なんちゃってシスターは神を騙る   作:ココア@レネ

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第64話:新たな依頼(個人的)

「やあ。よく来てくれたね。座ってくれ。シラキリ、お茶を頼む」

「分かりました」

 

 案の定と言うかやはりと言うか、シラキリはネグロさんの執務室に居たのだが、何故か秘書的な仕事をしている。

 

 ネグロさんが使っている大きな執務机の隣には、小さな机が併設されており、ノートや何かの教科書と思われるものが置かれている。

 

 現状を見れば何がどういう事か理解できるが、シラキリは一体どこに向かっているのだろうか?

 

 俺とネグロさんだけソファーに座り、シラキリが入れてくれたお茶を飲む。

 

 因みに俺は緑茶で、ネグロさんはほうじ茶である。

 

 ゆっくりとほうじ茶を味わいながら飲んだネグロさんは、苦い顔をしたまま俺の方を見た。

 

「呼び出してしまってすまないね。一応事の顛末を話しておこうと思ってね」

「その様子ですと、解決までに至っていないのですね」

「ああ。流石に大きすぎる問題だからね。一歩間違えれば、戦争になる恐れすらある。……先ずは改めて謝罪しよう。本当に申し訳なかった」

 

 個人的には別に気にしていないが、それでは会社……じゃなくて、ギルドとして駄目なのだろう。

 

 それにケジメは重要だ。頭を下げ菓子折りを渡して原因を話し、それからの対応を話す。

 

 相手が気にしていないと言っても、やることをやらなければ……おっと、過去の事を考えるのは止めよう。今となっては関係ない事だ。

 

「ネグロさんは悪くありませんから。それで、一体どうなっているのですか?」

「先ず冒険者ギルド内に居た、ユランゲイア王国のスパイとされる人物達を拘束した。今は背後関係を洗うために拷問中だろう。君達を深層に送った方法だが、遺跡から発掘された魔導具を修理したものらしく、そう何度も取れる手段ではないので、此方としては安心している」

 

 どれだけ過酷な拷問をされているか知らないが、回復魔法があることを考えると、本当に死ぬより酷いことをされていそうだ。

 

「それ程今回の計画に、力を入れていたと言うことですか?」

「おそらくな。流石に全て話すことは出来ないので、察してくれると有りがたい。今回の件の賠償についてだが、当事者たる君達のパーティーには百万ダリア。残りの二つのパーティーには五十万ダリアを送ろう」

 

 百万か……四分割すれば二十五万。

 

 悪くはない金額だな。

 

 だが、事の重さを考えれば少ないのだろう。

 

「それと特例となるが、サレンの貢献度ランクをCランクに引き上げよう。他のパーティーメンバーはEランクとなる。他のパーティーの者達に対してはあくまでも手伝いという形なので、金銭以外はどうしようもない。報告の内容が内容だしな」

 

 実際に働いたのは俺達のパーティーだから、まあ仕方ないことだろう。 

 

「因みに冒険者ランクの方は、今回上げる事は出来ない。この件についてはただ調査をしただけと処理させて貰う」

「……それはつまり深層にはいかず、上層で調査をして帰ってきたと、処理するのですか?」 

「話が早くて助かる。再現性が殆ど無いとは言え、転移させる事が出来る魔道具の事を表沙汰には出来んからな。全てを闇に葬るしかない」

 

 都合が悪い事は無かった事にする。日本でもたまにある事だが、仕方のない事だろう。

 

 それに、冒険者ランクについては上げようとすれば上げる事は出来るし、それよりも実利の方が美味しい。

 

 ライラの復讐がどれ位掛かるか分からないが、それなりに準備もしなければだろうからな。

 

「ギルドとしては王国に何か抗議などをするのですか?」

「いや、ギルドからは何も出来ん。これでも中立を謳っているからね。今回の件は全面的にギルドが悪く、帝国に詫びを入れる形になるだろう。それで終わりだ」

「そうですか……」

 

 これ以上は俺が聞いても意味はなさそうだな。国際問題は興味がないし、知った所でただのシスターには何も出来ない。

 

 それに、国の機密に関わる情報なんて知りたくも無い。

 

 世の中には、知らない方が良い事何ていくらでもある。

 

「分かっていると思うが、他言無用で頼むぞ。まあ、信じる者は誰も居ないと思うがな」

「分かりました。話は終わりですか?」

「そうだな……いや、一つあったな」

 

 常に深刻そうな顔をしていたネグロさんは表情を崩した後、少しだけ弱々しい顔になった。

 

「依頼と言う程ではないが、一つお願いがあってな。これはサレンへの、個人的な依頼と思って貰いたい」

 

 呼ばれてきているから当たり前かもしれないが、来る度に何かしら依頼をされている気がする。

 

 俺の冒険者ランクからすればかなりの額の金を貰えるのでありがたいが、こんな贔屓の様な真似をして大丈夫なのだろうか?

