なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第236話:手の平クルックルミリー

 徒歩よりも少し速い程度の速度で馬車は進み、ついに教国と帝国の国境を越えた。

 

 これで長旅から帰って来たことになる訳だが、それはおいといてミリーさんはまだ帰ってこない。

 

 大通りから比較的広く、人通りの少ない道へと進み、アーサーが馬車を止めた。

 

 帝国側はホロウスティアで見た街並みとは違い、王国の建築方式に似ている。

 

 だが、道路の舗装などはホロウスティアと同じくしっかりとしたものになっているので、馬車への振動は殆ど無い。

 

「戻ってこないですね……」

「奴の事だから大丈夫だろうが、あまりにも遅い様なら拳骨の一つでも落とすとしよう」

 

 ミリーさんの身に何か問題が……なんて心配は一ミリもない。

 

 どこで油を売っているのか。

 

 遅い理由がそれ以外考えられないのだ。

 

「いやー遅くなってごめんね。ちょいと人探しに時間が掛かって」

 

 そろそろ小腹が空いてきたなーと考えながらシラキリの耳を揉んでいると、ようやくミリーさんが帰って来た。

 

「お帰りなさい。大丈夫でしたか?」

「勿論だよ。案内の人を呼んだから、もう直ぐ……あっ来たね」

 

 ミリーさんの後ろから男性が歩いてきた。

 

 鎧を着てはいないが、どう見ても騎士団の関係者なのが見て分かる。

 

 ガタイが良いし、持っている剣も街で騎士が持っていた剣と一緒だ。

 

 シラキリが特に反応を示さないので、悪い人とかではなさそうだ

 

「案内……か。信用出来るのか?」

「大丈夫だよ。来るまでの間に軽く話したし、宿の提供をしてもらうだけだからね」

「……黄翼騎士団の者だ。宿までの案内となるがよろしく頼む」

 

 嫌々なのだろうか、真顔を崩すことなく男は軽く頭を下げる。

 

 名前を名乗らないのは俺達を警戒しているというよりは、他に名乗れない理由があるからだろう。

 

 これまでのミリーさんの傾向からするに、偉い人間だから……その可能性が一番高い。

 

 アーサーと一緒に、運転席に座っていたユウトが戻って来て、代わりに騎士の人が座り、馬車が出発する。

 

「ふー、疲れた疲れた。まさかあんな所に居るとは思わなかったよ。しかも誰も知らなかったし」

「あの方は誰なのでしょうか?」

「国境を抜けたら教えるよ。名前を出すなって言われちゃってるからね」

「その様子では、知り合いと言うわけでもなさそうだな」

「うん。全く知らない人だよ」

 

 満面の笑みで言うが、全く知らない騎士の人に道案内をさせるのは如何な物だろうか?

 

 ライラは拳を作ろうとするが、ギリギリ思い止まってため息をついた。

 

「結構時間が掛かっていたようだが、どうした?」

「家に居ると思ったら、森の中に居た感じだね。置き手紙も無くて、態々足跡を頼りに探して来たって感じだね。まあ案内だけして貰ったらさよならだから、気にしなくて良いよ」

 

 なんとも雑な扱いだが、若干の怨嗟が込められている感じがするな。

 

 笑顔ではあるのだが、なんとなくミリーさんからは凄みを感じる。

 

 どうやら珍しく大変だったようだ。

 

 ホームであるホロウスティアでならばこんな苦労はしなかっただろうが、何の伝手も無いこの街では、流石にいつも通りとはいかないのだろう。

 

 そんなミリーさんの愚痴を他所にパカラパカラと馬車は進み、一件の屋敷の前に止まる。

 

「今日はここを使って下さい。中にあるものは自由に使って貰って大丈夫です。それと、少し話がしたいので、そこのシスターさんとミリーは少し来てください」

 

 やっと帝国に帰ってくるという事で、今日からいつも通りの神官服に着替えておいたところ、早速呼び出しをされてしまった。

 

 ミリーさんも一緒なので心配は無いが、何の用だろうか?

 

 屋敷へと入り、部屋の一室に入る。

 

 動きに淀みが無いので、この人の別荘か何かなのだろうか?

