なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第43話:浄化の光

 ライラにやったのと同じ事を、アーサーが持っている剣にもやり、いざダンジョンに行こうとした所で、一つ忘れていたことがあった。

 

「そう言えばアーサーさんの防具は大丈夫なのですか?」

 

 アーサーの姿は朝会った時の両袖が無い黒い服から、少し年季のある布の服に代わっていた。

 顔にミスマッチだが、都市内で見られる一般的な服だ。

 

「下手に防具があるより、無い方が戦いやすいので大丈夫です。サレン様も居る事ですしね」

「そうですか」

 

 本人が良いなら構わないが、流石の俺も死者蘇生は出来ないだろうから、死ぬのだけは勘弁である。

 

 さて、気を取り直して今から潜るダンジョンである墓場の掟(リビングルール)についておさらいしておこう。

 

 ダンジョン自体は呪術系であり、アンデッド類が多く出現する。

 上層。中層。下層に分かれており、合計六十九階層ある。

 上層は闇系統のダンジョンと変わらないが、罠の種類が大きく違う。

 

 これまで上層で罠は見られなかったのだが、先日オーレン達が罠に引っ掛かった事により、事態は急変した。

 安全かつ効率よく魔石を稼げるダンジョンから、運が悪ければ破産の恐れがある極悪ダンジョンへと変貌したのだ。

 

 勿論罠を見抜ける者が居れば良いのだが、少し問題がある。

 

 オーレン達が引っ掛かった……引っ掛けられた罠は魔法系の罠だったのだ。

 

 要はそれなりに魔法に精通した、レンジャーなどが必要となる。

 そんな奴が新人パーティーに居るわけがない。

 

 なにより上層で魔法系の罠は殆どのダンジョンで無いため、ギルドランクで言えばC級以上の技能となる。

 

 そんな有能な者は中層まで行けるような人間ばかりなので、上層で狩りなんてしなくなる。

 

 そしてアンデッドと言えば神官なのだが…………こんな陰気臭い所に誰が好き好んで来るか! ……って感じらしい。

 

 まあポーションが主流の回復方法だから仕方ないのだが、神官で冒険者ギルドに居る人間は殆ど野心家である。

 

 金稼ぎの為にダンジョンへ潜る様な者はまず居ない。

 

 居ないので、歓迎されたのである。

 

「…………三名ですね。ギルドカードと、何か書類がありましたら提示をお願いします」

 

 ダンジョンの入り口の前に居る門番が、俺達の姿を見て暫しの間固まった。

 そして三人のギルドカードと依頼書を渡すとまた固まってから二度三度と此方を見た。

 

「えー……大丈夫なんですか?」

「気にするな。中には今どれ程人が居るのだ?」

 

 門番の心配をバッサリと切り捨て、ダンジョン内の事を聞く。

 

「上層に居ると思われるパーティーは五組ですね。他は中層より下に潜っているはずです」

「通常時はどの程度居るのでしょうか?」

「約二十倍程度ですね。上層は罠が無く、スケルトンやゾンビが沢山湧くので人気だったんです」

 

 約百パーティーって事は大体五百人程度か……それだけの人数が一気に抜ければギルドも慌てるだろう。

 

「魔物の数はかなり多くなっているみたいですので、どうかお気を付けて」

 

 門番に見送られてダンジョンの中に入ると、何とも薄気味悪い空間だった。

 

 階段を下りてきたはずなのに、天井は外にいる様な空となり、曇っている。

 地下なのに仄かに明るく、空気が重い。 

 

 例えるならだだっ広い墓場って感じだろう。

 

 遠目だがスケルトンやゾンビが徘徊しているのが見える。

 

「纏めて焼き払っていいならば容易いのだが……ゆくぞ。アーサー」

「ハッ!」

 

 二人は一気に加速をし、魔物の群れに突っ込んでいった。

 

 第一階層での立ち回りについては、改めて決めてある。 

 

 先ずは腕試しとばかりにライラとアーサーで蹂躙し、俺は適当に散歩をする。

 

 一層目に居る魔物は武器を使用しないため、リーチのあるハンマーなら余裕をもって先制が出来る。

 

 なので、適当にぶらつきながら近づいてきた魔物をハンマーで叩く。

 

 フィリアが引っ掛かった、悪辣な罠がある可能性もあるが、即死さえしなければ何とかなる。

 

 思わず鼻歌が漏れ出てしまう。

 

 墓場で鼻歌を歌うのは不謹慎かもしれないが、叩くたびに魔物が魔石へ変わっていくのは、少し楽しい。

 

 

 

 

 

 

 

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 サレンが鼻歌を歌いながら撲殺している傍ら、ライラとアーサーはダンジョン内を縦横無尽に駆けていた。

 

 一薙ぎするたびに魔物が死に、軽く魔法を放っては纏めて倒す。

 

 その速度は凄まじく、瞬く間に魔物が消えていく。

 

 消えていくのだが……。

 

 時々聞こえてくる風切り音のせいで、今一集中できていなかった。

 

 ライラはハイタウロスとの戦い時に、サレンの異常な怪力を見ていたのでそこまで気にしていなかったが、アーサーの方はそうもいかなかった。

 

 元暗殺者だったため心を殺す事には慣れている。

 

 ブォン!

 

 なんなら表情を動かす事無く、赤ん坊を殺す事も出来る。

 

 ドーン!

 

 それでも、人である以上限度がある。

 

 ガンッ!

