なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第34話:サレンちゃんの懺悔室その1

 現在俺は、ギルドのある一室に居る。

 

 部屋は大きな板で半分に仕切られている。

 

 板には穴が開いているが、お互いが見えないように布が張られている。

 

 どの様な目的の部屋かと言えば、懺悔するための部屋。懺悔室だ。

 

 マチルダさんのお願いと言う名の提案とは、この事だった。

 

 何故冒険者ギルドにこんなものがあるかと疑問に思うが、教会に行ってまで懺悔する時間が無い人達用にあるらしい。

 

 そんな物が必要かと思うかもしれないが、そこそこ使用率は高く、各教会が日替わりで開催している。

 

 どの宗教でも良いわけではなく、冒険者ギルドが認めた優良な宗教でないといけない。

 悪質だったり邪教が紛れこんだりすれば、そこからじわじわと侵食される事もあり得るから、当然の事だろう。

 

 これはあまり表にしてはいけないとマチルダさんに釘を刺された後に言われた事だが、ここで懺悔室を開催出来るという事は宗教にとっても一種のステータスであり、信徒を呼び集めるのに使えるそうだ。

 

 本来なら俺みたいな木っ端では、此処を使用するには十年以上必要となるが、先日の件のお礼の一つだと言われた。

 

 評判次第では次もあり得るので、頑張って下さいと言われたが…………。

 

 いや、いつかはやる予定だったけども、急にやれと言われても困るんですよ?

 

 そんな俺の心境を嘲笑う様に、部屋の扉が叩かれた。

 

 ――腹を決めるか。

 

「迷える子羊よ。入りなさい」

 

 誰かが板の向こう側にある椅子へ座る音がした。

 

 さて、一体何を懺悔してくれるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

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「イノセンス教?」

 

 冒険者ギルドの一角にある懺悔室。

 

 男は今日の当番となる宗教を見て首を傾げた。

 

 聞いた事も、見たこともない。

 

 だがここに居るって事は曲がりなりにも冒険者ギルドが認めた宗教であり、まかり間違ってもおかしな宗教ではないはずだ。

 

「迷える子羊よ。入りなさい」

 

 少し緊張しながら扉を叩くと、中から凛々しい女性の声が聞こえた。

 

(声的に若い女性だが……まあ大丈夫か)

 

 心配もあるが、ギルドが認めているのだと思い直し、男は懺悔室へと入った。

 

 薄暗い懺悔室に何故か張り詰めた様な空気があり、ほんのりと神聖な空間のように感じる。

 

「あなたの罪を告白しなさい」

「はい……」

 

 前に来た時と、何かが違う。そう感じずにはいられなかった。

 

「実は先日、彼女の誕生日だったのですが、ダンジョンの攻略が長引いてしまい、すっぽかしてしまいました。後日彼女に謝ったのですが、中々許して貰えず……。俺はどうすれば良いのでしょうか?」

 

 男は最近DランクからCランクへと上がり、調子が良かった。

 もう少しで彼女の誕生日と言うこともあり、パーティーでダンジョンに潜ったのだが…………問題が起きた。

 

 運悪くトラップに引っ掛かり、ダンジョンの奥へと飛ばされたのだ。

 

 飛ばされた階層は男のパーティーなら問題なかったか、日帰り予定だったダンジョン攻略は、二泊する結果となった。

 

 転移させる罠はもっと高難易度のダンジョンならあるのだが、男が潜っているダンジョンの階層では、あまり聞いたことがなかった。

 

 結果として彼女の誕生日には間に合わず、散々怒られて今に至る。

  

「やむ得ない事情があったのは分かります。ですが、あなたの彼女も悪気があって怒ったのではないと思います」

「どういう……事ですか?」

「彼女も来るはずのあなたが来ず、心配したのだと思います。それで感情的になってしまったのでしょう。神はあなたの罪をお許しになるでしょう」

「そうか……あいつは俺の事を心配して……ありがとう。なんだか心が軽くなった」

 

 男は見えもしない相手に向かって頭を下げ、席を立つ。

 一発目が恋愛相談でげんなりするサレンだが、マチルダからの忠告を思い出し、一言付け足しておくことにした。

 

「これは独り言ですが、彼女へ会いに行く時は、花束を持って行くのが良いでしょう」

 

 部屋を出ようとしたら急に話しかけられ、男の足が止まった。

 何を言われたか一瞬理解できなかったが、意味を理解して軽く笑った。

 

「アドバイスありがとう」 

 

 翌日、男はサレンのアドバイスに従い、花束を持ってもう一度謝りに行った。

 

 最初はカッとなるが、先日の怒りが嘘のように収まり、機嫌が良くなった。

 

「イノセンス教か……少し調べてみるか」

 

 懺悔だけに留まらず、的確なアドバイスをくれたイノセンス教に、興味を持つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

2

 

 

 

 

 

 

「聞いた事ないけど、折角だから入ってみるかな?」 

 

