なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第62話:冒険者ギルドの危機(他人事)

「えっ、本登録ですか?」

 

 役所に来て本登録をしたいと案内の人に伝えたら、何故か驚かれてしまった。

 

「はい。規定人数集まりましたので……何か問題がありましたでしょうか?」

「いえ! 大丈夫です。此方の番号札を前回と同じ二階の宗教課にお願いします」

 

 ふむ、そう言えばこの人は前に来た時も受付をしてくれた人だな。

 

 仮登録から本登録までは結構時間が掛かるのが普通らしいし、一ヶ月も経たずに来たから驚いているのだろう。

 

 受付の人に礼をしてから二階へと上がり、再び宗教課の部屋へと入る。

 

 閑散としていると思ったが前回と同じく、やはりそこそこの人が居る。

 

 今更だが四人で来ないで、アーサーだけでも良かったな。

 

 広さ的には問題ないが、微妙な居心地の悪さを感じる。

 

「此方にどうぞー」

 

 おっと、呼ばれてしまったか。

 

「おそらく時間が掛かると思いますので、シラキリとライラは好きにしていて下さい」

「分かった」

「分かりました」

 

 武器をドーガンさんに渡してしまっているので、シラキリとライラは居ても仕方ない。

 

 それに、少女に小難しい話を聞かせても、眠くなるだけだろう。

 

 此方では前回とは違う受付となり、座ってから番号札を渡す。

 

「本登録ですね。先ずは署名された書類をお願いします」

「はい」

 

 約三十人分、署名されたバインダーを渡す。

 

 酒場での一件で二十人以上を達成したわけだが、あれからもちょくちょく増えていた。

 

 主にひな鳥の巣経由ではあるが、やはり利害関係とは良いものだ。

 

 利がある限り、信用することが出来る。

 

 今のところ金銭的な物はまだ受け取っていないが、食べ物や酒。日用品などを貰ったりしている。

 

 生活基盤はほとんど出来上がって来たので、残るのは大きな問題ばかりである。

 

「確認しました。随分と早く集まりましたね。お疲れ様です」

「ありがとうございます。不備はないでしょうか?」

「大丈夫です。続いて経典や聖書等を精査しますので、ご提示願います」

 

 持ってくるものは、仮登録の時貰ったパンフレットに書いてあった。

 

 そこに教会の聖書等と書いてあったため、ベルタさんにお願いしてた本が出来上がるまで、本登録に来られなかったのだ。

 

「どうぞ」

「確かに。精査には時間が掛かりますので、その間に質問をしていきます」

「お願いします」

 

 本登録では聖書等の精査の他に、様々な確認事項がある。

 

 邪教などが入り込まないようにするためなので仕方ないが、項目が多い事多い事……。

 

 しかも全て口頭での確認なので、中々に厄介である。

 

 下手にその場しのぎで答えて、後の問いで矛盾が生じた場合、答え方次第ではその場で登録を消される場合があるとか。

 

 まあ口八丁手八丁の営業職であった俺からしたら、今回の問答は恐るるに足らず!

 

 そんな訳で、五十程の問いに淀むことなく答えきった。

 

 問答が終わる頃には聖書の精査も終わり、問題ないと言われた。

 

 基本的に皆さん仲良くの教義なので、端から心配はしていなかったが、やはり正式に許可が出るまでは心配してしまう。

 

「最後となります。教祖について空欄となっていますが、どうしてでしょうか?」

 

 最後に間違いなく聞かれると思った質問が来たので、逆にほっとしてしまう。

 

「実は……」

 

 とある事情で記憶が無く、それでも頑張っていると同情を誘うような感じに話すと、分かり次第伝えてくれれば良いと言ってくれた。

 

 物分かりが良くて大変助かる。

 

 他にもちょっとした常識の確認や、ホロウスティアでの行動履歴。

 

 契約書類に署名などをし、最後に登録証明書を貰って終わりとなる。

 

 ここまでで三時間程なので、やはり結構時間が掛かった。

 

「此方が登録証となります。本日は長々と、お疲れさまでした」

 

 仮登録の時とは違い、しっかりとした紙に許可番号や帝国の何条に基づき~など

と書かれ、最後にイノセンス教と大きく書かれている。

 

「ありがとうごいます。これから帝国の一助となるべく、邁進させて頂きます」

「よろしくお願いします。パンフレットをお読み頂いてるので大丈夫だとは思いますが、教会を建設する際にまたお越しください」

 

 廃教会にある木板の椅子とは違い、ふわふわで柔らかい椅子だったので、長時間座っていても辛くなかった。

 

 今は少し余裕もあるし、椅子や机の類も買おうかな?