 

「態々すまないね。名前を名乗れないのは許してくれ」

「別にいいじゃん名前くらい。黄翼第五団長さん」

「……」

 

 表情崩さない様にしているが、イラっとしているのがよく分かる。

 

「おほん。話はそこのから聞いているが、プライド公爵家とはどの様な関係が、どうか教えてもらえないか? あのメダルの信頼性は分かっているが、流石に君達のメンバーがメンバーだからね」

 

 団長なだけあり、情勢には詳しいようだな。

 

 亡き公爵家の令嬢や、昨日まで戦っていた国の元聖女。

 

 最低でもこの二人の事は知られていると見て良い。

 

 流石にマヤの方は微妙だけど、特大の爆弾の横に通常サイズの爆弾があった所であまり関係ない。

 

「諸事情で公爵様の息子を助ける事がありまして、その時にお礼と言うことで貰いました。勿論確認していただいて問題ありません」

「……成る程その様な事情で手に入れていたのですね。因みに、どうして教国へ?」

「私は知見を広げるためですね。ホロウスティアで新興に宗教として活動しているのですが、新興故に至らぬ点がありますので、教国を見て回ってきました」

 

 表向きの理由であり、聖都がああなってしまった以上、裏取りをすることは出来ないし、俺自身は悪い事をしていないので問題ない。

 

 あれやこれやとやったのはルシデルシアであり、直接的に俺が手を下したのはサクナシャガナだけだ。

 

「そんな遠回しにしないで、もっと直接聞けば良いじゃん? それとも、政治的な話ばかりしていたせいで、話し方を忘れちゃった?」

「……少し静かにしてもらえないか。一応戦時だから、法を無視して裁く事も出来るんだが?」

「ジョークだよジョーク。私みたいなただの冒険者が、団長様に勝てるわけないじゃないか」

 

 手の平クルックルなミリーさんだが、まあ敵対しているわけでもないのに、会社同士のやり取りみたくおべっかだのお世辞などを言い合いながら話をするのは時間の無駄と言える。

 

 まあ団長さんからしたら、仕方の無い事かも知れない。

 

 ミリーさん達がどれだけ殺し、どの様に知らせたかは知らないけど、普通の方法ではないのは確かだろう。

 

 ミリーさんなんて公爵家に侵入してバレないくらいの事をやってのけているし。

 

「……なんだ。君達は帝国に何かする気は無いんだな?」

「はい。これからも末長く暮らして行ければと考えています。不安になる気持ちも分かりますが、もしもの場合は私が責任を持ちますので、どうかお見逃して頂けると」

 

 責任は持つけど、責任を果たすことは無いだろう。

 

 アオイやマヤはともかく、他のメンバーが暴れたら俺にはどうしようもない。

 

 暴れることは絶対にはないだろうけど、不安が無いと聞かれれば答えあぐねてしまう。

 

 団長さんは俺ではなくじっとミリーさんを見つめ、ため息をつく。

 

「その言葉を信じるとしよう。どうせ国境から動く事は無いからな。他の事は他の団長に任せるとしよう」

 

 そう言えばアランさんは隊長だったが、ホロウスティアには黒翼の団長っているのだろうか?

 

 あまり関わることはないだろうが、ミリーさんの件もあるし、挨拶できるならば一度挨拶しておいた方が良い気もする。

 

 まあミリーさんの加護の事もあるし、どうするかはミリーさんと話してから決めよう。

 

「分かっていただけたようでありがとうございます。その、うちのミリーが何やら苦労を掛けてしまっているようで、申し訳ありません」

「気にしないで下さい。帝国の一騎士として、助けるのは当然の行いです」

 

 ……微妙に文脈がおかしい気もするが、とりあえず良しとしよう。

 

「それではこれで失礼します。明日出ていく際は、屋敷の鍵は開けたままで構いません。それでは」

 

 団長さんはしっかりと帝国式の敬礼をしてから、屋敷から出て行った。

 

 その背中は少し疲れている様な感じに見えるが、間違いなくミリーさんのせいだろう。

 

「良い人でしたね」

「あれでもこの国境のトップだからね。それなりの人じゃないとやっていけないさ」

 

 うんうんと頷くミリーさんだが、普通ならばミリーさんは殴られていてもおかしくない言動をしていた。

 

 折角なので人となりを黒翼として調査していたのかもしれない。

 

 いや、単純に遊んでいただけの可能性もあるけど。

 

「私は夕飯の支度をしてきますね」

「お願いね。出来ればサッパリしたものが良いな」

「分かりました。そうですね……冷製パスタでも作りましょう」

「わーい!」

 

 多少肌寒いが、まだ冷たい料理でも大丈夫だろう。

 

 サッパリしたものと言えばうどんや素麺だが、パスタの乾麺は買い置きが無い。

 

 おそらく街に売っているだろうが、今から買い出しに行くのは面倒臭い。

 

 あるもので作れるものを作れば良い。

 

 さてと、厨房を探して夕飯を作るとしよう。

 

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