なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第30話:偽りの聖書(原本)

 引きこもること三日と少し。

 遂に色々と書き終わった。

 

 戒律的なものや聖典的なもの。正式な崇拝の作法的なものや破門の条件など。

 

 とにかく沢山書いた。

 

 たまにシラキリやライラに確認などもしたので、多分問題ないだろう。

 

 問題はないのだが、ここ三日間でライラとシラキリの方は色々とあったみたいだ。

 

 自分の事で手一杯なので適当に相槌を打っていたが、冷静になってから思い返すと、あの子達は一体何をやっているんだ?

 

 先ずはだが、ここ三日間で二人から約十万程の喜捨があった。

 

 冒険者に成り立てならパーティーで一日一万稼げれば良い方らしいが、ライラ達は数倍稼いでいることとなる。

 

 俺に渡す分とは別にちゃんと個人用のお金も取っておいているみたいなので、驚きである。

 

 このまま宗教など作らず、二人のヒモとして生活するのも一つの手かも知れない。

 

 ……流石にそれは大人として駄目か。

 

 まあ、なるべく働かず平穏に暮らしたいが、少女達から得た不労所得で暮らすのは流石に嫌だ。

 

 ついでにランクもGランクからEランクに上がっていた。

 

 そもそもGランクとは仮のランクみたいなものらしいが、それでも一日二日で上がるものではない。

 

 なのに一個飛ばしでEランクとなっていた。

 

 どうやらミリーさんがやらかしたっぽいが、シラキリはともかくライラが普通ではないのは見た目で分かっていた事だ。

 

 驚くほどではないが――ライラは一体どれくらい強いのだろうか?

 

 まあライラの方は別に良いのだ。

 

 問題はシラキリの方だ。

 

 男子三日会わざればなんて言葉があるが、女の子でも当てはまるのだろう。

 

 会った時は少し痩せて幸薄そうな感じだったが、今では元気一杯首狩るマンとなっている。

 

 それとおっかなびっくりと俺に接していたはずなのだが、尊敬の念的なものをビシバシと感じる。

 

 ライラ曰く、その内ハイタウロスも倒せるようになるだろうとの事だ。

 

 普通の少女だったシラキリはどこに行ってしまったんだ……。

 

 それはそれとして、シラキリには今度くノ一衣装的なのを着てみて欲しい。

 

 必ず似合うはずだ。

 

「朝……か」

 

 窓の木枠を上げると、朝日が差し込んできた。

 

 あまり寝ていないので、とても目に染みる。

 

 貰ってきた酒は初日で飲み終わったので、二日目以降はシラキリに水を入れてもらってある。

 

 なので酒ではなく、水を飲んで目を覚ます。

 

「起きていますか?」

 

 扉が叩かれた後、シラキリの声が聞こえた。

 

 毎朝ライラと共に来るのは良いのだが…………まあいいか。

 

「起きていますよ」 

 

 普段着も買ってあるはずだが、二人とも此処に来る時にはすでに武装している。

 

 まあ一応スラムなので武装していたい気持ちは分かるが、家に居る時くらい寛いでもいいと思う。

 

「今日は机に向かっていないみたいだが、ついに終わったのか?」  

「はい。良ければ読んで見ますか?」

 

 紙を束ねた物が三つと、重要な戒律を描いた紙が一枚。

 

 それらをライラとシラキリに渡す。

 

 因みに最初の下書きは日本語で行い、清書はこの世界の言葉で行った。 

 

 分けた理由は単純で、無いはずの戒律やら聖典やらを作る時に齟齬が出ない様に確認するためだ。

 

 表向きちゃんとある宗教のはずなのに、今作っていますなんて言えるはずがない。

 

 日本語で書いた奴は纏めた後に、外でライラに燃やしてもらった。

 

「ふむ。万人を受け入れ、個人を尊重する。しかし罪には罰をか……」

「喜捨は神の御心のままってどういう事ですか?」  

 

 ふむ。とても良い質問だ。

 

 治療の際や祈りの際に貰う喜捨だが、相手によって変えることにした。

 

 人によっては物で済ませたり、相場の数倍要求したりだ。

 

 日本人的な思考だが、治療費が払えないからと奴隷に落とすのは少々考えさせられるものがある。

 

 善人って訳ではないが、雑巾も絞り方次第で沢山水を出すことが出来る。

 

 一度の金銭も大事だが、通常の治療費を払えない人間も、活用次第ではもっと大きな利益をもたらす可能性がある。

 

 この前の冒険者のように、パシリに出来たりな。

 

「幅広い人を助けるために、喜捨は時と場合にせよと神託がありましたので、その様になりました」

「時と場合?」

「シラキリからは何も貰っていませんが、ライラからは貰ったでしょう? これが時と場合です」

「分かりました!」

 

 シラキリに対して金を払えと言った記憶がなくもないが、あの時は仕方なかったのだ。

 

 やはり生活に余裕が出てくると、気持ちも幾分が落ち着いてきた。

 

 たまに胸をふみふみと揉むのも楽しいものである。

 

「後はこれを製本し、完成したら役所に行きましょう。二十人の信徒も集まりましたからね」

「という事は、シスターサレンは、今日は外に出るのだな?」

「はい。なのでよろしくお願いしますね」

 

 ライラの言葉が、引きこもりニートを心配する母親の様な感じがした。

 

 外に出るのが嫌で引きこもっていたのではなく、仕方なく引きこもっていただけなのだがな……。

 

 シラキリが出した水で一度全身を拭き、綺麗さっぱりとしてから外に出る。

 

 そう言えば引きこもっている時にシラキリから聞いた話だが、どうやらこの都市には銭湯があるみたいだ。

 二人とも昨日と一昨日は銭湯へ行っていたらしく、帰って来た時は少しいい匂いがしていた。

 

 今度俺も行ってみたいが、入るのは男湯ではなく、女湯である。

 

 男的に女湯に入るのはどうかと思うが、身体は女なので大丈夫だろう。

 けっしてスケベ心がある訳ではない。

 

 仕方ないのだ。

 

 まあ性的欲求と言うか、女性の裸を見ても男だった時に比べると興奮とかあまりしない。

 例えるならば、美術の授業でヌードモデルを描いている時と似ている。

 

 ただの造形物程度としか思えない感じだ。

 

 身体に精神が引っ張られるとか聞いたことがあるが、その内男に恋心を抱いたりするのだろうか?

