なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第48話:異常は無し

 再び来た墓場の掟はやはり閑散としていた。

 

 まあ今回に限っては、人が居ても困るだけなので丁度良い。

 

 通常だと、一度ギルド出張所で手続きをしてからダンジョンへ入るのだが、今回は既に話を通してあるので、このままダンジョンへと入ることが出来る。

 

「最終確認ですが、準備は宜しいですか?」

 

 全員を見渡すが、覚悟と言うよりは困惑の色が見られる。

 

 原因は俺にあるのだが、そんなにか?

 

「あの……サレンさんのそれは大丈夫なのですか?」

「はい。この程度の重さなら問題ありません」

 

 今回は長い間ダンジョンに潜ることになるので、それなりの量の荷物がある。

 

 一応この世界には空間拡張した鞄などもあるが、値段は勿論の事、それなりの強さか信用がなければ買うことはできない。

 

 それにポーターを雇う程でもない。

 

 そんなわけで、俺がポーター紛いの事をやることになった。

 

 一応戦闘組に入るスフィーリアにも荷物を持って貰ってるが、九割位は俺が持っている。

 

「それでは戦闘組の方は先に行ってください。シラキリも頑張って下さいね」

「はい! 頑張って来ます!」

 

 別れる前に頭を撫でて、シラキリのやる気を充電しておく。

 

 マイケルを先頭に六人がダンジョンへと先に入り、調査組は五分程経ってから中へと入る。

 

 調査組で主に調査するのは、俺とフィリア以外の三人になる。

 

 俺は魔力を操るとか感知することが出来ないので、どうしようもなく、フィリアは護衛として調査組に居る。

 

 実際は今入って行った戦闘組よりも、戦闘力が高い気もする。

 

 ライラは言わずもがなであり、そんなライラと一緒に戦えているアーサーが、弱いはずがない。

 

 フィリアがどれだけだか知らないが、この二人より強いなんてことは無いだろう。

 

 問題は二人共、俺と会った時は死にかけていたって事くらいか。

 

 いくら強くても、上には上が居る。そう言う事だろう。

 

「基本的に戦闘は無いと思いますが、フィリアさんも宜しくお願いします」

「任せて下さい。必ず皆をお守りします」

 

 やる気があって良い事だ。

 

 基本的に俺は後ろから見ているだけだ。

 

 何がどうしてこうなっているのかさっぱりだからな。

 

「我も軽く下見はしたが、問題があるとすれば五層目から、中層一個手前の十三層の間と睨んでいる」

「確か僕達が罠に掛ったのは十一層でした」

 

 シラキリがミリーさんに連れられて行った時と、三人でダンジョンへ行った時は罠らしい罠には引っ掛からなかった。

 

 前知識がほとんど無いので何とも言えないが、下から上に向かって罠が広がっているのだろうか?

 

 そもそも罠が広がるって表現も可笑しいな。

 

 ネグロさんは原因の調査と言っていたが、それ以上の事は言わなかった。

 

 それが意味する事は、今回の異変はダンジョン側の異変の可能性と、人為的に起こされた異変の、二つの可能性がある。

 

 初心者ダンジョンの時みたいに、ダンジョンの不具合なら俺達四人でも良いかもしれないが、人が絡んでくればそうもいかない。

 

 何かあった時のために、目撃証言をしてくれる人を準備しておけば、不測の事態にも対応できる。

 

 強さに不安は残るが、数は力なのだ。

 

「そうですか。一応念のため一層から調査をしますが、五層目以降は気を引き締めた方が良さそうですね」

「だな。罠もシスターサレンが居れば問題なく、魔物も変わりは無い故、大丈夫だろう」

 

 ライラが間引きをしていた三日間で、魔物の変異は確認できなかったそうだ。

 

 一応マイケル達四人についてはアドニスに相談したが、丁度良い訓練になるだろうと言っていたので、大丈夫だろう。

 

 シラキリもライラが問題ないと言っている以上、大丈夫だろう。

 

「そうですか。それでは私達も行くとしましょう」

 

 俺達の会話を微妙な顔で聞いていた門番に依頼書を渡し、確認をしてもらう。

 

「確認しました。こちら魔石回収用の袋と、緊急時用の通信機になります。俺達の職場のためにも、宜しくお願いします」

「はい。微力ながら頑張らせていただきます」

 

 階段を下りて、ダンジョンへと入る。

 

 ここだけは俺がやらかしたせいで、重いはずの空気が軽いままだ。

 

 その違和感を感じたのか、オーレンとフィリアはきょろきょろとしている。

 

「それでは、行動を開始しましょう」

 

 どうか、何事もなく終わってくれますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ダンジョンへ入ってから約十二時間。

 

 ある意味俺の思い通りの状況とも言える。

 

「ここまでは何もないですね。ですが、妙な違和感を感じます」

「うむ。長く居たせいもあるが、四層と五層では明らかに雰囲気が違う」

「魔物はあまり強くないが、数だけはな……」

 

 一度全員で集まり、火の魔石を利用した焚き火を、十一人で取り囲む。

 それぞれのパーティーで集まっているが、悪い雰囲気ではない。

 

 テキパキと飯の用意を進める傍ら、お互いに感じた事を確認する。

 

「……いや、マイケル。それより聞いておくことがあるだろ!」

 

 魔物が多くて辛いわーとぼやくマイケルに、ミランがツッコミをいれる。

 

「いや、実際聞く必要あるのか? 助かってるならそれだけの話だろ?」

「だからって……あれは異常だろう?」

 

 こそこそと男同士で話し合い、あーだこーだと言っている。

 

「イノセンス教は、どれくらいの規模の宗教なんですか?」

 

 焚き火で焼いたおにぎりを食べていると、スフィーリアが話し掛けてきた。

 

 フィリアとスフィーリアは名前が似ていて、かなりややこしいのだが、どうにかならんかな?

