なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第239話:家(教会)無しシスター

「おーい。石材を持って来てくれー!」

「新たな道はこの通りに……」

「壊した家の廃材一旦端の山に積んでおいてくれ」

 

 …………うん。

 

 いや、何やらスラムの入り口に着いた時点でおかしいと思ったのだが、廃教会に着いたら――廃教会が無くなっていた。

 

 何ならあの細かった道も広くなり、廃教会跡地まで一本で行ける様になっていた。

 

「これは……」

「うむ……どういうことだ?」

「うーん。これは多分あれだろうねー。先んじてって奴だろうね」

 

 廃教会があった場所には足場が組まれ、沢山の職人達が夕方だというのにまだ働いている。

 

 なぜ働いているかだが……どう見ても新しい教会を作っている様にしか見えない。

 

 誰かがこの土地を買って新たに教会を建てている……なんて事は絶対に有り得ず、ミリーさんの言う通りに俺達が帰ってくる前に誰かが先に工事を開始したのだろう。

 

 誰が……と言えばスフィーリアしかいないのだが、どうやってアランさんと話を着けたのか……なんて考えていると、件のスフィーリアが姿を現した。

 

 数ヶ月振りに会うが、見た目に変わりはなさそうだ。

 

「皆さんお帰りなさいませ。初めましての方は初めまして、イノセンス教のシスターをしていますスフィーリアと申します」

「あの、これは一体?」

「はい。実はここの地主であるアランさんからお話がありまして、この一帯をイノセンス教の土地として頂く事になったのです。最初は不審に思ったのですが、既にサレン様に話はしてあるとおっしゃいまして。役所や騎士団の印もありましたので、ならばという事で信徒の皆様に協力して頂いています」

 

 帰ってくる前から建て直しをしてもらえるのはありがたいが、帰って来たら家が無くなっていたというのは、なんとも悲しい物がある…………元々廃屋だし、そうでもないな。

 

 しかし、まさかこんな事になっているとはな……公爵家から盗んで来た奴からどれくらい使われているのやら……。

 

 とりあえず、今日は宿を取らないとだな。

 

 いや、正確には当分の間となりそうだが。

 

「そうだったのですね……」

「うーん。とりあえず、私達は移動する? これじゃあ寝る事も出来なさそうだし」

「あっ、帰ってきたら顔を出して欲しいとアランさんが言っていました。一時的に住む場所も準備していると」

「教えてくれてどうもね」

「はい。あっ、サレン様。旅に出ている間にホロウスティアであった事をお話したいので……その……」

「分かりました。明日の早い時間にまたここへ来ますので、その時で大丈夫ですか?」

「はい」

 

 ホロウスティアであった事の一部は既に知っているが、果たして何があったのやら……。

 

 この建築についても信徒がどうのこうのと言っていたので、本当にどれだけ増えたのやら……。

 

 アランさんのおかげで宿の心配はしなくて良さそうだが…………会いに行くか。

 

 教会跡地は勿論道も広くなったため、馬車の反転も問題なくする事ができ、ミリーさんの案内の元アランさんの家……黒翼騎士団のアジトにやって来た。

 

 来るのは初めてだが、パッと見はただの事務所だな。

 

「ちょいと行ってくるから、みんなはここで待ってて。直ぐに戻るから」

「分かりました」

 

 小さく手を振ったミリーさんは馬車から降りて、ジャンプして窓から入って行った。

 

 …………まあ、うん。ミリーさんらしいな。

 

 

 

 

 

 

 

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「やあ。私が帰って…………大丈夫?」

「……ああ。まだ問題ない」

 

 アランに文句を言うついでにからかうつもりでいたミリーだが、思っていたよりも疲れた様子だったため思わず心配の声を掛ける。

 

「任務ご苦労だった。正直なところ、もう二度と顔を見ることはないと思っていた」

「私もそのつもりだったからね。負けても勝っても、私は終わるつもりでいたし」

 

 ミリーは報告書の束をアランへと差し出し、アランは鍵と一枚の紙をミリーへと差し出す。

 

「しばらくはそこで暮らせ。それと、あの土地だが、既に売上から差し引いて権利を渡してある。例の金は建築が終わり次第渡そう。流石に全てを売り捌けていないからな」

「こっちとしては、あぶく銭だから全然構わないよ。帰ってきたら教会が無くなっていたのは驚いたけどね」

 

 グローアイアス家から回収した財宝は黒翼の持っている伝手で売り払われているが、量が量なのと人手不足のため、まだ捌き切れていない。

 

 それでも正規の金額で、元廃教会の一帯の土地を買い上げられる程度の金額になっており、改築……実質建築についても豪邸でも立てない限り問題ない。

 

 ホロウスティア内の土地は高いが、建築費についてはかなり良心的になっており、ローンを組む事は勿論、場合によっては補助が出たりもする。

 

「少しでも早い方が良いと思ってな。帰ってきてから始めれば、最低でも一ヶ月は掛かるが、建物だけなら後一週間もあれば出来あがる。孤児院の方だけはな」

「思ってたよりも大掛かりだけど、一体どうやってあれだけの職人を集めたの?」

「…………それについては俺は関わっていない。気付いてたら集まって始めていた」

 

 ミリーはどういう事だと疑問に思うが、あの現場にあった情報から軽く予想して答えを導き出す。

 

「もしかして、あの子が?」

「ああ。イノセンス教自体の緩さもあるのだろうが、今ではかなりの勢力となっている」

「あーうん。サレンちゃんが居た時から増えてたけど、そんなに増えたの?」

「マーズディアス教の勢力が一気に落ちたのもあるが、スフィーリアがかなり献身的だったのもあり、とんとん拍子でな。元々ギルドが協力的なのも後押しした形だ。どうやら古巣から帰ってこないかと声を掛けられたようだが……見てきた通りだ」

