なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第42話:長くて太くて大きい奴

「此方がギルドカードになります。良ければ仕事終わりに食事でもいかがでしょうか?」

「すみませんが断らせていただきます」

 

 冒険者ギルドへと戻り、サクッとギルドカードを作ってもらった時の一幕である。

 

 どうやらマチルダさんは現在彼氏募集中との事だ。

 

 別に知りたくなかったが、異種族間での恋愛や結婚はこの都市では普通なのだそうだ。

 

 誰が好き好んで男と恋愛などするものか。

 

 確かに女性に対して異性的な愛を感じないが、それは男に関しても同じだ。

 

 独身貴族として一生を終える気である。

 

 …………まあ帰れるか、男に戻れたらその限りではないが。

 

 話がそれてしまったが、冒険者ギルドに来るまでの間にアーサーにはギルドの事を教えてあるので、新人研修はしなくても問題ない。

 

 正確にはライラが問題ないと言ったので、問題ない。

 

「我らが行けて、空いているダンジョンはあるか?」

「えっ? ちょっとお待ちくださいね」

 

 ライラがマチルダさんの雑談をバッサリとカットし、当初の予定だったダンジョンの事について聞いた。

 

「えーっと、サレンさんが居るのでしたら、墓場の掟(リビングルール)はどうでしょうか? 先日の事故で少し人気が下がっているので、罠に注意すれば稼げるかと思います」

 

 ……あれ? もしかしてマチルダさんって、俺の事嫌いだったりするのだろうか?

 それとも、使い勝手の良い人間とでも思っているのだろうか?

 

 横目でマチルダさんを見ると、僅かに冷汗を流し始めた。

 

「えーそのー。行って下さるのでしたら、ギルドからの依頼として処理しますので、転移門の使用は勿論、武器を借りるのでしたら無償でお貸しします…………駄目ですかね?」

 

 ふむ。転移門の値段が如何程か知らないが、タダになるのはありがたい。

 どうやら東側は初心者ダンジョン以外のダンジョンが少ないため、他の冒険者ギルドに移動してからダンジョンに行くことが多いらしい。

 

 どちらかと言えば、ホロウスティアの外での仕事がメインなのだそうだ。

 

 何故こちらにお鉢が回ってくるのか聞きたくなるが、此方にも一応メリットはある。

 

 ギルドからの依頼となれば貢献度の方も増えるし、条件としては悪くないのだ。

 

「そう……ですね。今回はその内容でお受けしようと思います。ですが……ね?」

「すみませんでした。実は各ギルドから人を送るように言われているのですが、中々人が捕まりませんでして……」

 

 マチルダさんの話では、先日のオーレン達の事故により、低層で魔物を討伐する人が少なくなっている。

 

 魔物は定期的に狩らなければいけないのだが、人が少なくなった場合はギルドが依頼という形で呼びかけを行うそうだ。

 

 そして全ギルドで募ったが東だけ……正確にはどこもなのだが、東側はその特性上人が集まらなかった。

 

 別にギルドから人を出さなくてもまだどうにかなるが、査定に少し響くのでどうにしたかったそうだ。

 

 ついでに、間引きは基本的に上層だけが行われ、中層や深層はそこまで狩らなくても大丈夫だそうだ。

 

 何でも強力な魔物は湧きも遅く、魔物同士で殺し合いなどもしているらしい。

 

「サレンさんは聖職者ですし、ライラさんが強いのは知っています。アーサーさんもそれなりに心得はあるみたいですし、どうかよろしくお願いします」

 

 そんなわけで依頼としてダンジョンへ行くことになった。

 

 始めて転移門を使用するのだが、転移門の前には別途受付があり、そこで確認を取らなければ使用できない。

 都市内の移動限定とはいえ、あっという間に移動できてしまうので、防犯を徹底しているのだろう。

 

 誰かいつ何所へ移動したかを、全部記録しているらしい。

 

「浮遊感が少々むず痒いが、慣れれば何ともない」

 

 とライラが教えてくれた。

 

 門と呼んでいるが実際は床一面に魔法陣が描かれているだけだ。一応解読できないように暗号化や魔力の供給方法は機密となっているそうだ。

 

 ついでに魔法陣の色は場所ごとに変えており、どこの転移門か分かりやすくしている。

 

「起動しますので、動かないで下さいねー」

 

 そんな掛け声が聞こえ、一瞬浮遊感が襲ってきた後、先程までとは違う色をした魔法陣の上に居た。

 

「これが転移ですか……」

「必要な魔力だったり距離の問題もあるらしいが、凄まじい技術だ。それより時間も惜しい故、行くとしよう」

 

 転移先は西冒険者ギルドだ。

 

 此処から馬車に乗り、墓場の掟に向かう。

 

 本来なら定期便を待たなければいけないのだが、マチルダさんの取り計らいで専用便が使える。

 

 そんなこんなであっという間にダンジョン墓場の掟にやって来た。

 

「これまで行ったダンジョンに比べると、人が少ないな」

「そうなのですか?」

「うむ。大体入場待ちや商人がたむろしているのだが……」

 

 馬車停からダンジョンの入り口を見るが、ちらほらと人がいるだけである。

 

 ダンジョンに来るのは実質今回が初めてなのだが、やはりこれが普通なわけではないみたいだな。

 

「先ずはギルドへと行き、手続きを済ませよう。時間も惜しいからな」

「そうですね」

 

 初心者ダンジョンの時と同じくギルド出張所に入ると、かなりの視線が此方に集まってきた。

 

 いつもの恐怖や畏怖ではなく、驚きや喜びと言った色がわりと強いように思える。

 

「東ギルドから来た。此方が依頼書となる」

「はい! 少しお待ちください」

 

