なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第31話:何をするにも金が必要

 馬車には乗らず、街並みを楽しみながら歩く。

 

 とんてんかんと音が響き、むさ苦しい男達が多い通りを抜けると、ひな鳥の巣の店主が紹介してくれた店があった。

 

 少々時間が掛かったが、街並みを眺めるのは悪くない。

 

 ちょっとしたことはシラキリが教えてくれるので、良い情報収集となった。

 

 例の銭湯の前も通ったが、そう言えば俺の頭って角の生えていた跡があるんだよな……。

 

 気を付ければバレないかもしれないが……いや、バレても良いのか?

 

 獣人とか普通に居るわけだし、俺が人間以外だとしても問題ないはずだ。

 

 どうも人間以外は駄目という思考に囚われているな。

 

 ……だが、もう少しこの世界の事を学んでからにしよう。

 

 もしかしたら、迫害を受けている種族の可能性もある。

 

 髪や目の色では特に何も言われていないが、慎重であれば慎重であるほど、安全なはずだ。

 

 如何に筋力があっても国家権力には敵わないのだから。

 

 慎重で思い出したが、本屋にも後で寄ってみよう。

 

 立ち読みできるか分からないが、歴史や文化などが分かる本を読んでおきたい。

 

「いらっしゃい。何の用だね?」

 

 ひな鳥の巣の店主…………名前は確かコルトさんだったかな? に紹介された店へ入ると、初老の男が出迎えくれた。

 

 中は店内と言うより、事務所と言った感じだ。

 

 まあ製本する店だから商品がある訳でもないし、当たり前と言えば当たり前か。

 

「コルトさんの紹介で来たのですが、原版の作成と製本をお願いしたくて」

「あいつの紹介か。とりあえずその物騒なもんは置いてから座んな」

 

 よくこんな重装備をしている人物が入ってきて冷静で居られると感心するが、異世界では良くある光景なのだろう。

 

 日本で武器を持った人間が店に入ってきたら、即通報だ。

 

 ライラとシラキリが武器を立てかけている間に、初老の男性は店の奥の方にお茶を頼みながらソファーに座った。

 

「さてと、先ずは依頼内容だ」

「はい。此方の紙を元に原版の作成。それと製本をお願いします。表紙なども描いてきました」

「どれどれ」

 

 どーんとカバンから出した紙の束をテーブルに置く。

 

 因みに表紙のイラストについてだが、浅く広くやっていた趣味の一つであるので、そこそこ見られるものになっていると思う。

 会社でも簡単なイラストを描いていたりもしていたので、大丈夫なはずだ。

 

「お、お茶をどうぞ」 

 

 初老の男性が紙を読み始めて少しすると、店の奥の方から少女がお茶を運んできた。

 若干怯えられている気がしなくもないが、まあ良いだろう。

 

 少女はお茶をテーブルに置いた後、ぴゅーんと言った感じに逃げて行った。

 

 因みにお茶は冷たくて美味しかったです。

 

「ふむ。結構な量だが、紙の束ごとに纏めるのと、こっちの奴は大きな紙に印刷するような感じか?」

「はい。一番量が多い奴は一冊でも良いですが、残りの束は量産も視野に入れています」

「成程な。おっと、名前を言い忘れていたな。俺の名はベルダ。これ名刺な。あんた等は?」

 

 あっても可笑しくないが、名刺ってあるんだな……。

 つい癖で、両手で受け取ってしまった。

 

 名前はベルダ・ラトクリフ。

 ベルダ印刷所の社長だそうだ。

 

 白髪交じりの髪を短く刈り揃え、顎から少し長めの髭を生やしている。

 結構良い体格をしている。

 

「イノセンス教のシスターをしています。サレンディアナと申します。生憎名刺は持っていませんのですみません」

「ライラだ。信徒兼シスターサレンの護衛をしている」

「シラキリです!」

「あい分かった。さて、原版についてだが、作ること自体は問題ない、このイラストもな」

 

 それは良かった。ここで無理なんて言われたら、書き直すか他の店を探さなければならなくなる。

 

「コルトの紹介だから安くするが、原版作成は各五万。最後の奴は一回のみなら大体二万位だな。んで量産は相談になるが、一冊千ダリア位だな」

 