 

 元々は自分のためイノセンス教に改宗したスフィーリアだが、加護を貰ったその瞬間からサレンに心酔……慕うようになり、持ち前の知識や冒険者としての伝手などを使い、その勢力を拡大していった。

 

 サレンとしては現状維持さえしてくれればそれでよかったのだが、ギルドからのお願いもあり、他の宗教への牽制も兼ねて頑張った結果でもある。

 

 常に順調だった訳ではなく、アランが言った様に古巣から帰ってこないかと打診されたり、あまりにも目立ち過ぎた結果命を狙われるような事態にもなった。

 

 黒翼も人員不足のため、常にスフィーリアに気を配る事は出来なかったため、襲撃について知った時には手遅れだったのだが、スフィーリアは慌てることなく撃退し、警邏をしている騎士に突き出した。

 

 元々はどこにでもいる新米シスター程度の力しかなかったが、ルシデルシアが与えた加護は相当強力……ルシデルシアからすればそこまでではなかったが、一般的には強力な物であり、雇われのチンピラ程度ならば問題なかったのだ。

 

 これがアーサーの様なプロだったならば問題だったかもしれないが、プロならば結界に魔力が登録されているので、スフィーリアへたどり着く前に黒翼が処理する事が出来る。

 

 障害という障害を乗り越え、仲間やサレンが残してくれた縁が様々な人を繋ぎ、結果として一大勢力に数えられる位にまで成長してしまったのだ。

 

 まだ東区のと頭に付くが、一つの区だけでもホロウスティアでは凄い事なのだ。

 

 マーズディアス教が機能不全に陥ってしまっているので、他の区に勢力を伸ばすのも時間の問題であり、アレスティアル教国次第ではイノセンス教が新たな国を作るかもしれない…………なんて事もあり得る。

 

 そんな事をサレンはしないだろうとミリーとアランは思っているが、人が増えれば思想も増える物であり、このまま増えていけばどうなるか分からないとアランは考えている。

 

 教国がこれから先荒れるのは必定であり、連合国の壁となる国を立ち上げてくれないかななんて考えてたりもする。

 

「私はそんなに付き合いがある訳じゃないけど、大丈夫そうなの?」

「宗教家らしい傲慢さや、逸脱した思想は持っていない様に見えるな。実際に言葉を交わしてみたが、普通の少女だった……少し気は強かったがな」

「一応元貴族だし、そんなもんじゃない?」

「その通りではあるが…………まあいい。報告書については後で読ませてもらう。人を待たせているのだから、さっさと下がれ」

「それもそうだね」

 

 ミリーは自然な動作で冷蔵庫からジュースを一本取り出し、そのまま窓から出て行く。

 

 残されたアランはお馴染みの光景にこけ始めた頬を緩め、報告書を最初から読んでいく。

 

 一部は既に知っているが、王国から始まり、教国や国境で起きた事件の詳細。

 

 ついでにアルテがやって来たことも書かれており、ただでさえ頭痛に悩まされているというのに、更に悪化させた。

 

 総評すると、教国の脅威は去り、神の加護を受けていた人達は加護を失った為、今の混乱が起きている。

 

 ついでに経費で落として欲しい金額がかなりの物になっているが、騎士団一つを動かすよりは安上がりなため、そこまで痛手ではない。

 

 飲食費が少しばかり高い気もするが、人数が増えた事を考えれば許容範囲内と言える。

 

 全ての報告書を読み終える頃には完全に夜となっており、休憩と目を覚ますために冷やした水を一気に飲み干す。

 

「帰ったっすよー」

「そうか。問題は無かったか?」

「いつも通りっすね」

 

 アランが休んでいると、報告のためにカインが帰って来た。

 

「それは何よりだ」

「まあ……そうなんっすけど……」

 

 カインは分かりやすくテンションが低く、妙に言葉を濁す。

 

 その理由がなんなのかアランは察している。

 

「既に知っているだろうが、ミリーが帰って来た。少しは仕事が楽になるだろうが……まあ、頑張れ」

「……うっす」

 

 ミリーが帰って来たことにより、確かに仕事が楽になる。

 

 なるのだが、無茶ぶりをされる日常がまたやってくるのだ。

 

 確かにミリーが帰って来たことは、カインとて嬉しい事だ。

 

 だからと言って無茶ぶりを許容できる精神をカインは持っていない。

 

「報告書を書いたら今日は上がって良いぞ」

「了解っす……」

 

 背を丸めてカインは執務室を出て行き、アランは溜息を零す。

 

 今まではホロウスティアの混乱を鎮めるための活動がほとんどであったが、ミリーが帰って来たからにはその混乱も一気に鎮静化していく事だろう。

 

 だが、報告書の最後に書かれていたミリーからのメッセージを見たアランは困ったものだと頭を悩ませる。

 

 ミリーが帝国に居たのは、自分の目的のためであり、その目的も今回の件で片が付いた。

 

 ミリーが黒翼騎士団に籍を置く理由はもうないのだ。

 

 幸い直ぐに辞めるわけではないので、増員をするための時間はある。

 

 しかし、ミリーが抜ける穴は黒翼としてだけではなく、帝国からしても大きなものとなる。

 

 基本的に脱退を認められない黒翼だが、ミリーについては例外として本人の希望では抜けられるようになっている。

 

「……荒れるな」 

 

 未来は未定だが、ミリーの脱退により黒翼騎士団内は荒れる事になる。

 

 最古参であり、ああ見えてミリーは世話焼きであり、結構慕われているのだ。

 

 アランは皇帝宛に、ミリーに関しての手紙を先に書き、今日は家へ帰る事にした。

 

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