 男が懺悔室を出てから少しすると、新たな人物が懺悔室の前に現れた。

 

 最近冒険者になったばかりの少女だ。

 

 髪をサイドテールで纏め、見た目はライラと同じような革鎧を装備をし、少女にしては少し大き目な剣を背負っている。

 

 少女の性格的にこんな所に来る気はなかったのだが、マチルダに言われて仕方なく足を運んだ。

 

 もっと細かく言えば、マチルダに愚痴っていたら邪魔だから行って来いと脅迫されたのだ。

 

 意を決して、少女は扉を叩いた。

 

「迷える子羊よ。入りなさい」

 

 思っていた以上に凛々しく、若い声が返ってきたせいか、少女はたじろいてしまう。

 

 だからと言って引くほど、気が弱くなどない。

 

 部屋の中は薄暗く、何もしていないのに罪悪感を感じてしまう。

 

 一つだけ置かれている椅子に、少し躊躇いながら座る。

 

「あなたの罪を告白しなさい」

 

 冷たく突き放すような。されど、抱擁力のある言葉。

 少女は一度つばを飲み込んでから、口を開く。

 

「私は先月冒険者になったばっかりなんだ。自分で言うのもなんだけど、結構才能がある方って思っている。だけど……最近急に現れて瞬く間にランクを上げる奴が現れたんだ」

 

 サレンはどこかで聞いた事があると首を傾げるが、仕事上そのまま続きを促す。

 

「そいつは私と同じ女なんだけど、すんごい強くてさ。昨日も訓練場で何人も相手にしてあっという間に倒しちまったんだ。私はそんなあいつを見て…………嫉妬しちまったんだ」

 

 若干サレンが知っている内容とは異なるが、その場に居た人達にしか分からないこともあるのだと、一応納得しておく。

  

「そうなんですね」

「ああ。あの剣の腕は私なんかじゃあ逆立ちしても勝てない。その実力をマジマジと魅せられて、たまらなく……羨ましいって、私にも、あれだけの力があればって……思っちまったんだ」

 

 先程の男の懺悔に比べればまともな内容だなと安心するが、ここで選択肢を間違えると、ライラの敵が増える事になる。

 

 罪を許すと一言話すだけでは、不十分だろうと頭を悩ませた。

 

 懺悔とは罪を許し、新たな道を歩ませる行為である。

 

 その新たな道が嫉妬による逆恨みか、忘れて違う事をするかは分からない。

 

「神はあなたの罪をお許しになるでしょう。もし宜しければ少しアドバイスをしても良いでしょうか?」

「なんだ?」

「力と言うのはたゆまぬ努力の結果手に入るものです。あなたが嫉妬した少女は、きっと物凄い努力をしてきたのでしょう」

 

 一理あるが、それならば自分もしてきたと少しムッとする。

 剣を振るい、魔法を練習し、座学も頑張ってきたのだ。

 

 だがここで感情的になって言い返すほど、少女も短慮ではない。

 冒険者にとって感情的になるのは死と同意義である。

 

 今は嫉妬で感情的になっているが、冒険には出ていないのでセーフだ。

 

「なので、一度戦いを申し込んでみたらどうでしょうか? そしてどうして強いのかを聞いてみると良いでしょう」

「……私みたいに弱い奴と戦ってくれるかな?」

「必ず戦ってくれます。イノセンス教のシスターである、私が保証しましょう」

 

 だって、俺が頼めばこの程度の事は聞いてくれるもんと、こっそり呟く。

 

 完全に自作自演である。

 

「そうか……そうだよな。うじうじする位なら当たって砕けた方が良いよな! シスターさんありがとう!」

「いえ。それと、挑むのは明日以降の方が良いでしょう。神はそう言っています」

「分かったぜ! ありがとうな、シスターさん!」

 

 少女は意気揚々と懺悔室を後にして、マチルダへと報告をした。

 マチルダは少女の報告を聞き、サレンがちゃんとやれているようだと安心した。

 

 それから数日後、少女はライラに戦いを挑んだ。

 

 結果は惨敗だったが、強くなる方法を聞くことができたので、最後は晴れやかな笑顔を浮かべていた。

 

 ただ、近くに居たシスターと思われる女性が、少し怖かったとかなんとか。

 

「イノセンス教か……聞いてみるか」

 

 少女は自分を導いてくれた、イノセンス教の事を知りたいと思い、マチルダへと相談した。

 

 後日、怖がってしまった女性が懺悔室に居た女性だと知り、悲鳴を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

3

 

 

 

 

 

 

「イノセンス教……どうやら上手くいったようだな」  

 

 第三副支部長のネグロが、懺悔室の前で呟いた。

 

 今回の件はネグロが発案したものであり、罪滅ぼしと実験を兼ねている。

 

 このホロウスティアは何に対しても寛容な都市だ。

 

 武器種や魔法。食料や素材。

 

 一定の基準はあるが、それを越えない限り自由に生きられる。

 

 そんな中でも宗教関係は一番問題が起きやすく、そして覆らない問題でもある。

 