 

「先日信徒を二十人集めたばかりの、まだ新興となります」

「えっ? 此処以外での布教は?」

「実は……」

 

 これまで何度もしてきた、記憶が無いという説明を軽くする。

 

 もしもこの大陸で聞いたことがない何て事になっても、他の大陸とか言えば誤魔化せるだろうと思う。

 

「そうなんですね……」

「折角という事で、ホロウスティアでも広めていこうと思ったのです。今の所信徒は居ますが、聖職者は私一人となりますけどね」

 

 まだ正確に調べ終わった訳ではないが、この世界の宗教は神が実際に居るせいで少しややこしい事になっている。

 

 神から授かった加護を行使する魔法の事を奇跡と呼ぶのだが、この加護も種類がある。

 

 神から直接授かる場合と、自然に授かる場合。強力な加護を持った者から間借りする場合。

 

 ざっくりこの三種類がある。

 

 神から授かる場合と自然に授かる場合の二つはそこまで優劣はないが、直接授かる場合は神の気まぐれで加護を取り上げられる可能性があるとかないとか。

 

 まあこの話自体はどうでも良く、重要なのは三つ目の加護の間借りだ。

 

 三日間籠もっている時に気づいたのだが、神が存在しないのだから、回復魔法を使えるのは俺一人となってしまう。

 それは流石に不味いのではと思い、シラキリと話してみたら三つ目の間借りの事が分かった。

 

 まだ試していないので何とも言えないが、これを活用すれば俺以外の聖職者も増やす事が出来るだろう。

 

「信徒ならともかく、聖職者になる方々は横の繋がりが強いですからね。町や村などにある教会も大体大きな宗教ばかりですし」

「人の助けになればと思って布教してますので、人数に括りはないですが、何かあった時に備えて聖職者は増やしておきたいんでけどね」

 

 生活基盤が出来上がり、運営が流れに乗った後はヒモとして生活する予定でいる。

 

 最低でも、俺の代わりをしてくれる者が必要となる。

 

 候補としてアーサーが居るが、どうも俺の中の何かが駄目と言っている。

 

 またシラキリやライラの様に、使える人材が転がっていないものか……。

 

「サレンさん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど……」

 

 スフィーリアの質問に答える形で取り留めもない会話をしていると、ミランが話に割って入ってきた。

 

「どうかしましたか?」

「シラキリちゃ……さんについて聞きたいんだけど、少し前に会った時と随分雰囲気が違うんだけど、何かあったんですか?」

 

 少し前のシラキリを知っている者からすれば、当たり前の質問だろう。

 

 無作法とは言わないが、孤児らしい少女といった感じだったのに、ほんの数日で普通の少女レベルになっている。

 

 アーサーからも色々と教えてもらっているのか、食べ方や歩き方も良くなっている。

 

「アーサーは元執事なのですが、色々と教えてもらっていたらしく、その影響かと思います」

「執事……ですか?」

「ええ。元ではありますけどね。今はサレン様の手助けをするべく、活動しています」

 

 先程までライラと話していたアーサーがスッと横に現れる。

 

 若いが、有能なのは確かだった。

 

 まあ、あのライラの執事をしていられたのだから、有能で当たり前か。

 

「そうだったんですね……剣の腕も良いんですか?」

「護身程度ですよ。とは言っても、何かあった時にサレン様を守る程度の強さはあるかと」

 

 謙遜しながらも、若干挑発している感じがするが、自ら肉壁を買って出てくれるのはありがたい。

 

「じゃああの技もアーサーさんが教えたんですか?」

「あの技とは?」

 

 変な単語が出て来たけど、どういうことだ?  

 

「あの片刃の剣に水を纏わせてスパーンと飛ばす技なんだけど、凄い威力でさ。魔物を数十体纏めて倒せる程なんですけど」

 

 …………どうやらシラキリは戦闘力もパワーアップしている様だ。

 

 そして何故かアーサーが少し遠い目をしている。

 

「その技については知らないですね。本人には聞いてみたんですか?」

「いや……ねぇ?」

 

 何がねぇなのか分からないが、当人同士の問題は当人で解決してほしい。

 

 話題に上がっているシラキリは、岩に寄りかかって本を読んでいる。

 

 若干耳が動いているので、話は聞こえているのだろう。

 

 完全に無視しているけど。

 

 そんな雑談をしている内に結構な時間が経ち、寝る時間となる。

 時間についてはアーサーが管理しており、正確さは確認済みだ。

 時計もないのに、よく時間が分かるものだ。

 

 さて、寝るにしても一つだけ問題がある。

 

 俺の頭にある折れた角だ。

 

 いつもは頭巾(ウィンプル)を被って隠しているが、もしも俺が寝ている時にこっそり外されでもすれば困る。

 

 流石にそんな真似をするやつはいないと思うが、念には念をだ。

 

「シラキリ。私が寝ている間に、起床時間以外で誰かが触れようとしたら、お願いしますね」

「分かりました」

 

 こんな時のためのシラキリである。

 

 流石に寝っ転がって寝る事はできないが、岩に寄っかかって目を閉じると、心地よい眠気が襲って来た。

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