 誰も並んでいない受付へと行き、マチルダさんから貰った依頼書を渡す。

 

 受付が後ろに下がったため、少しだけ時間が空く。

 

 やはり我が道を往くライラは頼りになるな。

 こんだけ注目されているというのに、堂々としている。

 

 ギルドの中に居るのは外に居た冒険者と比べると、覇気が全く無い。

 

「確認が取れました。ダンジョンへは何時入っていただいても構いません。何か質問はありますでしょうか?」

「武器をレンタルしたいのと、何やら視線が……」 

「す、すみません!」

 

 単純に何があったのかを聞こうとしたら、思いっ切り謝られてしまった。

 

「実は思いの外討伐が上手くいっておらず、少々手をこまねいていたんです。今回の依頼はEからD級の方を中心に出されているのですが、火や光と言った属性を使える方が思いの外少なかったんです」

 

 アンデッドと言えば火か光の魔法だからな。

 後ろに居るのは見るからに若い冒険者ばかりだし、魔法を使えるといっても、それほどではないのだろう。

 

 

「このままではランクの高い方に一掃してもらう事になるのですが、そうすると今度は一時的に魔物がほとんど沸かなくなるので、それはそれで問題となりまして……」

「沸かなくなる、ですか?」

「はい。上位の魔法で階層を一掃するため、一時的に魔物が湧かなくなってしまうんです。そうすると魔石の採掘量や冒険者の稼ぎが減ってしまうので、あまり取りたい手段ではないのですが、そんな時に聖職者の方が現れたので、皆さん浮足立っているんです」

 

 なら上位の冒険者にコツコツと倒して貰えば良いと思うのだが、上位の者には上位の仕事がある。

 

 例えるならアルバイトと正社員位の差がある。

 

 確かに出来るだろうが、そんな事に時間を割けばアルバイトの居る意味がなくなる。

 

 そして浮足立つのは分かるが、俺は聖職者(偽)だ。

 

 よく分からない加護は使えるが、魔法は使えない。

 

 いや、待てよ……祈りを捧げたら使えるようにならないだろうか?

 試してみる価値はあるな。

 

「そうなんですね。微力ながら頑張らせていただきます」

 

 ライラが。

 

「ありがとうございます。武器庫はギルドの裏手にありますので、此方のカードで入って下さい。帰るときに使用した武器を教えていただければ大丈夫ですので、なにとぞ良い感じにお願いします。あっ、此方魔石用のマジックバッグになります」

 

 カードとバッグを受け取り、頭を下げる受付に見送られながらギルドを出て裏手に回る。

 

 そこには初心者ダンジョンにあった武器庫と比べると、結構立派な小屋があった。

  

 ここにカードをタッチしてねって感じの所にカードをタッチすると、扉に埋め込まれた魔石が光りだし、扉が開いた。

 

 無駄にハイテクである。

 

「アーサーも替えの武器を持っておけ。何があるか分からんからな」

「承知しました」

 

 ライラは中に入らず、俺とアーサーだけで武器庫へと入る。

 

 前に比べて力の調整が出来るようになったが、平和な日本人が剣や槍なんて使う技術はやはり持っていない。

 

 そもそも練習していないので使いようがないのだがな。

 

 なので……。

 

「え、その……大丈夫なのですか?」

「はい。問題ありません」

 

 前回は太くて長くて立派な黒光りするハンマーだったが、今回は銀色に光る大きくて立派なハンマーである。

 

 大きさはアーサーが引き攣る程度と言っておこう。

 

 色合いからして、おそらく銀でコーティングしてあるのだろう。

 異世界でもアンデッドと言えば銀なのだろうか?

 

 それとも何かしら有益な意味あいがあるのだろう?

 

 因みにアーサーは、無難にロングソードを選んでいた。

 

「……相変わらず、凄まじいものだな。それで強化をしていないのだな?」

「はい。結局魔力の流れも分かりませんので」

 

 武器庫から出ると、ライラが真顔で俺の担いでいるハンマーを見てきた。

 

 筋肉ムキムキのマッチョが持っているならともかく、女性が持つようなものではないからな。

 

 気持ちは分かる。 

 

 だが剣や槍と違い、ハンマーなら当たれば倒せるので楽なのだ。

 

 下手な技術が無くても、振り下ろし方さえ気を付ければ使い勝手が良い。

 

 あっ、そうだ。

 

 此処なら人目も無いし、あれを試してみよう。

 

「出来るか分からないのですが、武器に祝福をしてみて良いでしょうか?」

「祝福?」

 

 …………ああ。先に武器へ加護を与える行為が普通か、聞いてからの方が良かったな。

 もうどうしようもないし、このまま押し通すか。

 

「武器に加護を宿らせる事で、一時的にですがアンデッドに対してダメージが通りやすくなります」

 

 多分。成功するか分からないけど。

 

「成程な……」 

 

 ライラは腰に差している方の剣を抜き、一本分離させた。

 

「これに頼む。光の魔導剣なので、相性も良いだろう」

「分かりました」

 

 さてと、祈りの内容は……。

 

「不浄なるモノを照らす光よ。その力を下賜したまえ」

 

 いつも通りのポーズをし、目を開けたまま剣に向かって祈る。

 すると剣の上に複雑な魔法陣が現れ、剣へと吸い込まれていった。

 

 剣は淡く光り輝き、俺の試みが成功した事を主張している。

 

「イノセンス教はその様なことも出来るのですね……」

 

 俺の祈りを見ていたアーサーが、感慨の声を漏らす。

 

 本当に成功して良かったよ。

 

 これで何も起こらなかったら、二人の記憶を消さなければならなくなるところだった。

 

 

 

 

 

 物理で。

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