 思ってたより若干高いな……。

 それでも少し足が出る位だから何とかなるか。

 

「因みに紹介がなかった場合はどうなりましたか?」

「そもそも受けんな。宗教関係の仕事は面倒になる可能性が高い。知り合いに宗教関係の仕事を受けて酷い目に遭った奴がいるからな」

 

 あんたは変な事をしないよな? なんて感じの視線を向けられたので、「そうですか」と言って軽く頷いておく。

 

 コルトさん。紹介してくれてありがとう。

 

「んで、どうする?」

「その料金でお願いします。料金はどの様にして払えば?」

「前金で十万。完成後に残りって感じだな。大体十日もあれば試作が出来るだろう」

 

 前金の支払いは問題ないが、残りは稼がないといけないか……。

 

「分かりました」

「ひの……ふの……確かに。お前さん、なんかギルドに入っているか?」

「冒険者ギルドに加入しています」

「ほぉ。なら連絡が必要になったら冒険者ギルドに伝えておく。何もなけりゃ十日後にまた来てくれ」

 

 あっさりと商談が纏まり、最後に契約書を交わす。

 異世界の癖にやっていることが会社に居た頃と同じなので、違和感が半端ない。

 

「しかしざっと読んだだけだが、今時珍しい宗教だな。どこ発祥なんだ?」

「実はどこか分からないんです」

「どう言うこった?」

 

 ベルダさんに俺の経緯をざっくりと説明する。

 主に記憶が朧気な(無い)事と、イノセンス教の事だけは覚えていた事だ。

 

 すると顎を擦りながらうむうむと唸り出す。

 

「記憶が無い……か。お前さんも大変な人生を送っているみたいだな。まあ、なんだ。上手く行かない事が有ったら家に来な。下働きでよけりゃあ雇ってやるよ」

 

 優しい事を言ってくれるが、働きたくないから宗教を作ったのだ。

 ここで働く位なら、ライラとシラキリに頭を下げてヒモ生活を送る方がマシだ。

 人としては終わっているがな!

 

「お心遣い感謝します。ですが、私にとって宗教を捨てるという事は、死ぬと同意義なのです」

「熱心な事だ。そんじゃあ帰んな。何もなけりゃあまた十日後だ」

 

 しっしと手を振られたので、軽く頭を下げてからベルダ印刷所を出る。

 

 因みにライラとシラキリは静かに茶を飲み、いつの間にか出されていたお菓子を摘まんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

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「はぁ? もうランクが上がってんのか!」

 

 ベルダ印刷所を出てドーガンさんの店に着いて直ぐに驚きの声が上がった。

 

 やはりこんな短期間でランクが上がるのは可笑しいのだろう。

 何があったのか、後でミリーさんに詳しく聞くとしよう。

 

「ランクの事など今はどうでも良い。それよりもこの剣についてだ」

「ああそうだったな。何か問題はあったか?」

 

 この件は完全に俺の管轄外なので、後ろに下がる。

 

「水と光は能力が下がって良いから、ただの魔力を変換する機能を付けてくれ」

「分かった。ちょいと素材を取ってきてもらう事になるが、どうにかしよう」

「そうか。次に重心についてだが、先ずは火と風の剣の重心をもっと先端に寄せてくれ。次に土だが、刀身を少し細くしてくれ」

「重心はどうにかなるが、細くするのは少し厳しいな。少し特殊な素材でな」

 

 ふむ。完全に手持ち無沙汰だな。

 

 しかしライラの装備してる某合体剣だが、やはり男心を擽る。

 

 俺も男だったら本当に欲しかった……。

 

 本当に本当に欲しかった。

 

「シラキリの方の武器は大丈夫なんですか?」

「はい! 切れ味もお手入れしていれば殆ど落ちないので、とても良いです」

「そうなんですね」

 

 刀は切れ味特化であり、上手く扱えば切れ味を保つ事が出来る(らしい)。

 

 それにシラキリは水の魔法が使えるので、直ぐに刀身を洗う事が出来る。

 

 刀身に使われている金属は鉄だけではなく、複合金属らしい。

 利点は魔法の通りが良くなるのと、極僅かだが自動修復機能があるとか。

 ついでに少しだけ軽くなるみたいだ。

 