 教国が複数あり、お互いが仮想敵国として睨み合っている。

 

 神の加護があるおかげで大それた争いなどは起きていないが、逆に大いなる加護一つで今の状態が変わる事もあり得る。

 

 帝国全体の考えとしては、宗教に関してあまり良い感情を持っていない。

 そこには様々な要因があるのだが、一番大きいのは帝国の思想と相容れないものが大半だからだろう。

 

 その点ホロウスティアだけは違う。

 

 学生が作った闇鍋の様な状態だが、帝国はその中から良いものだけを掬い上げる。

 

 そして最近、面白い人物が現れた。ネグロは立場上ミリーの素性を知っている。

 

 イノセンス教。それとサレンディアナと名乗る女性。

 

 ホロウスティアに展開されている結界を搔い潜り、いつの間にか居た謎の女性だ。

 

 ライラやその暗殺者達はしっかりと確認されており、壊れている訳ではないと確認されている。

 

 かなり目立つ風貌をしており、一度見れば忘れるのも難しい。

 

 スラリとした神官服から飛び出る二つの果実。ウィンプルの合間から見える燃える様な赤い髪。

 美しい顔立ちだが、見た者を凍り付かせるほど鋭い目。

 

 幼い子供が見れば、泣いてしまうだろう。

 

 その顔立ちからは想像できない程言葉は優しいので、ネグロをしても違和感が拭えていない。

 ミリー曰く善良な存在だろうが、猛毒にもなり得ると語っていた。

 

「さて、入ってみるとするか」

 

 とりあえず試してみるかと、ネグロは懺悔室の扉を叩く。

 

「迷える子羊よ。入りなさい」

 

 この前とは少し違い、凛々しく冷たい言葉にネグロは少し驚く。

 

(様になっている……いや、先ずは試してみてから考えよう)

 

 何度も入ったことのある懺悔室。

 

 しかし、今日はいつもより神聖に感じられた。

 

「あなたの罪を告白しなさい」

 

 座ると共に掛けられた言葉。

 

「私には今年十五歳になる娘が居るんだが、些細なことで喧嘩をしてしまってね。その事について告白したい」

「些細なことですか?」

 

 おや? どこかで聞いたことのある声だなと、サレンは思うが、多分気のせいだろうと考えないことにした。

 

「ああ。将来は騎士になると言って聞かないんだ。親としてはそんな危ない職にはついてほしくなくてね。つい怒鳴ってしまったんだ。頭ごなしに叱ってしまったと、反省している」

「なるほど。神はあなたの罪をお許しになるでしょう」

 

 ネグロが話したことは本当の事であり、最近は娘に口をきいてもらえず、最近落ち込んでいた。

 

 何気なくミリーに相談したところ、爆笑されることとなった。

 

 話した事で少し心が軽くなったネグロだが、ここでサレンを試してみることにした。

 

 懺悔とは罪を告白し、神にゆるしを請う行為だ。

 それ以上を求めるのは通常ない。

 

 神は受け入れるだけであり、答えないのだから。

 

 相談は懺悔室以外で行うものだ。

 

「あればで構わないのだが、アドバイスとかないかね?」

 

 子供や妻も居なかった自分が分かるわけないと毒を吐きたいサレンだが、一応仕事なのでそんな事は言わない。

 

 子供の事は分からないが、教育という点で見ればサレンも多少心得がある。

 

「そうですね。できる出来ないは別にして、職場体験、この場合は体験入団なんかさせてみるのはどうでしょうか?」

「ふむ。どういうことかね?」

「子供とは夢を見て現実に疎いものです。実際に体験をさせ、それでどの様な答えを出すか見守るのです」

 

 体験させる。確かにと、ネグロは頷いた。

 

 初心者の冒険者がそうだが、最初は意気込んでいても、戦いの現実を知ると辞める者が多い。

 

 実際にやらせてみるというのは、良い手だろう。

 

 だが、これには問題もある。 

 

「もしも娘が、それでも騎士団に入りたいと言ったら、どうすれば良い?」

「子供の背を押すのも、親の務めだと思います。本当に道を選んだのでしたら、否定せず送り出して下さい」

 

 頭では分かる。だが、感情がサレンの言葉に頷く事を否定する。

 

「今は迷っているかもしれませんが、一歩踏み出して見てください。どのような結果になったとしても、娘さんのあなたを見る目は変わると思います」

 

 変わるだけなので、もっと酷くなるか尊敬するかは自己責任です。

 なんて、内心付け足しておく。

 

「そう……か。そうだな。もう一度娘と話し合ってみよう。助かったよ」

 

 思っていた以上に親身に答えてもらい、ネグロはサレンの重要度を上方修正した。

 

 まだ正式な宗教ではないので、大まかな教義しか分からないが、帝国の理念と反するものではない。

 

 気分を良くしたネグロは執務室へと帰り、再び仕事を再開した。

 

 後日、この娘の件で一波乱あるのだが、それはまた別の話である。

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