 

「私で出来る事でしたら、協力させて頂きましょう」

「ありがとう。実は赤翼騎士団が体験入団を実施するのだが、そこに私の娘が行く事になってね。こっそりと様子を見てきて欲しいのだ」

 

 思った以上に個人的な依頼の内容を纏めると、ネグロさんの娘の護衛兼様子見だ。

 

 懺悔室の話を表に出すわけにもいかないので一から話を聞いたが、ネグロさんの娘であるミシェルちゃんは将来騎士団に入ろうとしている。

 だがネグロさんが猛烈に反対し、もっと安全な職に就くように説得するも、ミシェルちゃんは説得に応じず、喧嘩となった。

 

 そしてネグロさんはしょぼくれたのだが、俺の提案の職場体験ならぬ、体験入団を赤翼騎士団に取り付けた。

 

 とりあえずミシェルちゃんとの仲は修復したのだが、やはりネグロさんはミシェルちゃんの事が心配なので、体験入団に一人で行かせたくないそうだ。

 

 ついでにこの体験入団で、ミシェルちゃんに本格的に騎士団への入団を考えられても困る。

 

 様子見しながら護衛し、ついでに上手く騎士団から違う就職先を選ぶように促して欲しいそうだ。

 

 俺に頼むのは場違いな気がするが、他に頼める人間がいないそうだ。

 

 まあ俺が居れば死なない限り治すことは出来るし、SSS級の魔物が出ても倒すことが出来るので、性能面だけで見れば問題ないかもしれない。

 

 一応シラキリやライラでは駄目なのかと提案したのが、笑いながら言葉を濁された。

 

 因みに報酬だが、個人的な依頼となるので、受けてくれるのならば前金で報酬である三十万ダリアを全額渡してくれるそうだ。

 

 成功や失敗の判定は無いが、ミシェルちゃんを無事に返すのが条件だ。

 

 体験入団は三泊四日の泊まり込みとなっており、その間は帰ることが出来ない。

 

 また最初に言っていた通り、俺個人への依頼となるので、誰も同行することは出来ない。

 

 これはネグロさんが濁した理由にもなるが、俺以外は年齢制限に引っ掛かるのだ。

 

 今回の体験入団は学生や若者を対象にしており、十五歳以上二十歳以下となっている。

 

 俺達四人の中では、俺以外全員対象年齢から外れてしまっている。

 

 一人なのは心細いがルシデルシアも居る事だし、受けるとしよう。

 

「分かりました。お受けしようと思います」

「恩に着る。名目は体験入団なので、当日は普通の格好で頼むよ。これがパンフレットだ」

 

 …………あっ、ウィンプル(頭巾)は取らないといけないのか。

 一応髪を結んでおけば大丈夫だろうが、十分に注意するとしよう。

 

 折れた角を見られたからと言ってどうこうなるとは思わないが、念には念を入れて隠しておいた方が良いだろう。

 

 パンフレットは廃教会に戻ってから読むとして、帰りに服を買っていくか。

 下着の類をライラとシラキリに選んでもらっただけで、通常の服は買わなかったからな。

 

「因みに体験入団はいつからですか?」

「丁度十日後だな。場所は赤翼騎士団の北支部となっている。後で確認しておいてくれ」

「分かりました」

 

 ネグロさんと話し合いも終わり、シラキリを残して冒険者ギルドを後にした。

 

 そして酒場へ行く前に服屋へ寄って、動きやすそうな服を注文しておく。

 

 一般的に出来合いの服もあるが、折角なので少し注文を付けておいた。

 

 複雑な構造ではないので、三日後には出来上がるそうだ。

 

 舐めていたわけではないが、異世界にファスナーの技術があるとは思わなかった。

 

 おかげで商機を失ったが、服は間に合いそうなので良しとしよう。

 

 パーカーならば、頭を隠すことが出来るし、動きやすくもあるからな。

 

「アーサーは何か買う物とかありますか?」

「必要なものは買い揃えてあるので、大丈夫です」

 

 入社したばかりの部下みたいな会話をアーサーとしながら、日が傾くまで軽くショッピングを続けた。

 

 そして、待ちに待った時間がやって来た。

 