 デメリットらしいデメリットはないが、強いて言えばとても高くなる。

 ただでさえ技術料が高くなる刀だが、そこに複合金属を使うと倍では済まない。

 

 しかも通常の刀を作るよりも小刀二本作る方が、当たり前だが高くなる。

 

 その結果が百万と高額となる。 

 

 まあライラの剣に比べれば安いが、向こうは七本で四百万だから本数計算すれば安い事になる。

 

 だからどうしたって訳ではないが、攻撃こそ最大の防御と言ったところだろう。

 

 …………いや少し違うか。

 

「もっと強くなってサレンさんを守れるように頑張りますね!」

「はい。頑張って下さいね」

 

 ニコニコ顔のシラキリの頭を撫でておくが、瞳の奥に暗いものが見えるんだよなー。

 下手な事しなければ問題ないだろうし、見なかった事にしておこう。

 

「分かった。その素材を持ってくれば良いんだな?」

「ああ。土については後回しだが、それ以外は今言った素材でどうにかなる。分からない事が有ったらミリーにでも聞け」

 

 どうやらシラキリと戯れている内に話が終わったようだな。

 

「兎の嬢ちゃんの方はどうだ? 何か気になる点や不具合とかないか?」

「投げたら戻って来るようにとか出来ますか?」

「出来ない事もないが、戻ってくる向きとかの調整は出来ないぞ? それと若干柄側の重量が増すから、重心が変わっちまうが良いか?」

「はい!」

 

 ライラと話す時と違い、ドーガンさんの顔は少し柔らかくなっている。

 前に来た時も思ったが、さてはこのドワーフ――ロリコンだな。

 

 ……いや、それならライラやミリーにももっと優しい感じになるか。

 

 どちらかと言えば孫を可愛がる、爺と言ったところだろう。

 

 しかし、投げたら戻って来る小刀か。

 

 面白い発想だが、それって刃が駄目になってしまうのではないだろうか?

 

 それとも俺が知っている刀と違い、その程度では問題ないのだろうか?

 

「そうか。だがその機能を付けるには少し素材が面倒なんだ。最低でもウィンドドラゴンの魔石。出来ればテンペストドラゴンの魔石が必要だ」

 

 あからさまに物騒な名前の魔物だな。

 

 ドラゴンと言えば、どんな物語でも強敵となっている存在だ。

 

 名前的に属性毎に存在していそうだな。 

 

「どれ位強いんですか?」

「ウィンドドラゴンはB級。テンペストドラゴンはA級だ。自分で手に入れに行くよりは、依頼を出した方が良いだろう」

「ふむ。B級か……その程度ならどうにかなるかもな」

 

 話を聞いていたライラが事も無さげに言う。

 

 まあA級のハイタウロスを相手に戦えていたのだから、もしかしたら勝てない事もないのだろう。

 

「おいおい馬鹿言ってんじゃねえぞ。ドラゴンはお前らみたいな…………いや、それを使えてる時点で小娘何て言えねえか。まあなんだ。一度ミリーに相談してみろ。それと、料金は別で必要だからな」

 

 八本の剣を普通に背負っている少女が、普通じゃないってのは同感だな。

 

「無理などする気は無い。また素材を手に入れたら来る」

「同じくです」

「そうか。無理して死ぬんじゃねぇぞ」

 

 やれやれと溜息を吐いた後、ドーガンさんは何故か俺の方を見た。

 

「あんたもこの二人が馬鹿な事をしないようにしっかりと手綱を握っておけよ」

「私はただ見守るだけです。勿論寄り添いもしますけどね」

 

 サラッとシラキリの事も混ぜていたが、殊勝な事を言っておけばいいだろう。

 

「シスターサレン。今日の用事はもうないんだな?」

 

 ドーガンさんの店を出ると、ライラが話しかけてきた。

 

 うん。今の話の後だから、この展開は読めていたさ。

 

「そうですね。後は夜にひな鳥の巣に行く位ですね」

「ならば冒険者ギルドに行かないか?」

 

 だろうね。そう来ると思っていたさ。

 

 ここで断れば、ライラは素直に聞いてくれるだろうが、俺の答えは決まっている。

 

「構いませんよ」

 

 これ以外の答えはないのだ。

 

 俺も金が欲しいし。

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