 

 …………いや、無いな。俺の知らない何かも、そんな事は有り得ないと訴えてきている感じがする。

 

「それでは……と行きたいのですが、製本できる場所って知っていますか?」

 

 シスター服を着て、紙の束を持って意気揚々と外に出てから思ったのだが、製本って何処で出来るのだろうか?

 

 カーナビや某マップがあれば調べれば直ぐに分かるのだが、そんなものはない。

 

 ライラとシラキリは首を横に振り、知らないと言う。

 

 ……ひな鳥の巣で飯を食べるついでに聞いてみるとするか。

 

「朝食をいただくついでに、ひな鳥の巣で聞いてみましょう。それでダメなら冒険者ギルドか役所ですね」

「分かった」

「はい!」

 

 さて、今日は何を食べようかな?

 

 

 

 

 

 

 

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「いらっ……あっ、サレンさんじゃないですか!」

 

 ひな鳥の巣に入ると、看板娘……じゃなくてレイラが元気に出迎えてくれた。

 

 店内の席はほとんど埋まっており、朝から騒が……賑やかだ。

 

「おはようございます。席は空いていますか?」

「サレンさん達用に空けてあります。あちらの奥の席にお願いします」

 

 前回と同じく大きなテーブルへと案内された。

 

「初日以来来なかったので心配してたんですよ? 何かあったんですか?」

「実は二十人の信徒が集まりましたので、正式の登録に向けて準備していました」

「もう集まったんですか!」

 

 レイラの驚きの声で、数名が俺達をの方に振り返った。

 

 その視線にレイラは恥ずかしくなり、すみませんと周りに謝る。

 

「元気が良いですね。また今度忙しくない時間に来ますので、その時にお話しましょう」

「は……はい!」

 

 ふむ。笑顔をしたはずなのに、何故か怯えられてしまった。

 

 やはり笑顔の練習はしておいた方が良いのだろうか?

 

「注文の前に、一つ尋ねたいことが」

「なんでしょうか?」

「製本出来る場所を知っていますか?」

「それならお父さんが知っていると思うので、後で呼んできます。注文はどうしますか?」

 

 そうだな……今日はパンの気分だな。

 引きこもっている時も大体パン系だったが、構わない。

 

「パンと後はお任せでお願いします」

「私も同じもので!」

「我は肉と腹もちが良いものを」

「承りました!」

 

 異世界のパンと言えば堅い黒パンを思い浮かべると思うが、この世界のパンは違う。

 前にシラキリがおススメしていたパン屋に行った時も驚いたが、ライ麦パン的な物やフランスパン的な物。他にもコッペパン的な物やクロワッサン的な物もあった。

 

 醤油やご飯がある時点で思っていたが、食文化がかなり発展している。

 小耳に挟んだ感じ、ここまで豊富な料理などがあるのはこの都市位らしい。

 

 始まりがスラムだった時はどうなるかと思ったが、割と当たりだったのかもしれない。

 

 日本人的に飯は美味しいものが食べたい。

 

 そして食文化と関わりがある、酒の種類も結構あった。

 あのレッドドライはガッツリ酒って感じがして良かったな。

 

 他にもピアノを弾きながら結構飲んだが、異世界あるあるの糞不味エールが無くて良かった。

 

「どうもサレン様。此方注文の品になります」

 

 ライラとシラキリからギルドでの出来事を聞いていると、料理が運ばれてきた。

 

 ただ、運んできたのは店主であるコルトだ。

 

 そして何故か様付けである。

 

「ありがとうございます」

「いえいえ。サレン様のおかげで見ての通りですよ。簡単なものですが、地図を用意したのでどうぞ。私の紹介と言えば、少しスムーズに話せると思います。それではゆっくりとどうぞ」

 

 おっさんに胡麻すりされても嬉しくないが、これで製本の方はどうにかなるな。

 

 手持ちはライラ達から貰った十万とハイタウロスの件で貰った金。合わせて約十五万。

 

 流石に量産なんて事は無理かもしれないが、宣教用とライラ達に渡す分。それと教会に置いておく分位は作れるだろう。

 

 祈りを捧げ、軽く地図を見ながら朝食を食べる。

 

 木っ端と言うつもりはないが、こんなどこにでもある店でも普通に飯は美味い。

 

 製本の店は、前にミリーさんが案内してくれた、鍛冶屋の近くにあるみたいだ。

 

「場所は分かったのか?」

「はい。先日お邪魔した鍛冶屋の近くですね」

「あそこか。ならば帰りに寄っても良いか? この剣についても相談したい事があってな」

「構いませんよ」

 

 ライラ個人の存在感が凄いのに、剣を四本……正確には八本装備している姿は目を引くものがある。

 

 ひな鳥の巣に来る時も結構な人達がライラを二度見したりしていたが、本人は常に堂々としていた。

 

 今も優雅に肉を食べている。

 

「ごちそうさまでした」

 

 三人揃って食後の祈りをする。

 

 アイリに代金を払い、また来ると言って店を出た。

  

 久々にちゃんと朝食を食べたが、胃がもたれない身体は素晴らしい。

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