の低いピンク髪の少女。

 

 奴隷服を着ているものの、違和感を感じる兎の獣人。

 

 敵である教国の神官用のローブを着た優男。

 

 新手の詐欺師にしか見えないが、油断をするなんて事はしない。

 

「見張りはどうした? まさか……」

「ちょっと夜食を取りに行ってるだけだよ。疲れている第五団長のためにね。おっと、とりあえず私はこういうものです」

 

 このまま遊んでいたいミリーだが、流石に団長クラスと関係が拗れると後が大変なので、公爵家から貰ったメダルをポケットから取り出す。

 

「それは……本物か?」

「勿論。確認してもらって構わないよ」

 

 ミリーはテーブルの上にメダルを置き、少し距離を取る。

 

 第五団長はメダルの裏と表を確認し、これが本物だと確認した。

 

 つまり、目の前の三人は信用できる可能性が極めて高い存在であると。

 

 どう見ても詐欺師のそれだが、このメダルが本物である以上、帝国の騎士としては無下にすることは出来ない。

 

「本物の様だな。とりあえず要件を言ってくれ。話はそれからだ」

「まずはこれが相手さんの主だった首ね。それと多分どこからか指令が出ていると思うけど、今なら教国を制圧しちゃって良いはずだよ。今なら混乱しているだろうから、簡単だろうね」

「……それは分かったが、タダではないのだろう?」

「まあね。私達は教国側に居るんだけど、メダルを見せたらすぐに通れるように手配していてくれればそれで良いよ。あっ、あと私達の事は内密にね」

 

 聞き出す……事は悪手だと第五団長は考える。

 

 見た目こそそこまで強そうには見えないが、テーブルの上に置かれた首や、ここまで来られている時点で強者なのだ。

 

 挙句に今も戦いが続いている国境の門すらも誰にも知られずに乗り越えてきた可能性がある。

 

 侮って良い相手ではない。

 

 何より黒翼騎士団の関係者か、本人の可能性もある。

 

 なので、第五団長としては手荒い手段を取ることは出来ない。

 

 要求の内容も問題ない物であり、これだけの手土産があるのだから。

 

「分かった。因みにだが、黒翼に後程問い合わせても?」

「構わないよ。何を言われるかは分からないけどね」

 

 これは黒で黒翼本人だと第五団長はあたりをつけ、口を噤むことを選んだ。

 

「それじゃあ私達は帰るから、明日のお昼までには教国をお願いねー」

 

 ミリーはひらひらと手を振り、アーサーとシラキリは小さく頭を下げる。

 

 そして三人が部屋を出て行き、数分すると今度は知っている扉を叩く音がした。

 

「失礼しま……そ、それは!」

「気にするな。それより、現在教国は混乱している。一気に攻めるから、直ぐに用意させてくれ」

「ハッ! 了解しました」

 

 部屋に料理を持ったまま入って来た騎士は並べられた首に面を喰らうモノの、直ぐに第五団長の指示を聞いて動き出す。

 

 第五団長はどんな手を使って見張りに料理を取りに行かせたのか気になったが、藪蛇を突く趣味は無い。

 

 さっさと戦争を終わらせ、いつもの自堕落な生活のために、第五団長は椅子から立ち上がるのだった。

 

 

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