 

「あの……ライラ?」

「どうした?」 

 

 一層の半分以上を倒した辺りで、アーサーはライラに合流した。

 先程から響く音について聞くために。

 

「あの方のあれは一体何なのでしょうか? ハンマーを持った時に魔力等を全く感じなかったのですが……」

「我も知らん。どうみても魔力での強化はしておらんし、力を入れているような素振りもない」

 

 二人揃って魔物を倒しながら、遠くでハンマーをぶんぶん振り回しているサレンを見る。

 

「シスター……ですよね?」

「ああ。本人はそう言っている。ならば、疑問に思わなくても良いだろう?」

 

 例えサレンが悪魔だったとしても、ライラは構わない。

 

 命を助けられ、一緒に暮らし、シスターらしく叱ってくれもした。

 自分が抱いている思いが憧憬なのか、それとも畏怖なのか。或いは恋心なのかは分からない。

 

 後々自らのために死線へ赴いてくれと願わなければならないが、仮に断られたとしても、恨むようなことはしない。

 

 信用や信頼とはまた違った繋がり。

 

 それは子や親に向けるモノと似ているのかもしれない。

 

「そうですね。あの方がどの様な人であれ、俺は……」

 

 ふと、アーサーが言い淀むと、ライラの殺気が膨れ上がった。

 

 ライラの変貌に驚いたアーサーは逃げようとするが、それを許すライラではない。

 

「どうした? 俺はの後に、何と言おうとした?」

「い、いえ!」

 

 殺そうとした時に向けられた殺気よりも、黒く深い殺気にアーサーは地雷を踏みぬこうとしたのだと理解した。

 

「尊敬……尊敬しているんです!」 

「そうか」 

 

 ライラは邪剣・グランソラスを抜き放ち、アーサーの首へと近付ける。

 

「もしもシスターサレンに邪な気持ちを向けていたなら――分かるな?」

 

 グランソラスの刀身が赤く煌めき、ライラの言葉が本気だと告げる。

 

「はい! ちゃんと尊敬し、守りますので任せてください!」 

 

 アーサーは、死ぬ事は別に怖くない。

 

 けれど、それはそれ。これはこれである。

 

 そんな事をしていながらも二人は魔物を減らし、サレンは一人で「ストライクー」と言いながら魔物を粉砕していた。

 

 三十分もすると密集していた魔物は全て消え、ぽつぽつと遠目で視認できる程度となった。

 

「この剣は凄まじい物だな。触れただけで魔物が消えていく」 

「そうですね。あまり奇跡については知りませんが、こんなことも出来るんですね」

 

 サレンが祝福した剣の性能は凄まじく、剣が触れるだけで魔物を倒せてしまった。

 

 この調子なら、後数層魔物を全滅出来るだろう。

 

 そんな風に二人が思っていたその時、純白の光がダンジョンに広がった。

 

 

 

 

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 翼を広げて大空を飛ぶ歌を歌いながら、ハンマーをブンブンと振り回していると、突如として足元に魔法陣が現れた。

 

「あら?」

 

 不意に立ち止まると魔法陣から光が溢れだし、目を開けていられなくなる。

 

 光が収まった頃に目を開けると、近くに居た魔物が消え失せ、重苦しい空気が少し、軽くなった様な気がした。

 

 一体何が起きたのかと周りを見渡すと、ぽつぽつと居た魔物は全て消え失せ、ライラとアーサーが俺を見ていた。

 

 これはあれか?

 

 聖歌的な奴をやっちゃいましたかね?

 

「シスターサレン。今のは一体なんだ?」

 

 直ぐにライラ達は俺の所までやってきた。

 

 それを一番知りたいのは俺なのだが、一体どう言い訳したらいいか……。

 

 ありのまま話すしかないかなぁ。

 

「それが私にもよく分からないのです。歌っていたら足元に急に魔法陣が現れ、光ったと思ったら……」

「無意識に奇跡を使ってしまったと言うのか? ダンジョン内を一掃する程大規模な物を?」

 

 呆れ半分。驚き半分と言った感じにライラが呟く。

 

「奇跡については詳しくないですが、どう考えても異常ですよね……疲れていたりしていませんか?」

「いえ。特に変わりはありません」

 

 毎度の事ながら何かを消費したような感覚はなく、疲れ等も全くない。

 

 そして、異常と言うのは止めてくれなかな? アーサー君。

 

「特に問題ないのならば良いが、この感じだとこの階層は当分魔物が沸かないだろう」

「……すみません」

「無意識ならば仕方あるまい。後でギルドに報告をするとして、魔石を拾い次第次に行こう。稼げるだけ稼がねばな」

 

 やってしまったものは仕方ない。

 

 幸いこの階層に居るのは俺達だけなので、誰にも見られていない。

 

 魔物を倒すこと自体は悪いことではないし、ギルドも許してくれるだろう。

 

 これからは、下手に歌うのは気を付けなければならないな。

 

 空とか天などの死者を送る言葉は勿論、下とか地獄なども多分何かが起きそうだ。

 

 全く……まさかこんな罠があるとは思わなかった。

 

 しかし、この能力は一体なんなんだろうな?

 存在しない筈の神に祈った所で、この世界の奇跡として成り立つ筈がない。

 

 力や加護を与える神が居ないのだから、発動するわけがないのだ。

 

 仮に神と定義するモノがあるとすれば、それは俺自身となるが、それこそ可笑しな話だ。

 

 魔力を感知できない俺が、魔法を使えるはずがない。

 

「以後気を付けます」

「我も、アーサーも奇跡については専門外ゆえ何とも言えぬが…………とりあえず行くとしよう」

 

 少し悩む素振りをしてから、ライラは歩き出した。

 

 俺の事は後で良いが、今は金を稼ぐのが優先だ。

 

 それに、下手に考え込めばまた沼にはまってしまう。

 

 多少馬鹿な事を考える程度にしておかなければな。

 

 

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