「いらっしゃいませー……って、店長ー! 氷の女王のご来店ですー!」

「なに! 女王様か! 一番良い席をご用意しろ!」

「店長! 席は全部一緒です!」 

  

 久々に酒場へ入ったらこの対応である。

 

 他の面々。あの日の演奏会に居た者たちの中には、仰々しい態度を取っている奴も居る。

 

 後ろに居るアーサーからは、ひしひしと視線を感じる。

 

「サレン様……かなり盛り上がっているようですが?」 

「先ずは座りましょう。アーサーはお酒を飲めますか?」

「人並みには飲めるかと思います」

 

 店員が戻って来ないので、適当に空いている場所に座る。

 

 すると、何故か客から手の付けられていない料理をお裾分けされた。

 

 それだけでなく、戻って来た店員は注文をしていないのに、レッドドライをジョッキで持ってきた。

 

 いつも澄まし顔をしているアーサーも、一連の流れに困惑を隠せないでいる。

 そして俺も困惑している。

 

「お待ちどうさまです!」

「はぁ……」

「氷の女王様のおかげで、繁盛しているので、これは店長からのサービスです! ささ! グイッとどうぞ」

 

 ただで飲めるならばありがたく頂くが、今の俺はもうそこまで無知ではない。

 

 この酒がビールジョッキではなく、ショットで飲むのが普通な事を知っている。

 

 この飲み方が、この店特有の嫌がらせである事をな!

 

 それはそれとて、駆けつけ一杯飲むとしよう。

 

「ありがとうございます。それではレイネシアナ様に感謝し、頂きます」

「サレン様!」

 

 アーサーの制止するような声を無視して、レッドドライを飲む。

 

 軽く飲み干し、なるべく上品にジョッキをテーブルの上に戻す。

 

 店内にはどよめきが走り、中には拝んでいる馬鹿も居る。

 

「あの……大丈夫なのですか?」

「この程度なら全く問題ありません。アーサーも適当に飲んでください」

「……はぁ」

 

 とりあえずビールって訳ではないが、スッキリとして辛口のレッドドライは最初の一杯としては最適だろう。

 

 常人ならばそのまま急性アルコール中毒で倒れてしまいそうな量だが、色々とごちゃ混ぜになっているこの身体は問題ない。

 

 十杯でも、二十杯でも飲むことが出来る。

 軽く料理を摘まんでいると、頼んでもいないのに酒がテーブルの上に置かれ、飲み終わるとまた直ぐに代わりの酒が置かれる。

 

 わんこそばならぬ、わんこ酒である。

 

 しかも無料だ。

 

 それなりにお腹も落ち着いてきたし、少し重めの話をするとしよう。

 

 何もただ酒が飲みたいから酒場に来たわけではない。

 

 アーサーから少し、話を聞いておこうと思ったのだ。

 

 ライラの生家である、グローアイアス家。

 

 違った視点から見た情報も、必要だと思ったのだ。

 

 ライラは髪が原因で虐げられてきたわけだが、それ以外に対してグローアイアス家がどの様な対応をしていたか?

 

 善政を敷いているならば対応を考える必要があるし、ライラの語った通り屑野郎なら、ルシデルシアにお願いしてすべてを吹き飛ばすのも手だろう。

 

「つかぬ事をお聞きしますが、グローアイアス公爵とはどんな方なんですか?」

「……そうですね。歴史的に見れば王国を守護する善良なる公爵……だったのでしょう」

 

 だった……か。ライラ曰く祖父は真っ当な人であり、その息子である現当主がボンクラになったと確か言っていた。

 

「私も全てを知っているわけではないですが、当主が変わってから税は勿論、厚生の形態が変わり、領の活気は瞬く間に落ちていきました。それなのに公爵の暮らしは豪華絢爛となり……」

 

 あからさまな悪役ムーブをしているみたいだが、領とは一種の国のようなものらしい。

 

 しかも民主主義なんてものはないので、上の匙加減で生きるか死ぬかが決まると言っても過言ではない。

 

 この世界の貴族や行政の制度について全く分からないが、国が手を出す程ではないのか、国も腐り始めているのか……。

 

 或いは情報そのものを、遮断している可能性もある。

 

 暗殺者なんて物騒な連中を使っているのだからな。

 

「おんや? なんか騒がしいと思ったらサレンちゃんじゃん」

 

 アーサーと話をしていると、聞き馴染みのある声が聞こえた。

 

 会うのは久々な様な、そうでもない様な。

 

「お久しぶりミリーさん。席は空いていますので、良かったらどうぞ」

 

 この店はミリーさんに紹介してもらったわけだし、ばったり遭遇することもあるだろう。

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