 いつまでも廃材のリサイクル品では見栄えも悪い。

 

「お待たせしました。ライラとシラキリは何所かに行くと言っていましたか?」

「シラキリは勉強すると冒険者ギルドに行きました。ライラは……」

 

 途中でアーサーは言葉を切り、耳元に顔を近づけて来た。

 

「王国に向けての準備をする……と」

 

 ――どうやらアーサーも、ライラの復讐については知ってるようだな。

 

 まあ知っていてもおかしくない立場だし、驚くことでもない……か。

 

「そうですか……」

 

 今日の予定はもう無いのだが、このまま廃教会に帰るのも忍びない。

 

 折角本登録も出来たわけだし、布教活動でもしてみるとしよう。

 

 イケメンのアーサーが居れば、数人位入信してくれる人がいるかもしれない。

 

 ついでに喜捨でもしてくれれば、儲けものだ。

 

 金はいくらあっても足りない。

 

 あの廃教会の改修と、一帯の土地の買い取りにいくら掛かることやら……。

 

「これからどうしますか?」

 

 少しばかり考え込んでしまったせいか、アーサーが心配そうにする。

 

「折角本登録が出来たので、冒険者ギルドで布教をしようと思います」

「冒険者ギルドでですか? 確か冒険者ギルドでの布教は許可が必要なのでは?」

 

 そう言えば、アーサーは何も知らないのか。 

 

「許可は頂いていますので、問題ありません」

 

 廃教会に住んでいて、やっと正規に認められたばかりの宗教なのに、冒険者ギルドなんて大御所の許可を貰えてるなんて、あり得ないと考えてしまっても仕方ない。

 

 こういった時は論より証拠なので、さっさと冒険者ギルドに行くとしよう。

 

「大丈夫ですよ。それでは行きましょう」

 

 

 

 

 

 

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 役所を出る時にはお昼を過ぎていたので、サンドイッチを買ってから冒険者ギルド行きの馬車へと乗った。

 店に寄って食べるのも良いが、どうしても周囲の目が気になってしまう。

 

 それに営業職だったので、食べながら移動する事が多く、慣れてしまっている。

 

 冒険者ギルドに着いたのならば、とりあえずマチルダさんの所に行くのだが、その前に一つ問題がある。

 

 布教って、どうやるんだろうね?

 

 ここまで適当にやってこられたが、人を呼び集めたり、運営となるとまた違った知識が必要になってくる。

 

 他の宗教の人に、布教ってどうやるのか聞くのは憚られる。

 

 なので、こんな時はマチルダさんに聞くのが一番だろう。

 

 いつもよりざわついているロビーを歩き、マチルダさんの所に来たのだが、どんよりと重い空気を纏っていた。

 

「こんにちは」

「あっ、サレンさん。本日はどうなされましたか?」

「その前に、何かあったのですか? 妙にお疲れのようですが?」

 

 化粧で誤魔化しているようだが、マチルダさんの目元には隈があり、髪の艶も無い感じがする。

 

「……サレンさんにも少し関係がある話となるのですが、聞きます?」

 

 聞いたら後戻りできない様な雰囲気が出ているが、俺に関係があるのならば聞いておくか。

 

 何かあればライラやアーサーが、如何にかしてくれるだろうし。

  

「宜しければお聞かせください。私が関係しているのならば、少しはお力になれるかもしれませんし」 

「お心遣いありがとうございます。あまり表に出来る情報ではないので、付いてきてください」

 

 立ち上がったマチルダさんに付いて行き、歓談室と思われる場所に入る。

 

 ……冒険者ギルドへ来る度に、マチルダさんの世話になってしまっているのだが、仕事とか大丈夫なのだろうか?

 

「実は先日のダンジョンでの不祥事を受け、ギルド内に不穏分子が居る、可能性が浮上しまして……」

「不穏分子ですか?」

「はい。簡単に話しますと……」

 

 

 マチルダさんが語った内容は…………思った以上に、深刻な話だった。

 

 現代で例えるならば、警察が強盗をワザと見逃してたような話だ。

 

 ダンジョンの管理は冒険者ギルド側が行っているわけだが、あくまでも帝国に委任される形で行っている。

 

 中立であり、冒険者ギルド自体はどの国にも公平であるから各国でも受け入れられているのだが、今回の件は間違いなく帝国に弓を引く行為となった。

 

 事件の解明は勿論の事、犯人を見つけるために、ホロウスティアにある四つのギルドはてんやわんやと大忙しとなっている。

 

 これが帝国によるマッチポンプならば良かったが、隣国のユランゲイア王国の可能性をライラが指摘していたのと、状況的証拠から帝国が関与している可能性は無いに等しい。

 

 まだ表沙汰にはなっていないが、この話が皇帝まで上がれば、冒険者ギルドは大打撃を被る事となる。

 

 なので冒険者ギルドも悪いが、もっと悪いのはユランゲイア王国であったと印象付けるため、頑張っているのだ。

 

 ちょっとした依頼の筈が、表でも裏でもとんでもない事になっていた様だ。

 

 一応依頼を受ける段階できな臭い感じはあったが、まさかここまでとは誰も思わないだろう。

 

「なんだかとんでもない事になっていますね」

「これが冒険者だけの問題なら良かったのですが、冒険者ギルド側に非があるとなれば話は変わりますからね。後程サレンさんにも正式に謝罪の話が行くと思います」

 

 話を聞いていて他人事の様に思い始めていたが、俺も当事者というか、被害者なんだよな。

 

 ペインレスディメンションアーマーの事はともかく、深層に送られたのは犯人のせいだ。

 

 仮に依頼を受けたのが俺達以外で、実行犯達を見付けていた場合、証拠は残らなかっただろう。

 

 ダンジョン内で魔物に殺され、行方知れずとなって終わりだ。

 

 前回の初心者ダンジョンでの事故に引き続き、二回目となるギルド側の過失。

 

 これは相当な報酬が期待できる。

 

「分かりました。教えて頂きありがとうございます」 

「いえ、度々こちらの不手際で申し訳ありません。ところで、何か用事があるような雰囲気でしたが?」

 

 おっと、中々美味しい……じゃなくて衝撃的な話だったせいで、本題を忘れる所だった。

 

「実はやっと役所で本登録が出来たので、本格的に布教活動をしようと思いまして」

「それはおめでとうございます。という事は、やっと冒険者ギルドで行うのですね」

「はい。流石に仮登録の状態では格好がつかないので遠慮していましたが、折角なのでやってみようと思います」

 

 俺とマチルダさんの話を聞いているアーサーは、本当の事だったのかと驚いた顔をしていた。

 

「それで相談なのですが、どの様な感じで布教を行えば宜しいのでしょうか?」

「分かりました。少し説明させて頂きますね……その前にお茶を入れましょうか」

 

 なんやかんや、マチルダさんが話してから三十分程経っている。

 

 渇きを感じ始めていたので、ありがたい。

 

 三人でお茶を啜り、一息ついてからマチルダさんは話し始めた。

 

「冒険者ギルド内での布教のやり方ですが、街中でやるのとやり方は変わりません。ですが、ギルドの会議室で説明会などが開けるのと、ギルドからのバックアップが受けられます」

「バックアップですか?」

 

 再び始まったマチルダさんの長い話によると、場所は冒険者ギルドの内外の何所でもよく、布教の際にギルド員が手伝いをしてくれる。

 

 宗教側で人員が確保されているならば必要ないが、木っ端や少人数ならば有りがたいサポートだ。

 

 まあ出来るのはビラ配りや、警護くらいであるが、冒険者ギルドで布教出来るのは優良認定されている宗教だけなので、警護として居るだけでも効果はあるだろう。

 

 また後日に、説明会用の会議室をギルド側が提供してくれる。

 

 大きな教会を構えているなら良いが、小さい教会だったり、まだ教会を建てられていない身からしたら、ありがたい限りである。

 

 人数が集まるかは別として、部屋が有ればゆっくりと説明が出来るからな。

 

「なるほど。説明ありがとうございました」

「いえ。布教は今から始めますか? 今でしたら私がお付き合いできますよ?」

 

 妙にマチルダさんからやる気を感じるが、戻っても大変だから、別の仕事がしたいのだろう。

  

 俺としても、知り合いが居てくれた方が心強いし、手伝って貰うとしよう。

 

「でしたら、さっそくお願いしてもよろしいでしょうか?」

「分かりました。因みに説明会は明後日と言う事で宜しいでしょうか?」

「大丈夫です」

 

 明日には聖書も出来上がるので、明後日なら丁度良い。

 

 さてと、初めての布教だし、頑張って行こう。

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